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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
ラトランな季節☆
130/210

昔話

「じゃあ何から話せばいいのかなぁ。

 ずっと話そう、話そうとは思ってたんだけど…………。

 ごめんね?」


「いや、いいんだよ。

 全然。

 気になってはいたんだ。

 『伝説』のこと」


なるよな、だって。

結構前から話になっていた気がするもん。

メイナはふーっと息を吐いた。

赤紫の瞳に映る俺の姿はいびつにいがんでいる。

雨のおかげで大しけとなっている海の音が遠く近く鳴り響く。

波が何度も押し寄せては引いて押し寄せては引いてゆく。

砂と砂がこすれて奏でるさらさらという音は雨の音に消され聞こえなかった。


「まず何から話せばいいんだろうねぇ。

 いざ話すってなると思いつかないものね。

 んー、どうしよっか」


知らんがな。

メイナはしばし沈黙して顎に手を当てた。

ショートヘアーの黒稀銀髪を撫でながら


「じゃあ帝国の滅亡から話そうかな。

 なんで私達がいたのに帝国が滅亡してしまったのか。

 それについて話したいとおもうんだけど……」


足をぶらぶらさせる。

言われてみれば確かにそうだなぁ。

最終兵器が三機いるのになんで帝国は滅びたんだろう。

思ったことはなかったし、口にしたこともなかった。

言われてみれば、確かにそうだわ。


「おう。

 それ知りたいわ。

 ぜひ教えてくれよ」


メイナはベンチに付着した水を吹き飛ばした。

っ、つめた。

俺の顔面に飛んできやがった。

イージスの力で水滴を飛ばして乾燥したベンチ。

メイナはそこに腰かけると雨の降り続ける空に目を向ける。


「そうだねぇ。

 あれは私達が経験した中でも一番最悪で一番くっきり覚えてる。

 ぴったり第零期四千年十一月十四日だったねぇ。

 ベルカ世界連邦帝国が建国されてちょうど二千周年だったわ。

 私達は最終兵器だから住んでいた武器庫の中でのんびりと式典を見てたの。

 なんでかって?

空中なんかは戦艦や戦闘機が守ってたからねぇ。

私達は必要ないと思われて『強イージス壁牢』の中に閉じ込められてた。

レジスタンスが攻撃してくるかもしれないからね。

 多少なりの軍備は必要でしょ?

 でも――私達みたいに世界を滅ぼせるような力はいらないよねぇ?」


閉じ込められてた?

少し話を戻してくれ。

すっごいさみしいことを聞いた気がする。


「ちょ、すまん。

 なんで閉じ込められてたんだ?

 最終兵器って言ったら帝国の切り札だろ?」


考えてまとめた素朴な疑問をぶつけた。

メイナは降り注ぐ雨を目で追いひとつ息を吐いた。

悲しみがかすかに混じっていた気がする。


「私達は帝国を裏切っても大丈夫なように絶対に破れない場所に閉じ込められるのが常だったの。

 今言った、『強イージス牢屋』もその一つ。

 出れなかったら暴れることも出来なかったから。

 上空には常に超空要塞戦艦をはじめとする超極兵器級が一隻浮いてたしね。

 私達も超極兵器級だけは相手に回したくないもの。

 それに私達は帝国を裏切ることなんて少しも考えてなかったわ」


水たまりがだんだんとその面積を広げてきた。

冠のように雨粒が落ちたところが盛り上がる。

雨の音はしない。


「でも、きっと誰も信用してくれなかったんだろうねぇ。

 この力の怖さは自分がよく知ってるわ。

 使い道を誤ればすべてを壊してしまうことも」


俺はメイナの手先を眺めて記憶をたどってみる。

銃になったり壁吹き飛ばしたり。

ああ、確かにいろんなことしてますね。

すごく役に立っています。


「で、話を戻すけどね。

 十一月十四日の日のこと。

 帝国は大きく二つの地域に分かれてたの。

 政府として機能する二十の郡とそれを取り巻く田舎、いわば地方の百六十ほどの郡」


「連合郡と帝国郡……ってことか?」


メイナはこくんと頷くとまた口を開いた。

出来れば話の先を遮ってほしくないらしい。

露骨に嫌な顔されたから。

少し黙ってるからその顔やめろ。

軽くショックだぞ。


「天帝天后両陛下が演説をしているときに事件は起こったわ。

 突如として帝都の半分が消し飛んだの。

 今の時代でいう核のような立ち位置の兵器によって」


「な、なんだって!?」


「うるさい」


「ごめん」


声を上げずにいられなかった。

帝都の半分って――!

かなり深刻な事態じゃないか。

半分ってことは要するに。

えっと、東京の半分が消し飛ぶような感じでいいんだよな?

