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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
文化祭な季節☆
109/210

交渉術

「よかろう。

 妻と娘をまずこちらに寄越してもらおうか」


シンファクシの冷めた声が張り詰めた空気を揺らした。

腕を組み、その目はハンザ、つまりアリル父をじっと見つめている。

めがねが液晶の光を弾き俺からはシンファクシが何を考えているのか読み取れない。


《……すまない》


アリル父が薄っぺらい謝りを出した。

少しでもシンファクシの機嫌を取っておこうということなのだろう。

その意図に気がついたかどうかは明らかではないが


「ただし、貴様が変なまねをしたら……。

 遠慮なく殺す。

 覚えておくがいい」


シンファクシは聞いているこっちがひやりとする殺気を含んだ声を返していた。

そのまま受話器を元の場所に叩きつける。


「くそ……。

 忌々しいクソ男だ」


シンファクシはそういって首に手を回した。

パキパキと骨がなる音がする。


「出てきました!

 いち、に……、三人います!」


オペレーターが液晶に豆粒のように映る人物を目を細めてみていた。

シンファクシはにたりと笑うとオペレーターの頭を小さく叩く。

俺も出てきた三人を見たくて小さな窓から外を覗き込んだ。

窓の外には燃え盛る街と真っ黒な空だけが映っていた。

ただ一箇所を除いて――だが。

炎の海の中、陸の孤島となったアリル家の前。

あのクソ広い中庭のような場所にまた米粒のようなみっつの人影が出てくるのが見えた。


「拡大しろ」


シンファクシのその言葉で俺は場所を移動した。

今度は大きな液晶パネルを見ることとする。

液晶に映った三人が拡大されてゆく。

制服姿のままのアリル、そしてアリルを少しお姉さんのようにしたマダム。

その二人の肩に手を置いているのはアリル父、筋肉がすごい。


「無事みたいだね」


シエラがその映像を見て俺に「ね?」と首を傾げてきた。

ああ。

良かった、無事で。

メイナが連れて行ったアリルは怪我一つもなしに立っていた。


「元帥、これを」


「ん? 

 ああ、すまない」


シンファクシに一人のオペレーターが自分のヘッドフォンを渡した。

それと同時に艦橋内スピーカーのスイッチを捻る。

ここの乗組員に不安を抱かせないための配慮だろう。

お陰でスピーカーから流れてくるアリル父の声は俺の耳にもばっちり届く。


《……こちらが見えるか?》


アリルとマダムがしゃべる声がかすかにその通信の後ろから聞える。

超兵器に驚き、言葉を発さざるをえないのだろう。

そりゃ驚くわな。

出てきて全長一キロを超える巨大な戦艦が空に浮いていたら。


「ああ」


ぶっきらぼうに答えてシンファクシは腕を組んだ。

何かを考えているのだろうか。


《俺は……どうすればいい?》


まるでこちらが見ていることを分かっているかのように

液晶の中のアリル父が両腕を広げてわかりませんのポーズをした。


「……そこで待っていろ。

 今、我が艦から迎えを出す」


シンファクシはマイクにそう吹き込むと飛行甲板につなぎ司令を下した。

迎えといってもあれだ。

垂直離陸が出来る戦闘機だ。


《こちら飛行甲板です。

 三機のF27を発進させます》


「目標は暴れるかもしれん。

 慎重にな」


《はっ!》


三機が超兵器の後部に設けられた大きなヘリポートから飛び立ってゆく。

船体が巨大なお陰でこういうのもつめるようになったらしい。

もともとはついていなかった設備らしいが。

エレベーターのようなものまでついている。

一体何機収納しているのやら。

第一期一九八〇年に建造された日本帝国の《戦艦大和》が確か五機つんでいたから……。

軽く二〇機程度は積んでいるのか?

