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第12話 東京大伐採作戦


 東京大伐採対戦の開始直前――。


 スカイツリーに取り付き、周辺の電気やLEDを利用して無限成長を続けるキビト12と呼称された植物の化物。

 自身のことをユグドラエスの母「フェルポーテス」と名乗った大樹。それが出現して半日が過ぎようとしていた。


「浅野君……いいのかい?」

「へへっ。エクサカリバー! 僕はもう覚悟はバッチシ決めたよ!」


 モウタ制作自慢の移動式航空空母『紅城』の甲板で、西洋の騎士をモチーフにした伐採騎士ロボット「エクサカリバー」と、彼の手のひらに立っているのは搭乗者にしてエクサカリバーが心から信頼する少年「浅野王子」だ。

 

 大樹は今も目に見えるほどの速度で巨大化を続けている。

 作戦本部に居る天才科学者「地道博士」の計算AIに寄れば、5日もあれば首都圏はもちろん東日本全域がこの大樹に飲まれてしまうという。

 

『エクサカリバー、浅野君。聞こえるか!』

「天堂博士!」

『敵の心臓部の位置は転送したぞ。作戦を伝える――今からトラックマシンを1号機から3号機まで射出、3体合体のトラックドラゴンに乗り、一気にそこまでぶち破るのじゃ!』

「――作戦という割に単純じゃない?」

『時には正面突破こそが最良の時もあるんじゃ! 最短ルートでいけるよう、こちらでもサポートするし、自衛隊にも協力が得られた! お前たちは何も気にせず、ただ突っ込めばええ!』

「分かりました天堂博士――では、浅野君」

「ああ!」


 手のひらの浅野少年をコックピットへと乗せ、ハッチを閉める――。

 車のような座席に座りベルトを締め、ヘルメットを被ってからハンドルを握る浅野少年。


『シートベルトと、安全ヘルメットは装着したね』

「もちろん!」


 この安全に配慮したスタイルでないと決して彼を乗せない――エクサカリバーが出した彼を乗せる条件だった。


「覚悟はしているけど……緊張するね」

『ああ……もう少しでこの戦いも終わる。そこまでの辛抱だよ』

「エクサカリバーは、この戦いが終わったらどうなるの?」

『――本来の用途である伐採作業ロボとして職務を全うすることになるだろう』

「良かった――戦いが終わっても、友達でいてくれるよね?」

『もちろん――我々はいつでも』

「剣と鞘のように2心1体――だったね!」

『そうだ!』


『トラックマシン1号、2号、3号――射出開始』

『よっしゃああああ!!』

『先輩、オレ達も行くぜええええ!!』

『プップー!!』


 空母より大型トラックが3台、一列になって空中に躍り出た。

 タイヤの部分が反重力ユニットとなっており、トラック後部の推進ユニットに点火されることで空中を走ることができるのだ。


「トラックマシン、変形合体(トランスドッキング)!」

『了解!』「プップー」


 エクサの掛け声と共に、3台のトラックは1号機から3号機まで並列で接続。

 1号機の運転席部分がドラゴンの顔となり、荷台の部分から手が、2号機からは翼が生え、3号機の荷台が尻尾へと変形する。


「とぉ!」


 エクサがトラックドラゴンの背中に乗ると、それを合図に空母から1機の航空機が射出。

 その航空機はエクサカリバーの真上に来ると剣の形に変形し、彼が背中の鞘から引き抜いた剣に合体する。


「剪定の剣、刈バーン!!」


 それはチェーンソーのような刃が付いた剣、対ユグドラエル用の剪定道具だ。

 数多の敵樹人を切り裂いてきた、彼のメインアイテムのひとつである。


「トラックドラゴン、いくぞ!」

『了解、エクサパイセン――モウタエンジン、フルパワー!』


 超圧縮回転電動モーターが唸り声のような音を立てる。

 トラックドラゴンの身体は燃えような紅い体へと変貌し、その姿はまるで本物のドラゴンようだ。


『正面より敵の接近――キビト01と02です!』


 かつてエクサと浅野少年が伐採した敵の呼称ナンバーだ。

 ソメイヨシノとユキヤナギという美しい花を咲かせる樹木。

 それにキビトが自身を接ぎ木をすることで、仲間へと変えてしまったのだ。


「懐かしいなぁ! 浅野君と初めて出会った日だ!」

「あの日、僕らは出会った!」


 当初、エクサは自身への搭乗者として適合率が最も高かった浅野少年を乗せることを拒んだ。

 子供を戦いに巻き込むべきではない――自分は自律型ロボットだ。搭乗者など要らない、と。

 しかし浅野少年と出会い、話し合い、触れ合うことで彼のAI――いや、心もまた成長していった。


「刈バーン、スラアアアアッシュ!!」


 トラックドラゴンが突っ込み、そのままの勢いで2体同時にコアごとぶった切るエクサ。

 もはや再生機人では、彼らを止めることはできない。

 

「いくぞドラゴン!」

『このまま突っ込むぜええええ!!』


「戦車部隊、撃てッ!」

 

