妄想世界
「よしよしよし」
「…………」
「よーしよしよしよし」
「………………」
「よーしよしよしよしよしよーし」
「……………あのさぁ」
「んー?」
「やめろや」
「無理なことをおっしゃるな」
「……………」
俺はため息をついて机に突っ伏した。
いい加減離してくれないかなあ、この人。
いつまで俺の頭をなでなでよしよししてるんだって話よ。
うっとおしいわほんと。
勘弁してくれよもう。
「これが最終兵器だって?
いやいや。
こんなかわいいのが最終兵器だと世界がかわいさで埋まってしまう」
ないから。
あーもーしつこい……。
とっくのとうに説明は終わり、シエラもメイナもマックスも自分の部屋へと帰ってしまっていた。
ちょ、聞いてくれ。
それで聞いて。
俺もな、続いて帰ろうとしたんよ。
そしたらなんかがっつりとな、腕捕まれてな。
「話したいことがあるから残っていてほしい」
って言われたわけですよ。
そりゃこいつはホモだし、なんかされるんだろうなとは思ってた。
正直思ってたけどここは最前線だし、そんなアホなことはされないと思った。
セズクみたいにボケなホモじゃないと思ってた。
でもな、アホでボケだったんだよ。
こいつも。
部屋の鍵を掛けるとひたすら俺の頭をなでなでしてきやがる。
「よーしよしよしよしよしよしよし」
「だー!!!
もー!!!!!」
火山の噴火みたいにイライラが噴き出しそうだ頭から。
耐えきれないわ私もう。
無理死んじゃう。
「キスしてくれたらはなすー!」
「するかぼけぇ!」
アリルとしかまだしたことないのにお主なんかにしてたまるか!
断固拒否という意味で首を横に振る。
「じゃあ、離さない」
「もぉぉぉはふんもぉぉお!!」
いいやもう。
こいつが飽きるまで動かない。
このままじっとしてよ。
それから約一時間。
やっとこさ俺は解放された。
ひどい目にあった。
たくさんあった毛が削げ落ちてる気がしてならない。
頭のてっぺんがなんかひりひりするし。
いわゆる最悪だ。
Very Badだ。
キスは当然していない。
するわけがない。
あいつがよしよしに疲れてきたタイミングを見計らって腕からすっぽんと抜けてやったのだ。
どうだ、この力。
最高だろう。
俺は廊下からそそくさと自分の部屋へと続く道を歩く。
地図は机の上に置いてあるやつをかっぱらっていた。
いいからさっさとよこせばいいのにもう。
戦う前から変に疲れた。
「ここかぁ」
俺は自分に割り当てられた番号の部屋を開ける。
重い金属製の扉のノブをひねって奥へと押し込んだ。
本部みたいにここは自動じゃないのな。
「やあ♪」
「やかましい」
俺はドアを閉めた。
おぞましいものが目の前にいたぞ。
なんつーか、疲れてるんだと思う。
自分でも分かる。
早くベッドに入って寝た方がいいだろう。
「えっと、ここだな。
ここで合ってるな」
ドアをひねり開ける。
「やあ♪」
「…………」
自分のベッドまで歩いて行く。
上着を脱いでそばにあるハンガーにつる。
「ん?
なんだい、ハニー誘っているのかい?」
「………」
あー風呂入らんと。
毎日入らないと個人的に寝れなくなるタイプですちなみに。
変えのパンツも一応用意はされているみたいだった。
パンツとかけてあるバスタオルを手に持って浴室へと向かう。
「おや?
お風呂かい、ハニー。
じゃあ僕も♪」
「…………」
俺は静かに浴槽の扉を閉めた。
そして鍵を掛ける。
「ふんっ」
ドアの外でそんな声がしたかと思うと扉が枠ごと外れた。
これ以上無視して壊されたらたまらない。
「なんでや」
「何がなんでや♪」
「なんでおるんかってきいとんねん儂は!」
「君がいるところどこにでも。
それが僕、セズク・KT・ナスカルークだよ?」
びしっと決めて見せたつもりだろうがそれはストーカーだぞ。
いや、もうそれもいまさらか。
完璧にストーカーか。
まあもういるんだからどうしようもないことは確かだ。
それにこいつはこいつで中々の戦力になると思うし。
むしろいてくれた方が楽になるかもしれない。
「ハニー……」
ため息をついた俺の周りでセズクは俺の匂いを嗅いでいたがふと気が付いたように名前を呼んだ。
なんだ。
「なにさ」
セズクは俺の服を掴むと直接匂いを嗅ぐ。
何、なんか臭いか?
