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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
破壊な季節☆
161/210

マックスとの会話

「そういえばマックスは?」


今から俺が説明を開始しようとしているときにシエラが思い出したように言った。

俺もメイナも思わず声を上げる。

完璧に頭から転げ落ちていた。


「忘れてた」


「それな……」


俺は右手の核ミサイルを持ったままどうするか考える。

今から帰ってもいいけども……。

面倒というか、ね。


「どする?」


「一回帰ろう、んでまた戻ってこよう」


俺はそういってまた来た道を戻る。

右手のこいつは壊さないように慎重に扱わなきゃいけないな。

誤爆されても困るし。






「どこ行ってたんだ?」


基地に戻るとマックスはタバコを吸いながらタイヤの上に座って俺達を待っていた。

辛気臭い顔と俺の服についたオイルを眺めている。


「ちょっとそこまで」


右手の核ミサイルをそういってマックスの前に置いてみせた。

一本で一トンはあるだろうが今の俺にはまったく意味のない重さと言えた。

だって、箸みたいに軽いんだもの。


「っちょ、お前これ!?」


「んーふふっ」


俺はにこにこっと笑うと「おみやげ」と耳元で呟いてあげた。

マックスは俺の顔を見て青ざめると二、三歩後ろに下がる。

そんなに怖がらなくてもいいやん……。

ちょっと悪ふざけがすぎたかな、と反省しつつも説明してあげる。

少し置いて行ってしまったことも謝りつつ敵から奪ったものだということと敵が核をも使おうとしているということを伝えた。


「まぁ、置いて行たんだろうなということは分かってた。

 でもだな!

 お前バカ野郎だろう!?

 なんで核なんか持って帰ってくるんだよ!」


「え、いいかなーって思って」


しれっと答えると俺はマックスに早く行こうとだけ伝える。

何か言いたげにマックスは口をもごもごしていたがシエラとメイナにも急かされたらしい。

タイヤから立ち上がるとゆっくりと操縦席へと向かう。

そして俺の横を通り過ぎた際に吐き捨てるように言ってきた。


「お前は変わっちまったんだな。

 人間じゃなく、兵器に……な」






そんなこんなで空の上。

俺は操縦席から後ろを見てたくさんの荷物と共に積まれた一本の核ミサイルを眺めていた。

天井からがっつりと固定されてこの飛行機が撃墜されても外れそうにない。

マックスは「いらない、いらない」と言っていたがシエラ達が「欲しい、欲しい」と――をこねた結果、出発が約一時間ほど遅れてしまった。

誤爆しないようにがっつりと固定すると同時に接触センサーの感度を下げる。

これで整備班曰く


「車が衝突したぐらいの衝撃がないと爆発しない」


とのこと。

安心して持ち運びができるのである。

核ミサイルが安全な中、俺は副操縦席から隣に座るマックスに話しかけようとして話しかけれない状態を繰り返していた。

あんなこと言われたんだもの。

俺は俺で気まずいしマックスもマックスで気まずいらしい。

そんなわけで隣同士になったってのに無言の時間が続いているのが現状だった。

数々の機器から漏れ出る光がマックスの顔を青白く映している。

口に加えている赤いタバコの火が光ったかと思うとマックスの口から煙が漏れ出る。


「なぁ、マックス……」


しばらく一方的に眺め続けるという状況に我慢できなくなった俺は勇気を振り絞ってマックスに話しかけてみた。

マックスはしばらくボーっとしていたが話しかけられたことを無視するほどの度胸はないらしい。


「………ん?」


呻くように俺の方を見るとタバコを口から外して灰皿へと捨てた。


「俺、さっきはごめん。

 その、怖がらせて……」


俺はマックスの顔から眼を逸らすと俯く。

すると操縦席から手が伸びてきてマックスの大きな手が俺の頭をわしわしと撫でた。

驚いてマックスを見るとマックスは顔を赤くして目を逸らした。


「……なんだ、その。

 俺も悪かったよ。

 お前もお前でさ、まぁ、気にすんな。

 こうやって生きてることだしな」


マックスは謝ることに慣れていないのだろう。

目を背けて続けて何かごにょごにょ言いたそうだった。

その間ずっと俺は頭を撫でられ続けていた。

別に悪い気分じゃないし、頭を撫でられるのは久しぶりだったから。


「うん……」


「俺もひどいこと言ったしな。

 お前のうれしそうな顔にぞっとしちまったんだよ、俺は。

 んで、昔運んだお前はもういねぇのかなぁとか思ってよ。

 寂しくなっちまった。

 覚えてるか、あのときのこと」


マックスは俺の頭を撫でるのをやめて新しいタバコを胸ポケットから取り出し火をつけた。

またすぐに操縦席に白い煙が渦巻き始め換気扇のスイッチが作動する。


「うん」


忘れるわけもないだろう。

あの時の魔改造トラックは冴えてた。

あれだけ大量の超常兵器級に追われたのは経験がないしな。

怖かったわ――。

うん、怖かった。

今となっては感じなくなった怖さだった。


「あの時まさか成功するなんて思ってなくてよ。

 もう時効だろうから話すぜ?

