電磁ぺったん機
そんなわけで早速資料室に忍び込んでみました。
どうも、おちゃめな男、永久波音です。
思いついたらすぐに行動しないと忘れるからな。
三歩あるけばすぐに忘れる。
単純明快なアホですゆえ。
資料室は図書室の奥に存在してる。
扉は分厚い鉄で出来ていて、カードキーがないと入れない。
カードキーを手に入れたいところなのだがシンファクシしかもっていないと来た。
頼んで貸してもらうという手もあるのだが……。
あの人のことだ、貸してくれないだろう。
少佐と言う地位をもって入れないところがあるのか。
あたって砕けてみるとしよう。
ぶち当たるぜ、ひとまず。
格好はこのままで資料室に入ってみるとしよう。
命までとられるわけないよな……?
なら突入するしかないだろう?
さあ行こう。
「あ、レルバル少佐。
駄目ですよ、入っては」
笑顔でるんるんと入っていこうとする俺のを兵士が止めた。
思いもよらぬ静止が入った。
さっき言い忘れていたがカードキーともう一つセキュリティがある。
見張り二人だ。
「は、何で!?」
出鼻をいきなりくじかれたわけで。
そうなるとよく分からない怒りがふつふつと沸いてくる。
「元帥しかここは入ってはいけないのです」
痩せた方の兵士が銃をカチンと鳴らして俺の目を見てきた。
「おい、嘘言うなよ。
あとラフファクシさんもだろうが」
太った方が痩せた方の肩を軽くこつぐ。
ラフファクシといったらシンファクシの妹さんか。
めっちゃそっくりの。
「あ、そっか。
どっちにしろ、レルバル少佐。
あなたは駄目です」
兵士さんは俺を足から頭までじろっと見て手を振った。
あっちいけって、ことか。
踵を返して大人しく帰る。
大人しくここは引き下がるとしよう。
だが忘れるな。
俺は諦めたわけではないということをな!
びしっと突きつけてやった。
あい しゃる りたーん。
丑三つ時。
みんながぐっすり眠るその日の夜中。
俺はこっそりと資料室に忍び込む為の準備を始めた。
悪い子ですね。
小さい子ならお母さんにお尻を叩かれるだろう。
バックから電磁石ぺったん機を取り出してスイッチを入れてみる。
バッテリーから放出された電流がコイルに流れ強烈な磁石となる。
それを両手の裾に隠して再び図書室にやってきた。
夜遅いというのに本が好きな軍人さんはどこにでもいるものなのだろうか。
結構な人数が座って本を読んでいた。
戦艦がどーだとか、そういうのばかり。
帝王学だかなんだかよく分からないのを読んでいる人もいる。
勉強の熱意があるっていうのはいいことだ。
「っと、流石に警備は解かないよな……」
資料室の前の兵士は暇そうに立っていた。
なんでこんなことせにゃならんのか、といった表情をしている。
俺は裏道から回ることにした。
今いる建物から出て壁からよじ登ることにした。
こういうことになると思ったからこそ電磁石ぺったん機を持ってきたのです。
準備のいい男、永久波音。
にしても、何が悲しくて帝国郡の基地でこそこそせにゃならんのか。
嘆きつつここから先どうするかを考える。
建物は鉄で出来ていたはずだ。
両手にぶら下げた電磁石ぺたぺた機を使って真下から忍び込むとしよう。
外に出る途中何人もの人に手を振られた。
名前も知らない人にも。
本当にやさしいというか、人がいい人なんだなぁ。
海に目を向けると暗闇の中まだ作業の火花を散らす超兵器二隻。
水面にその姿がぼんやり映る。
「よいしょ……」
腰ほどの高さの柵を乗り越え建物の真下に立った。
ここから見るに資料室の窓には鉄格子がはめられている。
何者も侵入できないように、ということか。
帝国郡の中だからそれほど警戒しなくてもいいと思うのに。
やはり何かあるのだろう。
におう。
ぷんぷんにおう。
機密書類か、秘密兵器の設計図か。
見られては困るもの……ってなに。
気になる、むしろ。
絶対に見てやる。
「よっこらせぇ」
すっかりおじさんですな。
たまらないです。
壁にぺったん機を押し付けてぐっと踏ん張る。
「スイッチをぽちっといれて……よし」
後は腕力を使って一気に駆け上る。
音をたてたらばれるから……のんびり行く。
培った技術力のお陰でばれることなく例の部屋の窓までたどり着いた。
鉄格子を外すためドライバーを取り出す。
ばれなきゃいいのさ、要するに。
ちらっと見て、また戻しておけば……。
真っ暗な資料室の中を覗き込む。
ドライバーをそっと取り出して鉄格子のネジ部分に当てた。
きゅるきゅると少しずつまわしてゆく。
「っ」
一本目がとれた。
続いて二本目に取り掛かる。
プラスのネジ頭でよかった。
マイナスは持ってきていないもので。
電動ドライバーを持ってこようと思ったら電池がなかったという不覚の事体。
二本目を取りさり、三本目に入ろうとしたときだった。
急に中で電気がつき、暗闇になれた目を刺した。
「ラフ、どんな感じだ?」
中に入ってきたのはシンファクシとラフファクシ。
軍服を着ているほうがシンファクシだろう。
白衣のほうがラフファクシだと思う。
確証は出来ないが。
「いい感じ。
ESSPX細胞の結合さえうまく行ってくれればいいんだけど。
鬼灯のアイディア素敵だったもんね」
あわてて窓枠ぎりぎりまで避難する。
見つかったら尋問されてしまうだろう。
すばらしい。
Mじゃないぞ。
「ああ。
『記憶版』だろ?
