合体超兵器
『やぁ、波音聞えるかい?』
戦闘機にタグをつけたとき、頭の中に直接声が響いてきた。
耳元にメガホン音量MAXで語りかけられた気分だ。
あまりにもひどい音で頭が割れそう。
しかも直接頭の中だから性質がわるい。
『ごめん、ごめん♪
まだ慣れていないんだ♪』
じゃあなんで話しかけてきたんだよう。
ちゃんと調節してから話しかけてくれよう。
それぐらいは配慮してくれよう。
『悪かったってば☆
僕が悪かったって』
謝る気ねーだろ。
セズクの軽い謝罪は無視決定。
「タグはつけたべ。
セズク、一発かましてみてくれるか?」
仕事の話に戻る。
一機の戦闘機に赤いマークをつけた。
ロックしたことを教えてくれる小さな電子機器音が鳴る。
これも脳内に直接なんだろうな。
空気を蹴って戦闘機隊から一歩引いたところまで移動した。
ここからなら戦闘機隊の全体が見渡せる。
『発射するよ?』
頭に響く声に
「おう」
返事を返すとセズク側から聞える騒音がまた頭に響いてきた。
光の衣を身につけながら空を舞う戦艦。
こんな遠くからでもはっきりとヴォルニーエルの形は見える。
一キロを超えるんだからそりゃすごいわな……。
戦闘機部隊をちらと見た。
このお方たち、ミサイルつんでないの?
攻撃機なんだろ?
遠距離から攻撃した方がいいんじゃないか?
ヴォルニーエルからまっすぐに伸びてきた三本の光。
セズクの放った光波共震砲だろう。
三本、お互いがお互いを助けるようにまとわりつき
図太い一本の光線になったかと思うとばらばらに拡散した。
十から二十ほどの細かい線になったレーザーが編隊のど真ん中に突っ込んでいく。
その攻撃に一糸乱れぬ動きで上空へ逃げた編隊もいた。
だがやはり五機ほどは犠牲となってしまった。
射抜かれた翼が赤く溶ける。
主翼をもがれ、燃料を血のように撒き散らし鳥が散ってゆく。
ベイルアウトを示すいくつかのパラシュートが見えたとき、ほっとしたのは内緒だ。
目の前で死なれる、なんて後味が悪い。
『距離およそ五千!
次のタグを、波音!』
あわてて体を前に押し出し、戦闘機に追いつく。
下のエアインテイクにしがみつくような形でその機体にタグをつけた。
鉄一枚を超えたところでは人が息をしてヴォルニーエルに攻撃しようとほくそえんでいる。
そうはさせない。
すっ、と手を離すように戦闘機から離れた。
空気を切る音をたてて遠くへ戦闘機は飛んでゆく。
その体に死のタグをつけられたことを知らないで。
あのタグを狙ってセズクはぶっぱなしてくる。
『発射するよ♪』
セズクが嬉しそうに脳内無線から声を漏らしたときだ。
『レルバル少佐!
聞えるか!?』
シンファクシの声がキーンときた。
女ってこともあってより一層響きやがる。
それぐらい配慮してくれ、セズクに続いてもう。
「う……」
思わず声が漏れる。
『すまん、音量を調節している暇がなかった。
超光エネルギー体の反応を確認した。
注意してくれ』
頭痛い。
暇は作るものだ、元帥。
それに超光エネルギー体って……。
情報が少なすぎるな。
超兵器ってことか?
『ハニー、見えるかい?』
セズクもその放送を聴いていたのだろう。
シンファクシの発言が終わるとすぐに話しかけてきた。
いんや、全然。
どれやねん、って感じ。
雲ひとつないというのに……どれかすら分からない。
『あれかな……?
