表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
覚醒な季節
142/210

怪盗な季節

「元帥。

 話がある」


俺が司令室の扉を開けると全員が俺の顔を見て安堵の表情を浮かべたが次の瞬間驚愕に変わった。

そりゃそうだろう。

今まで普通の人間と思って接してきた人間の右手がレーザーなんかになってると。

誰でも驚くさ。

そして軽蔑するだろう。

俺だったらそうするもん。

かっこいい、とか、怖い、とかじゃない。

ただただ軽蔑する。

人間じゃなくなった者に対して真っ先にするものは基本それ以外の何物でもないだろう。

自分たちとは明らかに違う。

だから俺は今、ここで軽蔑のまなざしを向けられている。

シエラ達のように功績を上げているならまだしも俺は物を盗んできているだけ。

尊敬されるようなことも何もしていない。

ならば軽蔑を浮かべられるしかない。

人間をやめた俺に対して最もな仕打ちと言えた。


「れ、レルバル少佐それ……。

 な、なんなんだよ……?」


恐る恐る話しかけてきてくれた男の人を睨むようにして


「……元帥はどこです?」


と質問には答えず質問で返してしまった。

自分でも予想以上の声でびくっと肩を震わせた男の人は少したじろぐ。

謝ろうと思っても何か謝れなかった。


「えっと、だな。

 おそらく元帥室に……」


男の人は俺から遠ざかるようにしてそういうと机を超えてあちらへ消えてしまった。

お礼を言う機会を完璧に失ってしまった俺は静かにその場で


「了解。

 ありがとうございます」


と呟いた。

居場所が分かった俺はすぐに背を向けてここを出る。

司令室に用はない。

元帥室へ向かうだけだ。

歩きながら右手のレーザーを元の手に戻す。

自由にひっこめたり出したりが気が付けばできるようになっていた。

歩き出してしばらくすると方に乗った物体がもぞもぞと動き始める。


「に?」


ルファーだった。

いつの間に俺の肩に乗ったんだこいつ。


「よしよし。

 いい子、いい子」


人差し指でなでなでしてやる。

こいつに触っているときはなぜか安心できた。

駆り立てる不安も、何もかもが消えた。

今の俺は何も信用できなかった。


「あ、れ、レルバル少佐!

 お疲れ様です」


「……お疲れ様です」


一見何一つない会話に見えるが確実に兵士の口調には何か一物が混ざっている。

通り過ぎる兵士に悪意がないと分かっていても何か悪口を言っているんじゃないか。

化け物になってしまった俺のことを何か言っているんじゃないか。

不安だった。

いや、間違いなくこの基地全体で噂になっているだろう。

だって、右手レーザーのまま練り歩いたんだぜ。

ならない方がおかしい。

とりあえず元帥にあって、結果報告。

それからのことはこれから考える。

何か新しいことを考えたくなかった。

それにしても自分の気持ちの切り替えの早さよ。

親友が死んだというのに……ね。

兵器になったからなのか?

兵器になったから平気だと?

……つまりダジャレ?

おもしろっくねぇ。

壁に思いっきり頭をぶつけたい。


「ここだな」


俺は元帥室の前に立つとノックもせずに中へ飛び込んだ。

元帥は机に座っていたのだろうが、反射で立ち上がり俺に銃を突きつけながら


「誰だっ!?」


室内で、元帥が警戒の色を顔に浮かべて俺を睨みつけていた。

だが、俺とわかるとすぐにその警戒を解いて銃もおろす。


「レルバル少佐か。

 ノックはどうした?」


と聞いてきた。

冷静なその顔面が今の俺にとって怒りの炎を燃やさせたのは言うまでもない。

堪えつつ絞り出すように答える。


「……そんなのしている暇じゃないんですよ」


ぼそりと呟き、震える声を抑える。

悟られてはいけない。

怒りのメーターは吹っ切れる一歩前だ。


「……何かあったのか?」


心配そうな顔をして俺に聞いてくる。


「ぐっ――!」


ここまで知らないふりを出来るとは思わなかった。

ここまで俺のことを知らないつもりでいるとは思わなかった。

もうすべて俺には分かっているんだよ。

我慢できなかった。

知らないふりをされ続けるのも。

知らないふりをし続けるのも。


「俺は……俺はなんだっていうんですか、元帥!」


淹れたてであろう紅茶の乗った机を思いっきり叩く。

大量に積まれた茶菓子の山が崩れ床に散らばった。


「質問の意味がよく分からないな、レルバル少佐。

 いったい何があったんだ?

