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怪盗な季節☆   作者: 大野田レルバル
文化祭な季節☆
105/210

一人

俺はメイナにアリルを預けるとシエラの腕に掴まった。

もちろんいつもの移動方法、T字型である。


「おっし、行ってくれ!

 メイナ、アリルを頼んだぞ!」


「任せときなって~。

 私は無敵だからね」


「シエラ、俺達も行こう。

 おっさんのビルだ」


「分かった」


俺達が飛び、メイナも飛んだ。

セズクもアフリカの帝国郡に知らせるために飛んだとき

一発の爆弾が着弾。

大空に吹き上がった火柱にまとわりつかれ今まで立っていた校舎はコンクリートを撒き散らして崩れていった。

少し心が痛み、目を覆う。

また目を開けたとき、下を見ると荷物を持って炎の海を逃げ惑う人々。

小さな子供もいる――。


「ごめんな……」


それを見ないように目をつぶっておっさんの燃えているビルをひたすら目指した。

壁が大きく抉り取られあちこちから黒煙を吐き出しているビルはギリギリで立っているようにも見えた。

屋上のヘリポートは大きくその口を開けており、その口からはあの巨大なレーザーの砲身が覗いていた。

砲身の先にガラスのようなものが取り付けられている。

電気のようなバチバチしたものがその周りをまとわりつきうっすらと輝いている。


「砲身内部より高エネルギー……。

 波音、ふせて」


屋上に着地した瞬間にシエラに頭を抑えられた。

体を吹き飛ばすほどの風をまとってすぐ横を青い光が空へと伸びていく。

煙をかきちらし雲に穴を開けてレーザー光は夜空に吸い込まれていった。

風がやむとすぐに俺はシエラを除けて立ち上がった。


「俺はおっさんをみてくるから、シエラは爆撃を頼む!」


極めて小さなエンジン音を響かせ、また鉄の塊がビルのすれすれを飛んでいった。


「じゃあ、波音。

 ――死なないで」


「当然だろ」


シエラは飛び掛ると同時に青いレーザーを腕から吐き出した。

一筋の光となった弓が次々と空を覆う死鳥を落としていく。

すぐに反撃の機銃の火を吐き出した爆撃機の間を潜り抜けまた一つ。

弓に射られた獲物は地面へと落ちていった。

見とれそうなぐらい激しい戦いだったが

そんなことよりおっさんが先だと思いなおして階段の扉をこじ開けた。

うっすらと非常灯のついたビルの中は走るには簡単だった。

衝撃波によって割れたガラスが廊下に散らばっている中を大声でおっさんを呼びながら走る。

念のために壁の扉にしまってあった銃を取り出した。

敵がいない可能性は否めない。

といってもほとんど警戒なんてせずに一気に四七階まで下る。

前回はここから先でニセとの戦いになったのだが……。

ロケット弾でぽっかりと穴が開いた壁――よしここの廊下の角を曲がればすぐだ。

おっさんが部屋にいてくれればの話だが。


「っつぁ!?」


あわてて側の壁の鉄棒を掴んだ。

あぶない、なんだこりゃ。

ぽっかりと廊下が消えていた。

間違いなく爆弾がここに落ちてそのダメージでナイフで切り取ったかのように消えたのだ。

一つ前の爆撃だと、壁ががしがし爆弾跳ね返していたというのに……。

兵器は常に進化するっていうのは本当なんだな。

廊下の角で小さくくすぶっている炎が目に痛い。

外の赤が、ここからははっきりと見えた。

また灰と化すために燃えている、赤い街の上を黒い爆撃機が乱雑している。

思い出の場所が――全部消えている、燃えている。

一度目は免れた場所もこれじゃあ……。

しかるべく我が家も燃えてしまったと考えるべきだろう。

まだやっていないゲームとかあったんだがなぁ……。

どうして、こんなことが出来るんだ?

兵器の実証試験などではないだろう。

前回は連合郡の予算獲得のためだったようだが……。

今回は一体なんの目的があって?