 俺はぶっちゃけお前らを置いたら帰るつもりでいたんだ」


「ほへ?」


マックスは喉を鳴らして笑う。

俺はきょとんとした顔でマックスの笑う姿を眺めた。

置いて帰るつもりでいたのかよ。


「笑いごとじゃないんだよなぁ……」


「はっはっは、すまんすまん。

 でもお前らは見事に盗んで、帰ってきやがった。

 なんてーかそうだな。

 今まで負け続けてたからこそ諦めてたもんがあったんだよな。

 それをお前らがぶち壊したんだと思うよ」


「……そ、そう……?」


「そうさ。

 俺が言うんだから間違いない。

 シエラとメイナがいくら勝っていたとはいえ士気がなけりゃ話にならねぇ。

 あいつら二人がいたから勝てた、じゃダメなんだ。

 あいつら二人がいなくても勝てる、にならなくちゃ。

 そういう面でお前と仁、だったか?

 四人で成し遂げたことは大きなことだと思うぜ俺は」


マックスはタバコを口から話して俺に渡してきた。

なんだろ、何をするつもり?


「吸ってみるか?」


そういうとマックスはさらにタバコを近づけてくる。

あいにくだけど俺はタバコは吸わないんだ。

吸うつもりもないし。

害しかないだろ、これ。


「え、いやいい。

 タバコはいい。

 遠慮する」


「つれねぇなぁ。

 さっきは兵器みたいだって言っただろう?

 でもよ、そんなところは全然かわってねぇんだな」


「へ?」


そうかなぁ……。

変わって、ない?

俺が?


「そんな簡単に変わる訳もないだろうがよ。

 少佐、お前は兵器になったつもりだろうけどよ。

 そういう人間臭いところは何も変わってない。

 シエラとメイナはより一層人間らしくなってきてるってのに。

 なのにお前は人間であることを拒絶しようとしてる。

 人間だったお前が人間らしくしないでどうするつもりなんだ?」


「…………」


俺は再び俯き、こぶしを握りしめた。

人間――やめたはずの名前。

永久波音。

俺がT・Dと呼ぶなと言ってるのは兵器として扱われたくなかったからじゃないのか?

この名前に固執してるのは人間をやめたくないからじゃないのか?

自分で人間をやめようとしている今永久波音はどうなるんだ。

自分で自分に問いかける。


「なんていうかよ。

 お前があいつらと長いこといただけさ。

 なに、人間味を吸い取られてるって言うの?

 泥棒されてるんだよな、お前。

 あいつらに」


マックスはそこまで言うと俺の頭をまたわしわしと撫ではじめる。


「俺が泥棒されてるって……。 

 なんか、面白い話だな」


マックスの例え話が少し面白くて笑ってしまった。

本来泥棒のはずの俺がシエラ達に泥棒されてるなんてな。

逆だろうに、普通は。

しかも盗めないものを盗むんだから……あの二人の方が俺よりも腕は上なんじゃないか?


「確かにな。

 まぁ、とにかくだ。

 お前はまだ人間を抜けきってないってことさ。

 無理して抜けようとしなくてもいいんじゃないか?

 兵器として戦う時があったとしても。

 お前が人間として生きていた時間は変わらないわけだろ?

 だったら、人間をもう少しぐらい楽しんでもいいじゃないか。

 昔のお前は人を殺したくない、殺したくないって言ってたぜ?

 でも今はどうなんだ?」


「……殺してる」


「だろ?

 ぶっちゃけその殺しにも何か理由をつけて殺してるんじゃないか?

 こうしなけりゃならない。

 これが普通なんだ、と言って。

 それは逃げてるってことじゃない。

 何か理由をつけて自分を正しく見せようとしているだけなんだよ」


…………。

マックスの言葉が次々と心に突き刺さってくる。

頭をわしわししてくる感触だけが今俺の感じているすべてだった。

喉が渇いて仕方ない。

ごまかしなんて効かない。

全て真実。

マックスの言う通りなのだから。






               This story continues.


ありがとうございます。

マックス……!

お前なんていいやつなんだ。

初めてかっこいいと思ったぞ!!

いいやつだなぁ……!!

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