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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
文化祭な季節☆
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後ろは振り向かない。

振り向いてたまるか。

絶対に、絶対に振り向かないぞ。

決意を決める。


「……?

 波音君?」


ぎゅっと、温かいものに手が握られた。

小さいけど温かい……。

これをされて無視は無理だわ。

決意が崩れる。

あきらめてアリルさんに話しかけることにした。


「…………。

 どうした?」


俺は観念して俺の手を握った主、アリルを見た。

ほっぺを膨らませ、むっとした顔で俺を見上げているアリルさん。

上目遣いとか反則ですけど。


「波音の友達だね、ハロー☆」


セズクがやや固まりながら俺とアリルの小さな隙間に潜り込んできた。

何をするつもりなんだ。

アリルの顔に苛立ちが浮かぶ。


「いえ、彼女です」


アリルは笑いながらセズクをおしのけ、俺にね?と尋ねてくる。

まぁ……事実だからな。

否定はしないぞ。


「いーや、お友達だね♪

 だって、波音は僕のものだもの♪」


それこそいーや違うね。

なして俺がお前のものなんだよ。

いつからだ、その基準は。

頭に茸でも群生してるのか。


「いえ、波音君は私のものですっ!」


そうだ、それもちょっとどうかと思うけど一応正しい……はず。

いけいけ、アリルさん。

俺は応援するぞ。


「じゃあ君は波音のあーんな所にほくろがあるのを知っているのかい? 

 星型の……だよ?」


ん?

俺にそんなほくろあるのか?

あーんな所ってどんな所だ。

というかいつ見た、言え。


「えっと……。

 し、知ってますよそのぐらい!」


赤くなりながらアリルはセズクに噛み付く。

セズクはうっすら笑いを貼り付けながら


「へぇ……?

 波音には星型のほくろなんてないはずだけどなぁ?」


と、意地悪く反撃に出た。

これだけでこいつのやらしさが滲み出してるな。

やらしいわぁ。


「ん? 

 一体どういうことなのか説明してほしいなぁ♪」


によによとアリルを言い負かしたことにいい気になり調子に乗り始めるセズク。


「えっと、その……」


アリルが困った顔になり、そろそろ助けてやるか、と俺は重い腰を上げた。

別に見ててもいいんだが目覚めが悪いことになりそうだ。


「やれやれだな。

 俺達は自分の部屋に行くとしようぜ?」


二人の肩に手を置いて提案してみる。

それに便乗したメイナが


「わ、私もそうした方がいいと思うよっ! 

 ね、仁?」


と追加砲撃してくれた。


「お、おうよ。

 とりあえず部屋に行こうぜ」


キマリだな。

目から火花を吹き出してばちばちしている二人はこの際に

一気にばらばらにしてしまった方がいいだろう。

この超兵器の中で喧嘩されても困るしな。

全員で歩き出そうとしたがセズクだけは


「ちょっと野暮用♪」


といって、近くの階段を登って姿を消した。

野暮用……。

あいつが野暮用ね……、気になるじゃないか。

別に深く追求しようとは思わないけどよ。


「なぁなぁ、ちょいちょい、おいおい」


「呼びすぎですよ。

 どうかしたんですか?」


「父上とかはどうしたんだ?」


歩きながらアリルさんに問いかけた。

ハンザさんの行方が気になるじゃないか。

俺を息子と言ってくれたお方だぜ?

俺の親父たちを殺した張本人だけども……さ。


「シンファクシ……さんでしたっけ?

 そのお方と話しています」


アリルは地面においてある空き缶を不思議そうに眺めて通り過ぎた。

あちゃー。

あの二人は会わせたらまずいだろうに。

絶対に駄目だろう、常識的にも。

仁が空き缶を蹴り飛ばし壁に当たって気の抜ける金属音がこだまする。

それと同調するように急に小さな音が支配しはじめた。


「……動き出した」


「ひょい!?」


耳元で呟かれたお陰でビックリしてしまった。

シエラか、どこにいたんだ。


「よっ、です!」


「ういーす」


お前らは部活中の男子高校生か。

違うだろが、アリルとシエラさんでしょう?

もうちょっと、ナデシコ的にいかないものか。


「どこ行ってたんだ?」


仁がさっき蹴飛ばした空き缶を拾いつつ投げてゴミ箱に入れた。


「シンファクシと話してただけ。

 それより、部屋どこ?」


「えっと……この近くだと思うんだが……」


仁の持つ地図をシエラが横から覗き見する。

俺は少し離れて小さく設けられた窓から外を見た。

まだつけられて新しい窓、元の超兵器にはなかったものなのだろう。

そこから見た外は赤く、暗かった。

比較的に俺達がすむ街は海に近いためもう海岸線が見えてきている。


「お、ここだここだ」


俺がその景色に釘付けになっている間に仁が部屋を見つけて、声をあげた。

俺は窓際から離れこっそりと部屋の中を覗き込む。

船内奥深くに設けられたこの部屋はけっこう……いや案の定狭い。

そりゃそうだ。


「うわぁ……鉄臭いですね……」


アリルが天井から床までを見て感想を述べる。

仁は隣の部屋とか聞いたけど……。

シンファクシ元帥間違えた系?

意外とおっちょこちょい?


