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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
超極兵器級な季節☆
119/210

超極兵器級

「そういえばシンファクシから撃沈命令が出たんでしょ?

 主砲を使ってもいいよーっていう。

 いやー楽しみだねぇ。

 私一回も実は超極兵器級の主砲発射を見たことがなくて……」


メイナは甲板に転げた俺を助け起しつつ軽やかに聞いてきた。

今の発言に不明瞭な点があったため明らかにしようと思う。


「ちょ、まて。

 『ちょーごくへいききゅー』って言ったか? 

 なんだそれ」


聞きなれない響きだ。

超極兵器って表記で合ってるのだろうか。

メイナが説明しようかどうか考えているのが表情から分かる。

長くなる説明ということかしら。


「む、無理に説明しなくてもいいんだぜ?

 別にそれほど欲しい答えじゃないから……!」


「超極兵器級。

 それはベルカの最強の五隻の戦艦のこと」


メイナがハッとしたようにシエラを見た。

シエラは「これぐらいい説明したれや」といった表情でメイナを見据える。


「ご、ごめんよ、シエラ」


「別にいい。

 超極兵器級は今言ったとおり五隻。 

 超空要塞戦艦ネメシエル――陽天楼。

 超空城砦戦艦ルフトハナムリエル――雷雲楼。

 超空城砦戦艦アイティスニジエル――雹雲楼。

 今乗ってるこの船も超極兵器級の一隻。

 超空突撃戦艦ヴォルニーエル――星夜楼。

 ヴォルニーエルと同型艦の超空突撃戦艦ニジェントパエル――月夜楼。

 この五隻の総称のこと」


シエラはここまで息継ぎもせずに一気に吐き出した。

すごい早口だったぞ。

覚えにくい名前だなぁ。

全部に『楼』って漢字がついてるよ。


「じゃあ、あのメガデデスとかは?」


「あれは超常兵器級。

 私達が今まで使ってきた『超兵器』っていう呼称は

 この超極兵器級と超常兵器級を合わせた総称なの」


今度はメイナにバトンタッチ。

短くまとめて説明してくれるお陰で分かりやすい。


「ふ、ふーん……」


「と、そんなことより主砲ぶっぱなすんじゃないの?」


そうだったそうだった。


「セズク、主砲どこにあるか分かるか?」


後ろで誰にも話しかけられなかったせいか、少しすねてる気がするセズクに話を振る。

一瞬でぱああっと復活したセズクさんは偉そうに


「ん?

 簡単だよ、主砲は甲板内に収納されているんだ」


と前の方を指差した。

ほう。

それまたロマンのかをり。

ベルカ帝国は分かってるね、ロマンを。

頭に浮かんだロマンを整理しつつセズクが指差した方へと歩こうと足を踏み出した。

着信音が耳の中に響く。

無線か。

受信スイッチをぽちっと入れた。


『レルバル少佐か。 

 すまん、また命令を変更させてくれないか。

 合体超兵器はやはり拿捕で行こうと思う。

 近くに邪魔をする勢力は一掃したことだしな。

 やはり戦力を少しでも上げておきたい。

 シエラとメイナだけでは戦線は維持できないからな』


もっともですね。

と、ヴォルニーエルの船体が揺らいだ。

がくんと下から突き上げるような衝撃が走り足を滑らせてこける。

お尻を強打。

さすりつつ立ち上がる。

何でシエラとメイナ、ホモはこけてないのに俺だけこけたんだ。

納得がいかない。


『元帥!

 下に連合郡通常艦隊です!

 数、戦艦二、空母四、フリゲートが十!

 発艦してくる航空機の姿はなし!

 おそらく先ほどまでの航空機部隊の母船ではないかと!』


俺が『目』をしていたときに言うの忘れてた奴だ。

めんごめんご。

――すいません、元帥。

く、口に出さなきゃばれないよね?


「どうしたのハニー。

 顔色悪いけど」


ぎく。


『艦橋被弾の衝撃でレーダーが壊れているって時に……!

 だが、ちょうどいい……。

 こいつらで主砲の威力を試してやるとしよう。

 総員何かに掴まれ!

