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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
超極兵器級な季節☆
118/210

ざ すげぇ

『レルバル少佐。

 私だ』


はい。

元帥ですね。

ここまで私だ、私だ言われてると私私詐欺なんじゃねーかと疑ってしまう。

無線による確認は必要とはいえだな……。


『いきなりなのだが聞いてくれ。

 敵の合体超兵器なのだが帝国郡へもって帰ろうと思う。

 セズクのピンポイント射撃で敵合体超兵器を出来るだけ壊さないで無力化してほしい』


こいつを連れて帰れと。

俺は目の前のクロガネの巨壁を見上げた。

太陽光を吸い込むほど黒く、まがまがしい空気をまとうこいつを。

チカッと火柱が灯り、六十一センチの直径を持つ火の玉がヴォルニーエルへと飛ぶ。


『こちらとしても研究して技術を取り入れたいんだ。

 分かるだろう?』


シンファクシさんはそう言った後


『来るぞ、対ショック体制!』


と吼えた。

声と共に命中の轟音が音を発し


『っ……火災消化急げ!

 弾薬庫はないんだ、引火の心配はするな!』


無線の向うで悲鳴が上がる。

ぼんやりとだが無線からオペレーターの声が響いてくる。


『右舷第三装甲まで破られました!』


『第一副砲大破!

 及び高角砲沈黙!』


損傷は深いな……。

シンファクシの望む生け捕り――。

つまりヴォルニーエルはあまり攻撃しないということか?

ピンポイント射撃による無力化に全てを託すと?

そりゃないぜ。


『ハニー?

 やるしかないんだよ?』


……だな。

萎えかけた戦意を奮い起こした。

頬を叩いて気合を入れる。


「セズク、敵を無力化するにはどこを狙えばいい?」


手っ取り早く頼むぜ。


『そうだね……。

 まず脳を壊してから手と足をもぎ取る、って感じじゃないかな?』


脳――艦橋。

手――砲台。

足――機関。

これ全部壊したらただのゴミですやん!

鉄の棺桶ですやん。

控えめにしろ、ってことやな。


「じゃあとりあえず脳からいくぞ?

 セズク、用意頼む」


と、俺がセズクに呼びかけ暴風楼の艦橋にタグをつけた瞬間だ。


「――ぁ!?」


頭を何者かに押さえつけられ引っ張られるような感覚に襲われた。

物凄い力だ。

めまいがして、空中にひざをつく。


「っぷ……」


目をつぶり目頭を揉む。

俺は合体超兵器を無力化しなければならないんだ。

なのに、なんだこの……吐きそう。

吐き気の中、目を再び開いた。


「え……?」


ばらばらと鉛筆やコンパスが机からこぼれていた。

シンファクシが部下に怒号を飛ばし天井からは時折火花が散る。

画面の割れたPCが二つほど沈黙してヴォルニーエルの被害状況が記された液晶にヒビが入っている。

突き抜けるような青空、遠く広がる海は存在しない。

そこは閉ざされた空間、星夜楼の艦橋の中だった。


「レルバル少佐!? 

 接続が切れたか、くそっ!」


俺が目を覚ましたのを見てシンファクシが舌打ちした。

ひらひらと手を振って駄目だった、ということを伝える。

オペレーターはシンファクシに向かって何か呟いた。


「やあ、ハニー。

 僕も今、目が覚めたよ」


久しぶりにセズクと会話した気がする。

立ち上がってセズクが俺の頭についたヘルメットを取り


「吐いちゃうかと思った♪」


はにかんだ。


「にー」


うぉう。

ビックリした。

俺の手の上でルファーが跳ねていた。

全然気がつかなかった。


「―――つんつん」


セズクがルファーに気がついてつっつく。

はじめは大人しかったものの三回ほどつんつんされたルファーは流石にいらついたのか


「にー!」


セズクの指にがっぷり噛み付いた。


「あいやー!」


アイヤーじゃなくてもいいだろ別に。


「うるさいぞ!」


オペレーターの一人がこちらに向かって怒鳴る。

頭を下げて素直に謝る。

確かに少しはしゃぎすぎた。


「元帥、右舷損傷率が五十パーセントを超えました」


「全問斉射だ。

 急げ!」


生け捕りは元帥。


「……駄目です!

 先ほどの被弾でシステムとの接続が切れています!」


シンファクシはあわててオペレーターの画面を見た。

エラーを示す赤一色に染まっている。


「コードをGH21に書き換えて再起動だ。

 急げ、早くしろ!」


「り、了解です!」


ぼけっとここで座ってその様子を眺めることしか出来ない。

さっきまではレーダーとして『目』になり手伝うことが出来たのに。

しんみりとした申し訳なさが心を侵した。


「波音、僕と一緒に第一砲塔に行かないか?」


やかましくシステムの復旧を急ぐみんなの中、セズクが話しかけてきた。

第一砲塔っていったらさっきまでセズクが動かしていた……?


