第24話 銀髪の美少女
屋敷の一階にある倉庫の壁は、一見するとただの石の壁に見える。
しかし、この壁は、特定の場所を押す事で、隠し扉が開閉する仕組みになっていた。
掃除をした際は、何も気付かなかったが、壁がスライドして開くと、暗い地下へと続く階段が隠されていた。
「ついてきなさい」
暗い階段をピクシーが先行して進んで行く。
ピクシーの身体は薄らと光を発しており、辺りを照らしてくれた。
その後ろから緊張した面持ちで、クロエが階段を降りて行く。
階段は螺旋式になっており、石造りの床が冷たい。
階段の下から恐ろしい気配と膨大な魔力が流れてくるのを感じ、クロエの尻尾は垂れ下がり、耳は畳まれていた。
背後からついてきている#亡霊の騎士__ファントムナイト__#とガルムは黙り込んでおり、空気が重たく感じる。
彼等は仲間同士らしいが、力関係はピクシーが上の様だ。
魔物の世界では、力こそが正義であり、強い者に従うのが唯一のルール。
クロエは、このメンバーの中で最も弱い。
つまり、クロエの立場は一番下という事だ。
まさか、こんな辺境の地に来て、伝説や童話に出てくる様な魔物達に出会うとは思っていなかった。
まるで、知らずに不良グループの仲間になってしまって抜け出せなくなった少年の様な気分だった。
背後から常に#亡霊の騎士__ファントムナイト__#の殺気を感じており、歓迎されていないのは明らかだ。
ガルムは、#亡霊の騎士__ファントムナイト__#から守ってくれたものの、ピクシーには逆らえない様で、当てにならない。
この状況では、ピクシーの機嫌を損ねない様にするのが最善の選択だった。
ピクシーから依頼された内容は、地下室で封じられている仲間を解放する事だ。
Aランク以上の危険な魔物の集団が解放しようとしている仲間とは、一体どれだけ危険な存在なのか?
地下室から漂ってくる魔物の気配は尋常では無い。
封印されているなら、そのまま永遠に封印されていて欲しいと思ってしまうが、この状況で協力を拒否出来るわけがなかった。
それに、仲間の解放に成功したら、この屋敷に自由に住んで良いと約束もしてくれた。
ピクシー達は、屋敷の地下に封じられている魔物を守る為にいるらしく、封印さえ解ければ、この屋敷に興味は無いらしい。
彼等が立ち去ってくれるのなら、協力も惜しく無い。
そもそも、クロエに封印を解除できるのか分からないが、ピクシーの話では、封印には、古代語が関係しているらしく、封印の謎を解くには古代語を読める者が必要らしい。
こんな形で古代語を使う事になるとは思っていなかったが、おかげで命拾いをした。
恐らく、クロエが古代語を読めなければ、彼等は、躊躇無くクロエを殺していたからだ。
使い道があるから生かされていると自覚しているが故に、クロエは、彼等に対して自身の価値を証明しなければならない。
「ここよ、中に仲間が2人いるから、死にたくなければ、大人しくしていなさい」
ピクシーは、魔鉱石で作られた両開きの扉の前で止まると、振り返って、クロエに忠告した。
「わ、分かりました」
まだ、他にも仲間がいた事にも驚いたが、リーダー格だと思っていたピクシーの顔に緊張の色が現れている事に危機感を覚えた。
どんだけヤバいやつが中にいるの?
ピクシーは、念力の様な力を使える様で、手を触れる事なく、魔鉱石の扉が軋み音を立てて開いた。
扉の向こう側は明るく、隙間から眩い光が漏れ出る。
そこは、地下室とは思えない程、広い空間だった。
高さ10m以上ある天井からは、巨大な魔導具のシャンデリアがぶら下がっており、室内を照らしている。
床は真っ赤な絨毯が敷き詰められており、まるで貴族のパーティー会場の様だ。
左右に6本の巨大な円柱があり、壁は全て巨大な本棚となっていた。
ざっと見ても10万冊以上の書物が保管されており、王宮の図書館よりも荘厳な雰囲気だ。
部屋の中を見渡すと、柱にもたれ掛かっている銀髪の美少女を発見した。
血の様な紅い瞳に雪の様に白い肌の少女は、見た目はクロエと同じぐらいの年頃に見えた。
漆黒の丈の短いドレスを着ており、静かに本を読んでいる。
「・・・犬臭い」
銀髪の美少女は、鼻をピクッと動かして、呟くと、読んでいた本を閉じてこちらに視線を向けた。
「・・・誰?」
クロエを見た瞬間、銀髪の美少女は、不愉快そうな表情を浮かべた。
「あ、あの、私はクロ・・・ッ!?」
クロエが名乗ろうとした瞬間、先程まで柱にもたれ掛かっていた銀髪の少女は、目の前に立っており、鼻と鼻が触れそうな程、近くにいた。
クロエの動体視力でも反応すら出来ず、目を見開く。
「頭が高い・・・跪きなさい」
銀髪の少女に命令された瞬間、クロエの体は、強制的に跪き、頭を下げて土下座をさせられる。
一体、何が起きているのか?
体が勝手に動いてしまい、目の前の少女の命令に逆らえない。
「・・・ふぎゃっ!?」
次の瞬間、銀髪の少女に頭を踏みつけられて、クロエは絨毯とキスをさせられた。
頭を上げたくても、土下座の姿勢を解除出来ない上に、頭を踏みつけている銀髪の少女の足は、凄まじい力で、ウェアウルフのクロエですら、どうする事も出来ない。
「ねぇ・・・私がウェアウルフの事、嫌いって知ってるよね?」
銀髪の少女は、クロエを踏みつけたまま、ピクシーに質問した。
銀髪の少女は、なんでウェアウルフなんかをこんな場所に連れてきたのかと言う様に、ピクシーを睨む。
「使えそうだったから仲間にしたのよ!」
ピクシーは、自信満々に胸を張って答える。
「・・・こんな半端な雌犬が本当に使えるの?」
銀髪の少女は、邪神エキドナの気配を濃厚に纏うウェアウルフと言う事以外、特別な要素は見当たらないクロエを見て、疑念の表情を浮かべた。
「古代語が読めるらしいからね!」
ピクシーがニヤリと笑みを浮かべた瞬間、銀髪の少女も納得したのか、紅い瞳を怪しく光らせた。
「へぇー、犬臭いウェアウルフのクセに古代語が読めるんだ?」
銀髪の少女は、踏みつけていた足を退けると、クロエを立たせた。
まるで、獲物を見つけた捕食者の様な瞳で見つめられて、クロエは、ゴクリと唾を呑み込む。
私って、そんなに犬臭いの?