 着水するぞ!』


「い、いや、気にするな。

 ちょっと腹が痛いだけだから」


「便秘?」


『この損害状況でですか!?

 無茶です、元帥!』


「違う」


『かまわん。

 多少の浸水など気に留めるな!

 全ては合体超兵器を手に入れるためだ。

 技術的にも劣る我が帝国郡が連合郡に勝つためにはそうするしかないのだ!

 超極兵器が一隻あるだけで戦線は変わらない!

 少しでも有利に動かしたいんだ、分かってくれるな?』


着水が何でそうなるのかは分からないが……。

もやもやと不信感が湧き上がるが、かき消した。

帝国郡の人が信じてるなら大丈夫だろう。

ヒュッ、と空気が千切れる音がした。


「波音伏せて!

 散弾ミサイルが接近してるから!」


メイナが俺を押し倒す。

立ち上がったばかりなのにまた倒された……。


「待ってよ、メイナ。

 波音のはじめては僕のものなんだからさ♪」


それを見て何を思ったかセズクが無理やり俺を起しにかかる。

にやついている頬にぱーんと一発叩き込む。


「な、何でだい、ハニー!」


「もう、お前面倒くせぇんだよっ!

 こんなときぐらい真剣にだな!」


「僕はいつだって真剣だよ?

 どんなときだって!」


ぐいぐいと俺の唇を奪おうと近づいてくるセズクの顔を抑えるだけの作業です。

こいつ力強いから簡単ではない。

結構な重労働なのだ。


「そこで濃厚ならラブシーンもいいけど自重して。

 ねーさん、イージス展開して」


こんなときも冷静なシエラさん。

濃厚なラブシーンって……。

このタイミングで挟み込むわけないだろ、よく見ろふしあな!

ハリウッド映画じゃないんだぞ!?


「えー……」


メイナはかったるそうに息を吐いて脱力した。


「いいからやれよ!」


セズクの頭越しに陽光を跳ね返したミサイルを見て俺は絶叫した。

メイナは首をすくめ、ゆっくりと右手を差し出した。

潮をたっぷり含んだ湿った風がなくなり、メイナのイージスのテリトリーに入ったことを教える。


「うわああ、こえー!」


五本だったミサイルがその鉄の頭を分裂させを二十ほどに増えるのをじっくりと観察してしまった。

本能的な恐怖がぐっと来たね。

背中に一気に汗が噴き出した。

距離にして約十メートルほどの所にイージスの壁があると分かっているのに怖い。

二十本の小型弾頭ミサイルはメイナのイージスになじられ虚空へと消えていった。


『降下開始だ。

 同時に主砲を展開しろ。

 艦首は敵艦隊に向けるように』


「えへへーまぺん」


「いい加減離れろばか」


まだなお筋力で俺への接近を続けていたホモ野朗を蹴り飛ばした。


「っとにもー……。

 あー、腰痛い」


変なところをぶつけたのだろう。

じんじん、鈍い痛みを放つ腰をとんとんしながら足を踏ん張った。

立って主砲があるところへと向かうとしよう。

火がちろちろと燃えている第一砲塔よりもはるか前。

何もなかった空間。

その甲板が光るとゆっくりと左右に開き始めた。


「あれすごくない?」


セズクが指差したところ。

第一砲塔までしか伸びてなかった光の線。

エネルギーを伝える線が光りながら開いた甲板のところまで延びてゆく。

生物がその足を伸ばすような不気味さがあった。

左右に開ききった甲板の中から巨大な砲塔が一つ、ゆっくりと上がってきた。

それだけで一隻の軍艦を越えるほどの大きさがあるのではないだろうか。

青と赤の線が交じり合い、強い光を放っている。

甲板の線からエネルギーが伝わってゆくにつれ、主砲はゆっくりと息を吹き返していくようだった。

ビル一つそこに立ったかのような高さ。

そして百メートルは軽く超えると思われる大きさ。

まがまがしい、見るものを圧倒する力。

超極兵器……。

全ての極みを超える兵器――。


『着水するぞ!

