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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
破壊な季節☆
164/210

×の二乗

「お風呂入るんだろう?

 一緒に入ろうよ♪」


「はいらねーよバカか。

 入るわけねーだろタコ」


ぐいぐいと顔を寄せてくるセズクの頭を叩き、そそくさと荷物をまとめる。

話に聞いたところここには大浴場があるらしい。

最前線なのに余裕である。

シャワーもいいけどたまにはお湯に浸かりたい。

じっくりと体の芯まで温めたいではないか。


「大浴場行ってくる。

 入ってくるなよ、セズクは」


「えー行く」


「人の話聞くことを始めてくれないかね」


俺はもう一回セズクの頭をジャージで叩くとため息をつく。

話聞こうぜ頼むからよ。

無理か。

そうだよな、今までずっと話聞いてこなかったんだからいまさら聞けって言っても無理だよな。


「人の話?

 やだなーハニー。

 いつも僕は人の話を聞いてるじゃないか」


そういうとにぱっと笑顔になる金髪イケメンホモ野郎。

そんな風にさりげなく嘘つけるあたりが話聞いてない証拠だよな。

俺はジャージを握り締めたままも一回ため息をつく。


「あのな、セズク……」


「そんなことより波音バナナ好き?」


「んー……。

 まー普通?」


じゃない。

おいこら案の定話聞いてないじゃねぇか。

もういいよ。

大浴場行くとしよう。


「とにかくついてくるなよ」


「大浴場なだけに大欲情しないようにがんばるよ♪」


「ぶふっ」


だれがうまいこと言えって言ったよ。

悔しい、少し笑ってしまって悔しい。

俺が笑ったのが少しうれしかったのだろう。

セズクは微笑みながら


「大浴場なだけに大欲情しないようにがんばるよ♪」


もう一回言いやがった。

あー笑わなけりゃよかった。

変に調子のるんだもんこいつよ。

虫の方向でよろしいか。


「とりあえず風呂行く。

 もー話聞かんってこと分かったから来たかったらくればいいやん好きにしてくれもう」


「大浴場なだけに大欲情しないようにがんばるよ♪」


おーう殴りたい。

殴り倒したい。


「おう……」






「きもちー……」


ひっさしぶりに湯船につかった気がする。

地下にこんな施設があるなんて驚き極まりないだろう。

じんわりと全身を包む真水のすべすべとした触感が落ち着く。


「あー」


これのためだけに今を生きてるって思えるわ。

たまりませんな、この湯船というのが。


「生きててよかった」


ほっとした息をついてお湯の中に頭をつける。

コンクリートで作られているにもかかわらずあまりじめじめしていない。

苔なんかも生えていないから毎日綺麗に掃除されているということも分かる。

ぬるぬるするところもないし不満も何もないぞ俺は。


「ほあー……」


漏れ出るため気もほんわりとした空気に包まれていて何とも言えない。

どうしてこう湯船って安心するんだろうな。


「いいっやっはーっ☆」


こいつがいなかったらもっと安心するんだけどな。

セズクの奇声の後に響く湯船がどぶんとうねる音。

明らかに飛び込んだなこいつ。

そして顔にかかってくる水しぶき。

小学生かお主は。

どんだけテンションあがってんだ。


「いやー気持ちいいね波音!」


うるさいよ。

本来の楽しみ方してないだろ。

石鹸で足を滑らせてこければいい。

頭打てついでに。

ごんと。


「はいはい……」


当然セズクに裸を見せるわけにはいかないからタオル巻いてる。

反則かも知れないけど下手したら俺の貞操が死ぬから大目に見てほしい。


「そこにいるのは……T・Dか?」


突如声がしたかと思うと扉がガラガラと開いた。

この声は来たことがある。

紛れもない、個々の基地司令。

ガッギスの図太い声だ。


「はい、T・Dです」


俺はそう返事をしてタオルをさらにきつく締めた。

緩めることは風呂から上がらない限りありえないだろう。


「おーそうか。

 ならばこっちに来て私の背中を流すといい」


……。

あがろうかな、俺。

ざばっと湯船から出ようとするとぐいっと引き留める輩が一名。

セズクだ。

いつの間に俺の後ろにいたのだろうか。


「誰だい、僕のハニーによく分からないことを指示する間抜けは」


そういうとセズクは己の右手を刃に変えて湯気の中へ話しかけた。

湯気を割って出てきたのはガッギスさんその人。

いい肉体をしている。

いい意味でも悪い意味でもな。


「T・Dのことをハニーと呼ぶ……つまり貴様は?」


ってガッギスさんあんた股間何にも巻いてませんがな。

その、あんたの主砲がね。

丸見えなんよ、分かる?

