要塞攻略
三人の殺戮兵器は次々と敵を打ち倒していく。
シエラの青い閃光が走ったかと思うと、メイナの赤い光が敵を打ちのめす。
セズクはあいからわずの笑みを頬に引っ付けたままその手の刀を振るう。
爆発、炎上した戦車から敵兵が悲鳴を上げて飛び出してくる。
セズクはその兵士に一瞬で駆け寄ると同時に首へと刃を通す。
噴水のように赤い水が溢れ地面に染み込む。
「ハニー何をしているんだい!
早く要塞の壁を!」
最終兵器たちの戦いを見ていると我を忘れてしまう。
あまりにも優雅で、美しい。
圧倒的な力を持って敵を打ちのめすその力。
俺はそれを手に入れた。
今こそ、使う時。
俺は一歩を踏みしめると前方にイージスを展開した。
俺を見つけた敵が近寄せまいと銃撃を放つ。
目の前の壁はその抵抗をねじ伏せるとまた一歩、一歩と要塞に俺は近づく。
ヘリが繰り出してきたミサイルを片手で掴み、要塞の壁へと叩きつける。
黒いペンキが剥げ、鋼鉄がむき出しになった要塞の壁に俺は取りついた。
「あいつも最終兵器だ!
殺せ、殺せ!!」
「外に取りつかれたぞ!
早く撃ち落とさねぇか、何してる!」
怒号が聞こえると同時に俺の横に火花が散る。
俺を撃ち落とそうと誰かが頑張っているのだろう。
無駄なことを。
俺は要塞の壁へと右手を突き立てた。
装甲の溶接された隙間へと右手を沈みこませてゆく。
豆腐のように柔らかい装甲に右手がすべて入り込むとそこで右手を砲に変えた。
左右へと光が出る、ハンマーのようなT字のものだ。
光波共震砲、と言われるベルカの技術をふんだんに使った力を用いてこの装甲をこじ開けてやる。
あの、超空要塞戦艦にも使われたとかいう光波共震砲。
仁を死に追いやったこのレーザーを使ってもっとたくさんの兵を殺す。
仁が見たらなんていうだろうか。
またお前は……って愚痴をはじめるんだろうか。
「ハニー、行けー!」
雑念を振り払い、右手の光を解放する。
十五万度を超えるプラズマになった光が装甲を一瞬で蒸発させた。
左右へと一直線に赤く、溶けた装甲の痕が広がる。
そして一拍おいて、膨れ、蒸気になった鉄が煙となって隙間から噴き出した。
蒸発することで体積が膨張した鉄が逃げ場所を求めて装甲の中で走り狂う。
ようやく見つけた小さな隙間、そこに鉄は殺到した。
結果、空高くへと破片を飛ばす勢いで装甲がめくれ上がる。
その隙間へ俺は体を押し込む。
溶けた鋼鉄が服を焼いたが、俺の皮膚は焼けるどころかまるでぬるま湯が体についたように何も感じなかった。
薄いイージスの膜を体に張り付かせ穴から中に入って来た俺の頭へ銃弾が殺到する。
中に兵士はおらず自己防衛システムの反応だろう。
しゃらくさい。
俺は右手のレーザーの砲門を前方へと移動させると壁に張り付く銃口へと命中させた。
監視カメラのような身なりをした防衛システムの銃が床に落ち、中から部品がこぼれている。
穴から這い出し、床に立った俺の先に装甲版が降りてくる。
少しでも時間を稼ぐつもりだろうがそうはいかない。
俺は装甲版へと右手を押し付けるとイージスを展開させた。
触れるものを捻じ曲げる力を持つこの盾が隙間ないところに展開された場合どうなるのか。
その答えがこれだ。
ベゴン、と装甲版が右手をかざしたところから凹みはじめる。
そのまま縦に凹みが増えてゆき頂点に達した瞬間二つにへし折れた装甲版が外れた。
シエラがずっと前にやっていたのはコレだったんだなぁ。
あらためてイージスの万能性に驚かされる。
俺が壁から頭を出すと赤いレーザーが飛んできた。
どうやらまだ防衛装置が生きているらしい。
まったくもって面倒なことを。
遠くに聞こえる地鳴りでまだシエラ達は外にいると分かる。
俺も中じゃなくて外で戦えばよかった。
中は何もいなさすぎて逆に面白味がない。
「目標、壁の影に居ます!」
「ぶち殺せ!」
っと前言撤回。
何もいないわけじゃなかった。
自分の中の殺戮の本能が動く。
壁をイージスでぶち破ると声のする方へと駆けた。
「う、うわぁあああ!!!」
三人の兵士が俺に向かって銃を乱射してくる。
いい加減最終兵器には何をしても無駄だってことを分かった方がいいんじゃないのか?
