無力
海に飲み込まれていった爆撃機の編隊を眺めながら帝国郡の本部を見る。
だいぶ収まり始めた黒煙はもう空へと立ち昇らずに空中に消えてゆくだけだった。
少し頑張りつかれた俺は帝国郡本部まで戻る
地面に降り立った俺に話しかけてきたのはシエラだった。
初めは無表情で近づいてきていたものの、さらに俺に近づいてきたところで顔を強張らせた。
「は、波音……か?」
帰ってきた俺の姿を見て信じられない、といった目を向けてくる。
お主にそういわれるのが若干なんか、泣けてくる。
だって、俺は最終兵器で。
お前も最終兵器で。
どっちもどっちだと思わないか?
シエラになんか、人外みたいに言われるのは若干だが、寂しい気がした。
「そうだよ?
俺がほかの誰に見えるんだ」
他の何かに見えるならお前は病気だ。
手のレーザー砲を普通の手に戻してシエラに首をかしげて見せる。
「……T・D」
「そうだよ、シエラ。
俺がT・Dだ。
永久波音はT・Dだったのさ。
今考えてみれば、レルバルって名前も鬼灯のおっさんがうまく仕組んだと思うよ」
俺はこつこつと、シエラの周りを回った。
最終兵器、今俺はシエラと戦っても互角に戦えるんだなぁ。
経験が違いすぎるかもしれないけども。
やっぱり化け物になっちまったのか、俺は。
「レルバルはベルカ語で『永久』だろ?
なんで普通に今まで思いつかなかったんだろうな。
考えればすぐに分かったのに。
あー俺のバカ」
おそらくだが、シエラやメイナは分かっていた。
俺が最終兵器だってこと絶対に知っていたはずだ。
分からないわけがないだろう。
「ねぇ、波音。
ちょっといい?
本当に、波音がT・D?」
シエラが俺の顔を覗き込んできた。
なんだよ、知っていたはずだよなお前。
「そうだよ。
何度も言っているだろう?」
俺はシエラを突き放すように睨むとシンファクシの部屋に向かうことにした。
例の件について話をするためだ。
もう決めた。
自分が何をすればいいのかなんて。
仁の敵を取る。
おっさんの敵も、とってやる。
連合郡さえいなくなればいいんだ。
「ど、どこいく?」
あわてて俺の後ろをついてくるシエラには何も言わないでひたすら道を歩く。
途中で通り過ぎるほかの兵士たちの目も合わさない。
今の俺攻撃的だ。
「どこに行くんだって聞いてる」
俺の腕がむんず、と掴まれたかと思うとシエラの腕がレーザーに変化していた。
赤の光をはらみ、それが俺の頭に突き付けられている。
うるさいなぁ。
「シエラには関係ないだろ?
それに……」
俺はちら、とシエラのレーザー砲を見て言った。
「もうそれ、脅しにもならんぞ。
俺は最終兵器になったって言っただろ?
イージスがあるしお前の脅しはもう効かないんだよ」
俺はそういうとシエラから顔を背けまた歩きはじめた。
怖いものなんてなかった。
自分がその恐怖の対象になってしまったのだから。
自覚はない。
そんなに怖がられる対象なのか、どうかさえも。
だんだんと人気が無くなり、周りはコンクリートが敷き詰められただけの広場に出た。
あとはここを突っ切ればシンファクシの部屋までの近道になる。
「もう、効かないの?」
一瞬、何が?と聞きそうになって五分前の会話を思い出した。
俺にシエラの脅しが効くか、効かないかってことか。
答えは当然
「ああ。
もう効かない」
以外の何でもないだろう。
だってもう怖くないんだもの。
俺もお主と同じ力を持ったんだから。
「へぇ?
試してみる?
じゃあ」
「……はぁ?」
俺が後ろを振り向こうとした瞬間、頬に鈍い痛みを感じた。
と思うと体が吹き飛び地面に情けなく横たわる自分がいた。
なんだ、今の。
一体何をしたんだ、こいつ。
「それで最終兵器のつもり?
それで力を持ったつもり?」
な、何……?
シエラが俺の方に歩いてくると俺はすかさずイージスを展開した。
シエラもイージスを展開していたみたいで、シエラが一歩踏み出すだけで俺とシエラの間で白く発光し始める。
イージスとイージスがぶつかり合って光を放っているのだ。
「……っ!」
ゆっくりと、その境目が俺の方へと近づいてくる。
ゆっくり、ゆっくりと。
「力のつもり?
