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第6話 残された者達

 ジョシュア・ハートフィリアは、かけがえの無い一人娘であるクロエの部屋で、独り立ち尽くしていた。

 いつも笑顔で自分を迎えてくれた可愛い娘は、もうこの部屋にはいない。


「・・・何故居なくなってしまったんだ?」

 

 クロエが居なくなった日から、毎日この部屋に来ては、娘が帰ってきていないか確認している自分がいた。

 もしかしたら、出て行ってしまった日と同じ様に、ひょっこり帰って来ているんじゃないかと淡い期待をしてしまう。

 しかし、何度部屋を訪れても、そこにクロエの姿は無い。


 部屋はクロエが出て行った日から何一つ変えていない。

 1番仲が良かった侍女のアンにも相談する事なく出て行ったらしく、アンもかなり悲しんでいた。

 クロエがいつ帰って来ても良いようにと、アンが毎日部屋を掃除してくれているので、埃も無く、綺麗な状態を維持していた。


「お願いだから・・・帰ってきてくれ」


 ジョシュアは、涙を流す。

 早くに亡くした妻の忘れ形見であり、唯一の娘が居なくなってしまった。

 まるで、胸に大きな穴が空いてしまったかの様な虚無感で、仕事も手につかない日々が続いている。

 

「私のせいなら、いくらでも謝る」


 もしも、ロイドとの婚約を勝手に決めてしまった事が理由なら、婚約破棄だって、喜んでしてやるつもりだった。

 自分の軽率な判断で娘を失ってしまったと考えるジョシュアは、後悔していた。


 金に糸目を付けずに、冒険者ギルドや闇ギルドに捜索依頼を出しているのに、一向に娘の足取りが掴めない。

 貴族の娘がそう簡単に遠くに行けるとは思えないし、逆に王都から離れて遠くに行ってしまえば、それだけ治安も悪くなる。

 令嬢が1人で旅をしていれば、狙われるのは必然であり、無事だとは思えない。

 もしかしたら、すでにクロエは死んでいるかも知れないし、奴隷商人に捕まっている可能性もある。

 

 そう思うと、ジョシュアは夜も眠れずに悩み続けていた。

 

「あの日、何を話すつもりだったんだ?」


 あの日、クロエの話を聞いてやれなかった自分が恨めしい。

 ジョシュアは、ゆっくりと扉を閉めて、部屋を後にした。



 その頃、クロイツェル家の屋敷ではロイドの怒声が響いていた。


「何故見つからない!?」

 

 ロイドは、無能な部下にイラつきながら机を叩いた。

 クロエが居なくなって1ヶ月が経過した。

 本来なら、今頃はクロエと婚約式を行なっている時期だ。

 クロエが姿を消した日から公爵家が保有する騎士団を最大限に動員してクロエの捜索を続けさせているのに、一向に見つかる気配が無い。

 王都は隅々まで探したし、東西南北に検問を設置して人の出入りは把握しているから、遠くには逃げていないはずだ。


 なのに見つからない。


「申し訳ございません!全力で捜査に当たってはいるのですが・・・痕跡すら見つからず」

 

 騎士団長が頭を下げて、謝罪するが、ロイドの怒りは収まらない。

 手に入ったと思った瞬間に、手の隙間から零れ落ちていってしまう様な感覚に、苛立ちが止まらない。


「探せ!この世の全てを探し尽くせ!」


 ロイドは、決して諦めるつもりは無かった。

 1ヶ月も経てば、クロエは死んでいるか、捕まっている可能性も高い。

 いや、令嬢独りでここまで逃げ切れるとは考えにくい。

 もしかしたら、協力者がいるのかも知れない。


「ジョシュア侯爵に怪しい素振りは無かった」


 ジョシュア侯爵の反応を見る限り、彼の娘を失った精神的な動揺は本物だった。 

 彼が協力者で無いのなら、他に誰が居るのか?


「もしかしたら、他の男と駆け落ちを?」


 クロエは、王国屈指の美少女であり、資産家の娘だ。

 クロエと結婚したがる男は星の数ほどいるだろう。

 もし、クロエが思いを寄せている男が他にいたら・・・?

 ロイドは、自分の魅力を自覚していたし、世の中の女性からの評価も把握していた。

 しかし、何故かクロエからは、他の令嬢達から受ける様な熱い視線を感じる事は一度も無かった。

 それどころか、冷めた視線に作った笑顔しか見たことが無い。

 幼馴染だから、男として見られていない可能性は考えていたが、それも婚約して意識する様になれば、変わってくると楽観視していた。

 

 しかし、その理由が、他に好きな男が居るからだとしたら、話は変わってくる。


 ロイドは、激しく頭を掻きむしる。


「クロエが僕以外の男と結ばれるなんて、絶対に許さないよ?」


 ロイドは、壁に掛けてある魔剣クラウソラスを手にした。

 ソードマスターだけが使えるオーラを纏い、ロイドのアイスブルーの瞳が怪しく光った。

 

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