動物にして動かすってのはいいアイディアだったな。
実際にうまく行った。
本人が気づくなんてことはないだろう」
シンファクシはそういって机の上に腰掛けた。
飲みかけのコーヒーが置いてある。
あとチョコレート。
「鬼灯……。
いいやつだったんだけどね」
ラフファクシが天井の裸電球を見てぼそっと呟いた。
二人があっちを向いたことを確認してこっそり部屋の間取りを探る。
山のように美しく整理整頓された資料がだーっと並んでいた。
文字が書いてあるようだが小さくて読めない。
「ああ。
さびしくなったよ。
ジョンがいなくなったりしたらもっとさびしくなる。
それに鬼灯は何より『伝説』について色々考察してたもんな。
みっつの死がどうだこうだと。
バカにするわけではないが……。
『伝説』の続き、分かったか?」
シンファクシは自分と瓜二つの姉妹の胸ポケットからペンを抜き去ると
つまらなそうにかちかちとプッシュした。
ラフファクシは姉からペンを取り返すとやれやれと前髪をかきあげて
「私に聞く?
私はバイオ系しか研究してないから分からないんだけど。
そうだな、具体的には最終兵器を指すことは分かる。
三人の、だけど」
とだけ言って口を閉じた。
「三人は手の内にある。
一体、T・Dはどうしようもないだろうが。
再起動がうまく行ったら……。
戦線に投入したい」
危なく落ちそうになった。
ということは既に帝国郡がT・Dをゲットしている……?
二人目の最終兵器を?
「うまくいくかなぁ。
記憶のフラッシュバックとかで壊れちゃうかもよ?」
にやっと笑ってラフファクシは飲みかけのコーヒーに手を出した。
「にっが」と顔をしかめる。
「そのときはそのときだ。
また考えればいいさ。
今はT・Dを再起動させることだけを考えてくれ。
くれぐれも他の奴には知られないようにな。
二つ目の死なくして三つ目の死は働かないからな」
「そんなことより料理長の……」
そういうと二人は急にプリンやケーキの話をはじめてしまった。
今話題の女子力とやらか。
このままじゃ中には忍び込めないなぁ。
今夜は諦めよう。
建物からゆっくりと降りて自室に戻ることにした。
資料室には入れなかったものの代わりにいい話を聞くことが出来た。
T・Dは帝国郡が握っているということ。
再起動がどうのこうの言っていたがラフファクシならやってくれるだろう。
鬼灯のおっさんがバーフォードとかいう人に渡したみたいだし……。
『記憶版』とか言っていた……よな?
動物がどうのこうのと。
部屋に戻ったらメモとして書き留めておこう。
シエラに聞いてもいいかもしれない。
あいつの一人称が『僕』なのもT・Dの影響らしいからな。
喜ぶだろう。
「あ、レルバル少佐。
その手のものなんです?」
自室がある建物に入って鼻歌を歌いつつ歩いていると後ろから女兵士に話しかけられた。
電磁ぺったん機だとばれたら厄介だ。
名称は電磁ぺたぺた機でもいいんだぞ?
適当にはぐらかすことにした。
「ん?
ああ、これですか。
知りたい?
顔をひっぱって拷問する器具ですよ」
スイッチを入れてかちかちと自分の手を当ててみた。
ところが女兵士は
「そ、そうなんですか!?
ちょっとやってみてもらっても……?」
怖がるどころか逆に目をきらきらさせて来たと言う。
Mだったー!
言わなきゃよかった!
「気絶したいなら、やりますよ?」
これで引かないならやってやる。
思いっきりひっぱたいてやる!
最低だな、俺って。
「それは……勘弁かな。
あは、あはは……」
女を殴る覚悟を決めた。
と、おもったら女兵士は笑いながら後ずさり。
「やります?」
ここで追い討ちをかける。
「い、いえ。
お、おやすみなさい!」
女兵士は走って行ってしまった。
やれやれ……。
今度は誰にもみつからないようにもっと裾の奥に電磁ぺったん機を入れておかないとな。
This story continues.
機械の名称統一しろよ!って話ですね。
いかに永久波音がバカな男かこれでお分かりいただけたでしょうか。
愛すべきバカです。
主人公なのに。
では、読んでいただきありがとうございました。