「俺と波音が同じ部屋でシエラとメイナが隣のお部屋か……」


間違えてるじゃないですか、元帥。

一人一部屋なんてバカなことはないと思いましたよ。

戦艦だからそういったスペースは考慮されないよな、流石に。

仕方ない、あきらめよう。


「私はお父様とお母様のところに一度戻りますね?」


俺の裾を引っ張ってそういうとアリルは廊下の角を曲がって行った。

迷わなきゃいいんだが……まぁ大丈夫だろう。


「おう。

 じゃあまた……」


少し大きな声を出して角まで追いかけ見送る。


「はい!」


金髪を揺らしてアリルはかけていった。

部屋に再び戻って頭を掻く。

金属製の天井に床、壁。

蛍光灯が添えつけられた机が一つとベット。

ちなみに二段ベットである。

木製かと思って触ってみたが金属製だった。

とことん自然物を排除しているなぁ。

申し訳ないようにプラスチックの小さな植木が机の上においてあるのがせめてもの情けと言えた。


「じゃあ僕達は自分の部屋に行くから……」


シエラがその植木を触って全ての興味が失せたのか


「じゃーねー♪」


メイナと一緒に部屋から出て行った。

そしてドアが閉まる……それが合図だ。

バタン、と。

俺と仁は走って先を争った。

一歩踏み出した仁の首筋を掴み、とどめると同時に俺の体を前へ押し出す。


「ぬぉぉぉぉぉぉ」


仁がゆらりと後ろに倒れる瞬間に俺の左足を掴みやがった。

バランスを崩した俺の体がつんのめり、二段ベットの上に肩がぶち当たる。

鈍痛に歯を食いしばり反撃のために仁を蹴った。

顔なんか蹴られた日には人間、驚くのだ。

驚くとひるむ。

ひるんだ仁が力を緩めた隙にさっとに左足を引き抜き、無事に二段ベットの上を確保した。

多分五秒以内の出来事だったと思う。


「くっそ……。

 いててて……」


俺が蹴った鼻を押さえつつ仁が起き上がった。

赤くなってる。


「すまん。

 そんなわけで俺が上な?」


勝利のVと笑顔。

敗者は地面にのた打ち回ってればいい、ふははは!


「はいよ……。

 ったくもう……」


口を尖らせて仁は下に引っ込んだ。

それにしてもシャワーないかな。

この煤まみれの体を洗いたい。

肉が焼ける、嫌な臭いもする。

いつの間にか熱によって溶けかけた痕がある携帯を取り出して時間を見た。

時間帯は午前一時前。

シャワーを探して部屋を見渡す……。

あるわけないか。

ここはホテルではないのだ。

幸いにしてあまり汗はかいてないし……。

服だけ着替えて……。


「じゃあ俺、大浴場行ってくるわ!」


「おう、行ってらっしゃい」


仁はそういって走って部屋を出て行った。

さて、シャワーがないとなると……っておい!


「俺も行く!

 ちょっと待てや!」


あわてて部屋から飛び出した。






まさかこんなところにあるとは……。

驚きである。

本当にここは戦艦の中なのだろうか。

極めて謎であると共に自分の誤解に頭が痛くなる。

部屋からエレベーターを登り艦橋基部に向かう。

機関によって生じた熱がお湯を沸かしているみたい。

丁度いい湯加減でばばんばばんばんばんである。

分厚い鋼鉄にくりぬかれた小さな窓を開け下を見ると

永遠に続くかもしれないと錯覚させられるほど広大な甲板に

米粒よりも小さな人がちょろちょろしているのがかすかに見えた。

甲板に走っている奇妙な模様のお陰で明るい明るい。

蛍光灯要らないんじゃないかってぐらいに。

窓を開けて何かが足りないと思っていたがふと分かった。

風だ。

微速で進むこの船はイージスで守られているお陰かまったく風がない。

それはそれでどこか悲しい。


「ZndieηEn~♪

 Le HenΛMs Es"Ie~♪」


一緒に風呂に入っている数人の兵士が歌を歌っている。

小さな帝国のあるお話だ。

俺はその歌をバックにお湯に使ったまま外を見た。

真っ暗な海が広がり真っ黒な空が包み込む。

帝国郡と連合郡の戦争はいつまで続くのだろうか。

もう街が爆撃されるのも……。

人が死ぬのも見たくはないのだ。

海と空という決して相容れない存在を見るとふとそう考えてしまった。

水と油を見るだけでこれを考えそうだな、俺は。

俺だけが悩んだところでどうしようもないことだというのに。

それに……。


『大切なものが消えるとき

 三つの死は姿をあらわす。

 死は力を使い地上を無に戻す。

 死は鬼神となり

 恐怖の中で消えていく。

 大切なものを失った悲しみと共に』


この言葉もよく聞くが……。

そういえば昔、シエラは続きがあるとかどーとか……。

気のせいか?

まじめに考える俺の前に飛沫を立ててアヒルのおもちゃが着水した。

その衝撃で


「ぐわっ」


と鳴きやがる。

仁が手に持ったアヒルのおもちゃを俺に投げつけてきのだ。


「…………おい」


気持ちも分かるが……。

アヒルを掴んでぷにぷにした。






                  This story continues.

ありがとうございました。


だんだん受験が近くなってきました。

うぅ、怖いなぁ……。

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