「いいけど。

 ……なんで?」


腹を決めたような顔をするセズクに問いかける。


「とりあえずついてきて」


俺の耳元にぽつりと囁きセズクは立ち上がって艦橋から出て行った。


「…………?」


床に落ちてあるプラスチックの砕けたヘルメットを拾い机の上に置いた。

落ちないように場所を選び、ほどけた軍服のボタンをちぎる。

それをヘルメットの中にいれ、セズクの後を追った。






艦橋についた扉をこじ開け、外に出た。

黒煙の混じる青天を目の前に携え、セズクを前に見つけた。

ここから第一砲塔までは約二百メートルほどの距離がある。

走れば一分以内に着く場所だ。


「おい、待てよ!」


セズクは艦橋基部についている階段を下りたところで足を止めた。

何か悲しい目をして星夜楼の装甲が張り巡らされた甲板を眺める。

俺を待ってくれているわけではなさそうだ。


「セズク――?」


さっき俺は一分以内につくといった。

それは甲板に何もなければの話だった。


「人……だよな?」


真っ赤に染まった甲板上には所々に肉片が転がっていた。

六十一センチ砲に叩かれた結果だろう。

機銃に手を残し肉体ははるか彼方に飛んでいっている。

その頭は目に入る範囲には見当たらない。


「うっ……」


死の臭いの立ち込めた船の上。

メガデデスと戦ったときのことを思い出してしまった。

思わず鼻を裾で覆う。

でも……もう慣れてしまった。

このような風景に。

そんな自分を少し嫌悪した。


「行くよ」


セズクは肉体に目もくれず先に進んでいく。

ばらばらになった人の……。

吐き気を催すような血の臭い。

乾いた赤黒い膜が足にくっつき速度を鈍らせる。

セズクとの距離は開くばかりだ。

血をたっぷり浴びた砲塔に手をつき、息を整える。

甲板に出てようやくヴォルニーエルの損害状況が分かった。

いくつかあった砲塔は六十一センチ砲弾の直撃を受けて炎上している。

俺が今手をついているのもその一つだ。

ビルのようにそびえるひ艦橋の装甲には砲弾が突き刺さっていて、あれが回路を遮断したらしかった。

となると、コードを書き換えて再起動では駄目なんじゃなかろうか。

ひゅん、と何かが近づくのを感じて砲塔の壁に隠れた。


「うわぁあっ!?」


ちらほらとしか見受けられない生き残りの兵士の体が裂け、ちぎれ、飛ぶ。

俺がここに隠れなかったら俺も同様の道をたどっただろう。

艦橋基部に薔薇が咲き、火柱がワイヤーを舐めた。



「くそっ、どうして反撃しないんだ!」


わめく男をまた別の男がたしなめる。


「シンファクシ元帥を信じろ。

 何か策があるんだ!」


拿捕がが策に入るのか……と言われたら答えはNOだろう。

行き当たりばったりも来るとこまで来てしまったな。


『レルバル少佐。

 聞えるか?』


耳につけていた無線から声が出てきた。

艦橋を出るときにシンファクシに投げ渡されたものだ。


『第一砲塔は今の攻撃で破壊された。

 敵は……もういい。

 沈めろ。

 主砲を使うことを許可する』


主砲――?

と、地面――星夜楼がぐらりとゆれた。

進路を変えていたらしいこの船体に何発かの砲弾が命中したらしい。

こちらも負けじと撃ち返すのが見えた。

イージスなしで三連装砲が撃てるのはもはや甲板に生きている、と言える状態にある人が少ないためだ。

だから爆風の影響などを考える必要はない――との判断だろう。

イージスのない敵もかなりの損害をおっているはずなのだ

にも関らず撃ち返してくる気力がすごい、たたえたい。

不思議なのは今までのと比べて少し爆発が弱かった気がすることだった。

別の敵から狙われたのだろうか。

ぐるりと空を見回した。


「メイナか……?」


円盤型の戦艦が肉眼で見えるほどの距離に来ていた。

迷彩模様の船体から火が上がり、部品が飛び散っている。

流星が赤の光を放つと、超兵器の表面が砕けていく。

その表面から二十ほどの白い糸を引いてミサイルが流星に群がった。

一発が爆発、続いて二発、三発と爆発が続く。

形成された爆発花の花弁を破り、流星はまた超兵器に喰らいついた。

楕円形のその船体についていた砲台が切り離され溶け、海へと落ちてゆく。

マッハを超える速度で飛ぶその船体から繰り出される機銃の閃光は最終兵器を前にして

全て進路を捻じ曲げられ別のところへと消えてゆく。

一閃したレーザーが超兵器の船体を貫くと崩壊はすぐだった。

衝撃波にもてあそばれた船体が二つに折れ曲がり灼熱の海と変わった船内を披露した。

数多くついた砲塔が根元からごっそりと削げ落ち、あいた穴から火が顔を出す。

やがて大きな破片と化した船体は海面へと吸い込まれるように落ちていった。

最終兵器の相手にならない、哀れな兵器の終わりだった。

流星は海面に起立した水柱を見届けるとまたどこかへ飛んでいった。

シエラの援護だろうか。

三隻いたはずだが……残りの二隻はどこへ行ったのだろうか。


「危ない!

