思いつき
どちらにせよ俺には関係のないこと。
あいつの暗闇が深かろうが結果的に俺には関係ない。
この忌々し記憶すらも作られたものだとか、考えてしまう。
自分が何者なのか。
「っりゃぁああああああ!」
潜水艦の舷側に手を突き刺すとそのまま移動する。
豆腐のように簡単に装甲が砕け、割れ、引きちぎれる。
最終兵器の力で抵抗できない鋼鉄のクジラを解体してゆく。
セズクは話があるとか言ってたけどとりあえずこいつら殺しておかなきゃ。
邪魔でしょ?
「来たぞ、殺せ!!
捕獲はもういい殺せ!!」
舷側を破ったことにより潜航できなくなった潜水艦の中から人が吐き出されてくる。
その人目がけ俺は手のレーザーを放った。
ハッチをこじ開け、外に飛び出してきた男の頭が弾ける。
肉体を焼き千切り、骨を焦がす。
頭が無くなった、人間を押しのけ奥から次々と現れる兵士たち。
足場を崩した方が早いよな。
別にもうスクリュー狙って行かなくてもいいかなぁ。
イージスで弾を避けながら俺はちらっとセズクの方をうかがった。
頬に飛び散った血をつけて長く流星のように光を曳きながら潜水艦の周りを回る。
次の瞬間輪切りになった潜水艦が五つに割れた。
あー別にもうあいつもスクリュー狙ってないじゃねぇか。
俺だけか心配してたの。
じゃあ大丈夫か。
「力の使い方……ねぇ」
ぼーっと空を見上げてため息をつく。
そんなもの簡単に言って……あいつはずるい。
俺にいつも考えさせるくせに、あいつはいつも答えを言わない。
――ずるい。
俺が皆殺しにしたこの潜水艦の上でひっそりとたたずむ。
海面が青く光りを反射して空が高い。
俺は血まみれの甲板を避けてバルジの上に座るとはぁ、とため息をひとつついた。
対空砲火の中一つ光が飛び、一隻がまたばらばらに解体される。
空まで舞いあがった光はそのまま一直線に次の潜水艦へと向かうと主砲の前で消えた。
そして起こる主砲の大爆発。
今までとはけた違いの火柱が空まで舞いあがりキノコ雲が空へと登る。
真っ二つに折れた潜水艦はすぐに沈没し始め海面から消えてゆく。
俺も俺でがんばらなきゃなぁ。
ぼーっと眺めていた俺がふと後ろを振り返ると俺の後ろの弾道レーザーの装置が稼働していた。
光をため込んでいていつでも発射可能なように見える。
そばまで歩いて行き、中をひょいと覗いてみる。
と、光がしたからこみ上げてくるのが見えたのでイージスで蓋をしてみた。
俺の膜に跳ね返された図太い光は出口から出れずに艦内を荒れ狂う。
舷側の装甲を突き破ると別の潜水艦へとその光をぶち当て沈黙した。
「これで大体か……」
残りは二隻程度。
降伏でも促すか。
それとも沈めるか。
個人的に沈めたいんだけど。
「残り二隻だけどどうしよっか?」
俺がぼやんと二隻を眺めていると俺の隣にまでセズクはやって来た。
まるで食い残したケーキをどうするのか話し合ってるみたいだ。
にっこりと笑って指をさしている様なんてとくに。
「知らん、沈めればいいんじゃないか?」
割とどうでもいいことなので俺は適当に返事をしておいた。
「そっか……」
セズクはそういうとその手についた二つのレーザー砲を二隻に向ける。
巨大な砲身が現れ、バチバチと光というよりは電気のようにも見える。
そういえばセズクがレーザーを撃つさまをあまり見たことがない。
彼は刃専門みたいになりつつあるんだもの。
レーザー撃てたのか、セズク。
「じゃあ沈めるね♪」
「ん。
そーしてくれ」
俺は疲れたから。
頼みますセズクさん。
今もセズクは笑っている。
こいつが泣いたりしているところを俺は見たことがない。
いっつも笑ってるんだもん。
感情を殺すことが出来るつてこういうことだろうか。
あまり多くを語らないからなこいつ。
俺はため息をつくとセズクの横顔を見る。
レーザー砲の光に照らされた顔は若く、まだ未成年だという真実に改めて気が付かされる。
「波音。
この光は君の光だ。
助けることが出来るものを沈めるんだから。
力の使い方、波音はこれでいいんだね?