 私にはまったくわからないぞ」


「このっ……!」


ぬけぬけとよくそんな口が叩けるな。

ここでぶっ殺してやろうか。

俺は元帥を睨みつけた。


「……なんだ?」


俺に睨まれつつも元帥は動揺せずに俺の顔を見つめ続ける。

いいだろう、いいよ。

俺からお主の隠していること吐き出してやるよ。


「いいですよ、説明します。

 そして教えてほしいことがあるので教えてください」


俺は右手をレーザーに変えて元帥に突き付けてやった。


「――っ!」


息をのみ、驚愕の表情を浮かべた元帥はゆっくりと俺の右手を撫でる。

冷たい金属は元帥が触れた感覚すら伝えてこなかった。

ただ冷たく、皮膚を弾き返すだけ。


「にーっ」


ルファーが俺の肩から降りると積み上げられた紅茶用の角砂糖にかぶりついた。

それを見て少し和みつつ、元帥に説明を続ける。


「なるほど。

 目覚めたってわけだな、T・D」


元帥は俺にかわいそうな眼差しを向けてきた。

軽蔑じゃないだけましと言えたがどちらにせよ今の俺には必要のないもの。


「その名前で呼ぶのはやめてください。

 俺は永久波音であって、T・Dなんて名前じゃないです。

 やっぱり元帥は俺が最終兵器だってこと知ってたんですよね?」


一気に聞きたいことと自分の主張をまくし立てた。


「……うむ。

 鬼灯のやつがお前を掘り出して来たときからな。

 いつか来るとは思っていたがまさかこのタイミングで来るとは」


元帥は椅子に腰かけると紅茶に二つほど砂糖を投下した。

さらについていたスプーンで、中身をかき混ぜる。


「それで、レルバル少佐。

 状況報告を聞こうか。

 いったい何があったのか。

 お前に何が起こったのか。

 知りたい」


ようやく元帥は俺の話を聞く気になったようだ。


「……はい。

 語らせてもらいます」


俺は口を開いて淡々と語った。

仁のこと。

俺のこと。

ルファーが鍵だったこと。

全てを隠すことなく語りつくした。


「――以上です」


俺が語り終えてしばらくは沈黙ばかりが続いた。

紅茶の入ったカップを元帥は握り締めると全部飲み干す。


「……なるほど。

 やはり園田は敵だったか。

 私の読みが甘かったようだな」


元帥は空になった紅茶のカップにスプーンを入れてため息をついた。

疲れ切った顔にさらに疲労の色が浮かぶ。


「仁はいつから裏切っていたのでしょうか?」


それだけが気になっていた。

仁の遺言のPCにも答えはなかった。

いつからだ。

初めから、と本人は言っていたが。

嘘だと思いたかった。

否定してくれよ、元帥。

俺の親友だぞ。


「……そうだな。

 私が思うに初めから、としか言えない」


心を鷲掴みにされるような感覚だった。

やっぱりみんなそう思うって言うのかよ。

仁ははじめから裏切っていたと。

そうだって言うのかよ。


「そもそも、レルバル少佐。

 お前の頭に記録されている記憶は鬼灯が植えつけたものだ。

 その中に園田はいなかった。

 だが現実を見てみろ」


仁は俺の頭の中に確かに存在していた。

過去の記憶としても。

そして親友としても。

植えつけていないというのになぜ。


「仁はPCの取り扱いにたけていた。

 ここからは予想なんだが園田は、鬼灯のパソコンにクラッキングしてお前の頭に強制的に自分の記憶をねじ込んできたんだと思う。

 そうでなければ説明がつかない。

 仁ほどの腕だ。

 証拠も残さずにやり遂げただろう」


……やはり。

仁ははじめから俺を殺す気で来ていたのだろうか。

でも、途中で情が移ったりなんなり……。

俺よりはるかに人間だったってわけだ、あいつは。


「じゃあ元帥。

 聞きますけど、俺は今からどうすればいいと思いますか?」


これが一番聞きたいことだった。

俺はどうすればいい?

友人を失った。

人間であることも失った。

もう泥棒なんてことをやっているつもりはない。

出来るならこの力を使わないどこか遠くへと……。


「そうだな。

 レルバル少佐、敵を取りたくはないか?」


元帥は少しも考えるそぶりを見せずにそう言い放った。


「敵ですか?」


仁のか?

敵っていうと……どこになるんだろう。


「連合の命令で仁は動いていた。

 ならば敵は連合になるだろう。

 どうだ、レルバル少佐。 

 お前の力、帝国群のために使ってはくれないか?」


元帥はそういって深々と頭を下げた。

帝国群のために……か。


「少し考えさせてください」


俺は元帥の返事を保留に持っていくと敬礼した。


「では、下がらせていただきます」


「……いい返事を期待している」


俺は半ばやけになって元帥部屋から出るとドアを閉めた。

金属と金属がぶつかる高い音が響く。


「くそっ……」


元帥室の扉の横で俺は膝を抱えてため息をついた。

俺はどうすればいいんだ。

帝国群側について連合を叩き潰せばいいのか。

そもそも仁は連合に命令されたんだよな。

ということは俺の敵は連合、ということで間違いないんだよな。


「そうか……」


俺はゆっくりと立ち上がると自分の右腕を撫で上げた。

レーザーがきらりときらめき俺に返事を返してくれる。


「盗む対象が変わるだけか」


そうかそうだよな。


「物や、宝石から命へ。

 俺が盗むものが変わっただけだよな」


なら簡単だ。

やってやろうじゃねぇか。

怪盗するにはもってこいだな。

そう、怪盗な季節、といったところか。





               This story continues.


ありがとうございます。

ここでタイトル来ました。

怪盗な季節です。


初めからこうする予定ではありました。

ですがいざ書いてみると鬱になりますね。

でも、こういうダークをはじめから描くつもりでいました。


さて、どうなるのやら。

それでは、読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