「くそっ……!」


何にせよ、少数の白髪のクソジジイどもが自分の手元に金を増やしたいが為だろう。

いつも犠牲になるのは弱者ってことだ。

少し残った瓦礫を足場にして崩れた先へと急いだ。

ニセの戦いのときにばらばらになったあの部屋の扉を破り中に飛び込んだ。

ここにいなかったら下にいてこのレーザーを放つ指揮をとっているのだろう。

もしくはもう逃げた後……か。

電気は消え、窓の外から赤い光だけがこの部屋の中を照らしていた。

いつもこの部屋は本の臭いやおっさんのタバコの臭いが充満していた。

それは今回も異例ではなかったが、少し違っていた。

吸うだけで吐きそうになるほどの血の臭い。

その臭いの元をたどった。


「おっさん!」


叫んだ俺はまたすぐに言葉を失った。

ニセの後、綺麗に整理整頓されていたであろう部屋の中は無残に崩れ、本は棚から滑り落ちていた。

その中に壊れた人形のように倒れている人影が一つ……。

赤い沼に沈んでいるその人――。

血をすって膨らんだ本の傍らでぴくりとも動かない。


「おっさん!」


俺は駆け寄って人形を抱き起こした。

すっかり冷たくなった体にはべったりと血が付着して、手がすべる。

震えながらも顔を確認した。


「――嘘」


あわてて名札、特徴的なほくろをも確認する。

嘘であって欲しい……そんな思いを現実は軽く突き放した。

百パーセントおっさんだった。

額に一つの焼けたような穴がある。

おっさんの目は見開かれ「信じられない」と訴えていた。

思わず手を離した。

再びおっさんの体が沼に沈む。


「おい!

 おっさん!

 おい!」


もう触れなかった。

現実なんて見たくなかった。

だから呼んだ、答えてくれると思いたかった。

親のように自分を育ててくれていたおっさんは……。


もう動かなかった。


――なんで。

なんでなんだよ……。


「うぅう………」


声を殺しながら泣いた。

そうでもしないと耐えれなかった。

俺を小さいときから育ててきてくれた。

親が、まさに今死んだのだ。

手元の銃を握り涙をぬぐう。

滲む視界に窓の外の炎、黒煙、そして爆撃機が映った。

全部俺の大事な場所はいとも簡単にこうして奪われていくというのか?


「連合郡めっ――!」


憎かった。

シエラ達を連れて連合郡本部に乗り込んでやろうか、とまで考えた。

膝におっさんの血が付着して、凝固する。

白いYシャツは赤に染まっているだろう。

更に強く銃を握ったときぬるっとした感覚で銃を落とした。

手についたおっさんのまだ固まりきれない血だ。

金属が床にぶつかりキーンと甲高い音を出す。

そのおかげで妙な所で俺は我に返った。

これは俺達が連合郡にしてきた事と変わらないんじゃないか?と。

大量の艦を沈めたシエラ。

超兵器を叩き落したメイナ。

直接俺が殺した人はいないとしても……。

けしかけたのは俺といっても過言じゃないんじゃないだろうか。

いや間違いなく俺がけしかけたんだ。

あいつらは俺を守るとかいうわけの分からない名目の元動いていたから……。

俺は自分の掌を見た。

血がたっぷりと爪の間にまでしみこみ、外の赤と一緒に浮き出していた。

今まで、俺は自分の手が――。

『白』だと、そう信じて動かなかった。

自分でも気がつかない内に白は赤一色に……。

ペンキで、剥がれないようにニスまでつけられてべったりと塗られていたのだ。

おっさんは憎みが回りにまわって……俺に殺されたようなもんじゃないのだろうか。

悲しみよりも虚しさが占める頭を、ビルの柱がきしむ音が占領しだした。

ビルの崩壊が近いのだろう。

俺はここから離れようと立ち上がった。

おっさんが死んでいるのを確認した、もうここに用はなかった。

詩乃は――生きているのだろうか。

爆撃でやられたのだとしたら……。

ベルカ守護四族の一つの血筋が途絶えたこととなるんじゃ……ないのか?