軽空母並だな、これはすげぇ。

飛び立ってすぐに『お迎え』の船はアリル家の広大な敷地内に着陸した。


《……これに乗ればいいのか?》


巻き上がる煙に覆われ見えなくなるアリル父が少し不安なのか

部下に赤外線レーダーに切り替えさせる。

戦闘機からでる排気のそばに人の形をした三人が立ち、それぞれ分かれて乗り込んでいるのが見えた。


「早くしろ。

 遅い」


シンファクシは明らかにいらいらしていた。

一刻も早くこの場所からどきたいのだろう。

なんていったって敵地のど真ん中だもんな。


《さ、アリル、早く。

 気をつけて……そうだ。

 さ、お前も早く乗るんだ。

 私は最後でいい、早く》


アリル父は娘と妻をせかしながら自分も半分だけ乗り込む。

二人がきちんと乗り込んだのを確認してようやく最後の足を戦闘機の中に入れた。

三機の戦闘機はぶつからないように適度な距離を保ってアリル家から離れる。


「艦橋からロバート隊各機へ。

 直ちに状況を報告せよ。 

 荷物は無事か」


《はっ……。

 今三人を収容した。

 今から帰艦します。

 なお、荷物は心配されたように暴れる気配はありません。

 いたって静かです》


「ここで命を捨てるほどバカじゃないか」


その報告を聞いてシンファクシは小さくそう呟く。


「一度通信を切る。

 貴隊の帰艦を心から待っている」


《こちらロバートワン、了解しました》


ぶちん、とスイッチを切る音がした。

艦橋すれすれの所を三機の戦闘機が横切る甲高い音が聞える。

無事に収納に成功したのだ。

戦闘機が入ってくる場所を一時的にイージスを消しさる司令を出して

シンファクシはつかれきった顔を天井に向けると椅子に座り込んだ。

長いため息をつき目をつぶる。

お疲れ様です、元帥。

それはいいのですが俺はいつまでここにこうやってスタンダップしてりゃいいんです?

永遠、なんて言わないで下さいね?


「……っふー……」


目をつぶり深呼吸をする若い元帥は足をまた組みなおした。

明らかにその顔は疲労に包まれている。

この方、ちゃんと寝てるのかな。

美人が台無しな気がするよ。


「さて、レルバル少佐。

 思わぬ邪魔が入ったな。

 次は貴官のことだが……」


しばらく目をつぶり疲れを取っていたのだろう。

少しの時間がたったと思ったらシンファクシは俺を問い詰めようと身を乗り出した。


「はい」


やっぱり根掘り葉掘り聞かれるんだろうか。

あははーうふふー【禁止用語】とかまで。

だから、俺はどこも進んでないんだって。

なんて言おうか。

シンファクシは俺がDTじゃないよっ、て言うまで質問をやめそうにない。

残念、俺はDTだ。


「と、思ったが疲れたからもういい。 

 しばらく不問としよう。

 貴様には第二十四区画の一一九〇部屋をやる。

 そこでアフリカに帰るまでのんびりするがいい」


え、行っていいの?


「はっ!」


少し返事が遅れてしまった。

もう俺は不問?

ということは用無し?

っしゃ、きた。


「帰りはのんびり行くぞ。

 二日ぐらいかけて帰る。

 貴様の相方、仁は隣の部屋だ。

 またその隣にシエラとメイナがいる」


仁ももう来ていたのか。

道理で姿が見えないはずだ。


「あの、セズク……は?」


俺が気になって尋ねたとき後ろからがばっと抱きつかれた。


「ひゃっ!?」


「――ここだよ♪」


「ばっ、離れろーっ!

 抱きつくな、俺の胸をさわさわするな!」


やめんかい!

気持ち悪いだけなんじゃっ。


「えいっ」


「マイハニーはかわいいごぼぅ!?」


俺の胸を揉みあげてくるこの男のわき腹にシエラの蹴りが入った。

イケメンさんには不釣合いな「ごぼう」とかいう音をたててセズクが艦橋の壁に激突する。


「あまり暴れるなよ」


元帥は部下が持ってきたコーヒーをすすった。

とめようよ、元帥。


「が……ふ……」


壁は流石は超兵器というほど頑丈である。

セズクがぶつかっても凹みもせずにセズクの体を受け止めて見せたのだ。

分厚い装甲のお陰だろう。

俺はそう思うとセズクから目を離して元帥に戻した。


「さて、鬼灯の野朗もこの艦に乗せて連れて帰るとするか。

 一体どこにいるのやら……」


コーヒーを全部飲み終えてシンファクシがそうぼやいた。

俺はその呟きを聞いてしまった。

聞かなきゃよかったと思う。


「あっ……」


だけどそれで思い出したのもまた事実だ。

あまり伝えたくない出来事だが伝えなければならない。


「その……元帥」


俺は静かに元帥に話を切り出した。

そっと、だぞ。

割れ物注意だ。

八つ当たりで俺が殺されかねんからな。

まだ死にたくはないし。


「どうした?」


俺の声になにやら不穏な色を嗅ぎ取ったか

シンファクシは顔を緩ませず返事を返してきた。


「その、おっさん……あ、いえ。

 あの、……鬼灯のおっさんが……死にました」


俺は小さくだが確実にシンファクシに伝えた。

戦闘機のエンジン音が近くなり、遠のいた。


「――――!」


シンファクシは椅子のひじおきを叩いた。

またオペレーターの連中がびくりと震える。


「俺が行ったときにはすでに……」


シンファクシは小さく「そうか」といっただけだった。

コーヒーカップを握る手が小さく震えている。

シンファクシは目を閉じてうつむいた。


「それと……」


「何だ?

