暇を持て余す。
でも壊したよなぁ……。
俺には壊すなって言っておきながら。
なんというか自分勝手というかさ……。
や、破壊の度を知らなかった俺が悪いんだけども。
俺はコントローラーを握るセズクを横目にむっと膨れる。
頬を少し膨らませて考える。
「必要な部分を破壊して何が悪いのさっ」
俺の様子を見ていたセズクに頬をつままれる。
いや、まぁそうですけど。
ラトランのAIを壊すことないですよね、俺みたいに。
セズクさんが正しいです。
でも負けを認めるのは何気悔しい……。
「ふん……」
ぷいっとそっぽを向いた。
ガキか俺は。
「ん、じゃあそろそろアフリカに帰ってこようか」
仁がセズクの肩をぽんと叩き、くいと戦闘機を黄色い輪の部分へと誘導した。
ぐるぐるとスクリーン内がアクロバティックに動き、気持ち悪さが頭に入ってくる。
酔い止め飲んでたっけな、俺。
「ん、波音吐きそうになったらこれ」
仁がポケットからビニール袋を渡してきた。
基地の中にあるコンビニのものだ。
「すまん、ありがとう」
とりあえず受け取って口の前に構えるだけ構える。
酔い止め飲んどけばよかった情けない。
じゃなくて。
「……というか、別に俺いらなくないか。
どうなんですかそのあたり」
「んー?
そうだね。
いらないっちゃいらない。
消えていいよー」
ほいほい。
了解、了解。
消えるぞー。
俺は二人に手を振ってドアまで歩いた。
そしてノブにてをかける。
「ってこら☆」
そこまでやって虚しくなって二人に同時に突っ込みを入れた。
止めろよ、仁。
親友が出ていくって言ってるだろ。
「ちょっと、ごめん。
今真剣だから」
俺の突っ込みをセズクは右腕でガードして
「いたっ」
俺の額にデコピンをかましてきた。
思わず額を抑えた俺の隣で仁がお菓子をほおばり始める。
俺に渡したコンビニの袋の中身だろう。
俺にもくれ。
味はノリ塩か。
「とりあえず、俺はもう用済みだよな?」
仁のお菓子を少し奪いつつ、聞いてみる。
ん、やっぱりおいしい。
「うん」
即答だった。
ひどい。
心から傷つく一言だった。
そこは嘘でもいいから「少しぐらい使う」って言ってほしかった。
それだけで救われた。
「あとはパイロット経験豊富なセズクがやってくれると思うから。
うん、波音おつかれさま」
おつかれさまでした……。
力弱く俺はドアを開き外に出ることにした。
用済みと言われたからにはもうここにいても意味がないだろう。
なら散歩にでも行った方がましだ。
戦闘に自信があるわけではない。
本物の人間相手に戦ったことなんてゲームのオンライン対戦ぐらいしかない。
初心者はどこまで行っても初心者か。
「おつかれさまでした……」
静かに二人におつかれさまとだけ言って俺は部屋から出た。
集中力を散らさないようにゆっくりとドアを閉め息を吐く。
ぴちち、と静かに鳥が窓際にとまって毛づくろいをしていた。
「にー」
変な鳴き声の鳥がいたもんだ。
しかも足元から。
いや、鳥じゃない、わかってた。
疲れてるんだな。
ふと自覚する。
「ルファーか」
「に」
に、じゃない。
ルファーはよじよじと俺の肩に昇ってきてそこであくびを一つ。
「お主だけだよ、俺を必要としてくれているのは」
ほっぺたを舐めてくるペット、愛護動物をなでなでする。
本当にかわいいなぁ、こいつは。
大きさも案外お手軽だし。
売ってくれって言われても売れないわ。
「そんなことないですよ。
私も波音君のこと必要としていますから」
心臓をわっしと掴まれたような冷たい透き通った声が後ろから聞こえてきた。
ルファーをもにもにしながらついた独り言が聞こえてしまったらしい。
おそらくだけどアリルさんだろう。
いや間違いなくアリルさんだ。
「ん……。
ありがとう……」
少ししょげる俺の様子を不思議に思ったのだろうか。
俺の前まで歩いてくると急に俺の手をアリルさんは握ると微笑んできた。
まさに天使の微笑みともいえるもの。
じんわりとあったかい。
「なにかあったんですか?
