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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
超極兵器級な季節☆
120/210

ちぇー

轟音が遠くに消え、揺れも収まった。

俺は地面にしっかりとつけていたお尻を引き剥がして椅子に座るセズクに話しかけた。


「……っ、セズク。

 ど、どうなった?」


お尻についたゴミを叩きつつ、情けないことにまたこけてしまったんだなぁと心の隅で思う。

だが今回は仕方ないと言えるだろう。

主砲の衝撃がこんなに来るとは思っても見なかったのだから。

決して地面とお友達になりたいわけではない。

外れかけたイヤホンからノイズ交じりのシンファクシが話しかけてきた。


『…バル少佐!

 ……え……か!

 私は……だ!』


私は、の後に続く言葉は間違いなく「シンファクシ」だろう。

改めて言わなくても分かってるつもりです、元帥。


「うーん……。

 すごい衝撃だったね……」


椅子にはシートベルトがあったのだろう。

金具のロックを外してセズクが立ち上がった。

『LIhξCΝΛ ЭQaieru (ターゲット撃破)』と、ガラスにはベルカ語で文字が浮き上がっていた。

主砲の射線軸もまだそのままだ。

あれほどのエネルギーを一気に放ったのだ。

まともに受けた外の景色はいかほどか。

俺は機材の丈夫そうなところに乗ってガラスに張り付き、外の様子をうかがった。

シンファクシの無線は無視してしまったがかまわんだろう。

後で謝れば済む話、もしくは聞えなかった、でOKだ。


『イージス消失――!

 海が戻ります』


ようやく回復した無線からオペレーターの報告が入ってくる。

それと同時に割れていた海はゆっくりと元に戻っていった。

魔法の終わり――こんな表現がぴったりなその光景は

芸術のように美しい、と言うより、力を見たあと、と言った方がいいかもしれない。

やがて割れ目はぴったりと閉じ去り、元に戻ってしまった。

透き通るような青い海面に時折、電気のようなものが走っていた。

前方をついさっきまで浮いていた連合郡艦隊は丸ごと消え、無と静だけが充満していた。

薄気味悪いほどの静けさ。


『連合郡超兵器に告ぐ。

 無駄な抵抗はやめることだ。

 我々は次の一撃で貴艦を撃沈することが出来る』


不気味さに耐えれずに主砲塔から出て海を見下ろした。

階段の踊り場のようなところから出れるのをさっき確認しておいたのだ。

潮風を孕んだ風がむっとした主砲塔の中に荒れ狂い涼しさを足してゆく。

長く伸びた髪の毛をつまんで、「切らなきゃな……」とひとり呟いた。

艦橋付近についているスピーカーからシンファクシが、近くを漂う暴風楼に向かって降伏を呼びかけていた。


『繰り返す。

 これは脅しではないぞ。

 貴艦は大人しく武装を解除して我が指揮下に入った方がいい。

 抵抗、もしくは拒否するなら撃沈する』


スピーカーと共に無線でも呼びかけているに違いない。

さまざまなチャンネル、言語で呼びかけているから聞き逃しはないはずだ。

「降伏するなら降伏しやがれ、そっちの方が手間が省けるし」

こういった心情で元帥は降伏を迫っているに違いない。

元帥は優しいのだ。


『後三十秒やる。

 至急、返答をするように』


降伏を突きつけるのが終了するとすぐに俺の無線に支持が飛んできた。


『レルバル少佐か?

 再び主砲を撃つ準備に入ってくれ。

 もう一隻、ターゲットができるかもしれんからな』


暴風楼――ですね?


「え、は、はい!」


どもりながらも、セズクに合図をする。


『主砲にエネルギー移行開始!

 砲身冷却完了後、すぐに発射態勢に入ります。

 機関音上昇、イージス、展開を開始します!』


再び主砲の下から機関の唸りが高まり始めた。

次第に加熱してゆく主砲塔の砲身からはゆらりと陽炎が昇り始める。

肉を置いたらそのまま焼肉ができるんじゃないか、ってぐらいに。

プラズマが溜まり、温度にして十万度を超える高熱を放つ砲台にエネルギーが蓄積されてゆく。


『後十秒だ。

 主砲射撃用意。

 目標、連合郡合体超兵器。

 主機始動、高度敵超兵器にあわせろ。

 離水と共に、全照準を敵超兵器にセット。

 自動追尾装置オールグリーンだな?

