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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
覚醒な季節
136/210

笑えない冗談

悲鳴と怒号が頭の中を駆け廻っていた。

続いて起こる振動。

大きな爆発の音。

基地に設置された燃料タンクがすべてはじけ飛んだような……そんな大きな音。

瓦礫が崩れ、鋼鉄がひしゃげる。

灼熱の炎が辺りを喰らい、焼き尽くす。

戦争……できることなら体験したくないもの。

絶対に体験なんかしたくなかった。

でも俺はもういくつか体験してしまった。

どこでも人が死んでいった。

大事な人も、消えてしまう。

いつか鬼灯のおっさんが作ったあのゲームみたいだな。


「起きろレルバル少佐!」


大きな声と共に俺はたたき起こされた。

見たことのない女兵士が俺に声を荒げていた。

頬が切れて血が流れている。

血走った目が怖い。


「な、どうしたんですか?」


状況が理解できない俺の前で女兵士は銃を取り出した。

サブマシンガンだ。

しかも二丁ほど、腰のベルトにぶら下げている。


「今現在、この基地は攻撃を受けている!

 例の戦闘機が仲間を引き連れてきやがったんだ! 

 起きて、避難するんだ分かったな!」


女兵士は頬の血を拭うこともせずに扉から飛び出していった。

例の戦闘機っていうと……。

まさか、俺がエレベーターまで乗せたあれ?

ひんやりとした冷たい感覚が背中を伝い、ベッドから飛び起きた。

窓の外で火柱があがり、爆風でガラスが吹き飛んだ。

頭から毛布を被り、破片を避ける。

停止していた頭が回転を始めて、とにかく逃げることを最優先に考え始める。

手当たり次第の荷物を取ってドアから外に走り出た。


「んな……」


映画で見たような、大きな黒煙。

あちこちが崩壊し、煤が空を覆うようにまっている。

コンクリートや鉄の燃える匂い。

そしてあちこちに倒れている兵士たち。

今まで見てきた中でここ一番の地獄絵図が広がっていた。


「そんなっ……!」


誰にも聞かれていない独り言。

俺の真上を特徴的な形をした戦闘機が五機そろって飛んでいた。

間違いなく俺がラトランから仕入れた例の戦闘機だ。

――連合群の罠だったのか。

今更、その事実に気が付いて愕然とする。

思えば簡単に行き過ぎたところが多い。

何度も電子テロを受けているというのに対策をしない、なんてもっとも顕著な例だ。

敵地に侵入して本部を直接攻撃するにはいい方法だ。

的が自ら攻撃の範囲内に入ってくるんだもんな。

しかも帝国群の本部だもんな。


「操ってるやつがいるはずだよな」


しかも五機同時に。

セズク……か?

戦闘機からレーザーミサイルが飛んできて俺の目の前の建物に命中した。

爆発で飛んでくる巨大なコンクリート片に視界を奪われる。


「っ!」


恐怖を感じるよりも早くコンクリート片が二つに砕け俺を避けた。


「ハニーなにしてるの!

 早く逃げるんだよ!」


コンクリート片の間から金髪のさわやかイケメンが俺に怒鳴っている。

余裕がないといったそぶりのセズクさんだった。


「な、なにが……!」


状況を聞こうと話しかけようとしたがセズクはもうそこにいなかった。

はるか遠くに流星となり消えていく。

居てもたってもいれなくなった俺は荷物を捨てて帝国群の司令室に足を向けた。

途中何人もの兵士が俺を呼び止め、避難するように声を出しているようだったが聞こえなかった。

俺が走る横で砲身を空に向けた対空砲が弾を撃ち、ミサイルが戦闘機へと飛んでゆく。

それらすべてを綺麗に躱して戦闘機の反撃が叩き込まれた。

空高く上る爆発、飛び散る鉄の部品が命中を教える。

誘爆して、ばらばらに砕け散る対空砲。

弾倉が俺の横を通り過ぎて壁にめり込む。


「くそっ!

 何としてでも撃ち落とせ!」


年老いた軍曹が若い部下に向かって吠えていた。

爆発の隙間を拭うようにして地下への階段になんとかたどり着く。

今までさんざん迷ったくせにこういう時にたどり着ける自分に感謝する。

階段をいっきに降りると地下司令室の扉が現れた。

息を整えようともせずに扉をこじ開ける。


「誰だ!」


当然銃があちこちから突き付けられた。

手を挙げながら顔を全員に見せる。


「レルバル少佐か……」


ほっとしたように俺だと分かるとみんな銃をおろしてくれた。

息を整えている俺に


「レルバル少佐、なにをしている!

