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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
ラトランな季節☆
133/210

見せてやるよ

「っと、やるしかないな」


俺は仁からもらったゲームをインストールしてスタートボタンを押した。

軽快な音楽も気が付けばつけられており、どれだけ暇なのかと突っ込みたくなる。

別に音楽いらなかったような……。

なんでつけたし。

しかもなかなかの良曲。


「楽勝♪」


誰もいないというからこその独り言ってものがあるわけで。

鼻歌混じりでゲームの戦闘機を操る。

世界広しといえどもこんな風に鼻歌を歌いながら戦闘機を操る高校生はいないだろう。

俺だけじゃないか?

世界記録になってもいいと思う。

いや、いるか、うん、いるわ。

ごめんなさい、何でもないです発言取り消してください。

途中までの道のりは完璧にマスターした。

そしてステージ最大の難関、エレベーターが迫ってくる

エンジンの出力を絞り、スピードを下げるとともにブレーキを展開する。

戦闘機は見事、エレベーターの上で静止して地上へと出されていった。

もうね、楽勝すぎるだろ。

二回目に見るクリアムービーを飛ばして自分の名前を入れた。

ハイスコア、か。

どうだい、諸君。

簡単にもほどがあると思わないかね。

もっと難しいのもってこんかい、おらおら。

何百回も辛酸をなめさせられたエレベーターをあっさりクリア。

たった五メートル大きくなるだけでここまで違うとは。


「作戦は明日――か。

 早く寝よう」


誰もいない部屋に独り言だけがむなしく響いた。

シエラやアリルがいたであろう、ベンチ。

行ってみたとしても、もうみんな自分の部屋に戻っていったあとだろう。


「寝よう。

 そうだ、そうするんだ、俺」


またまたむなしく響く独り言を耳に残し、ベッドへ入った。

そして、風呂に入っていないことを思い出す。

必ず入らないと気が済まない。


「もー」


舌打ちして、ベッドから起き上がり全身をくまなくシャワーで洗う。

きれいさっぱり。

これでこそ、永久波音である。

健全、潔白、きれいな波音の出来上がり。


「おやすみ」


仁がいない退屈な部屋にあいさつをして、明日の作戦に備えるため早く寝ることにした。






目を開けるともう朝が来ていた。

携帯の時計を見ると午前六時だ。

昨日寝たのが午後九時ごろだから約九時間。

健康によすぎる生活である。

早寝早起き、これこそ健康の秘訣っていうし。


「んー……」


伸びをして、布団から起きた。

用意してある軍服を羽織り、外に出る。

まだ若干の暗さを残す空に赤い太陽が海から顔を出していた。

朝と夜の狭間。

何気この時間帯が俺は好きだ。

朝早く起きてしまったからやることがない。

散歩でもしようかなぁ。

思いついたら即行動。

――でもおっさんくさくないか?

起きて散歩とかおっさん以外の何者でもないんじゃないか?

ええい、やかましい。

おっさんで何が悪い。

誰もが通る道だ。

しかも妙にテンションが高いから始末におえない。


「おっと、小石ちゃん。

 そんなところで俺を転ばせることができると思うなよ」


道に落ちている小石にすら話しかけるあほさ。

舗装されていない、基地周辺の道は土、土だらけで歩きにくい。

だが、田舎、という感じが好きで俺は散歩するとき必ずこの道を通るようにしていた。

自分で選んだルートだから文句を言うつもりはない。

小石、返事してくれないかな。

話し相手がいないとさびしくて死んでしまう。


「おら、おい」


「…………」


何やってんだか。

自分で自分のばかにため息が出るわ。

食堂は確か二十四時間無休でやっていたはずだ。

話し相手ぐらいはいるだろう。

足は土の道から逸れて、自然と食堂の方へ向かった。






「ちっす」


「おう」


食堂に入ってまずは挨拶。

すごく馴れ馴れしいが、実は初対面である。

屈強な筋肉を誇る、食堂の主に声をかけたのだった。

確か彼の名前はショーン。


「ご希望は?」


「ん、シェフの気まぐれ朝ごはんで」


「うい。

 了解した」


残念なのは、この人、常に声が裏声だということだ。

わざとじゃないだろうけど、ぶっちゃけ笑いそうになる。

ギャップが激しいってレベルじゃないんだもの、だって。

唇の端に笑いをひっつけて、裏声シェフの行動を眺める。

卵をゆでて、トーストを焼いている。

おいしそうだな、早くできないかな。

話し相手を探して食堂を見まわしてみても誰もいない。

流石に朝早すぎたようだ。

ここが本格的ににぎわうのは午前七時から二時間。


「できたら呼ぶからあっちいってな。

 気がちってしかたねぇ」


「はいな」


やはり裏声。

もう、狙ってやっているとしか思えない。

裏声で注意されたよ、俺。

人生初経験。

おもしろすぎるだろこの人。

ネタ豊富。


「はい、お待ち」


席に座って五分ほどで料理は来た。

二枚のトースターにハムエッグ。

ケチャップも少々ついて来ている。

いたって普通の朝食だが、シェフ的にはこれが気まぐれなんだろう。


「あ、ありがとございます」


俺は箸を手に取り、ハムエッグをほおばった。

うまい、普通においしい。


「どうだ、うまいだろう?

