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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
文化祭な季節☆
107/210

すいません。

「なぁ、シエラ。

 俺ちょっとシンファクシと話がしたいんだ。

 星夜楼の中に連れて行ってくれないか?」


俺は空を見上げながらシエラに話しかけた。

シエラはしばらく考えたように腕を掴んでいたが


「分かった」


そういうとこくんと小さく首をかしげた。


「さんきゅっ」


「艦首に降ろすね?」


「了解だ。

 あ、でもゆっくり頼むぞ?

 痛いのいやだかんな?」


「……そんなことしない」


本当かいな。

シエラは降ろすときに勢いよく地面にたたきつけるように落とすのだ。

それがまた痛い、痛い。

足の裏がじーんと来る。


「波音、気をつけて」


セズクが空を見ながら目を細めた。

超兵器とビルの隙間から見える空にはまだ爆撃機が飛んでいる。


「シエラがいるから大丈夫――だと思いたい。

 ありがとうな、セズク」


「……ハニーにありがとうって言われたっ――!

 やっほいっ!」


うぜぇ。

言わなきゃ良かったよ……。


「じゃ、シエラ頼むわ」


「ん」


俺はシエラが差し出した手を掴んだ。


「行くよ?」


一瞬にして地面は遠く離れた。

地上からおよそ二百メートル付近を飛んでいる超兵器にたどり着くまでの時間は

ほとんどゼロに近かったと言ってもいい。

それぐらい早かった。


「イージス……。

 どうしようかな」


シエラがヴォルニーエルの甲板に降り立つ前にぴたりと空中で止まった。

前言撤回だな。

ゼロ以上かかりそうだ。


「破っちゃえ」


「いいのかよ……」


ぶん、と耳に小さな音が入ってきた。

イージス、最終兵器が纏う最強のバリアが起動した音だ。


「ん――。

 よし」


シエラは一人で勝手に気合を入れると右手をおりゃーと突っ込んだ。

強烈な光が発し、イージスに隙間が出来たようだ。

見えないから分からないんだけども。


「ついたよ」


のんびりと最終兵器がだべったとき、足が硬いところについた。

鋼鉄に覆われた超兵器の甲板のようだ。

後から帝国郡に付け足されたであろう機銃などに取り付いている兵士がぎょっとしたような顔で俺を見る。


「シンファクシは?」


俺は少佐の紋章を見せながら兵士の近くに寄っていった。

ベルカ語じゃないと通じないからベルカ語で話しかけたんだぜ?

えらくね?

それに加えて両手を挙げて、敵ではないと教えながらだ。

それに安心したのか一人の兵士が甲板の中央に塔のようにそびえる艦橋を指した。


「ありがとう」


紋章をポケットにしまって小さく頭を下げた。

兵士はまた機銃の操作にあわてて戻っていく。


「遠いなぁ」


「ね」


遠くにかすむようなところにあるなあ。

そこを目指して歩く。

いい運動になることは間違いないだろう。

それにしてもこの戦艦はでかい。

艦首付近は溝のようなものが三つ、あった。

その奥には軽くそれだけで空母を上回るような巨大な固定式の砲台が三つ並んでいる。

何より甲板上を走っている模様だ。

生き物のように強弱を出しながら光っている。

奇妙なものだ。

固定式砲台の隙間をくぐってさらに奥へと進む。


「すげぇ……」


三本のオレンジ色のレーザーが爆撃機を喰らうところだった。

そのレーザーを発射したのは三連装の砲塔である。

一つの砲塔だけで軽く四十メートル前後はあるだろう。

それがぐるりと三連装の砲身をめぐらせ、空へと咆える。


「っ!」


三連装の砲は図太い砲身からまた図太いレーザーを放って死鳥を払っている。

爆風が一切来ないのはどういうわけか。


「この発射の衝撃はイージスで防いでいるから大丈夫。

 でも、もし、イージスがないと波音は今間違いなく死んでた」


火山の噴火のようなすさまじい光とともに甲高い音がまた空へと伸びてゆく。

なるほど。

イージスってやつは偉大なもんだな。

それがなきゃ俺は今、三回ぐらい死んでいたわけだから。

衝撃波で。


「艦橋まで遠い。

 シエラ、連れて行ってくれ」


目測するだけで軽く三百メートルはあるぞ。

結局面倒になった。

歩くのがだるい。

足が痛い、眠い。


「しかたないなぁ」


やれやれと、ダダをこねる子を慰める顔をする最終兵器。

なんだよー。

俺がそんなに餓鬼ってことかー!


