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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
超極兵器級な季節☆
121/210

1tハンマー

主砲から出た俺達はそのまま艦内に戻った。


「で、波音達は何をしていたんだよぅ?」


ひゅんひゅんと、ジャンプしながら俺達の周りを飛ぶ仁。


「ん?

 ああ……」


うつろな声で俺は問をかわした。

今はそれどころではない。

甲板に転がる英雄達の遺体を見ないようにするのに精一杯だったから。

血で血を洗うようなそんな残忍な風景だった。

生き残りがまだこんなにいたのか、ってぐらい多くの兵士が甲板に上がってきて掃除をしていた。

まだ火をちらちらと携えている砲塔にも消化剤が吹きかけられる。

修理班が展開され、溶接の炎が船中にきらめく。

星夜楼の横でボロボロになった暴風楼も修理の対象に入っていた。

艦尾に設けられたクレーンが暴風楼へと物資を渡している。

簡易修理が終わると機関全速でアフリカへ帰るのだろう。

甲板の地獄を抜け、艦橋基部に設けられた扉から中に入った。

他の場所にも扉はあるらしいが、ここから入った方が確実に目的の場所にたどり着くことが出来る。

出来る限り早く、自分の部屋に帰りたい。

短時間で決着がついたにも関らずがっつり疲れていた。


「なぁ、波音。

 ゲームしようぜ、ゲーム」


部屋に入るやいなや、TVをどこからともなく取り出してスイッチを入れる。

持参したであろうゲーム機は既に接続済みだ。

PCゲーム、TVゲームと色々持ってきたんだな、お主。


「寝させろ」


あまりにも暇だったためゲームでぷちぷち暇を潰していた仁をいなして布団に潜り込んだ。

それから靴を脱いでぽいぽいと、そばに投げる。

頭まで掛け布団を引っ張って潜り込んだ。

ふんわり、柔軟材の臭いがして心地よい。


「なー、ゲームー」


俺の掛け布団を引っ張ってしつこく勧誘してくる。

仁の手をぴしっと叩いて


「却下。

 寝させろ、頼むから。

 お願い」


俺は布団にまた潜り込んだ。


「しゃーなしやなぁ」


仁はぶーと半分すねたように一人プレイをはじめた。

ゲームの音がかすかに耳に入ってくる。

そういえば暴風楼は今星夜楼にワイヤーで繋がれて後ろからついてきているようだ。

無駄な抵抗をしたら主砲で撃滅させられると悟っているようで抵抗はほぼ皆無だったらしい。

聞いた話によれば、だが。

マースズカエルを入手したことにより帝国郡の戦力も少しは増強されたというものだ。

――シンファクシは連合郡に本気で勝てると思っているのだろうか。

負けを承知で戦っているのか?

てか、帝国郡の目的って何?

考えたこともなかった。


「なぁ……仁」


頭の中で色々考えているうちに眠気が飛び、仁に話しかけていた。

ゲームの音がするからには起きているだろう。


「…………」


返事はなかった。

どうやら今度は仁が無視する番だったらしい。

先ほどの俺の態度に対するあてつけだろう。

悪いことした。

胸に寂しさを交えつつ、俺は目をつぶった。

時間や場所的に今日でアフリカに着くだろう。

それまで一眠り、一眠り。






「波音君、つきましたよ。

 波音君!

 もー、死んじゃったんですかね?

 波音君っ!」


ゆさゆさと体が揺さぶられ意識が夢から引き離されてゆく。

う……。

耳元でキンキンと誰だ。

騒がしいと言うかウルサイ。

答えはいらない、誰かぐらい分かる。

声で分かる、この声で。

ほぼ百の確率でアリルさんしかありえない。

俺の名前に君をつけて呼ぶところからも同じ結論が導き出された。

となると、早く起きたほうが賢明という判断になる。

アリルさんは一体何をするか俺でも分からないからだ。

不思議と言うよりかはいい意味でバカ。

それも物凄くバカ。


「えいっ」


「ごぶっ」


な?

な、俺言っただろ?

本当に何をしてくるのかわからなすぎる人だろ?

常識から考えてくれよ。

寝ている彼氏の腹にエルボーって普通の感覚だとしないだろ?

でもこのお方の感性では、これが日常茶飯事らしいんだぜ?

ありえないだろ?

どんな傭兵一家なんだよ、って突っ込みたくなるだろう?

痛みに身を捩じらせてうぐぐ、と唸る。


「起きませんね」


起きてはいるんです。

痛みで身を捩じらせているから寝ているように見えるだけです。

息が詰まって涙が出る。

俺が一体何をしたんだ。


「アリル~、だめよぉ?

 そんな弱くちゃあ。

 もっと強くやってみなさい?

 それで駄目なら私がやってあげるわぁ」


その声で頭がばしっと弾かれた。

痛みなんか気にしている場合ではない。


「起きてます!

 起きてますから、マダム!」


あわててがばっと、布団を外して起きた。

次は五トンハンマーとか落ちてきそうな気配だしな。

起きた俺の目に飛び込んできたのは


「え?」


って、おっさんあんた何それ!

アリル父ー!!

ハンマーに一トンって書いてあるんですけど!

俺に向かってハンマーを振り下ろそうとするアリル父の姿だった。

殺される。


「え、いやいや。

 え、え?」


布団の隅っこに避難する。

一トンとか常人じゃもてないし支えれないよね?

