表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
超極兵器級な季節☆
112/210

死神超兵器

最大でマッハ五は出るらしいこの超兵器は戦う必要がない今、のんびりと空を漂っていた。

日が昇り、また落ち、また昇る。

途中何度か海に着水して整備したり。

甲板で急にバーべQしたりと、とにかくのんびりと。

ヴォルニーエルで過ごして三日目の朝。

日に焼けすっかりと海の生活になれた頃だった。

明日にはアフリカにつくとシンファクシに伝えられそのときに

どうやら詩乃が目覚めたらしい、と耳に入れて俺はさっそく医務室へ飛んだ。


「あ……波音」


「おう」


黒目にうっすら不安のかすみがかかった詩乃に手を上げてあいさつした。

今まで緊張に縛られていた顔つきがほっとしたように軟らかくなる。


「気分はどうだ?

 悪くないか?」


ベットの傍まで行って椅子を引き出し、座る。


「分からない。

 頭にぼーっと霞がかかってるわ」


「じゃあ大丈夫だろ」


廊下を威勢良く走る兵士達の声が近づき、また遠のいてゆく。

窓から差し込む日の光が詩乃の包帯の隙間から覗く黒髪をキラキラと光らせていた。


「ここは……どこなの?

 それにその服って……」


おどおどと病室を見回し俺の目を見つめてくる。

ぐるぐる頭に巻かれた包帯を触り、不安に胸を焦がしているのがよく分かった。


「まぁ、おちつけ。

 聞いて欲しいことが山ほどあるんだ。

 いいニュースも、悪いニュースも……な」


「ニュース?」


「ん。

 大量にあるぞ」


詩乃が頷くのを待って、俺は全てを話した。

静かに俺の話を聴いてくれた。

実は詩乃の親父から頼まれて……。

なんてことも全部話したさ。

隠す必要はもうないんだ。

ぐだぐだと笑い話を挟みながら話してたら三十分ぐらいあっという間にたっていた。


「それで……か。 

 波音が学校しょっちゅう休みっぱなしだったの」


話し終ったとき、詩乃は俺をなんとも言えない表情で見ていた。

恐怖の色すら見えたためあわてて


「まぁ、俺はほとんど役立たずだったけどな。

 シエラとか、メイナだよ、この功績のほとんどは」


と付け足した。


「まさか、シエラちゃんとメイナちゃんが最終兵器だったなんて。

 考えもしなかったわ。

 そりゃ体育で何でも一番と二番になるわけだね」


詩乃はからからと笑った。

笑い事で済ますことが出来るお前がすごいと、俺は思うぞ。


「これで終わり。

 全部話したぞ」


俺は近くにあった水差しをとり、喉に流し込んだ。

乾ききった喉にじんわりとくるぜ。


「私は、ベルカのある子孫だった……ってことか。

 なるほどなぁ……。

 なんかそんな気はしてたんだけど」


弱々しく俺を見て笑った。

まぁ厳密には全世界の人間がベルカの子供だけどな。


「ショック、流石にでかいだろ?」


近くのりんごを手に取り、剥いてやる。

大きな一個を八つに切り


「ありがと」


その一つをフォークで刺して小さな口の中に入れてやる。

いわゆるあーんだ。

これ、アリルに見られたら俺殺されるんじゃねーか?

ぎたぎたにされるんじゃないか?


