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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
文化祭な季節☆
108/210

怒号の嵐

「恋……人?」


シンファクシが怪訝な目を向けてくる。

俺はその場で立ち尽くす。


「あ、いや……」


艦橋の中が静まった。

みんな俺達の会話に聞き耳を立てているのだ。

余計に話したくなくなる。

これもシエラが言わなかったら……。

このおばかさんがっ――!

俺の怒りの痛みを食らうがいい。

俺は思いっきり、シエラの足をシンファクシから見えないように踏みつけた。


「痛っ!

 な、何……?」


シエラが少し涙目になって俺を見てくる。

だがここで無視。


「ねぇ、何なの? 

 何で今、僕の足を踏んだの?」


「……………」


「ねぇって」


しつこく聞いてくる。

ここで返事をしたら負けなのだ。

というか、シンファクシがこっちを見てるんだよ。

バカシエラ、俺に今話しかけるな。


「…………ふっ」


でも、少し面白かったので笑いが鼻からはみ出た。

世界広しと言えども最終兵器を笑うなんてことが出来るのは俺だけじゃないか?


「こんのぉ………」


膨れっ面をした最終兵器は俺を睨んでくるがここでもまた無視。

完璧に俺のペースだ。

ただ、予想外だったのは


「いったぁ……」


シエラも俺の足を踏み返してきたことだ。

この野朗、ええ度胸や。

少しぷっちんきたわ。

天下の足踏みボーイと呼ばれた俺の力を貴様は知らないだろう。

お前は俺を怒らせたんや。

きーっちりとその礼はさせてもらうでぇ……?

さぁ、くたばれ。

我が連打足踏みの前にその膝を屈するがいい。


「痛い……!

 波音、あのね……」


「ふふ。

 お前は俺を怒らせたんだ。

 それ相応の痛みでその罪を償ってもらうぞ」


呆れ顔のシエラ。

俺はますます調子にのってシエラの足を踏む。


「何をしている?」


しまった。

シンファクシが俺を凝視していた。

不自然に動く体に目をつけたのだろう。

見つかっちまった。


「はっ、いえ……。

 あの、その……」


何て言う?

天下の足踏み喜太郎とでも言っておくか?

でもシンファクシのことだ。

下手に変なことを口走ったらそこから突っ込まれる。

で、ジャッキでぼこぼこに口を開かされるに違いない。


「あの……その……」


いつまでたっても言い出そうとしない俺に痺れを切らしたのか


「――……よい。

 不問にする」


シンファクシもシエラとどっこいの呆れ顔で俺にため息をついた。

なんか、ホント、すいません。

失望ばっかりさせてしまいまして。


「……で、その恋人というのは本当なのか?」


ここ戦場なんだぜ?

シンファクシの後ろのスクリーンではまだ超兵器の砲が火を吹いて

爆撃機をがんがん叩き落しているんだぜ?

そんな中俺に聞くか、普通。

独特の恋話の雰囲気が外の戦場とはまったく違った雰囲気としてこの中に流れていた。

人の恋話にシンファクシも興味津々なことから、やっぱり女だなぁ、と実感する。

ぶっちゃけほっといてくれ。


「え……と。

 その……」


「早く発言したまえ。

 どこまでいった?」


いくも何もどこも行ってない。

キスすらしてねーんだぞ、毎回変な邪魔が入るお陰で。

なんでかは知らんが。

邪魔されている方としては果てしなく腹が立つんだが。


「えーとですね……」


仕方ない、言うか。

言うしかないか。

と、俺が腹を決めて口を開いたときだった。


「また一機撃墜!

 シンファクシ元帥!

 これで敵の脅威レベルはゼロになりました」


わっと、艦橋内が沸きあがる。

シンファクシは俺から目を離した。

髪の毛を整えた後シンファクシは立ち上がって


「よくやってくれた。

 一旦、ここはひくこととする。

 ここは敵地のど真ん中だからな。

 機関全速で直ちにこの空域を離脱だ。

 一気にアフリカの帝国郡本部まで帰ることとしよう。」


シンファクシがそういって席に座った。

目は俺を見ている。

あーあ、逃げれると思ったんだけどなぁ。

駄目でしたか……。


「で………だ。

 レルバル少佐、貴様どこまで行ったのか正直にだな……」


シンファクシの話を遮るように甲高い音が鳴り響いた。

目と目の間にしわを寄せてむっとした表情のシンファクシに

オペレーターが状況を伝える。


「元帥!

 通信が入っています!

 発信源は……ハンザと名乗っています!」


シンファクシの顔にさっと、怒りの色が差した。

顔が険しくなり、手に鉄製のペンを持つ。

それをくるくる回しながら


「私に回せ。

 秘匿回線で取る。

 コード25141Aだ」


シンファクシは座席についた電話を取り耳に当てた。


「了解です」


オペレーターがコードを打ち込み決定ボタンを押す。

お、何だ。

この調子だと俺は恋話をのろけなくてすむんじゃないか?

だべるのはあまり好きじゃないんだよ。

ちなみに、のろける、もだべるも言うとおんなじ意味の動詞だからな。

分からない人のために一応言っておく。


「通信、開きます」


オペレータの張り詰めた声に、さっきまで勝利に沸いていた

艦橋の中がしんと静まった。

シンファクシも緊張の面持ちで受話器を握り締める。


《久しぶりだなぁ、シンファクシ》


なんか聞き覚えのある声だな。

確かこの声……。

もしかしてハンザって……アリル父!?