 ふふふ、最高だろう?」


「はっ、すごくおいしいであります」


シェフはにたにたと俺が食べるのを幸せそうに眺めている。

料理人至高の瞬間らしい。


「朝ごはんは一日のはじめをスタートするいっちばん初めの軍事物質だ。

 これを怠けちゃ一日頑張ることもできねぇ。

 大変かもしれないが、レルバル少佐。

 がんばるんだぞ」


ぶっ。

名前覚えられてるし。


「はっ、ありがとうございます……!」


すぐにごはんは食べおわり、食後のコーヒーをサービスしてもらった。


「がんばってな。

 俺達はお前に運命を握られているようなもんだ。

 頼むぞ」


……さあ作戦開始と行こうか。

裏声シェフの応援を背に、仁のあの部屋へと向かった。

もう三回も行っているのだから迷うことなどない。


「おう、波音。

 来たか」


仁がPCを前ににたりと笑う。

クマが激しい。

寝てないのか、お主。

ふらふらながらも仁の準備は万全といった構えだ。

よろしい、ならば戦争だ。

始めよう。






「ラトランへの電子接続開始。

 クラッキングポイント二を制圧」


「敵抵抗皆無。

 完全に油断している模様」


「よーし、その調子でがしがしすすめろ。

 この時のために通知が遅れるプログラミングを組んだんだからな。

 五分だけでいい。

 波音が戦闘機を出す時間を稼ぐんだ」


なんだこれかっこいい。

本当にオタクの集まりかこれが。

まるで映画での決戦のような感じじゃないか。


「敵戦闘機へ接続。

 抵抗AIを破壊」


「波音、ラトランの戦闘コントロールAIへの侵入に成功した。

 そろそろ操縦の体制に入ってくれ」


任せろ。

俺は椅子の上に飛び乗ってPC画面を見つつ、コントローラーを握った。

ここまでの練習すべて見せてやるぜ。

PCの画面はジャミングされたように砂嵐が覆っていたが、すぐにクリアな映像に切り替わった。

コンクリートと無限に続いていく戦闘機群。

ゲームと違うのはグラフィックだけといったとこか。


「感度良好。

 エンジン、エルロンなどの調子を確認せよ」


コントローラーのスティックを動かしてきちんと上下するかどうか確かめる。

無人機にはカメラが付いている。

左スティックで視点を変更して右スティックで操縦。

左スティックを傾けて後方を確認した。

右スティックの動きと合わせて羽がぱたぱたと動いている。

視界も良好。

出撃しようと、エンジンのスロットルを微妙に開けた。

ゆっくりと動き始めた俺の戦闘機の前に三人ほどの男が見える。

こちらに両手を突き出しているのを見る限りどうやら止めようとしているらしい。

邪魔だなぁ。

これ、音声は拾えなかったんだっけか。

声が拾えればなんて言っているのかわかるのに。


「波音、ガンを使うんだ」


ガンは確か×ボタンだったはず。

考えるよりも前に×ボタンに親指が伸びて押していた。

戦闘機についている機銃が唸りを上げ光の線を吐き出すのが見える。


「え、レーザー……?」


問題はその弾が光だってこと。

なるほどね。

光の線を受け止めた壁がへこみ、粉塵が舞い上がる。

連合群最新鋭の戦闘機はベルカの技術を使ったもの。

こういうことか。

男たちはあわてて戦闘機の前から散り散りに逃げて行った。


「さあ、始まるぜ。

 ショータイムだ」


今まで練習を積み上げてきたんだ。

こんなところで失敗するわけがない。

じりじりとエンジンの出力を絞りながら戦闘機群の間をすり抜ける。

八つのタイヤをきしらせて目の前にぬっと装甲車が出現した。

上についている砲台の銃口は俺をとらえている。


「前方に装甲車一台。

 吹き飛ばしてしまえ!」


意気揚々と仁が攻撃の命令を俺に下した。

だが待ってほしい。


「えっ、だけど人が……!」


「無人車両だ。

 かまわんからやっちまえ!」


なるほど言われてみればあれは無人型の装甲車だ。

実物を見るのは初めてだ。

もっとじっくり見たかったが敵とわかった以上そういうわけにもいかない。

無人なら手加減しないぜ。

ガンを連射して装甲車を蜂の巣に変えてやる。

車体に何本ものレーザーが突き刺さってゆき、内部機械が露出し始める。

やがて煙が発生して装甲車はその機能を停止した。


「吹き飛ばすときはミサイル使えよ。

 ……まぁレーザーミサイルって言っていいものかもしれないけどな」


ほう。

そんなものがあるのか。

言われたら試すしかないでしょうに。

俺は○ボタンを押してみることにした。

ガンよりも太い、鋭い光が壊れた装甲車へと飛んでゆき命中と同時に爆発する。

砲台が宙へ飛び、炎が天井を舐めた。

スプリンクラーが水を吐き出し始め、雨が立ち込めたように変わる地下倉庫。

視界をレーダー表示に切り替え、確保した。


「エレベーター接近。

 波音、見せてくれよ」


任せろ。

にやりと笑う仁の顔に答えてやらなきゃ男じゃねぇな。

見事なまでに美しい停止を見せてやるよ。

速度計を見ながらゆっくりと、確実にブレーキを絞る。

早すぎてもアウト、遅すぎてもアウト。

綺麗に乗せなければ話にならないのだ。


「…………いまだ!」


エンジンを俺は逆噴射させた。





               This story continues.


ありがとうございました。

いやはや、波音がんばれ。

お前の腕はたいしたもんだぞ!

がんばれ、負けるな。


読んでいただき感謝です。

あと少しだけ続きますが、どうかよろしくお願いします。

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