「何か聞きたいことはあるか?」


りんごをかじり取る繊細な音と

窓から入ってくる陽の明かりに目を細め、気を取られた植木をいじる。

あ、これは本物なんだ。

俺の部屋にも置いといてくれればいいのに。


「あまり……できれば風呂に入りたい」


詩乃は困ったように俺を見た。

残念だったな。


「ははは、それは俺には無理な要求だ。

 そういうのは俺じゃなくて看護婦に頼むもんだ。

 第一俺は男だからな。

 残念でした」


詩乃にもう一つりんごを与えてやる。

それをまたかじるのを眺めながら


「元気そうでよかった。

 俺はそろそろ行くとするぜ」


立ち上がって椅子を机の下に入れた。


「りんご、ここに置いとくからな」


詩乃の手に取れるような近くにりんごの乗った皿を置いておく。


「じゃ、また来るから」


「うん、待ってる」


「じゃ」


扉に向かって歩き、自動ドアが開く。

ふちに手をつき出ようとしたとき


「波音」


後ろから呼び止められた。


「何だ?」


「ばーか」


いきなりなんだよ。

笑ってるし。


「アホ」


俺は病室から出てふーと息を吐いた。

どーも病室の空気は体には合わない。

何か嫌なことを思い出しそうだ。

甲板に出ておいしい空気でも吸うとしよう。

そうしよう。

俺の足は自然と甲板に向かった。

と言っても物凄く船がでかいお陰で十五分ぐらいじゃすまない。

エレベーターを使う。

これまた新しいぴかぴかのエレベーターに乗り込み艦橋基部から外へ出た。

重たい装甲扉を押し開けるとそこはもう海と空でございます。


「んー……」


まぶしいぐらいに青天である。

そういえばそろそろ着水の時間だったっけ。

シンファクシのこだわりだかなんだか知らないが朝十一時から午後四時ぐらいまではこの船は着水して

水上航行に切り替わるらしい。

船は揺れてなんぼ、とのこと。

アホかと。

ゆっくりと高度が下がってゆき、やがて艦首が大きな水しぶきを作って着水した。

続いて船体がのめりこみ、巨大な質量を飲み込んだ海が悲鳴を上げる。

こまかい雨のようになった海水がイージスに弾かれ海面に降り注ぐ。


「ふぅー、ああ!!」


大きく伸びをして太陽をいっぱい浴びる。

これ、イージスがなかったら船から放り出されてるよなぁ。

わいわいと当番以外の兵士が甲板に出てきた。

炭とか金網とか肉とかベーコンとかもってやがる。

近くの砲台なんてお構いなしで火をつけるし、危ない。

舷側に張り付いた補助エンジンの出っ張りでみんな思い思いの休憩を満喫している。

中にはパラソルまで広げる奴がいるのだから……まったく。

愉快な軍隊である。

全長一キロを超えるこの戦艦は艦首から艦尾までが一つの巨大な島のようなものだからな。

一種の人工島ともいえる。

ゆっくりとイージスが解除され、穏やかな風が吹き始めた。

船体が大きいためあまり揺れはない。

シンファクシ涙目である。

どうやら兵士達のストレスを和らげる効果もあるんだとか。

と言うかこっちが本当の理由だろう、多分。

軍艦だからあまり娯楽はないのは確かだ。

テレビもないし、ゲーム機もない。

ストレスを開放するにはこういうのが一番いいんだと。

俺は手すりに掴まってのんびりと海を眺めるのだ。

超兵器に切り裂かれた海が白い息を吐き出す。

水の砕ける音、流れる音。

のんびりとした午前である。

本でもとってこようか。

そう思い立ちまた艦橋基部内に入ろうとする。

途中で鼻歌を歌いながら中年の男が機銃を磨いていた。

滑り止めの効いた鉄の床を靴裏で踏みしめ、空を仰ぐ。

全部が真っ青だ。

雲が一つもない。


「おい、そっち行ったぞ!」


「レルバル少佐、取ってください!」


視界にボールが広がりあわてて手を伸ばすも遅かった。

鈍い鈍痛が鼻っ柱を蹴り上げ仰向けに倒れる。


「だ、大丈夫ですか少佐!?」


駆け寄ってきたがちむちのお兄さん達に大丈夫、と伝えて

傍に転がり落ちたボールを手渡した。


「少佐も一緒にどうです?

