必要な破壊
「いやっほー!
やるな、波音!」
「よっし、少佐、ナイスだ!
エレベーター二番を始動しろ!」
ぴったりのタイミングで止まった戦闘機の視界。
コックピットからは下へと滑ってゆく壁しか見えない。
あー、緊張した。
ほんと、失敗したらどうしようかと思っちまった。
コンクリート色の壁は唐突に終わりを告げ、まぶしく輝く太陽とふわふわの雲を抱えた青い空が広がる。
「エンジン全開!
離陸させるんだ」
あわてたように仁が俺に命令してくる。
落ち着けって。
俺がしくじるわけないだろうが。
ふふふっ、案外簡単にゲットできそうだぜ。
口が意識せずににやっと笑うのを止めることができなかった。
滑走路のわきに設けられた倉庫のようなものががばっと開くと三台の装甲車が飛び出てくる。
無人型だ。
「前方から三台の装甲車接近!」
「もう見えてる!」
っち、無理かもしれん。
とりあえずエンジン出力を最大に上げて、機体のスピードを確保しないと。
あっちだってこんな最新兵器を撃つなんてことできないだろ?
ならこのまま突っ切って……!
押し切れるか?
そう思った矢先、びしっと、画面にガラスが銃痕を刻んだ。
……もしかして撃たれた?
「被弾、被弾!」
声が頭の中をわんわんと響きわたり、よくわからなくなった思考回路が迷走を始める。
「波音、蹴散らしてしまえ!
もう一機のっとるなんてこと不可能だぞ!」
「お、おう!」
分かったよ。
カーソルを動かして機械に目標の三台を認識させる。
緑色のカーソルが赤く変わり、ロックオンの文字が出たとき俺は○ボタンを押した。
三本の太いレーザーが装甲車三台へと向かってゆき、次の瞬間に炎柱へと変わる。
中央から強い力にねじ切らればらばらになった三台はその場で燃え始めた。
爆発の衝撃でもコンクリートは剥がれずにそのまま残ってくれていたようだ。
燃える無人装甲車の間を潜り抜け、少しずつスピードを上げてゆく。
「前方に障害なし。
電磁カタパルトに機体を固定」
さてさて、空を見せてもらうか。
このあたりの空はどんなもんかね。
戦艦とか浮いてないことを願うね俺は。
メガデデスらへんが出てきたらもう詰んだと思う。
ふりじゃない出てくんな。
こっちくんな、超兵器級。
「よし、カタパルトをのっとったぞ。
今すぐ離陸だ!」
機体をカタパルト台の上に乗せてエンジンの出力を全開にした。
「射出!」
本来なら人がいないとか確認せにゃならんと思うんだけどそんな余裕ない。
後ろに人が立ってたら確実に灰になったと思うけど……。
いないということを祈るぜ。
機体の速度が一気に三百ほどまで上がり、景色が飛ぶように動いた。
すかさず、操縦桿と直結している左ステックを下に引く。
機首が上を向き、景色もななめを向いた。
高度計は五十を超えなおゆっくりと増え続けている。
実感はないが離陸は成功したらしい。
離陸は本来すごく難しい。
仁チームがプログラムを組んでくれたから風の影響なんかを心配しなくていいだけで。
だから俺が簡単に飛ばしたからってみんなもまねしちゃだめだぞ。
「で、どっちの方角に持っていけばいいんだ?
俺、わからんぞ」
飛ばした機体を持て余すのも嫌だしな。
「ん、いまディスプレイに表示するから。
その黄色いわっかを潜り抜け続ければ大丈夫」
ぱっと視界に丸い輪が表示され、空に目印が出来た。
これをたどっていけばいいのか。
これなら俺でもできるってわけだ。
よしよし、行くか。
「着陸とかはどうする?
俺がやるか?」
着陸には実は自信がある。
普通の戦闘機ゲームで鍛えたからな。
それに俺はほとんどの乗り物を操縦できるんだぜ?
鬼灯のおっさんに叩き込まれたからな。
ううっ、おっさん。
「ん、着陸はプロのパイロットの人がいるからそっちに任せる。
もちろん戦闘もね。
波音は離陸だけーって感じ」
「ひどすぎるだろ」
切り捨て方式反対です。
「だから、基地まで飛ばすのは波音がやるんだよ?」
まぁ確実に俺よりもプロの人の方が操縦はうまいからな。
それに俺だとゲーム感覚になっちゃいそうで怖い。
人が乗っていたら――と考えるとぞっとする。
ここまで来て人がうんぬんとか言ってる場合じゃない気もするけどな。
「大気風が少し強いな。
プログラム修正しとこ」
カメラの視線を後ろに向けてみた。
ラトランが一望できるはずだ。
奇妙な丸い建物の周りを放射状に長方形の建物が何重にも覆っている。
さっき使ったカタパルト付の滑走路が三本。
それと意味の分からないアンテナみたいなものも少々。
まるでレーザーが出そうな形をしているわけだが。
でも周りは砂漠で何一つ建物が見つからないんだ。
確実に怪しい。
「変な形してるよな。
ラトランって」
仁が目の前の大きなスクリーンを見て俺に話しかけてきた。
今気が付いたが、俺のPC画面とスクリーンは同化しているようだ。
ということは何気ない俺のお茶目も見えてしまうということか。
それは困る。
リズムにのってガン撃ってみたりしようと思ったのに。
「ほんと、変な形だよなぁ。
それにほんとに変な形してるし。
あれが連合群の兵器開発場所って考えるとなんか禍々しいよな」
二回もいわんくていいぞ。
強調したいんだろ。
そうだな……。
俺達の街を焼き払った巨大爆撃機とかもこういったところで作り出されたんだろうし。
急に憎らしくなってきた。
俺のプラモデルと家を潰した罪は重い。
「仁、ラトランを崩すにはどこを攻撃すればいい?」
「は?
