すり抜けれました。
高角砲から撒き散らされるオレンジ色の弾幕が空に展開されている。
圧倒的数の戦闘機に襲い掛かられ全身を食い荒らされようとしている。
このままじゃ守りに入っているヴォルニーエルが物量で押し切られる。
兵器は無限でも中の人間が……。
俺がタグを目測で合体超兵器に添付する。
それをめがけてまたセズクから一発飛んできた。
だが、駄目。
レーザーがぶつかったところが発光しレーザーを弾いている。
最強の盾を破るには最強の矛をぶつけないといけない。
だがその最強の矛が二つとも盾となっている。
つまりどうしようもない。
何か打開策を考えないと……。
対イージス貫通レーザーとやらをふと思い出した。
シエラとメイナがメガデデスうんぬんでそんな名前を言っていたような。
聞いてみるか。
「シエラ、メイナ聞える?」
『どうしたんだい、ハニー』
おめーじゃねぇ。
出てくんなぁ。
「いやな。
対イージス貫通レーザーってあっただろ?」
『覚えてるよ。
メガデデスと戦ったときのやつだよね?』
うむ。
「それ、ヴォルニーエルにはないのか?
あったら合体超兵器をなぎ払えると思うんだが……」
『ないよ』
ないの!?
「は!?
何でだよ!?」
『だって、メガデデス級は本来ヴォルニーエルとかが暴走しても
抑えれるように、ってコンセプトも盛り込まれた戦艦だからさ。
あ、でもヴォルニーエルにもあるのかな……。
ちょっと聞いてみるね』
早く頼むわ。
一度通信からオーバーして下を見た。
合体超兵器はその艦尾に備えた五つの塔のような部分……。
弾道レーザー発射装置に緑色のぼんやりした光を貯めはじめた。
あれはレーザーだな。
つまりベルカの技術。
砲台なんかはどうなのだろうか。
鋼鉄の弾が出る、でいいのか。
光波共震砲になっているような事態になっていたら。
ヴォルニーエルに勝ち目はないぞ。
『ハニー?』
待ってました。
「どうした?」
『今聞いたんだけど。
――壊れてるみたい』
そんなことだろうと思った。
『壊れてる、っていうか修理中なのかな。
ヴォルニーエルの弾道レーザー系統はめちゃくちゃだったんだよ。
はじめから……ね。
じゃあ仕方ない、って感じだよね☆』
お前のその安楽な考えを心より尊敬。
礼。
『それと、連合郡の攻撃、覚えてるかい?』
ミサイルでの一点集中突破?
通常の五倍ほど大きなミサイルのことだろうか。
ヴォルニーエルのイージスを消した張本人武器。
「おう。
あのミサイルのことだろう?」
言われて見れば……。
勝負を早く決めたいならあのミサイルを使えば早く終わるんだよな。
どうしてぶちまけて来ない?
『今、シエラとメイナから聞いたんだけど』
艦橋からわざわざ出たのか。
お疲れ様です、本当に。
その丁寧な説明、行動が色々と役にたっています。
『そのミサイルはどうやら遺産らしい。
だから数に限りがあるんだと。
対イージス貫通ミサイルとか何とか言ってたね♪』
案外覚えやすい名前だ。
一度無線が沈黙した。
目の前に広がる巨大な合体超兵器の船体を眺める。
甲板に人がいて、機銃なんかに取り付いている。
砲塔なんかが大きすぎて人が吹けば飛ぶような埃にしか見えない。
それと艦尾の光。
禍々しい光は弾道レーザーで間違いないだろう。
貫通レーザーだった場合ヴォルニーエルは一発傷を負うこととなる。
『あ、言い忘れてた。
例の合体画像を見せたんだ。
二人して知らないっていってたから間違いなくベルカの遺産じゃないはず。
機関とかを連合郡が作り出せる、とは考えづらいから既存のものを使ったんだと思う。
超兵器が残ってるなら一般艦艇も残ってる、って考えてもおかしくはないよね?
だから連合郡はベルカの残されたドックか何かを発見したんだと思う』
メガデデス級だけで十二隻あるとか言ってなかったか?
それにプラスして一般艦艇ってあのな。
どんだけ量産が効くんだよ、ベルカの艦艇は。
大量の艦艇の中でもヴォルニーエルが一番でかいのかな。
第三艦隊って言ってたし――。
星夜楼が勤める旗艦は……だけど。
『それで……聞いてる?
