改めての自己紹介
「今日は学校は午前中で終わりなんですよ」
「まじで?
やったっ!」
残暑が残る九月。
仁、アリルと一緒に学校へ向かって歩く。
俺は二人分の荷物を持ちながらだけどな。
結局、仁の荷物は自分で持たせることにした。
だって重いんだもの。
雲ひとつある空の下、鞄の持ち方を変えた。
「おっもたい……」
「だ、大丈夫ですか?
やっぱり私が持っておいたほうが……」
俺は首を振った。
「いや、吾輩が持つのだ!」
「吾輩……」
なんかもう意固地になっていた。
ここでアリルさんに持たせたら何か俺が負けた気がする。
「もう少しだぞ、波音がんばれ~」
もう無理、重たい。
べりーへヴぃーだぜ、これ。
汗が滲んできてだんだん体温が上がってきた。
暑い、重い、何とかしてくれ。
がんがんとなべを叩く音が響いてきた。
な、何だこれ。
何の音だ?
「やべっ、はじまるぞ」
「波音君、急ぎましょう!」
軽々と走っていく二人。
色々とちょっと待てや。
あの音、チャイムの代わりにならしているんだろう。
まだ校舎の修復は出来ていないからな。
瓦礫だけは取り除けた感じだもんな。
そして俺は……二人分の荷物……。
しかもこれも仁の二倍ぐらい重い。
原因を考えながらふと思い出した。
そういえばアリルさん、鞄の中にたっくさんの教科書入れてなかった?
それが原因ですっごい重いんですけど。
ものっそい重いんですけど!
心の叫びは絶対聞えてないな。
「おそいですよ!」
二人はもう校門についていた。
いつの間にこんなに差がついたのかは知らんが
約五十メートルもの彼方から俺にわざわざ教ええくれるのはいいが――。
俺、お主のせいでこうなっているの分かっているのかな……。
「永久~!
遅刻はゆるさんぞぉぉぉぉ!!!」
お残しはゆるしまへんで……。
じゃない。
俺の後ろからぐいぐい追い上げてくる一人の男。
結構ととのった顔立ち、そしてスーツ。
あまり特徴のない、一見どこにでもいる男性だが……。
今俺がいーっちばん会いたくない男だ。
誰かって?
聞いてない。
桐梨の野朗だ。
「永久~!!」
とまあなんかすごい感じに説明してみたが、桐梨は豆粒のごとく小さい。
遠近法的にすっごい遠く。
遅刻しそうなのはあんたのほうじゃないのかと。
その遅刻しそうな人が「遅刻はゆるさんぞぉぉぉ」とか。
片腹痛いわ。
(爆)とか(核爆)ってついてもおかしくないぐらいやわ。
アリルの荷物と自分の荷物を腹に抱えて少し早く歩く。
これで十分に間に合うだろ。
遅刻しそうになったら「桐梨先生も遅刻しました」って言えば何とかなる。
その言い訳が使えないのは俺が桐梨に抜かれてからであり
豆粒のように小さい距離にいるというのにあいつに俺が抜かれるわけが
「遅刻したいのか?」
化け物か?
「先生!?」
流石生徒指導部所属。
生徒を鍛えに鍛えているうちに自分をも鍛えてしまったのだろう。
「はい永久遅刻ー」
あっという間に俺を抜かしてゆく。
俺も負けじと走って追いかけるが一歩及ばなかったようだ。
目の前で無常にも切られた遅刻切符。
くっそ……。
「明日は文化祭だ。
三日間連続して行われるぞ。
二四時間、合計七二時間ずーっとな。
市からもお金が出ているしこの地域の人全員にこの校舎は開放される。
夜は花火、昼は屋台。
プールも開放してるぞ、金魚すくいとかに」
午前中、文化祭の用意で全部使った。
学校内は驚くほど変わっていた。
昨日の夜のうちに先生とかががんばったようだが……。
それにしてもすごい変わりようだ。
あちこちに屋台が立ち並び、校庭には盆踊り用の台みたいなのも立っていた。
三日間で二万人は軽く来るらしいから市としても学校としても稼ぎ時というところか。
どうやら今年も例年通りに学校をこの地域全員に開放するらしい。
爆撃で破壊された町人たちの元気にもなるだろうとのこと。
そんなこの小さな市にしては大きなお祭は前夜祭、文化祭、終夜祭と三段階で構成されている。
まぎらわしいがこの三日間をまとめて文化祭と呼ぶそうだ。
市の職員や本物の屋台がやって来てこのでかい敷地に生徒のを含め四十近い屋台が並ぶ。
花火もやるとか何とか。
いや、すごいな。
