100Do
その日は早く寝た。
明日が少し楽しみだったからだ。
布団に入る前に何を明日はしようかという思考にふけった。
こんなにわくわくするのは久方ぶりだった。
……で、目が覚めると朝だった。
気がついたら寝てしまっていたらしい。
物凄いどす黒い圧力を感じて俺は夢から目を覚ましたのだ。
「やあ、波音おはよう♪」
セズクが俺の顔ギリギリでにっこりと笑った。
これか、どす黒い圧力。
おはようじゃねーよ、近すぎ。
目が覚めた俺の神経ナイス。
もう少し遅かったらどうなっていたことか。
「な、は?
お、おはよう……どいて?」
コーヒーのいいにおいがセズクから漂ってくる。
いつもの習慣どおりにコーヒー飲んで新聞とか読んで。
料理とかつくって、俺を起こしに来てくれたに違いない。
「ちぇ、あと少しだったんだけどなぁ……」
でも、それが危ないんだ。
危険は身近に潜んでいるって言うのは本当だな。
もう少しおそかったらあーいうことになっていたに違いない。
俺はゆっくりと、セズクを押しのけて布団からはいでた。
「ちぇー……」
「起こしにきてくれるのはありがたいけど襲うのはやめてくれ」
俺はセズクさんデコピンして立ち上がった。
「おはようございます」
あくびをしながら、台所へ繋がるドアをとろとろと開く。
するとよく焼けたハムエッグを持ったアリルさんがエプロン姿で挨拶してきた。
なんだ、アリルさんか。
「あー、おはよう」
もうなれた。
何があっても驚かない。
シエラ達と出会って誇れるのは神経が図太くなったこと。
それぐらいかな。
洗面所で顔を洗う。
今回はセズクがいつの間にか買ってきてくれていたサックセッスで洗ってみた。
仕上がりさっぱり、いい感じだ。
歯を磨いて飯をくらふ。
一割引になると噂の制服を着て……よし行ってくるぜよ。
「じゃ、行ってきます」
しゅびと、迅速にお金の入った鞄を持った。
「あ、波音?
今日は僕も一緒に学校へ行くよ?
お祭って聞いたし……ね?」
俺はあんぐり口をあけてセズクを見た。
「来るの……?」
マジで?
本気なのか?
やめとけって、兄さん。
ろくな目に会わないって。
「いやかな?」
と、さびしそうな顔をされた。
「いや……そんなことないけど」
さびしそうな顔は少し反則だろう、と思う。
俺はやっぱり心から善の人だから?
こういう顔されると承諾するしかないんだ。
「じゃあ行くね?」
そう、俺がOKを出したら、即効セズクは笑顔になった。
あ、おれだまされたな、と思う瞬間である。
罠だったか。
蟻地獄だったか……。
「シエラとメイナは?」
そういえば朝から姿が見えない。
生きてるのかな。
「もう行ってますよ?
いま何時だと思って……」
あきれたように教えてくれるアリルさんに疑問を持って俺は時計を見た。
九時じゃん。
時計の短針と長針が九十度、直角を作っていた。
「えっ、嘘っ……?」
「残念ながら現実だよ?
さ、行こうか、そろそろ」
現実だってことぐらい分かってるわい。
いつの間に着替えたのやら、セズクはすごくぴっちりしたかっこいい服を身に纏っていた。
ワイルド系……とでも言うべきか。
こう、男の俺から見てもすごくかっこいい。
あらためてセズクのイケメンさに驚く。
こいつこんなにかっこよかったのか。
日ごろの行いが悪いおかげで全然意識していなかった。
「さ、波音君、行きますよ?」
アリルに手を引かれて部屋から出る。
「文化祭たのしみだね♪」
なんか、セズクさんの十八歳を見てしまった気がする。
今まで見たことがないぐらいにわくわくしてる、この人。
「んー、気持ちのいい朝だね」
玄関の鍵を閉めながらセズクが日光を体中に浴びた。
金髪がまぶしい。
道を歩く。
ただそれだけだ。
「ねぇ、あの人見た?」
「見た見た、超かっこいい!」
道を歩くだけで通行人女性がセズクを見る見る。
ガン見されまくってる。
俺がセズクだったら恥ずかしくなるぐらいに。
「なんか、疲れますね?」
俺は黙って首を縦に動かした。
アリルさんの言うとおり。
俺も何か疲れる……。
やっぱりもてる男が隣にいると男としての……プライド?
いや、彼女居るから別にいいんだけどさ。
でもなんか……プライド的にむかつく……。
セズクが道を歩くだけでここまですごいとは。
こいつがホモって言ったらきゃーきゃー言っていた女性はどんな顔をするのだろうか。
大声で「こいつホモです」って叫びたい。
そうしたら俺が異常者扱いされるかもしれないけど教えてやりたい。
さて、学校に近づくにつれ、人はどんどん増えた。
見ろ、人がゴミの……。
「うわあ、すごいですねぇ……」
アリルは目をまん丸にしていつもとは違う学校の様子を眺めた。
俺もこんなに沢山の人が集まるのを見るのははじめてだ。
「ねぇ、あの人だれ?」
「隣に居るのは永久だろ?