いや、待て。
そうだな、丸い建物が分かる……よな。
丸い建物全部がラトランの頭脳になってんだ。
あれ全部がAIなんだよ」
なるほど、つまり?
「うん、それで?」
思わず聞き返してしまった。
「だから、そこ壊しちゃえよBOY」
ばちこんと、ウインクして俺に人差し指を突き付けてきた。
急にアメリカンになったな、おい。
「残弾とかは気にしなくていいのか?」
「大丈夫だよ。
ベルカの技術はすごいね。
無限小型機関とでもいうのかな。
なんやよくわからないけどうん。
弾の概念がないみたい。
だから残弾とか気にしないで撃ちまくれるはずだよ」
あ、そうだったな。
鉄を飛ばすという発想がないんだっけか、ベルカ。
「そうと決まったらさっそく行動開始。
ぶっ潰してやるー!」
ひゃっはー!
って気分にはならんわな。
戦争は戦争だし。
それで苦しむ人もいる。
ラトランを作った人には悪いけど――。
壊させてもらう。
ステックをひねりこみ、機首をラトランへと向けた。
ミサイルの発射体勢に入る。
「っと、だめだよ、波音♪」
攻撃体勢にはいった俺を後ろからやさしく抱きしめてきた奴がいる。
改めて誰かってことを言う必要もないと思うが一応言っておく。
セズクだ。
「お、来たかパイロット」
仁がセズクの肩をばしばしと叩く。
パイロットってこいつかよ、よりによって!
ああんもー。
「え、なんでセズクなん?」
この人材抜擢能力いかがなものか。
何か黒く大きなものが背後で動いているんじゃないかと錯覚するレベル。
「僕じゃダメなのかい、波音?」
きらっとパイロットバッジを光らせるホモ野郎。
駄目なんて言ってないけどさぁ……。
若干複雑な気分じゃ。
俺がこいつよりも劣っていると今実感させられたわけで。
劣ってるけども!
勝てないけどもっ!
「いや、そういうわけじゃないけどさぁ……。
なんか不満が、こう。
ふつふつとさ」
「ふふっ、嫉妬かい?」
うるさい。
嫉妬するわ。
だってイケメンで強いじゃんか。
ホモなところは見習いたくないけども。
無視してラトランの破壊に入る。
「ん、だめだよ。
あの場所は帝国群のものになるんだから。
今攻撃して壊しちゃ奪えなくなっちゃうでしょ、ハニー?」
セズクは俺の手の上に自分の手をかさね、コントローラーを奪う。
思った以上にすごいテクニックで抵抗できずにおとなしく奪われてしまった。
攻撃に入った戦闘機を操縦し、上空へと大きく進路を曲げた。
黄色いわっかをかっこよく潜り抜け、アフリカへと戦闘機を飛ばす。
「ね?
力を使うのは思った以上に簡単だけど、直すのは難しいんだよ?」
やさしい瞳に見つめられて俺は少し恥ずかしくなった。
そりゃ、わかってるけどさ……。
うんにゃ。
「ごめんなさい」
謝るしかない。
というか仁は?
仁は怒られないの?
俺だけ!?
ちょ、理不尽笑えない。
「いいんだよ、別に。
でも一応――」
セズクはまた戦闘機の機首をラトランへ向けた。
「ついてこれなくしておかないとね♪」
「へ?」
純粋な笑みを浮かべてセズクはミサイルを三発発射した。
ぞくぞくと地下からわいて来ていた戦闘機たちの目の前にミサイルは着弾して広がる。
爆炎が戦闘機たちを吹き飛ばし、おもちゃのように転がす。
電磁カタパルトが根元から吹き飛び、滑走路に穴が開く。
「壊してるやん」
「……ふふっ。
必要な破壊さ」
This story continues.
ありがとうございました。
セズクさん!
セズクさーんっ!!
どうしてあなたはそう破壊するのだっw
言ってることとやってること違うじゃないかっ!
という突っ込みがいただけると嬉しいです。
では読んでいただきありがとうございました。