once again
教室へ行き、教卓の上に置かれた紙にチェックする。
教室内に残っていた生徒の外へ繰り出す流れに乗って
俺とアリルは仲良くあちこちの屋台を回る。
「あ、私、チョコバナナ食べたいです」
「あっ、お、おう」
バナナて。
その隣にあるのはから揚げか。
「じゃあ俺はから揚げをだな」
む、高い。
だがっ――!
俺は、俺は……!!
葛藤に悩まされることなく買った。
普通にうまい。
「むぐむぐ……」
アリルさんは豪快に頬張るし。
チョコバナナかぁ。
いいなぁ、俺も買おうかしら。
いや、待て。
待つんだ、永久波音。
他にも箸まきとか、焼きソバとか色々あるんだ。
ここでお金を使いまくっていいものか。
「あ、チョコバナナください」
俺はそういって店のおっちゃんに三百円を手渡した。
そんなこんなで誘惑に負け続けた結果持ってきたお金の三千円はあっという間に使い切り
財布から出てくるのはゴミクズだけとなった。
「とほほ……」
「は、波音君……。
私が変わりに出しましょうか?」
「いや、それは……いい」
とほほ……。
でも後二日ぐらいあるもん。
いいもん、まだ時間はあるんだもん。
「おうおう、熱いねェ」
なんか茶化されたと思ったら、冬蝉と彗人兄さんだった。
花壇のでっぱりに座り、二人してフライドポテトをつまんでいる。
「太陽より熱いぜ?」
俺はにやっと笑って冬蝉に手を振る。
そして素早く近づいて一本抜き取った。
「あ、おいっ」
「ありがとー」
うん、うまい。
「しかたねーなぁ……」といって冬蝉はもう一本恵んでくれる。
「さんくす」
そういって一本を口に放り込んだ。
「うまうま」
「だろ?」
俺はもう一回お礼を言ってその場を離れた。
冬蝉もいつも無口の彗人兄さんも笑って手を振り返してくれた。
「あ……、う。
うーむむ……、波音君、波音君」
なんだ?
「私、焼きソバ食べたいです」
「ほないこか、お金ないけど」
食べながらあっちこっち歩き回った成果、お腹は減らなかった。
言葉には言い表せないほどたっぷりと楽しんだわけだ。
「きゃー!
セズクさまっ、こっち向いてくださいっ!」
見なかった、俺は見なかったぞ。
「はいはい♪」
アイツお祭というよりかは女を楽しんでいる感じじゃないか?
何しに来たんだよ(;´Д`)←今の俺の顔はこんな感じ。
そんな感じでうろうろうろついて射的したりしているうちに時間はどんどん過ぎていった。
気がつくと夜はどっぷりとその膜を垂らし、電球のような星がちらほらと輝いていた。
そろそろ花火が始まるためか、皆校庭に座り込み場所取りをはじめていた。
俺は実はなかなかのスポットを知っているんですよ。
屋上ですよ、屋上。
唯一崩れなかった校舎で、出入りは禁止にされていたが……。
まぁ内緒、内緒。
ばれはしないだろう。
立ち入り禁止のロープを潜り抜け誰一人いない、二階建ての校舎の階段を登る。
屋上へ繋がる重たい鉄の扉を開くと涼しい夜の風が階段を吹き荒れた。
それと同時に俺の携帯が小さく唸り、午後八時になったことを教えてくれる。
取り合えず俺とアリルは、長年雨風にさらされてボロボロになった机を見つけ
手で軽く埃を取ってその上に座ることにした。
「波音君……。
私考えたんです」
下に広がる屋台に群がる人は減る気配を見せない。
このまま三日連続は本当にすごいと思う。
赤と白の電球のコントラストが素敵だ。
「何を?」
あわててアリルさんの話に神経を傾けなおした。
「私……、波音君と一緒にいれてほんとうによかったな……って」
…………。
「おい、何だよ急に」
俺はアリルの顔を覗きこんだ。
変なこと考えてるんじゃないだろうな?