今から大事なことを言うからね』
セズクが声のトーンを落とした。
大事なことが来ると言う合図だ。
「は、はい」
一言も聞き逃すまいと耳を押さえた。
『ハイライトに恐らくだけど……。
その合体超兵器の設計図があったんだと推測してるんだ。
作られる予定だったけどなんらかの理由で破棄されたのを見つけたんだと思う。
船体のつくりなんかを見るとベルカの艦艇そっくりだよね?
エンジン、装甲はブラックボックスでもその側を真似することは出来る。
つまりそれはベルカの技術と考えていいよね?』
宙に馬鹿でかい船が浮いている時点でベルカの技術だと気がつきます。
何だ、何が言いたい。
歯切れが悪いぞ。
『つまり、その兵器のイージス放出口を見つければいいんだよ。
ベルカの兵器唯一の弱点ともいえるところを』
「そうか!
賢いな、流石だセズク!」
『そうだろう?
僕をほめる意味で今夜ベットにでも潜り込んできてくれるかい?』
「やだ」
『つれないなぁ、ハニーは』
バカは光速で放って置こう。
イージス放出口って言ったら……なんだろう。
具体的に浮かぶイメージは穴――だよな。
穴?
穴みたいなのがあるんかの。
「イージス放出口ねぇ……」
俺がぼそと漏らした言葉にセズクが連なる。
『そこは比較的イージスが弱いんだと。
あくまでもシエラとメイナ曰くだから……。
あの二人はそんなの無視して突っ込むからね』
穴……。
でいいのか。
船体を舐めるような目つきで端から端まで分析した。
穴のようなものは、ミサイルポッド以外に見つからないな。
砲門とかから出てるわけないし。
ここで一つのいらない疑問が浮上した。
じゃあシエラとメイナはどっから出してるの?
っていう疑問だ。
目――?
耳――?
口――?
………鼻?
いやいやいや。
どれも怖いわ!
流石にお下品な方向ではないだろう。
他に考えれるとしたら毛穴とか。
でもあいつら精神的な力とか言ってたからなぁ。
……毛穴説が有力だな。
最終兵器の体から出てくる何千万というイージス。
想像するだけでがくぶるな出来事だ。
この件はあまり考えないでおこう。
いい方向にも悪い方向にも妄想が加速する。
俺は妄想を頭からパージした。
いかんいかん。
考え方が親父だぞ、永久波音。
集中しろ。
早く見つけないとこの合体超兵器がヴォルニーエルに噛み付く。
……出来る限りのことはするんだ。
すべるように合体超兵器の船体に取り付いた。
隙間ないか、隙間。
厚い装甲が覆う棺桶の表面を少しずつ調べる。
穴なんてどこにあるんだよ。
十分ほど探してみたがみつからん。
万事休すか。
空中にへたれ込んだとき、また脳内にセズクの声が響いた。
『波音?
聞えるかい?』
俺はかったるそうに返事する。
「セズク?
穴なんてねーべ」
ため息もひとつふたつついでに吹き込んでやった。
どれほど俺が落ち込んでいるのかを教えてやるためだ。
『あ……。
案の定穴を探してたんだね』
そらそうでしょうが。
セズクは俺の心にざっくり来るぐらい呆れ声だった。
『穴……とは限らないんだよ?
分厚い装甲の下に隠れてるようなものもあるんだろうし……』
無理だからあきらめろってことですね。
詰みじゃないですか。
『で……。
シエラが今そっち行くかもしれない』
ほんまでっか。
シエラさんが。
「ちょいまて。
ヴォルニーエルの守りは?」
そもそも俺のこの一連の行動はヴォルニーエルを沈めさせないためにある。
防御の要であるシエラがいなくなったら全て水の泡と化すのだ。
せかすような声で俺はセズクに質問していた。
『前半分はカットだね。
持ち前の装甲で持ちこたえるしかない。
それに……また別の三隻の超兵器の接近を確認したんだ』
「まだ来るの!?」
セズクに向かって声を荒げた。
シエラは間違いなくその三隻に向かうだろう。
『僕達はその合体超兵器を殺るんだ』
ってことは、イージスを壊さない限り勝ち目はないって事か。
行動に意味はあったらしい。
だが装甲の下にあるのなら可能性は無限大に広がる。
Xスキャンみたいに輪切りにして探せって言うのか?
