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第26話 七つの大罪

 地下室の中央に位置する床はクリスタルの様な透明な鉱石で作られていた。


「これは・・・黒龍?」


 クリスタルの中心には、黒髪の少女が眠る様に横たわっており、その周りを守る様に巨大な黒龍がトグロを巻いていた。

 まるで、解けない氷に閉じ込められたかの様な黒龍と少女を見て、クロエは息を呑む。

 ある程度予想はしていたが、最後には伝説級の魔物である龍の登場に、クロエは、ため息を吐いた。


 もう、驚くのにも疲れた。


 クリスタルの床の周りには古代語で術式の様なものが刻まれており、四角い窪みが7つ空いていた。

 7つの窪みには、魔導書が嵌め込まれており、窪みの下にある金属のプレートには光る文字で名前が浮かび上がっている。


 手前に設置された巨大な石板を見ると、古代語で文字が刻まれていた。


「七つの大罪が忠誠を誓いし時、闇の力は目覚め、世界に再び夜が訪れる?」


 石版に刻まれた古代語を読んだクロエは、首を傾げた。


 七つの大罪とは、何を意味するのだろうか?

 忠誠を誓うと言う意味もよく分からないが、封印を解くヒントである事は確かだ。


「どう?封印の解き方は分かった?」


 近くで見ていたピクシーが不安そうに尋ねて来た。

 余程大切な仲間なのだろう。

 他の魔物達も、封印されている黒髪の少女を見て、心配そうな表情を浮かべているのが分かった。

 魔物同士で心配し合ったり、仲間意識があるなんて、想像した事もなかったクロエは、複雑そうな表情を浮かべる。


「すみません、もう少し調べて見ます」


 そう言うと、クロエは、窪みに嵌め込まれている七冊の魔導書を順番に見ていく。

 ピクシーは、一瞬、怒り顔で何かを言おうとしていたが、自分では何も出来ない事を知っているので、そのまま口を閉じて下がった。

 他の魔物も、古代語が読めないので、黙ってクロエの動きを観察しているだけだが、それが逆に無言の圧力を感じる。


 魔導書の表紙には、古代語でそれぞれ「憤怒」「傲慢」「怠惰」「嫉妬」「強欲」「暴食」「色欲」の文字が刻まれていた。

 出来れば中身を読んで見たかったが、魔導書は、魔力で固定されており、取り外す事は出来ない。

 更に、それぞれの魔導書の下にある金属のプレートに浮かび上がっている光る文字を見ていく。


憤怒:ルドラ

傲慢:エニス・ドラグニル

怠惰:アダン・ローグマイヤー

嫉妬:フィン

強欲:ゲイル

暴食:グラトニー

色欲:空欄


 いくつか見覚えのある名前がある事に気付いたクロエは、#亡霊の騎士__ファントムナイト__# を見た。


「確か、貴方の名前はアダン・ローグマイヤーだったよね?」


「そうだ、誇り高きエルダム王国の騎士だ!」


 #亡霊の騎士__ファントムナイト__# は、余計な事まで説明してくれたが、何となく見えて来た気がした。


「貴方は、グラトニーって呼ばれていたよね?」


 クロエは、巨大なスライムを指差して質問する。

 確か、ピクシーがこのスライムの事をグラトニーと呼んでいた。


「ナゼボクノナマエシッテルノ?タベテイイノ?」


 グラトニーは、不思議そうにはてなマークを作るが、どうやら正解の様だ。

 ここまで来ると、かなり近付いて来た気がする。


「ルドラ、フィン、エニス、ゲイル・・・この名前に心当たりはある?」


「アタシがフィンよ!」


 ピクシーのフィンが手を挙げて名乗り出た。


「ってことは、貴方がエニスかしら?」


 クロエは、銀髪の美少女を見て確認する。


「・・・正解」


 エニスは、不満そうな表情を浮かべるが、仲間を助ける為か、ちゃんと答えてくれた。


「じゃあ、残るはルドラとゲイルだけど・・・」


「ゲイルは、ガルムの名前だ」


 #亡霊の騎士__ファントムナイト__# は、魔犬ガルムを指差して答えた。


「因みにルドラは、そこで封印されてる黒龍の名前よ」


 最後はピクシーが答えてくれた。


 つまり、この魔導書と関連する名前の魔物は全員この場にいると言うことだ。


 石版に書かれていた「七つの大罪が忠誠を誓う」とは、忠誠を誓った魔物が7体揃う事を意味するのだろう。

 そして、「色欲」だけが、プレートに名前が書いていない。


 ・・・つまり、あと一体の魔物が忠誠を誓えば、封印が解ける可能性が高い。

 忠誠の誓いについては、通常、魔術的には、血か魔力を注ぐ事で契約が成立するので、色欲の魔導書に魔物の血を注げば良いだけだ。


「って事は、あと1人が色欲の魔導書に血を注いで忠誠を誓えば封印が解けるってこと!?」


 クロエが説明すると、ピクシーは、嬉しそうに問う。


「はい、恐らくですが・・・」


 確証は無いが、十中八九正解だと確信していた。

 自分の役目を終えたクロエは、深い安堵のため息を吐く。

 この恐ろしい魔物達のプレッシャーの中、もしも封印を解く方法が分からなかったらと思うと、恐ろしくて気が気では無かった。


「って事は、アンタの血でも良いって事だよね?」


「まあ、そう言う事になりますね・・・え?」


 緊張の糸が切れたクロエは、何も考えず答えてしまってから、ふと我に帰る。


 このピクシーは何を言っているのだろうか?


「私達、仲間だよね?」


 ピクシーの笑顔が怖い。


「ま、魔物なら私じゃ無くても、いっぱいいますよね?」


 クロエは、慌てて首を横に振るう。

 あくまで封印の解き方を解明するまでは約束したが、魔物に忠誠を誓うなんて約束した覚えは無い。


「その辺の雑魚には務まらないわよ!」


 ピクシーは、有難迷惑な事に、少しはクロエの実力を認めてくれている様だ。


「イラナイナラタベテイイ?」


 グラトニーがクロエに近づこうとすると、エニスが右手で制止した。


「謎を解いたら、最後まで責任持ってやらないとね?」


 しかし、エニスも逃がす気は無いらしい。

 もしも、ここで自分の利用価値が無くなれば、スライムに食べられるか、ウェアウルフが嫌いなエニスに殺されるかも知れない。


 ここで殺されるくらいなら、忠誠を誓って仲間になったふりをして、隙を見て逃げ出した方が生存確率は高い。


「分かりました・・・忠誠を誓います」


 クロエは、色欲の魔導書の前に立つと、右手を前に出して自らの爪で手首を軽く切り裂いた。


 真っ赤な血が流れ落ちて、色欲の魔導書を血で染める。

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