 突っ込んでくるぞ!」


誰かが叫ぶのが分かった。

斜め四十五度の上から三百メートル弱の飛行物体が炎上しつつ落下してくる。

砲身の捻じ曲がった砲塔は炎上しており、体勢を立て直せない超兵器は

せめて一矢だけでも報いようと、特攻を仕掛けて来たに違いない。

実際ヴォルニーエルのイージスは消えている。

甲板にいる人のためにスピードは出せない。

となると、回避運動は難しい。

ましてやこの巨体だ。

超兵器ほどの質量がヴォルニーエルに命中したらいくら星夜楼と言えどもひとたまりもないだろう。

戦闘不能にまで追い込まれる。

大きく空中で超兵器は向きを変えた。

艦首から中部甲板へと。

艦橋を吹き飛ばすつもりなのだろう。

実際、ぶつかったら艦橋付近は消えてなくなる。

星夜楼から伸びた光波共震砲の光が超兵器を貫くもそのレーザーの特性のせいで効果が薄い。

船体をばらばらにしながら隕石のごとく落下してくる飛行物と俺の位置はどんどん近くなる。


「ハニー!

 何してるの、逃げるんだよ!」


セズクの声と三連装砲の咆哮が被る。

足がすくんで動かないのだ。

目の前の圧倒的な殺意に気圧されている。

逃げないといけないのは分かっている。

でも……。


「――死ぬ気?」


目の前に一筋の光が現れた。

四枚の翼を背中から生やした天使。

いや、神か。

――恐怖の。


「ベルカの民を失うわけにはいかない。

 僕は波音を守るって約束したからね。

 ご主人様になれとまで言ったし」


その光が解け、中に立っていたのはロングヘアーの最終兵器。

眼帯に赤い光が灯り、片目の赤紫が意地悪そうに笑う。


「こんなところで死なれたら困る」


俺に背を向ける状態でシエラは立っていた。

顔だけこちらに向けて「安心して」と口が動く。


「前見ろ、前!」


前からあの超兵器が落ちてくる。

メテオと表現した方がいいだろうか。

衝撃波と火炎を纏った巨大な爆弾。


「……哀れ」


シエラは両腕をあわせるとそれを巨大な砲身に変えた。

およそ三メートルはあるんじゃないかというほど巨大なもの。

その砲身の内部ではギアが火花を散らして青い線が脈をうっている。

表面からはうっすら煙が昇り、赤くなっていた。

金属が熱くなるほどの温度を持っているということ。

千度では聞かない熱量を放つ、ということ。


「シエラ!

 早く撃て!」


目の前一杯に広がる超兵器にびびった兵士の男がシエラをせかした。


「――ごめんね」


カッ、と天を貫くような青い閃光が走った。

太陽にすら勝る光は目の前に迫っていた超兵器を飲み込む。

あまりの光のためシエラの影に隠れる俺。

情けない姿である。

光が収まり、そろっと影から出ると超兵器の姿はもうなかった。

一言でまとめるなら――蒸発。


「状況終了。

 波音、大丈夫?」


「お、おう……」


俺はシエラの左手を掴んで立ち上がった。

セズクは遠くからゆっくり近づいてくる。


「おつかれーシエラ」


空からゆっくりとメイナが降りてきた。

背中から生えた翼がゆっくりと背中に同調してゆく。


「ねーさん。

 つかれた」


そりゃ三隻も潰してりゃそうなるわ。

ぽかんとする俺とセズクを残して二人の最終兵器はじゃれはじめた。

なんか今回はあんまり緊張感がない気がするぜい。


「ふー……」


ため息をついて地面にへたり込むセズクの前にメイナが立った。

蹴りでも入れようというのだろうか。

いいぞやってしまえ。


「な、なんだい?」


「…………」


メイナは黙って右手を突き出した。

その右手に直径六十一センチの砲弾が浮いたまま静止した。

一拍遅れて来た風圧が俺達の髪を揺らし、せっかく立ち上がった俺の体を突き飛ばした。

尻に鈍い痛みを感じる。


「危なかったねー」


メイナは砲弾を手に持ちくるくると回した。

一トンあってもおかしくないんだぜ、あの砲弾。


「こんなものを私めがけて撃ってくるなんて……。

 連合郡はレディに対する扱いがひどいねぇ」


ぼそりと愚痴をこぼすと砲弾をメイナは甲板から投げ返した。

いつの間にか肉眼でうっすら見えるほど近くにまで暴風楼は近づいていた。

その巨大な船体に爆発の色が浮かぶ。

さりげなく合体超兵器に命中させてやがるし。

お前ほどレディから遠い女もいねぇと思うぞ。






           This story continues.

ありがとうございました。

次で戦闘は終わる……のかな。

物語はあと少し。

どうかお付き合いください。


P,S

来週、『怪盗な季節☆』はお休みです。

私立の入試があるのです。

たのしみにしてくださっている方、ごめんなさい。

許してください。

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