 気をつけろ、舌噛まないようにな!』


主砲に見惚れていたためか、ヴォルニーエルがその高度を下げているのに気がつかなかった。

床にぺたんとくっつき、衝撃に備える。

さっき立ち上がったのにまた寝てるし。

今度は自主的にだからまだいいけどよ。


「何やってんの?」


シエラが不思議を携えた表情で俺を見ていた。

セズクも俺をバカじゃないの、と侮蔑した表情で見下ろしている。

あ、メイナのイージスの中だったな。

だまされた。


「体操だよ、体操」


言い訳無用――か?

ゆっくりとした速度で飛んでいた星夜楼の艦首が海をこじ開けた。

真っ青な海に鋼鉄の塊が分け入ってゆく。

沸騰したようににごる海水が白くなり水が空へと吹き荒れた。


『隔壁閉鎖は終わっているな?

 浸水は出来るだけ防ぐように!

 ご老体に鞭を打つようだがな』


シンファクシの言葉どおりヴォルニーエルの船体は実際、かなり傷んでいた。

それを無視してまで着水したのには何か意味があるのだろう。

何も考えなしなわけがない。

なんていったってシンファクシだぜ?

このお方が命令をミスするわけがない。


『船体を安定させろ。

 バラストタンク左に二十。

 スタビライザーの調子はどうか?』


少し喫水が上まで来ているようだ。

特に右舷に傾きが激しい。


『無事です。

 スタビライザー作動。

 船体を安定させると共に艦首を連合郡艦隊へ向けます』


ドドドド、と滝のような音は船体内に海水がなだれ込んでいるのだろう。

分トン単位で。

あまり長いこと着水し続けたら本当にこの船沈むぞ、元帥。


『レルバル少佐、主砲塔の中に入れ。

 至急!』


鼓膜が破れるほどの大声で怒鳴られて頭がキーンとした。


「は、はい!」


俺はシエラとメイナにイージスを張るように命令して走って、主砲塔の横まで来た。


「僕もついていくよ♪」


だー!

お前はこんでいいのにー!!

主砲塔の横に後からすえつけられた様なドアを見つけた。

簡単な鍵がかかっているだけで、チョップで壊しこじ開ける。

元帥、鍵がかかってるとは言ってなかったよな。

言い忘れか?

盗みで鍛えたスキルがこんなところでも役に立つとは。

こじ開けたドアの中に広がるのは


「階段!?」


まさかの階段。

くそー!

ビル十階じゃ足りないほどの高さを持ったこの主砲塔内をうわあああ、と駆け上がる。

がんばれ波音!

端から見たら俺が狂ったと思われるようなぐらい声を出して走っている。


『っ――!?

 お、落ち着けレルバル少佐!』


「あ、は、はい。

 ちょ、階段、階段がありまして」


『その階段だが登りきった部屋の中に操縦席みたいな場所があるだろう?

 こちらの照準機は合体超兵器によりやられてしまった。

 エネルギーの充填、発射準備まではこちらでやる。

 レルバル少佐は照準をあわせてくれ。

 発射は……セズクにでも任せようか』


奇声を上げつつ、見えてきたドアを蹴り開けた。

中はとても狭苦しい。

狭苦しい中に椅子や機材が詰め込まれているからもっと狭苦しくなっている。

簡易に設けられた椅子に座り分厚いガラスの向うを見渡す。

このシステムはあの魔改造トラックの者を流用しているのかな。

構造がそのままで助かっている。


「分かるかい?」


後ろからセズクが抱きついてきた。


「まあ何とかな」


「はぷ」


顔面にパンチをいれ引き剥がす。

今回パンチ要素多めです。


『ガラスに距離、数なんかのデータが表示されているはずだ。

 大きい緑色の円は主砲の効果範囲を表している。

 その中に入った敵艦は撃沈、もしくは大破するだろう。

 この意味が分かるな?』


つまり出来るだけ多く入れろってことっすね。

システムをオンラインにして、砲門を開放する。

配線が丸出しの機材が低い唸り声を上げて、ガラスにデータが示された。

敵艦との距離は約二千……、近いな。

艦首に固定されているこの砲は船体を直接動かさないと駄目なんだろう。


「システムオンライン。

 エネルギー充填率百二十パーセント」


いつでも撃てる状態になっている。

元帥、さては何が何でも主砲使うつもりだったんだな?


