自信なんてないわ
「今から行ってどうするんさ。
少し作戦練ってから行こうやぁ……」
若干まだ弱気の俺にシエラが激を飛ばす。
「何を言っているんだこいつは」といった表情だ。
「最終兵器ともあろうものが作戦?
波音あんたばーっかじゃないの?」
メイナですらあきれた表情を俺に向けてくるもんだからもうね。
俺が悪かったとここは認めざるを得ないようだ。
でもお願い言わせてほしい。
「まだ力の使い方も分からんし……。
それになんというか、まだ不安も大きいって言うか……」
ぶつぶつ言いまくる俺をよそに二人は着々と準備を進めている。
と言っても手に持ったのは一本の水が入ったペットボトルのみ。
「詳しいことはあっちで話そ。
行くよ波音」
「………………」
三点リーダーが思わず続いてしまうような話の聞かなさである。
頼むから俺のお話聞いてください。。
セズク以上に下手したらお主ら話聞かないだろ。
そうだろ。
「行かないことには話がはじまらないでしょ?
ほら、波音、飛ぶよーっ?」
分かったよう……。
二人に押された俺はしぶしぶついて行って外へと出る。
外に出たと同時に二人の背中から四枚の鋼鉄の翼が姿を現す。
背中の皮膚を突き破り、不気味な音すら立てているそれは羽化したての蝉すら連装させる。
恐怖神と戦闘神の姿はそれだけでもうすでに恐ろしいものだった。
心臓が鼓動するのに合わせて鋼鉄の翼の模様も鼓動する。
飛ぶ、という意思。
それを持つだけで背中から翼が生える。
最終兵器になったからこそ分かるこの二人の気持ち、思い。
人から恐怖の対象で見られる寂しさ。
だからこそ俺は人間でありたかった。
孤独を知りたくなかった。
もう、遅い話だけどな……。
「行こ」
シエラが俺とメイナを見渡して頷く。
俺もシエラの目を見返して頷いた。
俺達の周りに強い風が吹きあがる。
自分たちの周りにイージスを張り巡らせ俺達を見ている兵士達に笑いかける。
そして一瞬、目の前の景色が歪んだかと思うともう空にいた。
西日が差しこんでくる綺麗な空に俺は自分の体を投げ出す。
鳥ってこんなに気持ちよく飛んでいるのだろうか。
俺達三人が抜けてきたところ三つ、雲がぽっかりと口を開けていた。
「あっち」
シエラが口ぱくで指差した方向へ体を向ける。
それだけで弧を描くように綺麗に軌跡を曳きながら俺は空を飛ぶ。
それにしてもまー、楽しいな。
空にいると自分が小さく見え、無限の世界が広がっているように見えて楽しい。
「レーダーに反応。
パターンから見て戦闘機かなって思うけど」
どうする、と首をかしげてくるメイナに俺は答える。
そりゃ、戦うに決まってるだろう。
それより今、メイナの声が思った以上にクリアに聞こえたわけだが。
「あ、波音。
無線のやり方は分かるよね?
ヴォル二―エルでやってたし」
そういうことは早く言いましょうメイナさん。
シエラの口ぱくも紛らわしい要因の一つなんだぞ。
てっきり声で意思を伝えることは出来ないかと思ってたじゃねぇか。
ヴォルニーエルでやった時のように意識を集中させる。
「んー、んんっ、あー。
聞こえる?」
「うん」
「おっけ、聞こえるよん」
「レーダーに反応あったって言ったよな?
