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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
力な季節☆
155/210

止める

「止める?

 はぁ?

 ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ」


俺は海の中をゆっくりと航行している潜水艦をじろっと睨みながらセズクに向かってそう言い放つ。

意味が分からない。

止める?

俺が?

セズクに?

なぜ?


「――っ、波音……。

 そんな言葉使いしなかったはずなのに……」


嘆くように俯くセズクの目に憂いの表情が浮かぶ。

何を嘆いてるんだ、こいつは。

訳が分からん。


「っと……」


「わっ」


セズクと話していたため潜水艦たちが隙ありとみて攻撃を仕掛けてくる。

すかさずイージスを張り砲弾捕まえる。

これ、使えねぇかな。

総重量が一トンはあるだろう砲弾を片手でくるくると回しふむ、と唸る。

やってみるか。

左手を大口径――大体、四一センチほどの大きさを誇る砲に変える。

艦砲にも負けない大きさの砲が俺の左腕に付着する。


「ハニー……」


「ちょっと待っていてくれよ。 

 今新しいことを思いついて試してみようってところなんだから」


セズクが何かがっかりした声で話しかけてくるのを無視する。

今いいところなんだよ。

左手の砲門に捕えた弾を突っ込み、砲門を水面へと向ける。

今俺に向かって砲を撃ってきた潜水艦がちょうど腹に海水を飲み込んで海の中へその巨体を沈み込ませようとしているところだった。


「それ行け!」


俺の声を聞いたセズクが顔を抑えて頭を振る。

長い髪の毛がそのたびに風に乗って揺れる。

俺はそんなこと気にせず手に装填した弾を撃ち返してやった。

秒速二〇キロを超えるスピードで、砲弾が敵潜水艦へと向かう。

次の瞬間、鉄と鉄が衝突する鈍い金属音が響くと潜水艦の大きな船内へと弾が吸い込まれていった。

そして起こる大爆発。

見事な命中率に我ながらニヤッとする。

割れた破片から人が溢れ出してくるが沈んでゆく潜水艦の渦に巻き込まれてせっかく海面にたどり着いたというのにまた沈んでゆく。

俺の方をみて手を伸ばしているのは助けてほしいのだろうか。

助けるわけがないというのに。

バカで哀れな人たちだ。


「見ろよセズク。

 さんざん人を殺しておきながら自分は助かりたいみたいだぜ?」


指を差しあざける。

所詮そんなもんだろう人間なんて。

結局自分さえよければそれでいいんだから。


「ハニー……やっぱり僕は君のことを止めるよ。

 何としてでも」


「止める?」


だから、止めるってなんだよ。

俺はセズクを睨んで威嚇する。


「これは僕の、僕の中でのけじめなんだ。

 シャロン、今度こそ守るから」


シャ――?

俺はシャロンじゃねぇぞ何言ってんだ、こいつは。

俺が怪訝な目を向けているのにもかかわらずセズクは俺の顔を寂しそうに見つめる。

な、何だよ。

目と目があいこいつがホモだったことを今まですっかり忘れていた自分に腹が立つ。

なんだ、襲ってくるつもりか?


「ハニー。

 君は力を知りすぎたかもしれない」


……急に何を言い出すんだ。

俺が力を知りすぎた?


「はぁ?」


当然理解できない。

そういった顔をセズクに向ける。

理解なんてできない。


「人間の時のハニーの方がずっと力があった。

 人間の時のハニーの方がずっと守れるものを守ってた」


「……?」


「人間の心を忘れてしまったのかい?

 どうして力を手に入れ、そんなふうに使いたがるんだい?」


何を言っているんだこいつは。

力は守るために必要なもので。

そのために俺は今力を使ってるんだろうが。


「セズク……」


反論しようと思った言葉を飲み込む。

セズクはさびしそうに笑うと髪をかきあげた。


「波音。

 君は力の使い方が分かっていないよまだ」


「……。

 そりゃ最終兵器としての記憶を取り戻したばっかりなんだからな。

 当然だろうが」


「――そうだね♪」


セズクはそういうと海面へ向かって飛びこんだ。

ぱちゃっと、小石のように小さな水柱が立つ。

何をするつもりなんだ?

力の使い方でも教えてくれるって言うのか?