半端ないな、おい。


「当然私達にも出撃の命令が下される……はずだった。

 でも出なかった。

 完全に指揮系統は崩されていた。

加えて軍部は連合郡にどっぷりだったの。

 そして連合郡はベルカ世界連邦帝国からの独立を宣言した……」


それが始まりというわけか。

ここまで続くすべての。


「独立とか言っておきながらベルカをそのまま削り取ろうとした感じだけどね。

 そのままごっそりと。

 政治機構なんかも変えないままに」


メイナはそう付け足して目を細めた。

憎しみも何もない虚無が残る。

あまりにもひどい、仕打ち。

国をそのまま乗っ取られるなんてひどい話だ。


「でも帝国郡もやられてばかりじゃなかったの。

 万が一の事態を考えていた天帝陛下は対抗策を講じていた。

 それがベルカの兵器すべてを封じることのできるもの。

 つまり動力源である『超光化学』の強制停止。

 波音達の教科書を見るに人類は一度滅びかけ、何とか生き延びてる。

 技術を失ったすべての民はまた一から文明を作り直さざるをえなかった。

 帝国が滅びたのはこういうこと。

 こうなったら帝国郡も連合郡もありはしないわ。

 あるのは弱肉強食の掟だけ。

 弱い人は死に、強い人は生きた。

 ただそれだけのこと」


今までの文明すべてを支えてきたものが消えたら混乱が世界中を支配しただろう。

普通の生活が送れなくなったベルカの臣民はすぐに数を減らしていったに違いない。

帝国はこうしてほろんで行ったわけだ。


「でも、ハイライトが海に沈まなかったのは予想外だったみたい。

 本来ならあれは海の底に消えるはずだった。

 きっと支配人がいたずらしたんだと思う。

 人間は二度とベルカの力を手にすることはできなかったはず。

 でも……結果的に天帝陛下の対抗策は不完全で終わってしまった。

 ロルワール家の予想は外れてしまったの」


メイナはにこりと俺に笑いかけた。

ロルワール家。

聞いたことは当然ない。

歴史をとっている俺でも聞いたことがないのだからここ二千年の家系ではないだろう。

世界史にも出てこない消えた家系。

話から想像するにロルワール家がベルカの王家なのだろう。

ん、待てよ?

一回だけ聞いたことがあるかもしれない。

メイナと初めて会ったときのことだ。

あの時シエラもロルワール家と言ってなかったか?


「二度と人類は戦争を起こさない――いや起こせないはずだったの。

 頼るべき文明もない。

 一度便利さを知ってしまっているから戻りたいのに戻れない。

 本当は消えてゆく算段だった人類はロルワール家の予想をはるかに超えて生き延びた。

ゆっくり、ゆっくりとだけど文明は成長していったみたい。

戦争をするところは全然変わってないけどね」


電子レンジの便利さは異常だと思わないか。

あれほど便利な機会を俺は知らない。

チンするだけで料理が出来上がるなんてすばらしい魔法ではないか。

あの便利さを知ってしまった今、どうにかして電子レンジを作ろうとしてしまう。

こういうことか。


「で、何年かして俺達の時代になったと。

 そういうわけだな?」


「うん。

 そういうこと。

 私達は帝国の崩壊を止めれなかった。

 ……シエラはこれを認めたくなかったみたいだけどね。

 私も含めて」


あー。

俺はシエラと初めて出会った時を思い出していた。

確かにあいつは頑固だからな。

帝国がほろんだと認めたくなかったせいか泣いてたし。


「わかってたんだけどねぇ……。

 改めて言われると涙が止まらなかった。

 波音達が来て、シエラと喧嘩して……。

 楽しい毎日が今まで。

 ずっと、続いていくと思ってたんだ。

 でも戦いは私を逃がさないみたい。

 まさか波音が帝国群に来るなんてねぇ」


イージスの壁を打つ雨が少し激しくなってきたようだ。

響いていた修理の音もしなくなった。

のほほんと雨宿りでもしているのだろう。


「ごめん」


「謝らなくていいよ。

 私達の運命はこれ以外にないんだからさ。

 謝らないで?」


俺の手を取ってメイナは首をかしげた。

案外ぷにぷにしたやさしい手である。

これが兵器の手なのか、って思うぐらいに。

なんか、あったかいし。


「うん……。

 ごめんよ」


俺はメイナの手を放して空を見た。

いつも同じ顔をしているかと思いきやそんなことないんだなぁ。


「あ、波音君。

 こんなところでどうしたんですか?」


後ろから声をかけられ振り向く。

アリルだ。


「んー?

 いや、ちょっと話をな。

 どうしたんだ、こんな雨の日に」


メイナと少し距離を開けておく。

浮気に間違われたらたまったもんじゃないからな。


「さっき部屋で本を読んでいたら波音君が歩いていくのが見えたから。

 私、邪魔ですか?」


じろりと俺とメイナを交互に見つめるアリルさん。


「そんなことないよ。

 隣来い。

 一緒に話聞こうぜ」


俺は乾いたベンチの横をたたいてアリルを誘った。

アリルは俺の心をえぐるような目で見ながら


「わかりました」


と言ってベンチに腰を下ろした。


「続き、話せるか?」


「ん、任せて。

 次は伝説のことについて話そうと思うから」






             This story continues.


お待たせいたしました。

うpいたします。


昔話です。

柄にもなく。

セズクさん波に喋ってます。

メイナさん。


次はいよいよ『伝説』についてです。

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