人体の骨は五百キロ以上の重さに耐えれないって聞いたことがあるけども。


「わが息子が起きなかったらこれで起こしてやろうと思ったまでだが?」


アリル父はにこりとさわやかに筋肉をぴくぴくさせた。

いちいち筋肉を誇示してこないでください。


「死にますよね、普通」


ハンマーが頭にヒットだけは避けたい。

何としても振り上げたハンマーを下ろしていただかねばならないだろう。


「大丈夫だ」


逆効果だったようで、アリル父はハンマーを余計に高く振りかぶった。

その自信はどこから来るんですか。


「いや、あのもう起きてるので。

 やめてください、お願いです」


「そうですよ、お父様。

 波音君が嫌がってるじゃないですか!」


お主もだ、お主も。

アリル父のたっぷりの満面の笑みに一発パンチ入れたいです。


「おお、そうか。

 なら仕方ないな」


ハンマーが床に置かれた瞬間、みしみしと金属がきしむ音が響く。

冗談抜きで一トンあったのかい?


「つきましたよ、波音君!

 アフリカですっ!」


アリルさんは狭い部屋の中でぴょんぴょんはしゃいでいた。

嬉しいこと……か?

アリル父の巨体の後ろにある窓から外を見た。

確かに、アフリカのようだ。

すっかり夕方の太陽になっていたが。


「そういえば他のみんなはどこに?」


ヴォルニーエルの艦内があまりにも静かなのを不思議に思って聞いた。


「もう既に外で通常業務に戻っている。

 私達は客人という扱いで受け入れられた。

 まったく、シンファクシも人使いが荒い。

 わざわざわが息子を起こしに一家そろって来させるなんて」


元帥――。

どう考えても人選ミスです、本当にありがとうございました。

後で愚痴りに行きますね。


「ついてからもう何時間ぐらいたちました?」


アリル父は腕時計をチラ見した。

たっぷり寝させていただいた気がするのと時差があるにも関らず夕方ってことは

相当惰眠をむさぼっていたということだからな。


「そうだな……。

 大体四時間ってところか」


結構長い間寝ていたのか。

みんなに迷惑かけたな。

起しに来てくれた親子に感謝の礼を述べる。


「起しにきてくれてありがとうございます……」


布団でジャパニーズ土下座。


「あらあら。

 全然いいのよぉ。

 先に戻ってるわねぇ?」


「うむ。

 わが息子よ、疲れをゆっくり癒すがよいぞ」


腹から響く笑い声でアリル父は頭に被った帽子を脱いだ。

ふさふさの髪をなで、また乗せなおす。


「お母様、私はしばらくここにいます」


アリルはマダムの目を見るとそう言った。

マダムは俺とアリルとを見比べるとははーん、と頷き


「分かったわよぉ。

 私達は邪魔ってわけねぇ?」


アリル父とは間逆の澄んだ笑いを浮かべた。

本当に美人だなぁ、マダム。

アリルもこんな人になって欲しいものである。


「な、なにっ――!?」


アリル父は本気でショックを受けたようだ。

口があんぐりあいて、今にも泣きそうである。

大の男が情けない姿、と思ったが娘に邪魔とか言われたら泣くわな。


「そ、そんな……。

 俺は――どうすればいいんだ。

 娘に嫌われたら……。

 もう……俺は……」


自慢の筋肉をわなわなさせておよよ、と泣き崩れる様はまさに圧巻としかいえない。

外は強くても中が弱い典型的にないーぶなお方である。


「さ、あなた。

 外に出ますよ」


「うん……。

 うぅぅ……うええぇ……」


マダムにその背中を支えられ出て行くアリル父は子供にしか見えなかった。

拍子が抜けると言うか、気がほわほわすると言うか……。


「ねぇ、波音君?」


二人が遠く行ってしまった後、俺はベットから出てヴォルニーエルから外に出た。

アリルも隣にいるぞ。

海でしめついた空気が沈みかけている太陽の熱を孕んで温かい。

ヴォルニーエルのすぐそばに時折溶接の火花を散らしているのは暴風楼だろう。

夕日に赤いシュルエットが映えている。

金属の鈍い輝きが海にも反射していた。


「ん?」


アリルが俺の手をぎゅっと握ってきた。

おい、ドキドキするからやめろ。


「ありがとうね。

 あなたのお陰で私達は生き残れた。

 連合からは見捨てられたのにも関らず、私達を帝国は拾ってくれた。

 本当に感謝してる」


それは俺のお陰と言うかシンファクシのおかげじゃないのか?


「いや……。

 うん、まぁ――うん」


こういうときにはっきり言えないのが俺の駄目なところなんだ。

今回もやっぱりはっきり言えずに星夜楼の甲板をずっと見ることしかできなかった。

ずいぶん前を行く二人の夫婦の背中を夕日が照らしている。

仲のいい夫婦だなぁ。

その前に広がる帝国郡基地にはぼつぼつと電球がつき始め夜に差し掛かったことを教えてくれていた。

夕日が赤く砂漠に反射して白い基地の建物を対照的に浮かび上がらせている。


「ありがとう、波音君」


「……おう」






              This story continues.

ありがとうございました。

さてさて。

いよいよです。

今から書きます、もう。

いよいよですよ!

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