セズクはちらっとその光景を見ただけで鼻で笑う。

なんだ、勝ったつもりなのか。

勝者の笑みか。

どっちでもいいけど俺のあったかのほほんタイムを邪魔せんでほしいわ出来るだけ。


「僕かい?

 ふふっ、聞いて驚かないでよ。

 僕はセズク・KT・ナスカルーク。

 T・Dの旦那だ。

 帝国郡の中では割と有名な方だと思ってるよ」


「すまん、知らん」


一刀両断。

一瞬だったな。


「勉強しなおした方がいいんじゃないかい?」


無茶やであんた。

知らない人も多いってそりゃ。

セズクさんのこと知らない人の方が多いだろうに。

シエラとメイナは分かると思うけども。


「悪いがどいてもらえんかね。

 私はそこにいるT・Dに用事があるんだ。

 旦那だか何だか知らんが邪魔をせんでもらいたい」


ガッギスはそういうと構えを作り出す。

一戦やる気なんですかね。


「もーあほらし。

 俺は出るぞ」


俺はまた改めて入りなおそうと考えて浴室から出た。

俺が通り過ぎ、浴室の扉を閉める音を合図にしたのか肉と肉がぶつかり合う鈍い音が浴室に響いていた。

とうとう殴り合いか。

いわゆる私を争って二人が傷つけあうなんて嫌!みたいな感じですか。

でもあいにく俺は止めないぞ。

二人で好きなだけなぐり合って二人ともに倒れてください。






次の日。

俺は深夜入りなおしたお風呂のおかげですっきりと眠ることが出来た。

今日は予定通り要塞に向かって出発。

そしてぼこぼこにして沈めるだけだ。

簡単な話よ。

俺の今の力を持てば楽勝だろう。


「はのーん!」


「T・D-!」


着替えをしようと手を軍服にかけたところで二人の声がドアの向こうから響いてきた。

まさか……。

ドアがこじ開けられぴんっ、と留め金がはじけ飛ぶ。

まさかまさかまさか。


「「きちゃった」」


「Noooooooooo!!」


嘘だろう。

ドア枠が吹き飛んで二人がきらりんと星を飛ばしてやって来た。

飛んできたドア枠を右へ体を傾けて避けると後ろに置いてあるタンスにドアの角がめり込む。

二人はにこにこしながら俺に手を差し伸べ


「「おはようっ」」


と言い放った。


「意味わからん」


俺はそういって軍服を身にまとうと颯爽と部屋を後にする。

お主らにかまっている暇ではないのだ。

俺は基地司令のところに行って今から要塞を落すと報告を……。

ん?


「おはようT・D。

 今日も元気な朝を迎えたな。

 いやー死なないでよかったな!」


おいゴルァ!

基地司令あんたなーにやってんだよ!


「ハニー聞いて、聞いて。

 こいつハニーの魅力をすっごいよく分かってるの。

 やばいの。

 もう、話しててめっちゃ盛り上がっちゃったんだよねー!」


セズクは興奮気味でそういうと手をぱたぱたさせた。


「そうそう。

 なんかこういうタイプじゃないと思ってたんだけどもよ!

 案外こいつ分かる口でよ!

 拳で殴りあった後、話しこんじまった!」


ガッギスもえらい興奮気味だ。

俺の予想では二人が殴りあって共倒れするのを狙ってたんだけども。

予想より右斜め方向へ行ってしまったんだよな、これが。


「あのさー……。

 あのさ、あのさぁ……。

 ガッギスさん、あのさぁ……」


「なんだT・Dよ!」


「えっとですね。

 作戦どうしますか。

 そろそろ発動しないとまずいですよね。

 というかもう、俺達三人は戦うつもりでいるので。

 早いことブリーフィングというか挨拶だけしてくれませんかね」


ガッギスは俺の顔をまじまじと見つめて頭をカリカリと掻く。

セズクはため息をつくとやれやれといった表情を浮かべた。


「波音さ。

 そんなに早く人殺しに行きたいの?」


そういうわけじゃないんだけどさぁ……。






               This story continues.


ありがとうございましたっ。

いやー。

いやーいやー。

波音がかわいそうですなんかもう。

ごめんね、波音。

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