カレーとか……?
「別の男の匂いがする」
そういうとセズクは俺の肩を掴むと壁へと押し付けた。
とっさのとことに受け身すら取れなかった俺は背中を思いっきりぶつける格好になった。
骨が壁に当たって鋭く痛む。
側に置いてあった水差しがこぼれ床にシミを広げる。
「誰のニオイかな、これは?」
突っかかってくるような口調にきつく言い返す。
「別に誰でもいいだろうが」
お主には寒けないだろう。
それに、言えない。
頭なでなでされまくってたなんて。
言えるわけがない。
「へぇ?」
セズクは俺の喉仏に刃を突きつけてきた。
あの、なんでも綺麗に切ってきた刀。
俺の喉がいくら最終兵器として堅くなっているとしてもこれは防げる自信がない。
「ハニーは僕のものなのに?」
「いつから俺はお主のものになったんだよ。
それになんでここにいる?」
「…………」
「答えろ」
喉に突きつけられたら刃の先が皮膚に当たっているらしい。
ちくっと痛みが走る。
今から風呂だってのに。
しみるじゃねぇか、これで風呂に入ったら。
「ハニーがいるからさ」
答えになってねーんだよな。
はーもーばか。
「ん、もういいや。
とりあえず。
この匂いたぶん基地司令だと思う。
なんか俺好かれちゃったみたいで」
「!」
「ずっと小一時間頭なでなでされてたからかな。
匂いついたの」
「!!」
「キスしてくれたら許すとかも言ってたしな」
「殺す」
セズクの目つきが変わった。
俺の喉元に突き付けた刃を引いてゆらりと後ろを向く。
これ、やばい方向に持って行ってしまったかもしれない。
あわててセズクの手を引っ張って冗談だという旨を伝える。
セズクはのぼせたような顔になって椅子にペタリと座りこんだ。
「疲れたよ……」
そりゃそうでしょうな。
私も疲れましたがな。
「やっとここまで来たと思ったら波音は知らない男のニオイつけてるし。
挙句の果てに嘘つかれるし」
「嘘じゃないけど嘘なんだよ。
なんてーか、お主に本当のこと言ったら殺しそうだもの基地司令を」
「波音……おいで?」
「やだよアホ」
腕を広げたセズクのところへ誰が行くのかって話よな。
いくわけねーべアホか。
俺は男でお主も男だろうが。
俺が女でお主の恋人ならまだしも。
「おいで?」
いかねーって言ってんだろ。
「ん……。
そういうと俺はセズクの胸に飛び込んだ。
自分よりも大きな体を持つ人間に抱きしめられると安心する。
それがセズクならまだしもだった。
彼の服の皺を掴んで俺は胸に顔を押し付ける。
甘くていい匂いが漂って」
勝手に続けようとするんじゃない。
俺がそんなこと言うわけないだろ。
「そして俺と彼はキスをした。
甘くて切ない。
でもなぜか嫌いに慣れない。
彼の瞳が俺の瞳を見据えてくる。
そして彼の手が俺の股間へ……」
「はい死んで」
俺はセズクの言葉を遮ると風呂のドアをもとに戻した。
「今いいところなのにハニー……」
「お主の中でだろうが。
俺は全然うれしくないしむしろ鳥肌が止まらないわ」
セズクは俺のベッドに腰掛けるとやれやれとため息をついた。
なんだそのそぶりは。
「じゃあ僕はいったい何をどうすればいいっていうんだい?」
「何もどうもせんでいいから静かにしておいてくれ。
お願いだから」
「それは無理な相談だね」
「五分でいいから静かにしてくれ。
俺はもう風呂に入って寝たいんだ。
布団ぐしゃぐしゃにするなよ、もう」
やれやれ。
こんなふうにバカだけどあいつは強いからなぁ。
それが少し不満っちゃ不満だった。
This story continues.
ありがとうございました。
いやー。
いやぁ……いや……えー……。
セズクさんは案の定の妄想野郎ですね。
やばいですね。
近寄りたくないですね。