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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
力な季節☆
147/210

シエラのいいたかったこと。

「弱い。 

 それで最終兵器になったつもり?

 それで力を手に入れたつもり?」


痛みでうずく足を抑え俺はシエラを睨みつけた。

俺をこいつ殺す気で来てやがる。

最終兵器の自然治癒能力ですぐに傷の痛みは和らいだが植えつけられた恐怖は和らがない。


「はぁ……はぁ……」


痛みでうるんだ目頭を抑え、右腕をシエラに向ける。

すかさずレーザーに変わった俺の右腕が光をシエラの顔面目指して飛翔した。


「………」


目の前で俺の光は細かく切れ、ちぎれ、空へと消えてゆく。

この速度で反応できるなんて――!


「化け物め……っ」


シエラを見据えその言葉を吐き出す。

シエラは冷たい目で俺を見ていたがゆっくりと俺に向けて自分の左腕を向けた。

すぐにその左腕が組み変わり、鋼の色が顔を出す。

ギアとギアが噛みあい、ギチチチと火花を散らしながら次第に砲身に変わってゆく。

オレンジ色の光は光波共震砲。

超空要塞戦艦の主な武器。


「波音。

 あなたも化け物と同じ」


シエラの左腕がゆっくりと光を強くしてゆく。

赤と青の幾何学模様の光が増してゆき、それに伴いエネルギーが増えてゆくのが分かる。

死ぬ。

あわててイージスを張ろうとしたが恐怖で頭が痺れていた。

殺される。

最終兵器になったはずなのに。

俺は力を手に入れたはずなのに。

それなのに。


――死ぬ。


「うぁぁぁぁぁ!!」


思いっきりシエラの左腕を掴むと力を込めてねじった。


「――っぅ!?」


シエラの顔が痛みに歪んだかと思うと、砲身がぐにゃりと歪んだ。

すかさず放たれた光が空へと飛んでゆき、帝国郡の建物を貫通する。

溶けて赤く光りはじめたコンクリートが崩れ、降り注ぐ。

俺は焼けたシエラの左手を掴んだまま体をひねり、シエラを持ち上げると地面に叩きつけた。


「いっ……!」


イージスごとシエラの体がコンクリートに叩きつけられる。

俺はその勢いを借りてシエラから手を放すと思いっきり右足を振り下ろした。

すかさずシエラは左手で俺の蹴りをガードしてその腕をレーザーに変える。

俺の頬を掠めてレーザーは飛んでゆき、空へと消えてゆく。


「っくそが!」


次の瞬間にはシエラの左手はナイフになっていた。

それが空を切り俺の頬を掠める。

少しの痛みがあり、俺は大きく体をそった勢いを借りてシエラの腹を蹴り上げた。

だが当たる直前にすかさず立ち上がったシエラの右腕に足を捕まれる。


「終わりでいい?」


ぐいっと引っ張られると同時に俺の体が地面に倒れる。

バランスをうまいこと崩された。

あわてて起き上がろうとするも、シエラは力を緩めようとしない。

そのまま左腕のレーザーで俺の顔を狙ってきた。

くそっ。

くそっ、くそっ。


「なーにやってんのあんたら」


そのシエラの左腕をがっちりと掴み、メイナが俺の空へ開けた視界に入って来た。

短く切ったボブの髪がゆらりと揺れる。

赤紫の瞳が俺とシエラの顔を交互に見て、きれいな口からため息がこぼれた。


「ねーさん、ちょっとね」


ほぼ同じ顔を持っているシエラはばつの悪そうな顔をしてメイナを見る。

自分の俺に向けている左腕を普通の手に戻すと、シエラは俺の足を離し顔にかかった髪をかき上げた。

俺は体を起こすと、シエラを睨む。


「なんだってこんなことしたんだよ」


「……波音。

 いい?

 勘違いしないでほしい。

 あなたは力を持った。

 でもその力の使い方を誤ってる気がした。

 だから教えてあげたかった」


ぽたっと、服に赤い点がついて頬から血が流れていることにようやく気が付いた。

ナイフが掠めたときに切れたらしい。

すぐに最終兵器の力で治るから大丈夫だとは思うが。


「あんらさぁ。

 もう少し暴れるときはさぁ。

 せめて周りに気を使ってくんない?

 あっちこち壊してさぁ。

 ただでさえ連合郡の攻撃でぼろぼろだってのよ?」


メイナはもう一度ため息をつくと俺とシエラの顔を交互に見た。

俺もシエラもそこは悪いと思っている。

まさかこうなるとは自分でも思ってもみなかった。

でも、シエラは俺を殺す気で来たんだぜ?

俺だってシエラを殺す気でかからなけりゃ間違いなく死んでたって。

シエラ怖い。

恐怖神って名前を付けたのは俺だってのに今になってこの名前がピッタリだってことが分かった。


「ってかさぁ。

 連合の攻撃を受けている間にお主らふたりはどこに行ってたんだ?」


ふと湧いた疑問だ。

確かに気になるだろ?