 後方、地上よりモウタ制作のドリル砲弾を積んだ自衛隊の戦車部隊。

 騎士達に突破口を――自衛隊の田中曹長の号令と共に一斉発射される。

 

 轟音に次ぐ轟音。


 心臓部のある部分は最も厚い樹木の壁が立ちはだかる。

 少しでも彼らの負担を軽減する為の作戦に、自ら立候補したのだ。


 ◇ 


 ドラゴンの背にしがみつきながら、エクサは自衛隊が開いた突破口へ突入する。


 幾度とない衝撃に、超モウタ合金の身体が傷ついていく――。

 そして、


「ここが、心臓部――」


 かつてはスカイツリーの展望台があった場所に、それはあった。

 まるで赤いリンゴのような巨大な果実に幾重にもツルが絡みつき、心臓のように鼓動している。


『エクサカリバー……よくぞここまで来た』

「フェルポーテス、それがお前のコアか。今、伐採して――」

『愚かな』


 その言葉と共に、トラックドラゴンごと心臓部の地面へ叩きつけられるエクサ。


「ぐああ!?」


 周囲の壁から無数の触手が、エクサの背中を打ち付ける。

 エクサの身体は重力に引っ張られるように地面に張り付き、身動きが取れない。

 

『貴様のような機械人形風情が、ワタシに敵う訳が無いだろう』

「ぐうッ――!?」


 さらなる重力を重ねられ、エクサもドラゴンも機体が軋んでいく。


『機械。そのようなモノを生み出す度に、地球という星は命をすり減らしているというのに……やはり我らが地球を覆い尽くす――大自然と化した地球に、人類は不要だ』

「そ、そんなことはさせ――」

『まずは貴様を滅ぼし、その死骸を人類の前に晒す――抵抗は無意味だと、奴らもようやく悟るだろう』


 エクサの内部の浅野少年も、超重力の影響を受けて身動きが取れないでいた。


「そん、なことはさせる――もんか。お前は、地球の為だと言ってるけど……人間だって、動物だって、地球で生きているんだ!」

「まずい。浅野君の身体が持たない……!」


 地面に落ちてしまった刈バーンへ手を伸ばすが、少し距離が足りないでいた。


『潰れろ』


『こなくそぉおおお!!』


 外部スピーカーから聞こえるのは空母で待っていたはずの天堂博士の声だ。

 心臓部、いや大樹そのものが大きな振動を立て、少しだけ傾いた――。

 エクサのピンチをモニターしていた天堂博士が、空母そのものをぶつけたようだ。


『ぬう!?』

「博士、助かりました!」


 重力が途切れ、即座に刈バーンを手にするエクサ。


「トラックドラゴン、合体(ドッキング)だ!」

『了解!』

 

 エクサに内臓された超圧縮電動モウタエンジンが、フル稼働する。

 先ほどのドラゴンが赤くなったように、今度はエクサの身体が金色に輝いていく。


『させ――』


『ゼロ距離砲撃!』

『撃てぇええ!!』

 

 めり込んだ空母の甲板からも、地上の戦車からも攻撃を開始を行う。


『おのれ、おのれ人間めぇぇぇッ!』


 トラックドラゴンがエクサの新たな鎧となり、翼の生えた竜騎士となったエクサカリバー。

 その名を、エクサアーサードラゴン。


「これで、終わりだ!」


 4台分のエンジンをフル稼働させ、上段に構えた刈バーンが、エクサの身体が――黄金に輝く。


「行くぞ、フェルポーテス!」

『機械人形があああ!』


 赤い果実を守っていたツルがエクサの身体を貫くようにドリルとなり襲ってくるが、足に装着されらタイヤをフル回転させ、それを寸前で躱していく。

 しかし攻撃は猛攻を極め――肩、頭、太もものパーツが損傷していく。


 それでも、エクサは止まらない。


『ならば、これは――エネルギー不足だと!?』


 先ほどの重力攻撃も、外部電力と接続されて初めて使えるほどの大技だ。

 外部と接続されていた根っこの一部を、自衛隊部隊が切断に成功していた。


「刈バーン、ドラゴスラアアアアッシュ!!」


 エクサは飛び上がり、上段に構えた刈バーンを果実目掛け――振り下ろす。


『おのれ、おのれ、おのれええええ!!』


 最後の抵抗とばかり、ツルで猛攻撃を行うが――。


「うおおおおお!!!」


 赤い果実――フェルポーテスのコアが、真っ二つに断裁された――。


 その時だった。

 エクサとコアを中心に、巨大な幾何学模様の魔法陣が展開されたのだ。


「なんだこれは!?」

『ぐぐぐ――エクサカリバーよ、見事であった――ここは我が負けを認めよう』


 コアを真っ二つにされてもなお、フェルポーテスは言葉を発していた。


『ならば我が母星へ招待しよう――』

「なんだと!?」

『そこで、我が子達が必ずお前を――ぎぎぎっ』


 フェルポーテスのコアが真っ赤に弾け――そして、魔法陣が赤く光る。


「まずい。浅野君だけでも脱出を――」


 その言葉を最後に――エクサカリバーは、地球から姿を消したのだった。


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