とりあえずリア充は爆発しておけ」
そんな声が聞えてくるにもかかわらずセズクはさわやかだ。
ニコニコと笑って愛想を振りまいている。
もぉ……。
セズクは彼女いたんだっけ。
まだホモじゃないときに。
「じゃ、俺とアリルはここで教室行かなきゃ行けないから……」
確か出席したとだけ、丸つけてこないと。
欠席扱いにされてしまうぜ。
「ん?
分かったよ、マイハニー」
おい!
「ばっ、ここでその呼び方はやめろ!」
誰かに聞かれたらどうするんだよ。
もし誰かに聞かれたら最悪ってレベルじゃないぞ。
例えば、詩乃とか、綾とかさ……。
「ししし……。
聞いちゃった」
あー、やっぱりか。
遼とかだったらいいんだが……。
「って、詩乃!?」
一番最悪なお方だったよ。
というかいつの間に?
くのいちか?
SHINOBI?
『文化祭実行委員』とかかれた腕章をはめた詩乃はニコニコと俺を肘でつつく。
「波音?
もしかして三角関係だったりしない?」
ドロドロ関係を期待している顔だ。
だが残念だかそんなことは
「するね♪」
「お前は黙っとけ!」
ややこしくなる!
「えー、波音君……。
ひどいです……」
えー、お主もそこのるんかい。
「いや、違うから。
おい、詩乃、バカ、おいぐふ」
ぱしぱし叩く俺の腹に一発かまして
「あー、波音聞いた?
私達またビルに戻ってきたから」
詩乃はしれっと長い髪を風に揺らした。
そうなんだ。
「じゃ、また遊びに行くからおやつとか出せや」
俺は詩乃においしいものを要求した。
パンチのお返しといわんばかりに右指でほっぺたに突き刺す!
指す、刺す、射す!
「や」
そういうと詩乃は俺の手を捻った。
いてててて。
本当に強いんだから少し手加減してくれよ!
「じゃ、デートを楽しみなよ?
ばいばい」
詩乃はアリルの耳に噛み付くぐらい近くでそういうと
手を振って人ごみの中に消えていった。
人ごみ~に流されて~……。
「………!」
アリルがまっかになってうつむく。
そこもそこでかわゆす。
で、やたらきゃーきゃーとうるさい声が聞えると思ったらセズクが女子に絡まれているだけだった。
セズクだし仕方ないか。
小さく手を振ってセズクを置いて教室に行く。
「波音ちゃ~ん、久しぶり~♪」
また少し歩くと今度はマダムが俺達を見つけ、話しかけてきた。
人ごみの中でも目立つ金髪がこっちにマッハに近い速度で来るのはそれはもうまたすごいものだった。
金髪って目立つし。
「あっ、久しぶり……?
なんですかね、マダム」
二日ぐらい前にあった気がします。
ひどいめに会いました。
夜中に忍び込んでひどい目にあいましたです。
「おお、我が息子!
元気か!!」
大声でのしのし人ごみを掻き分け……いや押しのけ……。
いや、ちぎっては投げちぎっては投げしながらアリル父が近づいてきた。
「おかげさまで……。
二人とも今日はお祭に?」
それ以外ないだろ、俺のバカ。
一体何を聞いているんだ、俺のバカ。
二人は笑いあう。
「ああ!
いいものだな、祭は!
久方ぶりだよ!
今年はないものと思っていたが……!
いやあめでたい」
めでたいか?
そして声がでかい。
アリルも「お父様……」っていってるし。
「今年は苦労したみたいですよ?
実行委員会とかががんばったらしいです」
裏情報をアリルが父に言う。
アリル父は「なるほどなぁ」と言って脇につまれた瓦礫に視線を落とした。
アリル父はあの爆撃が帝国郡ではなく連合郡の仕業だと知っているのだろうか。
「そんなことより、この筋肉を……」
あわてて話題を変えるようなマネをしたことから知っているのだろうとは思うが……。
やっぱり多少なり後ろめたいのだろう。
「あ、波音ちゃん?
あとでまたあいましょうね~」
アリル父の筋肉自慢タイム終了。
マダムがアリル父の腕を掴んで仲良くくっつく。
本当に仲がいい夫婦なのだろう。
「あっはっはっは!
お前と二人きり―なんて……!
いやあなつかしい」
「あなたったら……もう!」
あの二人熱々だな。
百度で沸騰してるな。
さっさと教室に行ってサインしてこよう。
そんで色々買って……。
楽しみになってきた。
爆撃の被害にあった町でもこんなに沢山の人が生きていて
そしてこうやって楽しんでいることに少し驚いた。
人って強いな。
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仲がいい老人の夫婦を見ているとなんだかなごみますよね。
ぼくもあんなふうな老後を過ごしたいです。
人って強いですよね。
では、ありがとうございました。