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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
ラトランな季節☆
132/210

逃げる

「はぁ。

 仁が俺をねぇ……」


シエラに教えられた言葉をもう一度考えてみる。

仁に呼ばれる意味あるのか、俺。

なんかしたかな。

心当たりは皆無だ。


「うん。

 呼んでた。

 早く行った方がいいかも」


シエラは妙に「早く」の部分を強調した。

それだけ俺を急がせたいということか。

何だ、なんかあるのか。

こういう態度を取られると逆に行きたくなくなる。

人間の悲しい性である。

だって、取るなって言われたら取りたくなるし、触るな言われたら触りたくなるだろ?


「波音君。

 行った方がいいんじゃないですか?」


アリルが俺の目を覗き込んでくる。

やっぱり行った方がいいのかな……。

面倒だ。


「ん?

 んー……そうだなぁ」


でも正直動きたくない。

もっとここで雨の音を聞いていたい。

それが本音だった。

いいだろ、少しぐらい感傷に浸っても。

俺だって人間なんだ。

少しぐらいゆっくりと考えたい時もある。

ましてやこんな状況ならなおさらだ。

自分が向かうべき先が見えないんだもの。

このまま帝国群で俺は秘密工作をする兵士に成り果てるのかなぁ。

今より地位が下がるとは思えないけどもさ。

また日本へと戻って高校生して。

って出来ないのかな。

夏のあの日差しが懐かしい。

日本に帰りたくなってくる。

あの家に帰りたい。

もう燃えてしまっているだろうけども。

帰りたい。

俺らしくない、ホームシックか?


「はぁ……」


「またため息。

 幸せが逃げるぞ」


シエラに怒られた。

幸せが逃げるって言われても幸せってなんだよって話だよ。

ちょっと深いこと言うぞ、今から。

覚悟してくれ。

幸せを求めてる人ってのは自分がすでに持っていることを自覚していないパターンが多いらしい。

なんかの本とか映画を読んだり見たりする分には。

でもそんな自覚できない幸せなんかいらないって俺は思う。

自覚できてこその幸せじゃねぇの?

違うの?


「そうですよ。

 幸せが逃げちゃいますよ」


「幸せねぇ」


でもみんながこういうからにはきっと逃げるんだろうなぁ、幸せが。

目に見えないものが気付けば抜けて行ってるんだろう。

すごく複雑な気分だよ。

目に見えないのに逃げるものなんて何があるんだ?

目に見えてたら止めることもできるだろうに。

見えないからこそ逃がすまいとするのかなぁ。

俺には難しすぎるぜ。


「とりあえず。

 もう一回いうぞ」


口を開いたシエラに手を差し出していうのをやめさせる。

もう何回も聞いた。


「あー、いい。

 わかった、わかったよ。

 行く、行くからもう言わんでいい」


せっかく深いことを言っていたというのに。

けだるさに頭をふらつかせながらもよっこらせとベンチから立ち上がってシエラのイージスから出た。

まるでラーメン屋ののれんをかき分けるようにやんわりと払いのけた。

とたんにやわらかかった雨音が大きくなり、顔を大粒の雨が濡らす。


「じゃ、ちょっと行ってくる」


二人に別れを告げて走って建物の下に入った。

服がぬれると張り付くだろ。

あれが嫌なんだよ。


「どこだろ」


仁が呼んでる……か。

準備ができたってことは要するにあれだよな。

うん、戦闘機飛ばすんだよな、俺。


「まじかー」


まだほとんど練習もできてないっていうのに。

はぁ……。

失敗して壊しちまったらシンファクシぶちぎれるだろうなぁ。

かといって今更できませんでした、なんて言えるわけないし。

ため息が止まらんぜよぜよ。


「はぁ……」


降り続ける雨がさらに鬱に拍車をかけてくる。

幸せもどこどこ逃げていく。

あの出来で挑んだら間違いなく失敗するなぁ。

案外行けるかもしれないけども。

俺の隠されざる力がだな。

ここにおいて開かない限り。

ほぼ百パーセント失敗するな。


「お、波音来たな」


こうやってバカなこと言ってるとすぐに目的地についてしまう。

目的地がわからずさまよっていたのに足は自然と例の部屋にたどり着いていた。

その部屋の扉の前で仁が俺の前に立ってにっこりしている。

非常にいい笑顔だけども曇らせてしまうかもしれないぜ、俺は。


「来た来た。

 何の用だ?