波音。
三時の方向だよ。
見える?』
三時ね……。
どれ。
せめて空中なのか海なのかぐらいだな。
遠くまで見渡せそうな青い空と海。
その中に潜む、背筋を舐め取るようなざらついた雰囲気が後に続くであろう愚痴を粉砕した。
『近いぞ、レルバル少佐。
敵戦闘機部隊はこちらで対処する。
貴様はちゃんと敵を見張っていてくれ。
セズクにターゲットを指定するのも忘れずにな。
目標を確認したら至急画像を送るように。
やり方は――わかるな?』
分かりませんがな。
「え、ちょ、シンファクシ!?
……おい!」
切られてしまった。
画像を送れって言われてもどうすればいいのか……。
『どうしたんだい?
早く目標を指定してほしいな♪
木っ端微塵にしたくてうずうずしているんだ♪』
モドキさんうるさい。
黙ってて。
破壊衝動抑えてください、もう少し。
「いやな。
シンファクシが超光エネルギー体がどうのこうの言ってたから……」
超兵器かな……と頭では思ったが口には出さなかった。
セズクなら何か知っているかもしれない。
『超光エネルギー体?
超兵器ってことかい?』
セズクの言葉を流しながら俺は三六〇度見渡した。
遠いヴォルニーエルから大量の対空砲火が吐き出されている。
オレンジ色の弾幕が空へと伸び、幾度も襲い掛かってくる鳥に矢を放つ。
鳥から落とされた爆弾は最終兵器ががっちりガードしている。
そのうちヴォルニーエルの周辺で次々と戦闘機が落ち始めた。
青い空に黒い煙が線を引く。
守りの体制を維持しつつ勝ちそうなのは一目瞭然だ。
さすが超兵器、といったところか。
『超兵器なのかい?』
またセズクは繰り返し話しかけてきた。
動きの早い敵機に対して緩慢な動きしかできない砲塔、セズクなどが動かしているやつは対処しにくい。
よって、暇を持て余している、と見るのが正しいかな。
それで俺が目標を指定しないものだから暇で暇で仕方ないんだろう。
「分からない。
でも用心しろって……言ってた。
分からないのにどうやって用心すればいいんだか……」
あれ……か?
遠い霞み。
黒い点のように五つの超兵器が並んでいる。
もう少し近くに……。
ぽん、と空を翔ける。
「!!」
一つかと思ったら五隻……。
五隻の超兵器が、そこには存在していた。
全部連合郡のつくりし、現代の超兵器だろう。
円盤型巡洋戦艦級なのは間違いない。
ベルカのとは違うのは一つ一つが円盤型ではなく少し楕円形になっていること。
縦に長いんじゃないぞ?
横に長いんだ。
だからベルカのは二百メートル強で収まっていたのが三百メートル弱になっている。
目測だがな。
だけど安心した。
これぐらいだったらタグをつけてさっさとセズクに落とさせるのがいいだろう。
セズクに指定するタグをつけようとロック範囲に五隻を捕らえる。
赤いシーカーが重なる。
このまま二秒間維持すればいい。
――驚いて俺はすぐにそれをやめてしまったんだけどな。
サイレンが鳴り響いたせいだ。
それを合図のように五隻の超兵器の形が崩れ始めた。
円盤型からとがった形や壁のような形に変形している。
一隻から棒のようなものが突き出し、また別の一隻に突き刺さる。
同士討ち、じゃないだろう。
どこかのマンガで見たようだ。
なんてこった、合体している。
五隻が一隻になってやがる。
はじめは分からなかったが……。
なんといえばいいんだ?
とにかく、合体しているのだ。
円盤型だった五隻はばらばらになるんじゃないか、ってぐらいにまで変形して
それぞれが艦首、艦尾、右舷、左舷……なりくっつく。
そして一つの戦艦を形作ってゆく。
黒褐色の船体に鈍く太陽光が反射している。
ベルカの超兵器のような奇妙な模様は見当たらないにしても――気味が悪い。
「ヴォルニーエル……?」
何よりも多少の色の違い、形の違いはあれどもそれはヴォルニーエルそっくりだ。
横に並べると少し小さい、と言ったところだろうか。
巨大な砲台が三つ、甲板に並び、コバンザメのように下に二つくっついている。
それより少し小さな砲塔がぐるぐると動きを確かめるように周り砲身を持ち上げている。
主翼、補助翼ともにヴォルニーエルのようだ。
弾道レーザーは五つでヴォルニーエルより一つ多い。
五隻全てに詰んであった奴だろう。
艦橋の周りには数え切れない砲台が並びその小柄な体で空を威嚇している。
ミサイルのたっぷりつまっているであろうVLSも黒褐色の光を携えていた。
こんなことってあるのか?