ひたすらに敵を滅ぼす。
そういう力のあり方も当然ある。
でもねハニー。
それを決めるのは結局自分だから。
僕がいくら言おうとそれは変わらないから。
だからハニー。
自分で決めたルールには従うんだよ絶対に」
「…………」
自分の決めたルール。
それはなんだ。
俺は前にそんなルールを決めていた気がする。
確か人を殺さないと。
でももう遅い。
俺はもうたくさん殺した。
今。
仁すら。
いや、仁さえも。
「波音。
これが終わったらちょっと僕の部屋に来て。
いいね?」
「ん、わ、分かった」
セズクが頼んでくるなんて珍しい。
少し戸惑ったが俺は承諾した。
セズクはにこっとまた俺に微笑みかけるとその手のレーザーを放った。
二つの赤い筋が潜水艦へと向かってゆく。
二隻同時に赤いレーザーが貫くとセズクはくるりと背を向け帝国郡本部へ顔を向ける。
そして俺に
「帰るよ」
というとあっという間にセズクは消えた。
残された俺はただ沈んでゆく潜水艦を眺めるだけ。
たくさんの人が俺に助けてほしそうに手を伸ばしてくる。
前にもこんな光景を見たことがある。
おそらく永久波音としてではない。
T・Dとしてだ。
赤く燃える街で……。
きっとあれは帝国の終りの時。
俺はきっと別の街を滅ぼしに行ってたんだと思う。
その燃える街、燃える道路にたくさんの人がいて。
その人全員が俺を残らず見上げて手を伸ばしてた。
そして俺はその人たち全員へと死を与えたのだ。
伸ばした手に死を掴ませたのだ。
恨み重なる言葉も聞き飽きた。
T・Dの時は。
今はただ怖いだけ。
俺は脳裏に一瞬でフラッシュバックしてきた記憶を読み込んでいた。
そんなこともあったのか。
仁は一切記憶は蘇らないって言っていたが全然お前。
蘇って来たじゃないかよ。
鬼灯のおっさんにいろいろいじられた俺の記憶は断片しか残っていないらしい。
どうやら。
そしてその断片一つ一つが嫌な記憶、もしくはうれしい記憶として蓄積されている。
今永久波音として重ねてきた短い記憶はずっと続いてくれている。
だから俺は今生きてるってわかるしゲームのような世界でも現実と信じれている。
「っはー……」
わけわかんねぇ。
頭をかきながら俺は海の人を眺め続けた。
冷たい水に体温を奪われ消えていく人間たち。
命は儚く、そして軽いもの。
奪おうと思えばいつでも奪える簡単なもの。
それだからみんな大事にするのかもな。
命は重いじゃなくて、軽いからこそ。
まだアップアップともがいている人たちに俺はふといたずらをしたくなった。
スクリューだけが壊れた潜水艦を引っ張り、溺れている人たちの側まで持っていく。
「助かりたいなら乗れよ。
そして本国へと帰って報告しろ。
最終兵器がお怒り、だってな」
ベルカ語で話したから通じるとは思えなかった。
だけどニュアンスだけは伝わっただろう。
溺れている人たちはわれさきにと潜水艦へ向かって泳ぎ舷側に捕まってほっとしているようだった。
そして残らず俺を見上げる。
その眼には恐怖、畏怖、そして敬意が刻まれていた。
ほんの出来心でやったことだ。
まだ人間から完全に抜け切れていない兵器のした気まぐれ。
いまさら罪を償おうとなんて思っていない。
ただ永久波音が悲鳴を上げていたから。
だから俺の中の永久波音を黙らせたかっただけだから。
「…………」
無言で俺を見上げてくる兵士たちに一瞥くれると俺は自分の家へと帰ることにした。
つまりセズクが待つ帝国郡本部へと。
飛び上がってほかに浮いていた一隻の錨を引きずり出し掴みとる。
それを引っ張りながら本部へ向かって飛ぶ。
これはいわゆるお土産ってやつだ。
帝国郡の残りの戦力を少しでも増やす糧になるといいんだが。
油とばらばらの破片、そして木屑の浮く海面を後にした。
すぐに本部は見えてきてそこのドッグに潜水艦を放り込む。
「え、こ、これって――」
混乱する整備兵に「おみやげ」と言って俺は元帥の部屋へ向かうよりも先にセズクの部屋へと向かった。
なんかこればかりは無視しちゃダメだと思ったから。
セズクが呼ぶなんて珍しいことめったにないんだぞ。
なら逆らわずに従うしかない。
それが今まであいつへの裏切りを重ねてきた俺の今できること。
そう信じて俺はセズクの部屋へと向かった。
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ありがとうございます。
潜水艦戦終わりました。
趣味一色になってすいませぬすこし意味合いがありまして。
ふーふふふ。
それにしてもセズクさんこんなに深いキャラになるなんて。
初登場から考えても思いつきもしませんでした。
深い。
それではっ。