「いえ……。
要するに本当に幸せだな……って!」
アリルはにっこり笑って空の星をつまむようなしぐさをした。
「……ああ」
俺も……って続けようとして恥ずかしくなった。
つまり口をつぐんだわけだ。
言えなかった。
こういうときの自分のチキン具合に自分でイライラする。
「その……。
波音君?
やっぱり私は――」
しばらくの沈黙に刃をいれるようにアリルは切り出した。
死ななきゃならないんでしょうか?
その口の動きは上がり始めた花火の音にかき消された。
でも俺には聞えていた。
「何言ってんだよ!」
俺はアリルの肩を掴んだ。
思わず力が入ってしまうほどに俺は動揺していた。
何度言わせる気だ。
「いいか?
何度も俺は同じことを言うのは好きじゃない。
自分の、俺の大事な物を失いたくはないんだよ!
失うのが……怖いんだよ!」
また一つ花火が上がった。
アリルの驚いた顔が目の前一杯に広がっている。
何度その顔をして俺を惑わせるつもりなんだ。
おい。
「俺は――!
いいか、俺がお前を必要としているんだ!
だから……」
花火の光に呼応して、アリルの顔も赤や緑に変わる。
俺は、彼女を思いっきり抱きしめてやった。
言葉にはできないことがある。
俺は口下手だし、バカだから口が回らなかったんだよ。
頭一つ下にあるアリルを撫でる。
「だから……死ぬとかさ。
そんなこと言わないで欲しいんだ」
耳元で囁くように締めくくった。
静かに力を緩めアリルを放す。
あー、やりすぎたかなぁ。
嫌われたか、もしかして俺は。
と、アリルさんは目をつぶっていた。
あ、はい。
分かった。
ことごとく邪魔される、アレな。
でも、俺はチキン……。
やるしかない。
男にはやらねばならないときがある。
よし。
やるか。
俺はアリルの顔にゆっくりと近づいていった。
俺も目をつぶろう、そうしよう。
すいませんね、チキンなもんで。
何をどうしたらいいのか……。
花火が上がり閉じた黒の視界に赤が、緑が、青が主張する。
アリルの唇と俺の唇が触れ合う……。
その五秒前。
花火の音に似ているが違う音が“真上”から落ちてきたのだった。
花火のようにたまやーな芸術が上がる……そんな音ではない。
巨大な質量が明らかな殺意を持って空気を切り裂くような音なのだ。
アリルさんを思わず引き寄せ上を見た。
俺達の身長ほどあるほどの体に三本の黄色い線が入っている。
涙が落ちてきたような、黒に塗られたそれは
俺達の真上ぎりぎりと通り過ぎたかと思うと校庭に落ちた。
と、それから光がほとばしり校庭に巨大な火柱が出現した。
何が起ったのかはわからなかった。
ただ、火柱を背にするような感じでアリルをかばいながら
ガラスが割れる音や人々の悲鳴、物が崩壊していく音。
そして鋭く体を打ち付ける衝撃波を全身に感じていた。
また二個、三個と復旧の進んだ街に爆弾が落ちる。
一瞬にしてプレハブは吹き飛び、そこに生きていた人々の姿はなくなっていた。
燃え始めた街が薄暗く空を照らす。
やまない花火が、今の一瞬で千人は即死した時間に花を添えた。
「そんな――!」
俺の腕の中でアリルが呻く。
「とにかく下に行け!
こんな崩れるところにいるのもヤバイ!
急げ!!」
上を見ると埋め尽くさんばかりの数の爆撃機が空を飛んでいた。
ありえない。
どうして、またここに爆撃をしてきたんだよ。
一体何が狙いなんだ?