 まだ何かあるのか?」


「……その。

 おっさんには子供がいるんです。

 詩乃という……子供が」


俺がそれを伝えたとき、シンファクシは目を見開いた。


「それは本当か!?

 よかった、守護四族の一族が消えるところだった!」


「おうおうおうおうおう」


俺の肩に手が置かれ興奮で自我が効かない元帥に揺さぶられる。

酔う、酔う。

元帥ストップ、やめて。


「その子も……一緒に連れて帰るとしよう。

 レルバル少佐、連れてきてくれないか?」


まだ興奮しているのか頬を赤く染めて俺に命令してきた。

断るわけにはいかないだろ。


「分かりました。

 シエラ、行くぞ」


俺は敬礼をしてシンファクシに背を向けた。


「頼んだぞ!」


今だ壁にもたれかかって動かないセズクさんとその横に立つシンファクシは

俺になぜか笑顔だった。

ホモ野朗の笑顔はきっと、嫌な笑顔だろうな。

エレベーターに乗り込み扉が閉まる。


「……ふー。

 すげぇ緊張した。

 こわかったぁ……」


ようやく一息つくことが出来た。

元帥怖いんだもん。


「おつかれさま」


俺の隣に立つシエラは「うーん」と伸びをした。

お主も疲れていたか。

そりゃあれだけ長い


「というか、お前な。

 どうして恋人同士ってばらしちゃったのよ。

 アレがなければもっとスムーズにだな」


俺、お前って呼び方は極力使わないようにしているんだがたまに使ってしまうときがあるんだ。

今みたいに。

俺が抗議するのをさらりと受け流すかのようにシエラははにかんだ。

なんだ、何か言いたいことでもあるのか?


「でも、あそこで僕が言わないと……」


エレベーターが止まった。

シエラに背中を押され艦橋から外に出る。


「シンファクシ、きっとアリルの家に爆撃光を叩き込んでたよ?」


「……………」


そうか……。

言われて見ればその通りだ。

あの元帥のことだ。

間違いなく即効でアリルの家を消し飛ばしていただろう。


「さ、つかまって。

 行くよ」


シエラが俺に手を差し出す。

俺はちらりと、霞みのように小さなヘリポートに目を移した。

三機の戦闘機はそこに着陸して羽を休めている。

無事にここにたどり着けたのだろう。


「さ、飛ぶよ」


シエラの機動力はいわずもがな。

あっという間に地表すれすれを飛ぶ。

湧き上がる火の粉を消し飛ばし、俺達が通った後の火は消え焼けた道になっている。


「すぐ下の学校から探そう。

 レーダー使える?」


「使えるよ。

 でも名前までは分からないからいろいと確かめなきゃだけど」


「あと俺を頼むから火の中にくべるようなまねはしないでくれよ?」


俺は下を見た。

あっつそぉ……な火が舌をちろちろと出して舐めようとしている。

シエラのイージスがなかったら今頃熱で窒息死しているだろう。


「下は灼熱地獄なんだ。

 俺は人間で、よわっちい存在なんだ。

 だから落とすなよ?」


弱い存在……。


「分かった」


シエラは俺を見ないで返事だけした。

自分で言って気がついた。

セズクに話をしたとき、あいつは……。


『何かを救うには何かを失う』って。


そう言っていた。

俺がおっさんを失ったことによってアリルが……。

そういうことなのか?


「降りるよ?」


急に高度が下がった。

学校の燃える校庭が下に広がっている。

もともと屋台の並んでいた校庭は肉が焼ける臭いやビニールなど焼けて出る

黒い黒煙に覆われていた。


「だから!

 ここは火の海だろうっ!

 人の話を聞いていたのかお前は!」


「ごめん」


謝って済むなら警察はいらねぇっ!






               This story continues.

ありがとうございました。

少し早めに投稿させていだきました。

実はおいら、今週の土曜日、日曜日と入試なのです。


そんなわけで……ええ。

ちょっと早めの更新です。


読んで頂きありがとうございました。

ついでにいうと14日はおいらの誕生日でした。


さあ、プレゼントとしてポイントを入れるんだっ←オイ

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