 もうちょいでできるなら別に俺を呼ばなくてもいいじゃないか?」


若干ふてくされ顔で俺は仁に話しかけた。


「ん?

 一応、一応。

 ほら、どれぐらい進んだのかも見たいし」


げっ。

こう来るか。

こう来るのか、親友よ。

心配事は案の定的中するものだ。


「見たいって言われてもなぁ……」


俺は頭をぽりぽりと掻いて、てへへと笑ってごまかそうとした。


「ん?

 波音ならもうできるんじゃない?

 あれから何回かラトランに侵入して修正を加えたから。

 はい、やってみて」


仁がぼんと、俺の前にPCを置いた。

わざわざ持ってきたのかよ。

ソフト(最新版)まで入っていてコントローラーまでついていやがる。

くそう、こうなるんなら来なきゃよかった。

ベンチにはシエラとアリル残してあるんだぜ。

しかも雨降ってるし。

ハーレム的な意味でおいしい状況だってのに。

空気を読んでほしいぜ、まったく。


「はい、やって。

 これでうまいこと行ったらさっそく取り掛かるから。

 本番に」


愚痴ってても仕方ない。

でも本番に取り掛かるとかね。

マジですか。

何としてでも失敗しなけりゃいけないな。

……と思ったんだが。

五分後、俺は見事にステージをクリアしてしまっていた。

今まで俺を阻んできていたエレベーターの大きさに変更が加えられていたのが原因と思われる。

若干だけど大きくなっている。

それがまた良変更だったというわけだ。


「いけるじゃん、波音。

 よし、本番に入ろうか」


「待て。

 頼むから少し待って」


俺ははりきる仁を抑えた。

心の準備もまだだっての。

それに練習させろもう少し。

まぐれかもしれない……というか絶対まぐれだろ今の。


「なんでさ。

 行けるって」


「いけません、アホか。

 あと一日くれ。

 練習させろ、あと少しでいいから」


俺は仁に懇願した。

そしてこのままだと失敗する確率の方が高いことを教え諭した。

一日だけでいいから待ってほしい。

晩御飯食べたい。

カレーがいい。


「わかった、わかったよ。

 じゃあ明日ね。

 明日になったら作戦実行するから」


やれやれと首を縦にふった仁。

ありがたい限りである。

若干呆れ顔なのは俺のしつこさに押されたからだろう。


「じゃあそういうことで。

 今夜は俺はめっちゃ練習つむ」


部屋に帰ろうとする俺の肩をつかんだ。

コントローラーを奪ったのがばれたのだろうか。

そうか、つまり君はそんな奴だったんだなみたいな。

エーミール覚悟をしていた俺に仁がCDを渡してきた。


「なにこれ」


俺は奪い去ったコントローラーとPCで楽しく過ごしたいんだが。

コントローラーだけでなくPCまで奪おうとする俺。

いいだろ?

だって怪盗だぜ?


「最新作。

 これで練習して」


はぁ、なるほど。


「んいんい。

 わかったよ、親友。

 絶対ものにする」


任せろ。

これならいけるわ。

エレベーターがでかくなったのは本当にありがたい。


「明日は絶対に成功させるわ。

 がんばるよ、俺」


「おう、がんばれ」


仁は俺に親指を立ててにっこり笑った。

いい笑顔だ。

どこかのCMにでも起用されることを祈ろう。






              This story continues.


ありがとうございました。

次、いよいよ戦闘シーンに入る……のかな?

どうでしょう(おい


とにかく、読んでいただきありがとうございました。

感謝感激雨霰です。

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