 もし奴が抵抗するなら斉射にて焼き払うぞ』


足元をふわりとした感覚が掴んだ。

ガラスから外を見るに離水したんだろう。

ゆっくりと高度が上がってゆき、艦首が低速度で動くマースズカエルを捕らえる。

射線軸にその船体を捕らえ、ロックしている。

セズクもなかなかの腕前ではないですか。

さすが万能ホモ野朗。


『最終ロック外せ。

 砲門開き、イージスを展開させろ。

 ん?

 ああ、シエラとメイナにだ。

 主砲への直撃は避けたいからな。

 システムのご機嫌は?』


『いい調子です、元帥』


『そうか。

 敵がここで降伏してくれたらいいんだがな……。

 無駄な犠牲は出したくないものだ。

 残り何秒だ?』


『は、あと五秒です』


ぐいっと、手を引っ張られた。

振り向くとセズクが


「波音、中入って!」


と、機関の音にかきけされないような大声で叫んでいた。

入らないと爆風で飛ばされるだろう。

死ぬのだけはごめんなので、中に入ってドアの鍵を閉めた。


『三……二……』


『最終砲門開放。

 エネルギー充填完了しました!』


また撃つ……のか?


『うむ……。

 敵が降伏しない以上犠牲はやむをえん。

 セズク、射撃を許可する』


「了解、元帥」


セズクはゆっくりと発射ボタンに手をかけた。


『元帥!

 敵超兵器に白旗が!』


そのときになってようやく敵は降伏を選んだようだった。

暴風楼のマストからするすると連合郡旗が降ろされ、代わりに白旗が揚げられた。

それと同時に暴風楼のエンジン音が消え、ゆっくりと空中で静止した。


『敵艦からの通信です、つなぎます』


『こちら、連合郡超兵器マースズカエルの副長、ニッケル・グルードだ。

 我が艦は貴艦からの降伏を受け入れたい。

 条約に基づく対応をお願いする』


敵の艦長はあの太った歴戦の勇者って感じの人だったよな?

ヴォルニーエルからの攻撃でマーズスカエルの艦橋がぶっ飛んでいることを考えると

恐らく名誉の戦死を遂げたのだろう。


『了解した。

 貴艦の降伏を認める。

 早急に武装解除を進めていただきたい。

 それと、海面に着水してくれ。

 空中では安心できない』


シンファクシは次から次へと命令を下した。

手際がいい。


『ははは、もっともだ。

 帝国郡の素敵な声の艦長さんに感謝する』


暴風楼の副長はからからと笑うと通信を切った。


『レルバル少佐、聞えるか?』


ほっと安心した瞬間に元帥から声をかけられた。


「はっ!」


無線の向こう側に聞えるようにちゃんと返答する。

さっきは無視してしまったからな


『どうやら、また貴様に助けられたようだ。

 あの伝説も真っ青な活躍ぶりだな』


そうか?

伝説に勝るほどの活躍ではないと思いますが。

セズクにちらと、目配せして控えめの回答をすることにした。


「ありがとうございます。

 で、でも俺じゃなくてシエラとかメイナとか……」


攻撃を防ぎ、死亡数をぐっと減らしたのはシエラとメイナだ。

俺がお礼を言われる筋合いなんてものはある。

『目』となり、敵にタグをつけたぐらいだ。


『でもその二人を動かしたのはほとんど貴様だ。

 ヴォルニーエルが沈まずに浮いていられるのは貴様のお陰だ。

 改めて礼を言わせてくれ。

 ありがとう』


「い、いえ、そんな……」


もっと言え。

そうやって俺に助けられた恩を一生忘れずにいるといい!

冗談だぞ。

お礼を言われるのは慣れない物で、照れくさい。

顔が真っ赤になるのがわかった。

いいことをして御礼を言われるのは本当に嬉しいのだ。

帝国郡にとってのいいことは連合郡にとって悪いことかもしれないが。

まあ、そこは置いておこうじゃないか。

シンファクシとの無線はそれで切れてしまった。


「ふー……」


セズクの座っている椅子の背もたれに体重をかける。

ずっと立っていたお陰で足が熱を持っている為だ。

間違いなく今夜寝るときは筋肉痛になりそうだぜ。


「おい、波音!」


足を揉みながら腰掛けたときにばーんとドアを開けて入ってきたのは仁だった。

珍しいな、どうしたんだろう。

きらりとひかるメガネを胸ポケットに入れて息を切らしている。

走ってきたのだろうか。


「おー、仁。

 どうした?」


右足を揉みつつ状況を聞いてみる。

何かあったのだろうか。

アリルが死んだーとか、ケツに銃弾ささったーとか。

後者を期待してしまう。

面白いことになりそうじゃないか?