『了解。

 照準機オープン。

 それを使ってぶちかますんだ。

 頼んだぞ、レルバル少佐』


くるんと、床がひっくり返り戦闘機の操縦桿のようなものが一つ、出てくる。

赤いボタンまでついている。

透明のカバーを開き、ボタンをセズクに渡した。


「任せて、波音」


「頼むぞ」


セズクは真剣な顔でガラスに示された敵艦とにらめっこした。


『光波集結炉出力最大!

 イージス、前方を展開せよ』


主砲塔のすぐ下から小さな振動が伝わってきた。


『げ、元帥!

 よく分からない部分にエネルギーが流れています!

 消滅光発生装置――とかいうところに!

 さらにイージス最大出力!

 敵艦を包み込むようにして――!』


『バカな、イージス放出口はやられているんだぞ!?

 シエラか、メイナか!?』


明らかにシンファクシも驚いていた。

オペレーターの声は恐怖でおののき何が起っているのか把握も出来ていないだろう。


『主砲塔から発せられたイージスです!

 我が船体を守るんじゃなく敵艦をがっちりと捕らえて固定しています!!

 敵艦が、浮きます!』


な、何だそれ。

やばいんじゃないのか?

イージスが包み込んだら、お前それ意味ないんじゃ……!


『消滅光発生装置より射出されたエネルギー、散開!

 海水を押しやって―――!?

 う、海が割れる――!!』


ガラス越しに見える海がばっくりとその口を開いた。

島が近くにあり大陸棚が広がっているせいか茶色の海底が見えている。

見えない力がそこにナイフを差し込んだように海水が食い止められ滝のように流れていた。

ヴォルニーエルの前だけ海水がない状態。

ガラスの前に広がる赤く熱せられ陽炎を纏っている主砲に雷のような光が走っている。

その低い唸り声はまるでケモノ。

エネルギーを伝える線の輝きは今まで見た中で一番まぶしい。


『――さすがは超極兵器といったところか。

 敵艦はしっかり補足しているな、レルバル少佐!』


「は、はい!」


敵艦は宙を舞っていた。

ヴォルニーエル主砲塔から発せられるイージスが浮かしているらしい。

くるくると空気中を虚しく回るスクリューが海水を散らし、船体から海水が垂れ落ちる。

空母の舷側の穴から備品が落ち、海底に散らばる。


『元帥!

 合体超兵器が発砲!』


ちか、ちかっ……と目の端で空が光った。

ごいん、と艦首に砲弾が命中する音が響く。

海面に落ち、爆発した衝撃で発生した巨大な水柱が視界を遮る。


『敵艦よりミサイル!

 数は――百!!

 距離およそ五千!

 合体超兵器からです!

 まだ増えます!!』


マッハを超えて飛ぶミサイルからしたら距離五千なんてすぐだ。


『ちっ、合体超兵器め!

 最後の最後まで邪魔を!』


水柱が視界を遮っているがガラスに表示されたデータには確かに敵艦しっかりと捕捉されていた。


「距離およそ二千!

 エネルギー充填率百二十パーセント!」


『最終砲門開放!

 目標連合郡艦隊!』


「主砲発射します!」


『地獄を見せてやれ!

 ヘルファイアー!!』


セズクもテンションが上がってきたのかノリノリだ。


「主砲『超大型光波共震砲』、発射!」


カッ、と視界を白が一色に塗りつぶした。

がくんと、足元をすくわれ、視界を失った体が倒れる。


「うぉっ!?」


『超極兵器――か』


冷静なシンファクシの呟きの後に鼓膜を破りそうな大きな音が頭を殴りつけた。






                This story continues.

――なんてこった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


来週は再びお休みです。

私立の入試があるのですよ。


では、本当にありがとうございました。

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