おっさんの目を閉じさせ、落ちた銃を掴もうと手を伸ばす。


「っ!?」


その俺の腕を、一本のレーザーが掠めた。

あと少しずれていたら貫通していただろう。


「誰だ!」


俺が振り返ると一人の見知らぬ男がその手をレーザー砲に変えて立っていた。

ホリが深くて鼻が高い。

若干の髭を生やした口が薄い唇をよけい貧相に見せていた。

その口がうっすらと開くと


「――ガキか」


その男は俺を石を見るような目で見ると割れた窓から飛び出していった。


「な――」


あわてて銃を握って窓の下を覗く。


「セズク……じゃないよな?」


金髪や黒髪、沢山の人が、空を飛んでいた。

皆それぞれ背中に青い線のついた翼を持っている。


「モドキってやつか……?」


セズクと同じ。

V型とか言っていたアレか?


「シエラ――!」


そしてそのモドキが集まっている所には最終兵器F・Dシエラがいた。

戦いを次から次へと挑まれながらも最終兵器は余裕の表情で

次々と襲い掛かってくるモドキに対して手のナイフで首を跳ね飛ばし、蹴りで体を粉砕する。

怯まずに飛び掛って来たモドキの首を掴み、光で蒸発させる。

だが、次から次へ滝のように襲い掛かってくるモドキに

少しいらだちを感じているのもまた事実のようだった。

払ってやろうと、銃で狙いをつける。

シエラにあたりそうでもアイツならイージスで何とかなるだろう。

問題は俺に――。

人を『殺す』という覚悟があるかどうか。

今までは偽善者ぶっていたお陰でこれは正しい、これは駄目、と判断して行動に移せていた。

もう、今では出来なかった。

今までに『白』だと、そう信じてやまなかった手が……。

実は赤になっていた、何てすぐに受け止めることなんて出来ない。

額のじんわりと滲み出す汗が目に入った。


「っそ……!」


汗を拭い銃を再び手に取り、窓の外に向けた。

そのときだった。


「やっぱりお前は殺しておくべきだな」


あの男が俺の真正面に立っていた。

うっすらと笑った顔は殺しの喜びに歪んでいた。


「なっ――!?」


とっさの判断が遅れ、男の蹴りを思いっきり腹に食らってしまった。

その衝撃で銃を離してしまい舌打ちする。

そして一拍遅れ、とんだ俺の体は本棚に背中から叩きつけられた。


「この男で泣いていた――ということは。

 貴様、レルバルだな?」


男はおっさんの顔を見下ろした。


「なんで……それを?」


背中を押さえ痛みに歯を食いしばりつつ言葉をつないだ。

男は「簡単なことだ」と部屋においてあるPCを指差した。

嗚呼、もう少しまともな理由が聞けると思った俺が大間違いだったわ。


「なんかいられるとやっかいなようだ。

 『やっかい』という簡単な理由で死んでくれないか?

 なに、爆撃で死んだ人カウンターが一だけ回るだけだ。

 誰も気にしないだろうよ」


男はそういって近くにあった銃を手に取り、俺に投げて寄越した。


「取れ。

 ハンデをやろう」


こいつもセズク同様のV型最終兵器モドキ。

生身の俺が勝てる相手じゃないことは確かだ。

逃げるしかない。

だが……どこへ。

俺は手にずっしりとした鉄の重みを感じた。

こいつでこの男を殺す――。

そんなことも出来るわけがない。

殺人者にも偽善者にもなりきれない自分が情けなかった。


「どうした?

 早く撃て、俺を。

 貴様にその度胸があるかどうかだが」


男が挑発してくる。


「俺は死ぬ覚悟が出来ている。

 貴様は出来ているのか?」


男は俺をせせら笑った。


「覚悟がないくせに銃を持つ。

 その愚かさが分かるか?

 人を殺さないように銃を持つなんてこと。

 出来ると思っていたのか?」






            This story continues.

おっさん……。

今までありがとう。

さようなら、おっさん……。


ってなりませんでした?

なりませんでしたか……。


次は戦闘がメインになるのでしょうか。

何はともあれ読んで頂、ありがとうございました。

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