なら見届けてやるよ。

セズクが海面に入ってしばらくすると海面から三隻の潜水艦が浮かび上がってきた。

海面を押し上げて三隻の潜水艦が同時に浮かぶことでようやく状況が把握できた。

お互いがお互いの錨で結び付けられ身動きが取れないのだろう。

一つ二十センチを超える大きさの鎖はこういう風に使っても切れることなくがっちりと網にかかった魚のように潜水艦を捕えていた。

当然死者はゼロだろう。

これを踏まえてセズクは本当に何を俺に伝えたいんだ。

分からん。

自分も力を使ってるじゃないか。


「波音」


いつのまに俺の隣に来ていたのだろう。

声がして隣を見るともうセズクがそこに立っていた。

最終兵器の俺ですら分からない速さ。

人間をやめたセズク、俺と同じように人間であることにいられなかった彼は人間であることを完全に切り捨てていたのだ。

兵器として生きることの本当の意味を知っている……。

海水が顔から滴り、セズクの濡れた金髪が太陽に鈍く輝く。

そしてセズクの目は俺をまっすぐに射抜いた。

いつもあいつの目を見ると動けなくなる。

こういう戦場ならなおさら。

恐怖じゃない。

まるで兄のようにやさしい瞳をしているからだ。


「こういう風に使えとも言わない。

 波音、僕はさっき力の使い方を分かっていないって言ったね?」


ああ。

俺は静かに頷く。


「でもね。

 力って言うのは使われるためにあるものばかりじゃないんだ。

 壊すのが力じゃない。

 守るのが力なんだよ?」


頭をさっと氷の塊が通り抜けたような衝撃だった。

壊すのが力じゃない。

守るのが力。

それはわかる。

でも


「で、でも……守るためには力が必要で。

 その力を使って壊さなきゃ守れないじゃないか!」


そう反論する。

守るのが力なら、俺が今やってることはなんだ。

攻撃が最大の防御といったように今俺がやってることは防御なんだよ。


「波音。

 いいかい?

 きみの理論は正しいんだ。

 だから僕は否定していないだろう?

 でもね。

 その力の使い方を考えたらどうだい、って言ってるのさ」


てっきり否定されるかと思ったら全然そんなことなかった。


「…………」


「シャロン。

 君はこっちに来ちゃダメなんだよ。

 僕みたいに戦争が自分の生きる場所と確信しちゃ。

 抜けれなくなるよ、僕みたいにね」


両手を眺めてまるで泣いているかのようにセズクは俯く。


「だから、僕みたいになっちゃだめだ。 

 波音」


セズクはそういうと後ろから飛んできたミサイルを両手の剣で切り裂く。

爆発せずにばらばらになったミサイルは海面へとひらひらと落ちていく。

潜水艦たちがまた攻撃を始めたらしい。


「……細かい話は後だ。

 セズク、俺が半分やるからお主が半分やってくれるか?」


手伝いなんていらないって自分で言っておきながら結局セズクに手伝わせるんだから。

俺ってばあんぽんたん。


「いいよ?

 波音。

 さっき言ったこともう一回思い出して。

 力の使い方を。

 僕が君を止めるといったのはそういうこと」


「……うん」


正直言ってたぶん俺セズクの半分も理解できていないと思う。

というか全部理解できる人いるのかい。

まったくもって俺はセズクが言ってることを理解……できなんだ。

すごい悪い気がする。

少し考え込んだ俺の頭に一発のミサイルが命中した。

鈍痛が走り、いらっとする。


「邪魔なんだよてめえらぁああああああ」


再び浮かび上がり空を埋め尽くさんばかりに放たれる弾幕の隙間を縫って潜水艦へと近づく。

甲板に降り立ち出てきた兵士たちを次々とぶちのめす。

俺に向かって火を噴いてきた潜水艦にはお仕置きが必要だな。

甲板に大きくそびえる砲塔の装甲を突き破り右手を突っ込む。

そのまま右手を変形させ砲塔のシステムと同調する。


「照準は……と」


ゆっくりと回転を始めた砲塔の動きに合わせて俺の体が回る。

右目にフィルターをかけ、砲塔の照準視点に切り替える。

目標、八百メートル先の敵潜水艦。

浮かんできてちょうどこちらに砲撃を加えようとしている哀れな獲物だ。

二つほどの照準を重ねるとターゲットのロックオンが完了した。

前方にイージスを展開して爆風から身を守る。

突っ込んだ右手に発射の命令を送るとすぐに砲身は敵へ向かって弾を吐き出した。

俺が自分で撃ったのよりもはるかに速いスピードで八百メートル先の潜水艦へと弾が飛ぶ。

次の瞬間潜水艦のバルジを吹き飛ばして砲弾が爆発した。

赤い火柱が空へと吹き上がり雲を掻き回す。

俺がいま壊した潜水艦の隣ではセズクが兵士たち相手に無双をしていた。

剣を振り回しまるで豆腐のように兵士たちが切れてゆく。

血に染まった服、頬。

本当に楽しそうにセズクは笑っていた。

戦いが楽しい。

戦争が生きる場所。

戦争に生きる意味を見つけた彼の素顔。

シャロンだっけか。

セズクがべたぼれした相手が死んでからあいつはあんな感じなのだろうか。

敵を殺すときだけが生きてると、そう実感しているのだろうか。


「あいつはなんか闇が深すぎる気がする」


そう思わずにはいられなかった。






               This story continues.


ああ、セズクさん。

いったい何がしたいんだあなたは。

波音の気をいったい……。

謎ですね、彼。


ではではっ。

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