一体、何をしていたんだろう。


「私たちはねぇ。

 えっと、仁の頼みでちょっと遠くまでお使いに行ってたの。

 なんかPCのレアパーツが欲しいとかで……。

 で、いなかった。

 まーさかねぇ」


メイナはぐるりと空を仰いで壊れきった帝国郡の基地を見て苦笑を浮かべた。


「こうなるなんて」


シエラは静かに付け足すと歩き始めて俺から離れていく。

どこに行くつもりなのだろうか。


「おい、シエラ、どこにいくんだ?」


「ちょっと気晴らし」


風を連れてシエラは飛ぶと流星になり、どこかへ消えて行った。

早いな、おい。

てか、謝れよ俺に。

なんで攻撃してきたのか理由を知りたい。

というか、それぐらいは説明してから行けよ!

誰もいない空を見てはぁ、とため息をついて俺はメイナの方を見た。


「ねー波音。

 何かあったの?」


「ん?

 ああ……」


そうか、まだメイナは何も知らないんだよな。

説明しないと。

おんなじ説明をするとなるとこれで三回目だ。

さすがに面倒だから簡潔にまとめようと思う。






「へー。

 じゃあ、波音が……」


「うん、俺が最終兵器だったみたい。

 どうも……まいったね」


俺は頭をかいて説明するためにやって来た食堂の椅子に座った。

食堂はこの時間なだけあってすいており、苦労することなく座れた。

百メートルぐらいあるんじゃないか、と思う食堂のキッチンにはすでにコックがいてジュージューと肉か何かを約音とともに匂いが漂っていた。

どこにも兵士の姿は見えず、逆に俺達が目立つんじゃないかと思ってしまう。

話に来たってのに逆に目立ってるじゃないか俺。


「あ、ケーキとってくる」


「はいはい……」


真剣な話をしようとしているってのにメイナさんはこれだ。

コーヒーセットを頼んだ彼女には無料で二つほどケーキを取ることが出来る。

なんかメイナは、だだこねて四つぐらいもらってくるけどな。

俺は食欲も何もわかない。

だから何も食べずにメイナが帰ってくるのをのんびりと待つ。

窓から差し込んでくる太陽光が斜めにガラスのコップに差し込んで煌めいた。


「ただいまー」


「ん」


案の定だ。

メイナはお皿一杯にケーキを詰め込んできていた。

四つどころじゃない。

十個ぐらいあるぞ。

どんだけ食べるねん。


「ん、おいっしーっ♪」


乙女か。

ああ、乙女だった。


「で、話に戻るけど一体私達がいない間に何があったの?」


「簡単に説明するとだな……」


五分ぐらいで簡単に教えてやった。

それ以上時間かけてもまだ俺自身が頭の中で分析できていない。

というか、何か末恐ろしい。

認めたくないっていうのも少しあるんだけどな。

怖いものは怖い。

俺はいったいどうなってしまったんだろう、とか。

これからどうすればいいのかすら分からないのだ。


「最終兵器になったはいいけど……。

 なぁ、メイナ。

 俺さあ、まだ力の使い方とか分からないっていうか――」


「おいっしーっ♪」


「聞けよ」


ダメだこれ。

話聞かないあいからわず。

人の話を聞かないことに定評のあるメイナさんだぜ。


「力の使い方とかね。

 波音。

 おそらくなんだけどね」


メイナはコーヒーをすすると俺に真剣な眼差しを向けてきた。

な、なんだよ。

珍しい表情だ。

メイナもこんな顔するなんて知らなかったわ。


「シエラはそれを波音に教えたかったんだと思う。

 波音はさぁ。

 私が見るに……何?

 こう、カッコつけたがるじゃない?」


「え?」


俺そんなにかっこつけたがるか?

え、嘘や。

自覚ないぞ。

胸に手を当てて考えてみるけども。

あー……待って。

少しだけ思い当たることあるわ。

確かに、うん。

ありますね。


「で、力を持ったでしょ?

 最終兵器っていう。

 世界をも滅ぼせる力を」


はぁ……そうですけども……。

それがどうしてシエラが俺に喧嘩を仕掛けてきた理由になるのかを知りたい。

俺は無言でメイナのケーキをひとつ奪うとフォークをぶっすりと突き刺した。


「あっ、それ私のなのに」


「一つください」


「うん、いいよ」


いいんだ。

案外すんなりいって驚いてしまった。

いいのか。

だだこねないのか。

大人になったのか、メイナ。


「あとでお金返してね」


大人にはなってなかった。

逆か。

お金とか言い出した時点で大人か。


「で、シエラがなんだって?」


「あーそれ。

 今言おうとしてたとこ」


メイナは口についたクリームを拭うと俺にフォークの先を突き付けてきた。

クリームが飛んで机に付着する。

なにやってんだこいつはもう。


「シエラはね。

 おそらく波音に力を持ったっならばそれ相応の覚悟をしろってことが言いたかったんだと思う」


ほう。

シエラがねぇ。


「口で直接言ってくれればいいものの」


俺はそっぽを向いて天井の蛍光灯を見上げた。

確かにシエラは俺の力をひたすら打ち砕いていた気がする。

俺がすることすべてに対抗するようにして攻撃をしていたと思う。

それも全部俺にその一言を言いたいがためか。


「シエラにはそれができないんよ。

 私、あいつのおねーちゃんじゃん?

 ほら……あいつ不器用でしょ?」


「――そうだな」


そこだけは納得できた。

あいつは確かに不器用だ。

最終兵器なのに。

いや――だからこそなのかもしれないな。






               This story continues.


ありがとうございました。

言えばいいのに。

シエラ、言えや。

口で直接言えや。


不器用ですなぁ……。

青春?なのかなw


ではでは、読んでいただきありがとうございました。

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