「ありがとっ」


そんな心の言葉、言うわけには行かない。

正直自分でも餓鬼だとおもうんだ、俺は。


「かっこいいなぁ……」


戦争なんかは嫌いだが戦艦なんかは俺、結構好きなんだ。

ロマンだろ?

男のロマンだろ?

大艦巨砲主義は男のロマンだろう?

違うかっ!


「ほら、つかまって」


またシエラに手を引っ張られ少し空を飛んだ。


「あぶねぇ!」


俺の足ぎりぎりのところを機銃の弾が通り過ぎる。


「気をつけろ!」


ぺこぺこと頭を下げまくる兵士に怒号の一声を浴びせた。

通り過ぎた爆撃機から一つの爆弾が降ってくる。

それはイージスによって九十度角度を曲げられ予想通り超兵器に命中はしなかった。

だが、あの爆弾がこっちに降ってくるのを見ているのは余りいい気分ではない。

また一つの砲塔が咆哮した。

捻じ曲がった主翼と砕けた胴体がばらばらになり、重力にしたがって爆撃機が落ちてゆく。

空は蜘蛛の子を散らしたように、爆撃機が出来る限りヴォルニーエルから遠ざかろうとしていた。

ようやく諦めたのだろう。


「入り口は一つしかないんだ。

 すぐその前に降りるから」


その様子を眺めているとシエラにおいっ、と頭を蹴られた。

何も蹴ることないじゃないですか。


「……ってぇ……。

 了解だよ、いってぇ……」


頭をなでなでしたかったが片手だけでつかまるのもまた怖い。

仕方なしに頭を振るしかない。

でもぜんぜん痛みが和らがないんだなぁ。

と、バキバキ、何か巨大なものが砕ける音がした。

一瞬首の骨でも折れたのかと思いヒヤッとしたがそうではないようだ。


「波音、ビルが……」


シエラが小さく息を呑んだ。

下を見るとおっさんのビルが黒い煙を吐きながらゆっくりと倒壊していくところだった。

むき出しになったレーザー砲は赤く溶けたようにひん曲がり

その砲身に走っていた模様は脈が止まったように暗い。

はじめはゆっくりだった倒れ方も、もう一発、爆弾の花が咲くと急激に勢いを増した。

根元から折れた五十階建てのビルは大きくその身をよじり、崩壊してゆく。


「おっさん……」


安らかに眠ってくれ。

本当に――いままでありがとう。

また涙が出そうになってきた。

どうして人が消えてからこんな風に思い出すんだろう。

もっとたくさん、話をしておけばよかった。

詩乃は、もうおっさんが死んだことを知っているのだろうか。

詩乃自身がベルカ守護四族の一人だとをおっさんは話したのだろうか。

足が艦橋の基部につく。

案外ゆっくり飛んでいたんだな。


「さ、中に。

 早く行こう」


シエラに手を引かれ、また熱くなりかけた目頭を揉む。

女の前で泣くなんて情けないことはしない。

セズクの前で泣いたし。

そのおかげで吹っ切れた気がする。

涙ってのはやっぱり大事だな。


「ここ?」


「うん」


ロックをはずし、中へと入る。

暗い。

そしてすごく狭い。

まるで刑務所のようだ。

その通路の奥に後からとってつけたような柵がついたエレベーターが一つだけある。


「さ、乗って」


シエラがどうぞのポーズで俺をエレベーターに誘導した。


「お、おう……」


なんか怖いなぁ。

俺とシエラが乗るだけでもうエレベーターはいっぱいだ。

太ったかな、俺。


「さすがに狭いね……。

 もともと一人しか乗れないような設計だし仕方ないっちゃ仕方ないっか」


そうなんだ。

なんかうっすらと昔聞いたな。

なんだっけ、『核』がどーのこーの言ってたよな。

ゴゴン、とエレベーターが動き出し体がすっと軽くなった。

やっぱり何回やってもこれは慣れないな。

大事なところがごほんごほん。


「鼻がなくならないようにね」


思わず顔を引っ込めた。

レーザーの類でもあるのか?


「――……。

 無くなられたら困るから顔引っ込めとくよ」


つまり、壁で鼻が削れるよって?

そういうことか?