実質鬼灯に支えられているようなこの市の財政は鬼灯の言うがままに動くんだろうな。
「それじゃあここで終わるぞ。
この三日間を楽しんでくれ。
学生服だと飯が一割引らしいぞ」
「よっしゃ!」
桐梨の一声でクラスが盛り上がる。
「じゃあまた明日。
起立、礼、さよーなら」
「さよならー」
クラスの皆は我先にと教室から飛び出していった。
俺達もそれに漏れずのんびりとだが教室を後にする。
お腹減ったなぁ、それにしても。
詩乃達は文化祭の実行員だか何かで学校に残るらしい。
綾もそういって詩乃と一緒にどこかへ行ってしまった。
あれだけF様とか言ってた遼とその取り巻きはあいからわずだったが
メイナとシエラと×2になったことで少しは落ち着いたようだ。
俺はぶん殴りたかったけどな、面倒だし。
「明日は文化祭ですか……。
たのしみですね!」
帰り道の途中アリルが話しかけてきた。
「たしかに」
目を細めるシエラ。
「文化祭かぁ~。
私、はじめてなんだよね~」
そりゃ最終兵器として過ごしていたわけだからな。
はじめてじゃないと逆に驚くわ。
「文化祭かぁ。
中学校のときどんなんだっけなぁ……」
思い出そうと頭を抑えるが思い出せない。
どんなんだっけ、記憶に薄いな。
「その……波音君からきいたんだけど……」
楽しい話題から一変。
アリルさんが身長に物事の琴線に触れないように手探りで話しかけていた。
「?」
シエラにおそるおそる話しかけるアリル。
何かを決めたような顔をしている。
何を言うつもりなんだ?
「……その――」
少しためらうように首を振る。
手をぎゅっと握り何かを考えているようだ。
「言ってみて?
私、気になるじゃん?」
メイナの明るい声に決意を後押しされたのか
「シエラちゃんとメイナちゃんは……。
その……さ、最終兵器って本当なんですか?」
二人はきょとんと俺を見た。
何で俺を見るんだ。
俺は顔を背け仁を見る。
仁も俺を見ていたため俺は左右から顔に挟まれることとなった。
仕方なく空を見る。
あ、あの雲戦艦に見える。
「えーっと……」
五人の間に沈黙が広がっていく。
「えー……」
その中に気の抜けたような俺の「えー」が響く様はまさに滑稽だ。
これはあれですか。
仲間の秘密をばらしたものに対する罰ですか。
いや確かに俺が悪かった。
本当にみんなごめん!
ぬるま湯に足を突っ込んだような、なんともいえないじゅくじゅくとした感情が心を少し食った。
「そうだよ」
これは俺じゃない。
じゅくじゅくしたぬるま湯をあっつあつのお湯に変えたのはシエラだった。
さっぱりした彼女の顔が俺達四人の視線を集める。
「そ、そうだよ!
私はプロトタイプだけど……。
S・Dって名前を与えられたわ。
今はメイナのほうが気に入ってるけどね」
はじめはきょとんとワケが分からないといった顔をしていたメイナも
ここで言ってしまったほうが楽だと気がついたのか肯定の道を選んだようだ。
「僕はF・D。
当然、シエラのほうが気に入ってるよ。
姉さんのS・Dとは双子」
あらためての自己紹介だな。
俺は永久波音。
……聞いてないってか。
改めて言うなと。
「なるほど……。
じゃあ超兵器を叩き落したり第十二艦隊を全滅させたのも……」
「僕……と姉さん」
少し笑ったようにシエラが言った。
「え、ちょっと今なんで少しためたの?」
「……理由なんて物はない」
何だそれちょっとかっこいいじゃないか。
俺も今度使おう。
「そうですか……。
なるほど、なるほど。
波音君の言っていることは本当だったんですね……。
てっきり嘘ではぐらかそうとしているのかと思っていました」
おい!
俺はそんな風な人間に見えるってことか?
「なんかすっきりしました。
これからもよろしくね、最終兵器のお二人さん?」
アリルと最終兵器の二人は握手した。
「明日の文化祭が楽しみだ」
仁がうーっと呻いて伸びをした。
「理由なんて物はない」
「うん、何が」
使い方間違えたかな、俺。
仁に鋭くつっこまれちまったよ。
This story continues.
次は文化祭です。
そして……ラストへと。
もう少しでこの物語も終わりです。
多分。
後一年ぐらい続きます、おい!ですね。
ではここまで読んでいただきありがとうございました。