レーダーを吸収する特殊塗料を鉄の上に塗りたくった黒が、今の空の色だった。
帝国郡、連合郡が共に自分の軍の象徴として使用している
『曲菱型』――『ワープダイヤモンド』が主翼に輝いている。
人々が逃げ惑う列に、爆弾が落ちる。
二秒前までは確かに生きて、笑い、泣き、それぞれの人生を過ごしてきていた人が。
たった一発の爆弾によってその身をばらばらに分断され死んだ。
第一波が過ぎるまでここは動かないほうがいいのかもしれない。
だが衝撃波や前回の爆撃で痛めつけられたこの校舎は悲鳴を上げていた。
考える俺の思考を斜めにぶった切る、鼓膜を振動させる甲高い音。
死を纏った鉄の塊がこっちに近づいていた。
丸い、弾頭の形は――崩れない。
つまりまっすぐ俺に向かってきているということ。
「アリル、逃げろ!」
俺はいいから――!
よくはない。
俺も逃げたいのだが足が動かないのだ。
アリルもそれは感じているのだろう。
だんだんと大きくなってきた爆弾は俺の体を一瞬で押しつぶすだろう。
コンクリートに当たることによって反応した信管がその中の火薬を爆発させ
校舎ごともう命のない自分の体を切り裂くだろう。
死にたくはない――な。
何度目だろうか、死が迫るのは。
人間なれというのは恐ろしいもので恐怖はあまりもう感じなかった。
せめてアリルだけでも助かって欲しい。
開いているドアを蹴り、閉めた。
さっきの倍ほどの大きさとなった爆弾はあきらめた俺に一直線にぶつかってくるようだった。
鋼鉄の扉がアリルを助けてくれるだろうと、そう考え俺は生を諦めた。
と、黒い嵐がやってきたかと思うと爆弾がその場から消えた。
セズクが横っ飛びに落ちてくる爆弾を蹴り飛ばしたのだ。
飛んでいった爆弾は遠く離れた山を、その身をもって削り取った。
「――大丈夫かい、ハニー?」
……かっけぇ。
こいつやっぱりかっこいいわ。
いや、ホモに目覚めたとかじゃそういうのじゃない。
だから落ち着いて欲しい。
「あ、ありがとう……!
そうだ、アリル!」
生きてるか……?
鉄の扉を開きその後ろにうずくまる彼女を見たときほっと胸をなでおろした。
「いまから言うことを……」
アリルを扉の後ろから引っ張り出し、何かを言おうと思った。
だが言葉が遮られた。
今度は爆弾じゃない。
あの青い光が……。
シエラ達が弾道レーザーと呼んでいるあの光が……。
「嘘、冗談だよね?」
おっさんのビルから放たれていた。
以前のシエラとの探索であるのは知っていたがどうしてこのタイミングで……!
空を埋め尽くさんばかりの爆撃機を狙っているのだろうか。
空が光一筋の光が爆撃機編隊のど真ん中をなぎ払った。
溶けた鉄の悲鳴をあげ、主翼の取れた機体がきりもみしながら弾倉に入っている子供を振りまく。
地面に落ちた爆撃機は大爆発を起こしてまた大きな柱を築き上げた。
「はやいところここから逃げようぜ!
な、セズク!」
その見るものを圧倒させる光景から無理やり目をはがし、セズクの脇を突付く。
「……あっ!」
小さくセズクが声を発した。
おっさんのビルが……目を離した一瞬で燃えていた。
そのビルの体になお追加で大量の爆弾が叩き込まれている。
「おっさん!」
声にならない声を出して俺は叫んだ。
腕の中でアリルが震えている。
「ごめん、波音!
遅くなった!」
空からふわりと風圧をまとって降りてきたのはメイナとシエラだった。
待ちわびたぞ!
「メイナはアリルを頼む!
俺はシエラとおっさんのビルに行って来るから!
セズクはシンファクシに報告をっ――!」
そういうと俺はアリルに
「自分の家のシェルターに避難しているんだ。
分かったな?」
「で、でも……!
波音君、私またあんな心配な思いをするのは……!!」
俺はアリルさんのデコを弾いた。
「いたっ」
「俺は死なないから。
な?
ほら、行け!」
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出来立てほかほかをお届けいたします。
アリルさんと波音の文化祭は散々でしたね……。
さて、ここからどう転ぶのか。
たのしみにしていて欲しいです。
では、ありがとうございました。