戦おう」
戦闘機を少しでも減らしたら帝国郡にとっても楽になるだろうから。
「えーうん、いいよ」
メイナはカラカラ笑うと「じゃあ場所教えるから行ってきてねー」と俺に丸投げする。
戦闘機ぐらいなら……まぁなんとかなるだろう。
いくら力がまだ全部戻ってないとはいえ通常兵器ぐらい相手にしたところで負ける気がしない。
自信を持てって言ってたけどこういう自信でいいならいくらでも持ってるんだよな。
「ちょっと行ってくる。
待っててくれ」
「はいはい行ってらっしゃい」
シエラの返事を聞くと俺は飛び出すようにメイナからの情報提供を受けて目標へと飛んだ。
空気が裂かれた時に出る唸り声だけがしばらく鼓膜を震わせる。
およそ一分程度だろうか。
全速でとんだ俺は目標の戦闘機、二機にたどり着いていた。
一基だけ何やら巨大なミサイルを積んでいるように見える。
俺は夕焼けの中その姿を目をこらして眺めてみた。
「あれって……」
赤い光を鈍く跳ね返すのは核兵器を現す独特のマーク。
大きさからしても戦術核程度の威力があるだろう。
そして向かう先には帝国郡の基地。
なるほど、そうはさせない。
俺は護衛を果たしているのであろう一機にまず襲い掛かることにした。
まだ俺の接近には二機とも気が付いていないようだ。
俺は忍び寄るようにフルスピードで戦闘機の真後ろにぴったり張り付く。
少しだけ高度を上げ、戦闘機の尾翼に捕まると俺は両足を戦闘機の背中につけた。
音で気が付いたのだろうか。
パイロットが俺の存在を指差し青くなった顔を向けてくる。
何か訴えているようだったが別に聞く気もない俺は顔を背けて地面の鉄塊に拳を叩きつけた。
たちまち凹み、中からオイルのようなものが漏れ始めた戦闘機が俺を振りほどこうとロールする。
遠心力で体を引き剥がされそうになりながらも俺は戦闘機の機内に手を突っ込んでいた。
何か手がガリガリと回るものに触れる。
イージスをしていたからよかったもののなかったら一瞬で俺の手はばらばらだっただろう。
それと同時に金属がはじけ飛ぶ音がして戦闘機の二基あるうち一つのエンジンが停止する。
ジェットエンジンのプロペラだったらしい。
なんか分からんが面白いものに引っかかってしまった。
そのままヘリに手をかけ一気に引きずり出す。
ジェットエンジンがそのままの形で俺の前に姿を現した。
パイプから燃料が漏れ出し、引火する。
あっという間に火だるまになった戦闘機はみるみる高度を下げ始めた。
一機終わり。
ごちそうさまでした。
続いて二機目に入る。
さっきの一機が襲われているのを見ている分、今度は捕まえるのに少し苦労しそうだった。
遥か高いところに高度を持ち、くねくねと変な軌道を描いている。
だが、戦闘機なんてものは普通は大きさは十メートルを超える。
身長が一メートル強い俺にとってただの大きな足場にしか思えなかった。
捕まえると同時に核兵器の拘束具をねじ切る。
それを見たパイロットの口が絶叫の形に歪んだ。
「ははははは!!」
戦うのってこんなに楽しいものだったか。
命を奪うのってこんなに愉快なものだったか。
戦闘機の進行方向に先回りしてイージスを張る。
さあ、来い。
左手に持った核兵器が謝って爆発しないように右手に持ち左手でイージスを維持する。
マッハを超える速度で突っ込んできた機体が俺のイージスに接触すると同時に押し返す。
尖った機種がつぶれ、くしゃくしゃに鋼鉄が折れ曲がる。
飛び散った火花、そしてコックピット隻がひしゃげた。
割れたガラス、二つに折れた機体の内部から炎が噴き出した。
刹那、燃料に引火。
火球が半分に切られたような形で出現する。
煙を曳いて地面へと落ちていく破片を眺め二人殺した、事実を噛みしめる。
いや、重みなんてものはない。
命はこうやって簡単に散っていく軽いもの。
全人類三十億の中のたった二つ。
軽い。
砂粒がたった二粒消えただけのこと。
「相手が悪かったんだよ」
落ちていく最後の一機に吐き捨てると俺はシエラ達の待つところへ戻った。
「遅い」
「ごめんて」
「まぁまぁ、シエラ。
波音もまだ記憶が戻ってきてないんだから仕方ない、仕方ない。
のんびりと待てばいいじゃんねぇ」
気楽そうに言い放つメイナにシエラは口を閉じる。
納得してくれたようだ。
「ほんじゃま、さっさと行くよ。
と、波音それ何?」
持ってきたペットボトルの水を飲みながらメイナが訪ねてきた。
俺の右手に残っているものを指差している。
「ああ、すっかり忘れてた。
核兵器だよ、核兵器」
にゅーくりあーうえぽん。
あまりいい響きではない。
「核……?」
真っ先に頭にはてなを浮かべたのはシエラだ。
「超空制圧艦隊は関係ある?」
「ない」
まず超空制圧艦隊ってなんだよ。
そこから聞かせてほしい。
「ないって、ねーさん」
「じゃあ私も分からない」
「えっとだな……」
いちいち初めから話すのも面倒だから太陽がつまったもの、とでも言っておく。
「すごい」
「でもそれじゃ地球まで飲み込まれて……」
説明を間違えたかもしれない。
なんというか、こいつらはそういうやつだった。
右手の厄介物を抱えて俺は頭を抑えた。
This story continues.
ありがとうございました。
ベルカには、核兵器といった概念がないんですね。
いやはや。
超空制圧艦隊、これは超空陽天楼とも繋がっております。
にゅふふ。
ではではっ。
P.S
マックスは忘れられています。