シュミレーション
さあシンファクシに報告だ。
俺はいそいそと準備すると元帥の部屋へと向かった。
「元帥、ちょっといいですか?」
「おお、レルバル少佐。
どうした?」
今部屋から出て行こうとするシンファクシを呼び止める。
赤紫色の瞳は眠そうにとろんとしていた。
仮眠室へ行く予定だったのだろう。
両腕に書類の山を抱えて、高い身長が埋もれそうである。
「はぁ、ラテランの件ですが。
是非させていただきたいと思います」
「!?」
シンファクシは俺の心の変わりように驚いたのだろう。
抱えていた書類の何枚かがぱらぱらと床に落ちた。
「あ、俺が拾います」
俺はしゃがんでそれらを拾い集め、一番上に乗せなおす。
というかそこまで驚かなくていいじゃないですか。
「は、早いな。
そうか、ならよろしく頼む」
「はい!」
元気のいい返事を我ながらしたものだと思う。
シンファクシは書類の山を片手に持ち帰るとごそごそと中を探り、俺に一枚の紙を渡した。
『必要な物メモ』とベルカ語で書いてある。
「ここに必要な物を書き込め。
そうしたら出来る限り用意するようにする」
ぱちんと、ウインクされた。
元帥がこんなことをするなんてはじめて知ったから逆に少し驚く。
「わかりました」
「レルバル少佐、貴様には本当に迷惑をかける。
頼んだぞ。
あ、ついでにその紙にどういう手順で奪い取ってくるのかを書いて欲しい。
知りたいのだ」
手順…………ですか。
「了解しました。
任せてください。
えっと、元帥はどちらへ?」
「私は少し眠る。
仮眠室にいる」
あふ、とひとつ大きなあくびをかましてくれた。
「了解しました。
では」
簡単に別れを告げて、紙を持って自室に戻った。
必要なもの……か。
何がいるんだろう。
今回の作戦の要は仁だからなぁ。
あいつに聞かんことには話が進まない。
がちゃりとドアを開けて、PCとにらめっこを続けている仁の隣に座る。
「どう?」
椅子を持ってきてその上に冷蔵庫から取り出したジュースを置いた。
「今、ちょっと入ってみたんだけど」
もうかよ。
仕事がいい意味で早いんだから、お前は。
それで警備が強くなったらうんぬんうんぬん。
「それで?」
仁は俺の持ってきたジュースをちびりと飲むと
「目当てのものは戦闘機だったよな?」
深刻そうな表情で確認をしてきた。
どうかしたのだろうか。
戦闘機がそんなに嫌だったのか?
「ああ。
それがどうかしたのか?」
あ、少し心配になってきた。
美意識にそぐわないとか言い出したら叩く。
「…………どれだ?」
そういって仁はPCの画面前を明け渡した。
ひょいと画面を覗き込む。
「……………………冗談だろ?」
防犯カメラの映像だろう。
体育館ほどの大きさの部屋に大量の戦闘機が並んでいた。
真っ黒なものもあれば塗装すらされていないものもある。
どれもこれも似たような形をしており、人目ではぱっと分からない。
ただ、俺は美しいと思った。
「詰み?」
「ああ。
おそらく」
詰み、つまりチェックメイト。
成す術なしということだ。
するほうならまだしもされるほうだから泣けてくる。
何か少しヒントが欲しい。
見分ける方法はペンキの有無ぐらいだ。
塗装されていないのはできたばかりだからととるべきか、破棄されたからととるべきか。
「仁、ちょっとこの部屋だけ全体を録画しておこう。
シンファクシに渡して分析にまわしてもらわにゃ。
これはよっぽどの戦闘機オタクでもない限り分からんわ」
あいにく俺は戦闘機のことは分からない。
知っているとしても可変式の翼がどーとかアフターバーナーがああとかぐらいだ。
専門家に任せるのが一番いい。
「ん、そうしよう。
録画は一五分ほどでいいよな?」
「おん。
ええよ」
俺の返事と仁がエンターキーを押す音が被った。
画面右上に●RECの赤い文字が表示される。
ラテランに忍び込んでここまで好きなことできるのか。
仁のスキルは変なところで高いからなぁ。
メガネかけてるし。
「あ、それとこれ。
シンファクシが欲しいもの書けとよ。
あと過程も」
俺は仁に白紙の紙と机の上の鉛筆とを一緒に渡した。
すっかり頭から抜けていたぜ、ふう。
しばらく紙と向き合っていた仁は思いついたように鉛筆を滑らせ始めた。
内容が気になる俺は
PCの前から移動して、紙をちらっと盗み見た。
『金』
「どっせーい!」
仁の頭に垂直にチョップをかました。
その一文字とコインの絵が真っ白な紙の真ん中に存在していた。
「ぎゃぼ!
な、何するんだ波音!?」
あんぽんたんかお前はっ!
欲しいものって言われて『金』って書くやつがどこにいるんだよ。
「作戦に必要なものオンリーに決まってるだろゴルァ。
何『金』とか書いてるんだよ!
そういう意味じゃねーだろおばかさんか、お主はっ!」
「それならそうといってくれないと分からんわいっ!
欲しいものって書いてあるから正直に書いただけなのになんでチョップ食らわなきゃいけないんだ!」
「『欲しいもの』じゃなくて『必要なもの』だろこの場合は!
もう一回はじめからベルカ語勉強しなおせっ!」
ったくもう。
仁は消しゴムでごしごしと紙を擦り消していた。
ビリッ。
「あ」
「……………」
俺は黙って仁を睨んだ。
新しいのもらってこなきゃならないだろうが。
別に新しいのじゃなくてもセロハンテープ使えばいいかもしれないけどさ。
そんなこんなで五分が経過した。
「書けたよ」
「ん」
紙を受け取りざっと読んでみる。
『AIに潜入し、戦闘機をハッキング。
そのまま……』
つまり戦闘機の脳みそをこちらが肩代わりしてあげるってことだ。
で必要な物の中に気になるものが一つ入っている。
「なぁ、仁」
「ん?」
「この、『プレイングステーションのコントローラー』って何だよ。
これが必要品?」
仁はにやっと笑って俺にPCの前に座るように指示した。
指示されたらするしかない。
したがって座る。
「今から波音にはゲームをやってもらう。
あ、シュミレーションだから大丈夫、何度落ちてもいいからね」
仁がエンターを押すと軽い電子音が鳴り響き、荒いグラフィックが展開された。
タイトルは『かっ飛ばせ』。
ぱっと見るに格闘ゲームにしか見えないが、スタートボタンを押すと同時にコックピットが表示された。
数々の計器やレーダーなんかを見るに戦闘機だろう。
「え、これって……」
「ん、今即効で作った。
波音はこれを今すぐ飛ばせるようにして。
そのためにコントローラーが必要だから」
ああ、なるほどね……。
This story continues.
ありがとうございました。
戦闘機をコントローラーで飛ばすとかそれなんて男のロマン。
ということでやってみました。
仁の力はすごいですねぇ……。
チートですねぇ、いい意味で。
波音が一番下なんじゃないかと最近おもいはじめました。
がんばれ、主人公b