「それがいいよ」


俺の反応を見て笑ってやがる。

エレベーターを覗き込むように壁を見るとシエラにジョークを飛ばされた。

案外最終兵器ジョークも悪くない。

動いたときと同じようにエレベーターは急に止まった。

入ったときとは逆側の壁が開き、開けた空間に出る。


「光波共震砲砲塔二番、三番。

 右舷二十度、俯角三十度、エネルギー装填開始」


「高角砲十五番から二十番同一目標にロック。

 合図とともに斉射」


「敵機撃墜。

 敵脅威レベル四十二パーセントに低下。

 半数以上を撃墜しました」


その空間は電子音が鳴り響き薄暗い。

夜だから――とかではなく画面などの見落としがないように、ということなのだろう。

ライトではなく液晶からもれる明かりでうっすらと中が見えるぐらいだった。

その空間に元気なオペレーターの声がこもる。


「シンファクシ。

 波音が来た」


狭い艦橋(といっても二十メートル四方はある)の真ん中に鎮座する一つの椅子。

その椅子の背もたれからちらりと見える金髪。

それがシンファクシの頭だとすぐに分かった。

雰囲気からして怖いもん。

俺をとって食いそうだもの、この人。

頭から頭蓋骨ごとばりばりと……。

怖い。


「……ふむ」


と、頷くように動くと、くるりと椅子ごとこっちを向いた。

足を組み、セクシーだ。

眼鏡は今は外している。

シエラと同じ赤紫の瞳が俺の姿を認めるとシンファクシの口が開いた。


「レルバル少佐。

 私が下した任務はちゃんとこなしてくれたんだろうな?」


……来た。

いつか説明しなければならにとは思っていたけれど……。

この圧力。

恐怖という圧力に俺は押しつぶされそうだった。

手の汗がやばい。


「――は」


俺は蚊の鳴くような声をやっとこさしぼりだすだけだった。

その声がかき消されるように


「一機撃墜!

 イージス百パーセントを維持!」


オペレーターがまた叫ぶ。

シンファクシの後ろの液晶から一機の機体が火を噴きながら落ちていくのが見えた。

コックピットから三人ほどの人間がパラシュートを開いて脱出している。

その人間をレーザーは射ることなく次の目標へとロックをスライドさせた。


「どうなんだ、レルバル少佐!

 ちゃんと答えろと、そう言っているんだ!

 私の目を見ろ!」


「はっ!」


びしっと背筋を伸ばした。

オペレーター達がふと心配そうな顔でシンファクシを見た。

この人が怒るのはめったにない事なのだろう。


「また一機撃墜!

 敵脅威レベル二十%にまで低下!」


そうやって報告する声も少し震えていた。


「は……その。

 シンファクシ元帥……」


俺はあいからわずの蚊の声だったが

アリルを殺すことが出来ない理由をきちんと伝えようと必死だった。

それにおっさんが死んだことも伝えなければならない。

まとめて言ったら俺が混乱しそうだ。

でも言わなきゃ。

言わなきゃ――喰われる。


「何だ?

 早く報告をしろ」


明らかにいらいらしている。


「実は……すいません元帥。

 俺に殺しは無理でした――」


素直に自分の非を認め誤る。


「――そんな……」


シンファクシは俺が頭を下げたことにえらい困惑しているようだった。


「む、無理――そうか。

 すまなかったな、そんな任務を任せて」


シンファクシはがっくりと肩を落とすとでこを抑えた。

きれいな姉ちゃんなのにこういうところにジジ臭さがあるのが少し残念だ。

それにその姿もすごく美人なのがすごい。

頭痛が痛い。


「本当にすいません、元帥」


俺はもう一度頭を下げた。


「いや、かまわない。

 教えてくれないか。

 一体どうして殺れなかった?」


頭を上げたとき、シンファクシは眼鏡を拭いていた。


「それは……」


俺は言葉につまった。

なんというべきか。

連合軍側に居たアリルを彼女としたからか?

人を殺したくないからか?

なんといえばいいんだろう。


「その……」


どもる俺を見ていられないとふんだのか


「アリルと波音は恋人同士だから」


「シエラっ!?」


シエラがシンファクシににこりともせずに報告しやがった。





            

               This story continues.             

ありがとうございました。

いやぁ、シエラさん何をするんでしょうか。

驚きですね。


ちなみに、ヴォルニーエルは全長1400mです。

長い、でかい、すげぇ。


さすがは超兵器……と言った所でしょうか。


(ちなみにこれ一回書いて全部消えていたりします。

 大変だった……、くそっ)


では、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

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