「大体の場所も予想できないってのに……。
簡単に言ってくれるな、おい」
頭が痛いわ。
使いすぎてショートしそうである。
氷嚢ぶらさげてほしい。
『波音、今君の体はこっちにある。
ふへへ。
……おっと。
でも視界はそっちだよね?
これってどういうことだと思う?』
誰か、おまわりさんを。
ふへへ、ってこれまずいだろ。
性的な意味でのふへへだっただろうがよ。
『合体超兵器の中に入れるんじゃないかな』
!
頭に青い電撃が走った。
そうか。
言われて見ればシエラもメイナも見えてたよな……。
ってことは……。
この固い装甲の向うを見ることができるってこと。
『合体超兵器は今動いていない。
ヴォルニーエルが迎撃体制に入る前にイージスを破壊するんだ。
波音、見つけてタグを!』
「分かった。
まかせい」
俺はすっと、合体超兵器に近づき船体内に手を入れてみた。
するり、とすり抜ける。
さっきまでこの表面に立っていたのが嘘のようだ。
顔を……体を押し込んでゆく。
「う……」
しばらくグレーの視界が続いた。
鋼鉄装甲の中なのだ。
それもすぐに終わり急に視界が広がった。
小さな電子部品が並ぶ物凄い機械郡だった。
緻密な迷路のような回路が目の前を覆っている。
武装管理装置の類だろう。
肉体があるときのように慎重なる必要もなく大胆に通り抜ける。
もし肉体があったら感電して真っ黒こげとなるだろう。
恐ろしい想像を押さえつけてさっと通り抜けると兵士達が通るであろう通路に出た。
戦艦内なので狭いし鉄臭い。
よく分からないパイプが天井を這い、交差している。
壁には黄色でA21と書いてあった。
「おい、どうだ?」
思わず物陰に隠れそうになってとどまった。
今の俺は奴らには見えないんだった。
会話が聞えることがすごいぜ。
『目』のレベルを凌駕してやがる。
ベルカの超兵器ってのはすごいもんだ。
角を曲がったところから軍服をつけた男達が手に道具を持って走り回っている。
むわっと汗の臭いが漂ってきそうだ、見てるだけで。
「は、今全ての武装をチェック中とのこと」
下っ端兵士が油にまみれた顔を引き締めた。
「早くしろ。
帝国郡の超兵器を落とせるのは今が絶好のチャンス。
これを逃したら連合郡は大きく前線を後退するしかないのだ」
下っ端よりはるかに風格のある中年の親父があごひげの目立つ顎をかいた。
「は……!」
「分かったら早く続きにかかれ!
呼び止めてすまなかったな!」
端っこではなく中枢が集まる艦橋に行こう。
そこなら何か分かるだろう。
肉体があったときでは間違いなく出来ない軌跡を描いて甲板まで向かう。
まず天井に向かって浮遊する。
体はその天井をつきぬけもう一つ上へ。
その繰り返しで甲板まで一気に通り抜けた。
最後の一枚はやたら分厚い装甲になっていた。
そこを通り抜けると青い空が広がる外の世界。
その空を威嚇するように塔のようにそびえる建築物。
こいつだ。
ヴォルニーエルより少し複雑な形をした艦橋構造物。
中に人がいるところをめがけて突入した。
この場所なら艦長や上級士官がいるところだろうから。
「艦長。
軍司令がお見えです」
そして、勘は的中したらしい。
入ったとたん、あごひげをたっぷり蓄えた太った男が椅子に座っていた。
目は軍人らしく鋭く、しわの目立つ頬には長年の戦いが染み付いている。
「うむ。
各班、状況を知らせたまえ。
即効で帝国郡の超兵器を破壊して母港に帰るぞ」
軍司令が来る前のスピーチか何かだろう。
ここにいても何も見つけられないな。
俺が狙うのはさらに奥に設けられた軍艦の脳みそ。
戦闘指揮所(CIC)だ。
そこにレーダーから通信から何から何までそろっているはずだからな。
This story continues.
ありがとうございました。
遅れてしまいましたね。
申し訳ございません。
次からあつーい。
男の戦いが。
はじまる……のかな。