かっけぇ、名前。

俺も永久ハンザとかが良かった。

波音ってお前……。


「やあ、ハンザ。

 久しぶりだな」


シンファクシも皮肉に聞える返事を返した。

売られた喧嘩を買ったわけだ。

ここで互いにだんまりの時間が来る。


「ハンザってアリル父?」


シエラがこそっと俺に聞いてくる。


「多分……。

 こんなしゃべり方するとは思わなかったけどな」


俺もこそっとシエラに返した。


「……用件を聞こうか」


シンファクシが折れて、ようやく口を開いた。

この二人、本当に仲が悪いんだな。

怒りというよりかはアリル父を殺す手段を今シンファクシは考えているに違いない。

なにより彼女は今超兵器を手にしているのだ。

すぐにでも殺すことが出来るだろう。

それより驚いたのは俺はこんな声をしたアリル父を見たことがない。

こっちが本当の面だったと言うことだろうか。

いつも見せているのは表でこっちが裏……。


《なぁに、簡単なことよ。

 一つ頼みがあるだけだ。

 とってもお前に頼みたいことがな》


シンファクシは顎をかすかに動かし、部下に命令した。

目で承諾を述べた部下は液晶に浮かぶボタンをいじる。


「頼み……だと?

 貴様、ふざけているのか?

 死にたいのか?」


《いやぁ? 

 本気も本気さ。

 本気と書いてマジと読むぐらいにな》


おっさんジョークか。

おもっしょねーぞ、おい。

場が一気に白けたぞ。

何でこの場で使おうと思ったのか理解に苦しむ。


「ふん……」


笑ってんなよ、元帥!

どんだけ沸点低いねん!

そのシンファクシに一人の部下が近づき、耳元でこっそりと報告した。


「目標、ハンザ宅にセット完了です。

 合図で一斉射撃できます」


その声はこっちに意図的に漏らしたのか、はっきりと聞き取ることが出来た。

オペレーターなりの配慮だったのだろう。

これは、シンファクシがその気になればアリル父の家は吹き飛ぶ……ということ。

連合郡の爆撃を受けなかったあの無傷なところ。

そこに次々とレーザーが叩き込まれることになるのだ。

超兵器の、最終兵器並みのレーザーがな。


《……で頼みというのはだな。

 その、なんだ。

 非常に言いにくいことなんだが……》


「…………?」


アリル父の声は恥ずかしがっていた。

急にアリル父の威厳ががくっと下がった。

シンファクシもそれを感じたのだろう。

頭の上に大きな?を浮かべている。

そして、このときのアリル父の声は俺を息子として見ているときのようだ。

感情を隠せない人なのだろう、多分。

諜報とか、スパイとかには不向きだな。

人の上に立つ……としては情熱的でいいのかもしれないが。


「言いにくいこと……?

 何だ。

 言え、機密事項か?」


機密事項だと余計にいえないでしょう、元帥。

落ち着いてください。


《いや……。

 俺達一家を、帝国郡にかくまって欲しいんだが》


へ……。

俺ですら混乱するというのにシンファクシが混乱しないわけがない。

ましてやそれがオペレーターとかになるとなおさらだろう。

そんなわけで一瞬の間が空いた。


「ふざけるな!!!」


シンファクシは顔が赤を通り過ごして青になっていた。

手に持っていたペンをへし折る。

すげぇ握力だ。

あれ、鉄で出来てるんだぞ。

それをへし折るなんて……。

絶対にこの人は怒らせたら駄目なタイプだ。


「貴様が我が一家にしたことを忘れたとは言わせん!

 無関係な永久家まで巻き込んだではないか!

 それも鬼灯という平和を望む一家を引きずり出すために!

 貴様は一体何を考えていえるんだ!!

 このいかれた人殺しが!」


人殺し――。


《……俺は歳を取った。

 もう、小さなガキが空襲に怯え、人の死に怯えるのを見たくないんだ》


アリル父は疲れ切った声をしていた。

ぐったりと張りが消えていた。


「勝手なことを言うな!

 貴様が連合に寝返らなければこの戦争ははじまらなかった!

 この世界戦争で何人死んだと思っている!

 一億を超える人間が死んでいるんだぞ!?」


《………。

 本当に俺は愚かなことをしたと……。

 娘に――言われて分かったんだ。

 娘は俺の今までやったことを全て俺に言って聞かせた。

 そこで俺は我に返ったんだ。

 自分の娘に嫌われるようなことを俺はやっていたのか、と》


アリル……。

言ったのか、親父に。

認めたくはなかっただろう、自分の父が人殺しだと。

俺は嫌だ。

自分の親が人殺しなどと絶対に認めたくない。


「貴様……!」


《頼む。

 俺は殺してくれて構わない。

 ただ、妻と娘だけは……》


「…………」


《守るものがあるとは……、こんなにいいものなのだな》


アリル父の声はさっきまでの声とは逆のものだった。

守るものがある……?

妻と娘ということか。

自分勝手だ。

俺の肉親、姉を殺しておいてその台詞か。






             This story continues.

ありがとうございました。

シンファクシ、どんな心境なんでしょうね。

波音も……どんなことを考えているのやら。


アリル父、ハンザって名前です。

かっけぇ。

なんだこの名前、にくたらしい。

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