アニメやマンガのような展開。
戦闘機隊にヴォルニーエルを襲わせたのもこれのため……?
この時間を稼ごうとしていた為なのか?
大量の戦闘機を陽動に使った、ということは。
それ以上の連合郡の切り札だということ。
火花を散らしてギア同士が噛み合う金属音と共にその形も整ってゆく。
整ってゆくにしたがって余計に星夜楼に近づいてゆく。
『レルバル少佐?
どうした?』
シンファクシから通信が入ってきた。
なれない操作ながらもコネクトをオンにする。
合体超兵器の甲板に並んだ幾つかの砲塔がヴォルニーエルのいるほうを向いた。
レーザー……ではないだろうが。
通常弾頭にしても三十五センチクラスの化け物だ。
「元帥!
敵は……合体した!」
完結に伝えようとした結果がこれだ。
シンファクシからは間の抜けた声が返ってきた。
バカバカしい、と一蹴しようとしてるのが分かる。
『……はぁ?
何を言っているんだ、貴様は。
早く敵の画像を送れ』
「は、はい!」
いや、本当なんです。
信じてください。
言葉で言ったって分からないなら画像で見せてやる。
百聞は一見にしかず。
Seeing is believing.
スペルは知らん。
えっと、画像を送るにはどうすればいいんだ?
カメラないけど。
そんなものは使わないのか、やっぱり。
『ハニーお困りかい?』
「ん?
画像を送るにはどうすればいいんだ?」
あわてすぎて逆に落ち着くというこの原理。
あわてて落ち着き現象と今名をつけた。
使っていいぞ。
『送る、という意志だよ。
思考の波に乗せて今見ているものを送るんだ』
小難しいことを。
送る、という意志でシンファクシのいるところに伝えようとする。
うまくいってくれるといいんだが……。
『画像を受け取ったぞ……。
な、何だこれは……』
絶句してる。
ほれ見ろ、バカにしてるから。
「これが敵なんです!
なんか、合体して、その……」
なんて言えばいいんだ?
合体して、それが戦艦です、って?
信じてくれるのか、このお方。
『これは……。
そんなのありなのか?
シエラかメイナを……!』
シンファクシも流石に動揺を隠せないようだ。
そりゃそうだ。
俺だってこの超兵器が分からない。
何でわざわざ一隻になったのかも、な。
『とりあえず攻撃をしてみろ。
レルバル少佐、タグをつけるんだ』
「了解です」
俺はロック範囲に敵の合体超兵器を捕らえた。
赤いマークが重なる。
一……二……よし。
「セズク!
行け!!」
『任せて』
素早く返ってきた反応。
少し遅れて三本のオレンジ色の光が伸びてきた。
光波共震砲、ベルカの技術だ。
合体超兵器にぶつかる――。
合体超兵器はその場から動くことはなかった。
その巨体に三本のレーザーが吸い込まれ……ないね。
そんな簡単には行かないわな。
「イージス……」
万能の守りも持ってるのか。
もうこれ超兵器じゃん。
現実に頭がついていかない。
連合郡はイージスも開発したっていうのか?
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OKですよ。
どうぞ。
突っ込んでください。
どこが怪盗なんだって。
タイトル詐欺じゃないか、って。
本当にごめんなさい。
どうか見捨てないで。
このタイトルの怪盗についてはいずれ分かると思います。
ええ。
いままでちりばめてきた伏線も回収していきます。
物語は終盤へ近づいています。
どんどん、と。
ついてきてくださるなら絶望はさせません。