私でよかったら聞きますよ?」
その一言で俺は救われた気がした。
でもなんかよくわからないプライドが邪魔をして話そうとしても話せない。
孤独な男はかっこいい、みたいなプライドだ。
言葉に出そうと思っても掠れて声にならない。
「ん、いや……あのな。
何でもないんだ気にしないで」
無駄な心配をかけたくないっていうのもある。
何より俺心が弱すぎると今気が付いた。
鬼灯のおっさんが死んでしまった時よりへこんでないか、俺。
ごめんよおっさん。
「……大丈夫ですか?」
そういうとアリルは真正面から俺にギュッと抱き着いてきた。
「っ!?」
こんなに積極的でしたっけこの娘―っ。
駄目だ頭がぐるぐるする。
くらっとする。
「あ、アリルさんっ!?」
ちょっとあなた待って。
思わず固まってしまった俺がいる。
いきなりは駄目だよ、びっくりするというか。
ほら、俺……その。
ああ、頭回らん。
「――大丈夫。
ありがとう」
ここはおとなしく抱きしめ返すべきだろう。
そう判断した俺は手に持ったルファーをぽいっと投げ捨ててアリルをぎゅっと抱きしめた。
「にー!?」
「は、波音君……!?」
まさか俺が抱き着き返してくるとは思っていなかったのだろう。
アリルの赤い顔がさらに赤くなった。
抱き着いて思ったことを今列挙しようと思う。
まず女の子って思った以上に細いし小さい。
なにこれ守ってあげたくなる。
「…………」
「…………」
見つめあうと逆に素直におしゃべりできないわけで。
開いた窓から流れてくる波の音がとあるアーティストの曲を連想させる。
「あ、あの……。
なんていうか、本当にありがとうな」
となるともう一回ありがとうを繰り返すしかないんですよね。
ヘタレですから、おいらは。
「そ、そんなっ。
私こそ……ありがとうございます……」
ここでキスとかできたら最高にかっこいいよな。
よくアメリカとかの映画とかで男優が女優に華麗にキスするわけだが。
でももう一回いうぞ。
俺はへたれなんだな。
だからぎゅっと抱きしめる先から進まないんだよ。
「んーごほんごほん」
で、横からゴルァと出てきた禿げのおっさんにこうやって邪魔されるわけです。
あわててアリルを離しておっさんに謝る。
「ご、ごめんなさい」
「んーごほんごほん」
ったくもう。
なんだよ。
「にー」
去っていくおっさんの後ろ姿に舌打ちと俺はアリルに「ごめん」と小さく謝った。
ヘタレな俺はこうしてキスなんかのチャンスを毎度のこと逃すのだ。
「わ、私こそこんな場所で。
ごめんなさいです」
二人してうつむいて微妙な空気に変化する。
鳥が鳴き、日光が斜めから差し込んでいた。
ずっと遠くまで伸びる廊下が綺麗に窓の景色を反射している。
「あらぁ、波音ちゃんじゃないのぉ。
おっひさしぶりぃ~」
さらに微妙な空気にするようなお方きた。
声の口調からしてマダムです。
「マダム、こんにちは」
さっそくさわやかな笑顔で対応する。
ええ、私はあなたの娘さんを抱きしめてなんていませんよ。
きわめて美しい関係です。
「マダムだなんて、呼び方やめてよぉん。
別にいいけどっ、若く見られないじゃない?」
そうなんですか?
でもまぁ何だかんだでマダムじゃないですか。
ほんと、いくつなんですかあなた。
アリルと並んでも少し年上のお姉さんにしか見えないですよ。
「お、お母様どうかしたのですか?」
俺とマダムの会話に置いてけぼりを食らいそうになったアリルがすがる。
「んー?
いや、暇だから散歩でもしょうかなぁって思っただけよん」
マダムは指を唇に当てて首をかしげた。
アリルさんの母上なだけあって色気たっぷりなんですが。
若い娘にはない、こうお姉さま的なものがですね。
年上の趣味はないんですよこう見えて。
「波音君」
「いたたたたごめんごめん」
じっとマダムを見ていたら足を思いっきり踏まれた。
アリルさんが少し膨れている。
ごめんよう。
「あ、アリル。
あんたに用があったのよ。
ちょっとついて来てくれない?」
「へ?
わ、わかりました。
じゃあ、波音君――また」
アリルはマダムに手を掴まれて角を曲がって消えた。
風のように去って行った二人の後に
「お、おう」
と、返事をして暇をもてあそぶ。
自分の部屋にでももどろうかな……。
やることないし。
完全に今自分がいる場所を失った俺は自分の部屋に戻ることにした。
どうせ今俺を使おうという輩はいないはず。
もう完璧に馴れたおかげで部屋まで一直線に帰ってくることができた。
自分の部屋に戻ってきたわけだが。
ゲームぐらいしかすることがない。
暇を持て余すって本当に暇なんだなぁ。
どうしよう。
何もすることがない、何も。
「寝ようかな」
こういう時は寝るのに限る。
独り言をつぶやいて寝るのだよ。
目が覚めたらこのもやもやした気持ちも消えてるはずだな。
寝よう、そうしよう。
「おやすみなさい」
誰もいない部屋にまた一人呟いて俺はベットに潜り込んだ。
あー、少しお腹減ったかなぁ……。
まぁ別にいいか。
それにしても眠い。
疲れてんのかなぁ。
あ、ルファー忘れてた。
すまん、起きたら迎えに行く……。
This story continues.
読んでいただきありがとうございました。
次、物語は大きく動きます。
すごく……変わります。
ここからが最後の章の始まりです。
すこし……変わりすぎてびっくりするかもしれません。
よろしければついて来てください。