「どうした、じゃねーよ!」


落ち着け、親友よ。

唾を飛ばすんじゃない。

めがねもかけないでこんなにあわあわしているのは珍しいな。

から揚げおとしたとき以来見たことがないぞ。


「一人でずっといるの寂しかったんだからな!」


しょーもないっ。

高校生になってまで一人でいるのがさびしいとか……。

人間は、一人じゃ生きていけないんだよ!!って奴か。

言われて見れば仁何やってたんだろう。

気になる、すごく。

すごく、気になる。

思いついたら即行動を最近のモットーに掲げた俺は早速聞いてみることにした。


「で、お前何やってたんだ?」


オブラートに包んでるぞ、これでも。

分からずに使ってるがオブラートって一体何なんだろうな。

誰か、辞書くれ。


「ゲーム」


「は?」


信じられない単語が聞えたぞ。

ゲーム?


「ゲーム」


ゲーム持ってきたのか?


「TV GAME?」


セズクの綺麗な発音が映える。


「No.

 PC GAME」


英語で会話やめろ。

吐き気がするだろう。


「ちなみにジャンルは?」


「FPS」


軍事ものか。

FPSって分かるか?

あの、テレビに出るのが手だけのやつ。

三人称視点じゃなくて手だけのやつ。

しばらく俺とセズクが黙ってしまったのが気になるのか


「な、どうしたんだよ?」


仁がむっと膨れた。

俺達はもっとリアルな戦場を経験していたって言うのに。

もちろん、これは皮肉だ。

この戦艦の『目』になるなんて普通経験できないだろう。

どんなゲームにも存在しないはずだ。

つまり俺は勝ち組!


「とりあえず、主砲の中からでようか♪

 いつまでもこんなところにいたくないからね」


セズクが椅子から立ち上がってドアから出て行った。

確かにただでさえ狭いのに仁が来たことでさらに狭くなってむっとしたからな。

こりゃたまらんわ。


「わざわざ登ってきたのに……?」


口をぽかーんとあけて無言の抵抗をする仁の背中を押す。

お疲れ様です。

降りますよ、お兄さん。


「いい運動になっただろう?」


いやいやする仁を慰めるため言葉をかける。

これをすぐに往復はきついもんなぁ。

俺はテンションというか、気分で駆け上がったからいいけどさ。


「まぁ……」


しぶしぶ頷く仁ににやっと笑いかけ先に進むよう階段を指差した。

さっさと行けあんぽん。


「ならいいじゃねぇか。

 さ、降りよう。

 俺は疲れたんだ」


俺は仁の肩を叩いて、ドアから出るように促した。

これでようやく仁は階段から降りる気になったらしい。

おじじみたいに掛け声と共に足をいっぽ踏み出した。


「ちぇー」


口を尖らし、ドアから出て行く仁の後ろに続く。

薄暗い階段を足を滑らさないようにゆっくりと下りる。

足元にぼんやりと照る電気だけが唯一の場所把握の力の元だ。

これがないと滑って転んで頭打つ。


「なー、波音。

 さっきシンファクシがお礼言ってただろ?」


階段の手すりを掴み、慎重に降りる。


「ああ。

 それがどうかしたのか?」


「いや、波音は何をしていたのかなって。

 そう思ってさ」


ああ。


「部屋で話すよ。

 すっごい経験したんだ」


仁は俺の方を振り向くととがった口をさらに尖らせた。


「ちぇ、ちぇーっ。

 いいなぁ。

 俺もそんな経験したかったぜ。

 いーだ」


「拗ねるなって」


「拗ねてないわいっ」


見え透いた嘘をいうな。

どれぐらいヒレをつけて話してやろうかなぁ。

ぐふふふふ。






           This story continues.

ありがとうございました。

出来立てほかほかをお届けしました。

さてさて。

ここからがいよいよ本番です。

残り僅か。


どうかお付き合いくださいませ。

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