なぁ。
それで力のつもり?」
また一歩、シエラが足を踏み出しその分俺へと境目が移動した。
――押し負ける?
「くぅ……!!」
ありったけの力をこめてシエラのイージスを押し戻す。
両手に力を入れてぐいっと、押すような感覚だ。
相手はシエラだ、本気でやって死にはしないだろう。
「……終わり?」
「っな――!?」
光が一瞬強くなったかと思うと俺の体は再び宙を舞い、壁に叩きつけられていた。
今度は鋭い痛みで、しかもそれが脳天を直撃した。
ぱらぱらと崩れた壁のコンクリート破片を服から払い、シエラを睨みつける。
口をこすると血が出ていた。
「何すんだ、シエラ!」
すかさず右腕をレーザーに変え、シエラに向けた。
ターゲットをロックすると同時に光を放つ。
赤く鋭い光がシエラの顔を狙って飛翔したがすぐにシエラのイージスが展開さればらばらに光が砕ける。
「甘い」
気が付けばシエラの左手はレーザー砲に変わっており、それが俺の方を向いていた。
青い光が俺を飲み込もうとせんばかりに迫ってくる。
こ、殺される!
すかさず俺は上へと飛んで攻撃をかわした。
一気に高度は二千ほどまで達して、雲に触れるほどになる。
「はぁ……はぁ、な、なんだよっ……!」
そこで下を見ると広場にシエラが立って、俺に向かってレーザー砲を向けていた。
オレンジ色のあの光は超空要塞戦艦にも使われているとかいう……光波共震砲か。
まて、死ぬぞそれは。
俺の言葉など聞こえるわけもなくシエラは俺に向かってその力を放ってきた。
くそがっ、ふざけんなよ!
迫ってくる巨大なオレンジ色の光の壁は殺意しかもっていなかった。
少しぐらい手加減してくれてもいいだろうがっ。
「ちぃっ!
くそっ、あのバカ!」
イージスを展開して、衝撃に備える。
視界がオレンジ一色に包まれたかと思うとイージスを張っている右手が熱くなりはじめた。
ゆっくりとだが、確実に熱が増してゆく。
「ぐっ――!」
熱が我慢できなくなったところでようやく光波共震砲の光から抜けた。
秒数にして約一秒にも満たない時間。
「遅い」
自分の体調を心配している暇に後ろに回り込まれたらしい。
すかさず反射神経で右腕でシエラの蹴りをガードしたものの、また体ごと吹き飛ばされた。
一気に高い空から地上へ向かって落ちる。
翼を展開して空へ飛ぼうとしても、シエラの蹴りが強すぎたためか全然スピードが緩まない。
「くそっ……!!」
いくら俺でもこのスピードで地面にぶつかったら死ぬぞ。
迫ってくる地面を見据え、少しでも衝撃を和らげるためにイージスを前方に展開する。
地面に右手が接触すると同時にコンクリートが凹み、シエラの蹴りでダメージを受けていた右腕が変な方向に曲がったのが分かった。
痛みと共に、吐き気がこみ上げてくる。
次に体が地面に叩きつけられ肋骨がぐぎり、と音を立てた。
「痛っ……!」
耐えきれない痛みが胸から押し寄せてくる。
地面に横たわったまま痛みをこらえ、ちらばったコンクリートを握り締める。
なんだよ、この力の差は。
俺だって最終兵器になったんだぞ……!
「早く立ち上がれ」
耳元で声が聞こえたかと思うと、足にシエラが乗っかってきた。
俺の足を掴み何をするつもりなのか。
「だからこうされる」
ボキッ、と鈍い音が響いたかと思うと俺は悲鳴を上げた。
「ぐあああ!!」
脳を崩すような痛み、これには慣れなんてものはない。
痛いものは痛いんだよ。
仁と戦った時も相当ひどく怪我したけどシエラちょっとやりすぎじゃっ……。
くやしさと痛みで視界がぼんやりと滲んだ。
This story continues.
ありがとうございました。
シエラさん強いです。
彼女絶対強いです。
怖いです。
怒らせない方がいいと思います。
彼女本当に強くて怖いです。