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真1話 騎士降臨


「おお神よ――私達をお救い下さい――」


 ここはマルキサンダー城の大聖堂。

 ステンドガラスには聖女が祈りを捧げている姿が描かれ、大きなパイプオルガンが演奏精霊によって荘厳な音楽を奏でている。

 その中央で、純白のドレスに身を包んだ1人の少女が祈りを捧げていた。


「世界樹が暗黒の意思を持ってしまい、世界を覆い尽くしました。我々人類は滅ぶしかない運命なのでしょうか――もはや聖女である私には、祈ることしかできません」


 彼女の名前は「レナリア・マルキサンダー」という、王族の慣習により教会へ預けられた少女だった。

 そのブロンドの金髪は王族の証。第1王女として生またが、その神聖な力を大司教に認められ、聖女レナリアとして世界を救う道標として活動していた。

 しかし彼女の力を持ってしても邪悪な世界樹、ユグドラエルの侵攻は止められなかった。

 世界の大半は緑で覆い尽くされ、最後の大陸「ヤーレシア」に残りの人類が集結し、最後の時を待つしかなかったのだ。

 あるいは世界のどこかでまだ抵抗を続けている人類もいるかもしれないが、それを知る術は無い。

 

「ああ、神よ――」


 バキバキバキッ――。


「え? きゃあ!?」


 突如現れた“それ”は、教会の天井をぶち破り――。


 ズドォンーー。


 大きな音を立てて、レナリアの前に倒れ込むように着地した鋼の騎士。

 彼女に瓦礫が降りかからないよう、身を挺して庇っている。


「危ない、もう少しでお嬢さんを傷付けるところでした」

「あ、貴方は――?」

「このような姿勢で申し訳ありません。私の名前は伐採騎士エクサカリバー……そして、私の友人である浅野君……浅野君?」


 落ち着いた口調から一変、エクサは慌てたように身体を揺らす。

 周囲をキョロキョロと探し、自身が落ちてきた天井を見上げる。

 

「きゃあ!?」

「コ、コックピットに浅野君が居ない!? よく見ればトラックマシンも、刈バーンも無い――どういうことだ!?」

「エ、エクサさん!?」

「ま、まさかさっきの落下中にどこかで落としてしまって――いや、センサーにも反応が無いし……ああ、どうしようか!」

「エクサさん、落ち着いてください!」

「ハッ――申し訳ないお嬢さん。私もこのような事態は初めてなので、少々天地AIが震えているようです」

「えー、あい?」


 ここで大きな扉が開かれ、兵士達が大聖堂へと慌てたように入って来た。

 

「せ、聖女様――なんだこれ!?」

「ご無事でしょうか――うわっ、なんだこのデカブツは!?」

「新手の魔物? ゴーレムか!?」

「皆さんも落ち着いてください。わたくしは無事ですので……」


 身なりを軽く整えたレナリアは兵士達を宥めると、再びエクサの方へ向き直る。


「エクサさん。わたくしの名前はレナリア・マルキサンダー……このマルキ国の第1王女と、聖女を務めさせて頂いております」

「マルキ国? 聖女レナリア――どちらも私のデータバンクには無い言葉です」

「非常に申し訳ないのですが……拘束させて頂いて、よろしいでしょうか?」


 ◇


 城内の中庭にて、全身を縄でぐるぐる巻きにされた状態で座っているのだが――もちろん、こんなものはエクサにとって拘束の内にも入らないだろう。

 それでもエクサは応じた。周囲を囲んでいる兵士達の顔は、未知に対する戸惑いと恐怖の感情で溢れている。

 そんな中、物怖じもせずレナリアは尋問を行っていた。


「では、貴方はチキュウという別世界から、あのユクドラエルの転移に巻き込まれてこの世界へやってきたと?」

「その通りです、レナリア嬢」


 エクサは地球のこと、ユグドラエスのことーー浅野君のこと、自身が造られた経緯、博士、仲間、社長、サポートメカなどあらゆる情報を包み隠さず話した。

 特に搭乗者でもあり友人でもある浅野君のことは、身体的特徴から好みの食べ物、好きな女の子のことまで詳細に話した。


「信じられん……」

「しかし、どう見ても奴らの仲間には見えないし……」

「地下へ逃げた魔族の手先では?」


 聖女レナリアの他に、城の重臣数人、多くの兵士が中庭に集結していた。

 エクサが話した内容はどれも、彼に取って突拍子もない話ばかり――調書を取っていた監査官が知恵熱でぶっ倒れた。

 混乱と混迷を極めた尋問会だったが、レナリアは他の者に対し、こう宣言した。


「――皆様。わたくしは、彼を歓迎したいと思います」

「レナリア様!?」


 さすがに聖女に対して「正気ですか!?」とは言わなかったが、誰もがそう言いたそうな顔をしている。


「神は何もお答えにならず、魔族は地上を去りました――もはや我々人類の力のみでは、あの邪悪な世界樹を退けることは不可能です」

「む、むう……」

「それは、そうですが……」


 もしどうにか出来ていれば、この海に囲まれた大陸に追い込まれることもなかったであろう。

 さすがのユグドラエスも塩分のある海には進出が出来ないのか、あるいは何か他に考えがあるのか――それは誰にも分からなかった。

 依然として、人類は全滅の危機に晒されているのだ。


「――エクサカリバー様。お願いがあります。貴方がここへ来たのは、きっと偶然ではありません――わたくし達を……この世界の人類を、お救い下さい!」

「レナリア嬢――」


 彼女はその場に跪いて、両手を合わせて祈るポーズを取る。

 聖女からの言葉に、エクサカリバーは笑顔でこう答えた。


「お断りします!」


『え、ええええ!?』


 その場の全員が、驚愕のあまり大口を開けたまま固まったのだった。

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