 バスケットボールでも」


焼けた肌にムキムキの筋肉男たちの中に入って俺が何をできると言うのか。

丁寧に断らせてもらう。

壁に手を着いて立ち上がり海の方向を見た。

双眼鏡なんか持ってきたんだよ、実は。

海は何かと面白いからな。

目にレンズを当てぐるりと眺め回す。

キラ、とその中何かが光ったのは錯覚だと思った。

はじめは。

ワイヤーか何かが光ったのだ、と納得したかった。

光ったそれは俺の目にすら認識出来ないほど程度の小さいものだったからだ。

海面が光っただけ――か?

ぞくっとする明らかな殺意を持っている。

レーダーをかい潜るような低空で向かってくる『それ』。

ようやく円錐の精錬された形、小さな翼が見え始めた。

数は……十より多い。

ヴォルニーエルの乗組員たちはまだ気がついていないのだろうか。

ブリッジに知らせなくては……。

距離は――およそ五千。

目測で計算して無線機を取り出した。

通話スイッチを押すよりも早く鼓膜を破る勢いでサイレンが鳴り響いた。

バーべQなどをしていた兵士達がてきぱきと配置についてゆく。

もちろん火の始末は忘れない。

サイレンと共に機銃にとりついた男は俺に


「どっちだ!!」


と大声でサイレンに負けないようにがなりたてた。


「あっち!

 十時の方向!!」


方角を指し示し男に教える。


「どいてろ!」


スコープを覗いた男は目標を発見したのか、三連装機銃を発射しだした。

空気の裂け目を率いて鉛が空を舞う。

水柱を立ててミサイルに何発かの弾が着弾した。

膨れ上がる爆発を潜り抜け残りのミサイルが襲い掛かってくる。

距離はおよそ二千。

と、ようやく風が頬を叩くのをやめた。

万能の守りイージスが作動したのだ。


「これで……」


ほっと安心した俺達は完全に傍観者の立場を取っていた。

だがミサイルは突っ込んでくる。

普通のものの三倍はある巨大な物だ。

それが大きくホップアップしたかと思うと急降下。

一般的な対艦ミサイルと変わらない動きだ。

どうせイージスが避けてくれるだろう。

みんながそう思いミサイルから目を離した。

いつもならそこで強制的に方向性を変えられたミサイルは目標を認識できずに

海へ落ちる道しか残ってはいないはずだった。

安心しきっていた。

イージスに触れたミサイルの弾頭から強烈な光が発せられるまでは。

シエラやメイナがメガデデスと戦ったときに見たあの光だ。

赤にも、青にも捉えれる光――。

まさか、あのミサイル……イージスを?

答えあわせのつもりだろうか。

ミサイルは艦首に一発ぶつかったかと思うとその弾頭を炎に変えていた。

後に続くミサイルたちが超兵器の甲板に一つ、二つと花を咲かせた。

熱風で閉じた目の端にばらばらになった人がちらりと映る。

熱風が肺を叩き一瞬息が詰まる。

続いてやってきた衝撃波が手すりに体を叩きつけた。


「う……!」


大きな悲鳴とサイレンが鳴り響き超兵器が焼ける悲鳴。

目に映るのは大きな火柱と燃え盛る甲板。

そして火を消そうと駆けずり回る兵士達と折れ曲がった砲身だった。

血で染まった甲板、転がった頭……。

連合郡はいつのまにあんなものを創りあげていたんだ?

悲鳴と怒号が甲板を駆けずり回り砕けた機銃が転がる。

手伝いに入ろうとした俺の頬をゆっくりとまた風がなで始めた。

万能の守りイージスが弱まっているのだ。

イージス放出口だけをさっきのミサイルは狙い済まして攻撃してきたのだろう。

黒煙が空へと伸びその黒煙をかき消すように三隻影がゆらりと滲み出してきた。


「冗談だろ――?」


視界に映ったのは……。

円盤型超兵器三隻だった。






               This story continues.

ありがとうございました。

もうどこが怪盗なのかと。


本当に。

そう突っ込みたいところでしょう。


僕もです。

声を大にして言います。


どこが怪盗なんだー!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