 早く非難を……!」


シンファクシが被害状況を把握するパネルの前で驚いた表情をして話しかけてきた。

髪は乱れ、額から血が流れている。

どこかでぶつけたのだろう。

真っ赤に染まっているパネルは被害の大きさを教えてくれていた。

一部緑色の部分があったのに違和感を感じたが別に今はどうでもいい。

そんな場合じゃないと分かっているのに俺は


「あの戦闘機を操っている電波がどこから出ているかわかりますか!?」


ほとんど掴みかかるような勢いでシンファクシに聞いていた。

嫌な予感がするとともに、何とも言えない胸騒ぎが止まらなかった。

得体のしれない恐怖がゆっくりと這い登ってきていた。

覚めた目つきでシンファクシは俺に教えてくれた。


「レルバル少佐、貴様はここに来るとき武装した兵士を見ただろう?

 それで分からないか?」


武装した兵士がいる……ってことは。

シンファクシの赤紫色の目を俺はじっと見た。


「この基地の中にいるってことですか……?」


静かにこくりと頷くシンファクシ。

ざわっとした嫌な予感が頭をよぎった。

戦闘機に人は乗っていないんだろ?

それに……。


「あっ、レルバル少佐!」


俺はいてもたっても入れずに司令室を飛び出した。

何処だ、何処にいる。

ミサイルとか機銃が来るのが分かっていたように避けたから見通しのいい場所であることは間違いない。

この基地で全体が見渡せるほど広い場所といえば。

頭の中で帝国群基地の地図を巡らせる。

管制塔……だろうか。

でもさっき被害パネルでは赤く染まっていた。

つまり被害甚大ということだ。

折れていてもおかしくないだろう。

となるとさっきの被害パネルでもグリーンだった――。


「火器管制塔!」


そう遠くないところだ。

比較的同じような形が並んだ帝国群基地の建物の中で管制塔を除いて唯一ぬきんでた場所。

細長い塔の形をしているから一発でわかる。

他のところが壊滅的被害を受けているのにここだけ無傷だというのも俺の分析に引っかかった。

低空を飛んでゆく五機の戦闘機にまたミサイルが向かう。

遠くで爆発の音がして空高く鳴り響く警報の音が消えた。

もう少しで当たる、というところでミサイルは弾かれたように爆発した。

どうやら機体の後ろにレーザー機銃がついているらしい。

ちらっとだけ迎撃の光が見えた気がした。

腰に拳銃がついているのを確認して火器管制塔の真下にたどり着く。

拳銃を手に取り、ゆっくりと初弾を装填した。

冷たい金属の音が響きいつでも撃てるということを教えてくれる。


「はぁ……はぁ……」


扉を背中で押し開けるような形で火器管制塔の中に転がり込んだ。

外と違って一気に静まり返るこの中。

有事の際には止まっているエレベーターを避けて階段で昇る。

軍靴の音がやたら響くコンクリートの閉ざされた空間。

今ここで爆撃とかされたら一瞬で俺の命は消えるに違いない。

ずずん、と地面が揺れたような気がした。

確か火器管制塔は全部で一五階だったはずだ。

でも人間が実質行けるのは十五階に設けられた火器管制システム室だけ。

ということは絶対にそこにいるってこと。


「…………」


自分の息遣いがうるさい。

予想が外れていてほしい。

じわじわとした嫌な予感が俺を蝕んでいた。

コンクートの冷たい感覚が余計に嫌な雰囲気を醸し出す。

切れかけの電球だけが明かりとなってくれている。

ゆっくり、いつ襲ってきてもいいように拳銃を視線と同化させて歩く。

そして十五階にたどり着く。

赤い電気が付いた扉にため息をついて


「…………いくか」


ドアを蹴り開けて銃を構えた。

だが、誰もいない。

予想が外れた……?

機械ランプの緑と赤の光が付いたり消えたりしている。

一周してあたりを確認する。

誰もいない。

ほっとして上を見ると同時に天井のハッチが開いていることに気が付いてしまった。

犯人は火器管制塔の屋上にいるってことか。

わざと閉めなかったのだろうか。

俺はここにいる、とでも言いたいのか。


「嘗めやがって……」


ふつふつとわいてきた怒りに任せてハッチに飛びつき、梯子を使わずに昇った。

真っ暗な世界から、急に太陽の照りつく世界に出たため一瞬視界を奪われる。

戦闘機が上を行きかう甲高いエンジン音と爆発の音が重なった。


「……遅かったな、波音」


視界にゆらりと浮かぶ人間がいた。

声からして予想は的中したってことだ。

今まで来た中で一番おもしろくない冗談だった。


「…………仁」






               This story continues.


ありがとうございました。

まさか仁が……。

ね。


雰囲気ここからがらっと変わります。

最終章の「怪盗な季節☆」どうぞ、楽しんでいってください。


読んでいただきありがとうございました。

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