ちょっとした優越感に浸りながら俺は兵士の首をもぎ取り、はらわたを引きちぎる。
壁に顔を押し付け骨を砕き返り血で赤く染まる自分の手を見て笑う。
こんなにも命を盗むのが楽しいことだとは思わなかった。
人殺しをしたくない、そんな気持ち今は少しもなかった。
「こっちに来るな!!
くるなぁ!!!」
その目だ。
俺を快感へと引き込むのは、その目だ。
まだ退避を完了していなかった兵士達の列の前に立つ。
戦闘の兵士が浮かべた絶望の色。
その目が俺は好きになりつつあった。
人が死の恐怖に負けるその瞬間見せる拒絶の表情。
たまらなかった。
緑だった軍服がすっかり赤で染まっていた。
それでも俺は命を盗むのをやめたくなかった。
「波音!」
右から俺の名前を呼ぶ奴がいる。
右を向いたと同時に顔に大きな衝撃を感じて後ろへのけ反った。
壁をぶち破り部屋の中へと転がり込んでしまったらしい。
「っくそ……誰だよ」
痛くなかった。
逆にそれが腹立たしさを加速させる。
ケンカを売るなら姿を見せやがれ。
「俺だよ」
すぐ後ろから声が聞こえた。
振り向く間もなく俺は背中から壁に叩きつけられる。
油断してイージスを解除していたため思いっきり衝撃が背中から腹へと突き抜けた。
頭が真っ白になり鈍い痛みがズキズキと背中に広がる。
「俺は悲しいぜ、波音。
やっぱり君は目覚めるべきじゃなかったんだよ」
「……あ?」
口の中に広がる血の味を確かめて声の方へ眼を向ける。
そこに立っていたのは……仁。
紛れもない俺の親友。
「じ……?」
「いやー悲しいぞ。
俺は悲しいぞ、波音」
なんで?
俺がお主を殺したはず。
それなのになんで生きている?
どういうことだ、訳が分からない。
「悲しい、悲しいうるせぇ。
なんでお主が生きてるんだよ」
薄気味が悪い。
俺が確かに殺したはずの仁が俺の目の前に立っている。
そんで俺に向かって話している。
死んだはずの人間が俺の前に姿を現すなんて気持ち悪い。
「死ぬも何もない。
そして何も波音、お前に教えるつもりはない。
俺はお前を殺すというミッションをまた遂行するだけ」
仁の右手がレーザーに変わる。
その銃口がまた俺を向き、光を蓄えている。
それが現実とはとても思えない。
でも夢とは違う質量感、迫力、描写。
「行くぞ、波音」
仁の口からその言葉が漏れたかと思うと、俺の目の前には仁の肘があった。
レーザー使わないんかい。
左手で肘を掴んでガードするが、それよりも先に人の右手の銃口が俺の腹へ光を吐きだした。
イージスがなかったら一発でやられていただろう状況に安心する間もなく、仁は次々と俺に向かって打撃を加えてくる。
くっそが、なんだってんだよ。
俺は右手をナイフに変えると仁へ向かって降り下ろした。
「ぬん!」
仁はそのナイフの刃を自分のナイフの刃を持って止める。
ギチチチ、と触れるところから火花が飛び散る。
一歩後ろに引くと、俺はそのままの勢いで仁の首根っこを掴んだ。
一気に力を入れて首の骨をへし折る。
「あぐがが……」
鈍い音がするとともに仁の抵抗が止まった。
鼻を突くアンモニアの匂いが広がり、仁のズボンが汚れていく。
ぴくぴくと痙攣をおこす仁の体を放り投げると壁へと叩きつけた。
俺がぶつかった際に壊れた壁から覗く金属の棒をねじ切り腹へ突き立てる。
「死人がしゃべるな」
俺がそういって背を向けた瞬間また声が聞こえた。
「生きてるって言ってるだろうが」
紛れもない仁の声で。
そんな馬鹿な。
動揺した俺の懐に仁は飛び込んできた。
そのままアッパーを食らわせてくる。
どういうことだ。
仁の攻撃を防ぎながら横目で見た壁には先ほど首をへし折った仁がいた。
三人目、ということか……?
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ありがとうございました!
いやー波音。
どうすんのあんた。
明けましておめでとうございます。
どうか今年もよろしくお願いしますっ。