第1話 エクサカリバー
地球。
高度に成長し続けた人類は、地球のあらゆる資源を貪り続けた。
石油、鉱山、森、魚、水――。
時には環境汚染として問題に上がることがあるが、文明水準を下げることなど――誰もが現代の便利な道具、乗り物や食事を捨てることが出来ない。
「食料問題は深刻な時代へと突入しました! 牛や豚など家畜として飼われる動物が可哀そうだとは思いませんか? 私達と一緒自然を豊かにしましょう!」
街頭でこのような発言を行う団体も珍しくなくなった頃――。
『自然を豊かに――良い言葉だ』
「そうでしょうそうでしょう! 貴方もそう思いますよね!」
「……あの、誰と話してます?」
「え?」
妙齢の主婦風の女性は、同じ団体の若い男性からそう聞かれた。
「誰って、そこの――」
『だが、そのやり方ではダメだ。何故なら――』
女性が振り向くと、そこには自分達よりも大きい――樹が、立っていた。
その樹は枝を腕のように振るうと、こう叫ぶ。
『お前ら人間もまた、邪魔な存在だからだ!』
「きゃあああああ!?」
「うわあああああ!?」
街中で突如、現れた「樹人」による襲撃。
日本の東京を始めとする世界各国の主要都市が、緑に覆われた。
既存の樹木、そこに住まう人達に自身の枝を植え付けると、たちまち樹人の仲間になってしまうのだ。
この事態に国連は加盟国193か国及び非加盟国に対しても、緊急の対応を求めた。
しかし、この生きた樹に対しては既存の伐採道具はもちろん、ミサイルや砲撃なども効きはするが有効打にならない。
人型兵器「ブレーガー」による作戦も失敗に終わり、核の使用を検討しようとした矢先、樹人から布告が飛び込んできた。
『聞こえるか――我が声が――』
『愚かな人類よ――我らは世界樹ユグドラエス。お前らが樹人と呼ぶ存在だ』
『我らにはいかなる兵器も意味を成さない。核と呼ばれる醜悪な兵器があることも承知している――使ってみるが良い。だが、滅ぶのはお前達だろう』
『さぁ選べ。このまま滅びるか、我らと共にこの地球の一部となることを!』
この事態を受け、民間の作業用ブレーガー販売企業「モクタグループ」は兼ねてから開発中だった巨大樹木剪定作業用ロボ「エクサカリバー」を公表する。
天才ロボット科学者「天堂博士」と、天才AI開発者「地道博士」 によって作られたそれは「天地AI」と名付けられた超AIを搭載した自律型のロボットだった。
◇
「100年以上前、あのユグドラエスとやらが初めて地球で確認された時――ご先祖様の話を誰も信じようとはせんかった……故に、ご先祖様の一族は様々な企業を立ち上げ、それがモウタグループの前身となったのじゃ……」
「天堂と儂もまた同じご先祖を持つ遠い親戚同士とは、なんとも因果な話だわい」
モウタ本社ビル地下10F格納庫。
2人の白衣を着た老人が、ある巨大なロボットを前にして話している。
「ユグドラエスは普通の植物とは違い、我々人間のように心臓となる部分が存在する――そこを破壊せねば、永久に再生と成長を続ける化物じゃ」
白い髭を撫でながら喋っているのは天堂博士。
ロボット工学のみならず、あやゆる学問に精通する天才博士として有名であったが――ある日を境に、表舞台から姿を消していた。
「この儂が手掛けた超優秀なAIがあれば、的確に伐採を行い、心臓を刈り取ることができるわい」
頭と眉毛の境が分からないほどの毛量に埋もれているのが地道博士。
彼もまた作業ロボAI開発における第一人者であり、天堂と同じくして表舞台より姿を消した人物。
彼らはモウタグループに招かれ――何年と掛けて、この目の前のロボットを開発していたのだ。
「天堂よ。お前の協力あっての完成だ……コイツの名前はなんだっけ?」
『地道博士。ワタシの名前はエクサカリバー……そうお呼び下さい』
西洋の鎧をモチーフにした、白い装甲に覆われたスタイリッシュな見た目の巨大ロボット。
全長は33m、重量770t。背中には樹木を斬ることを目的とした「カリバーソード」が装着されている。
モウタが独自開発した超圧縮回転電動モーターを内蔵しており、稼働しつつも自力発電で電力を賄えるので長時間の稼働も可能だ。
樹木や草木を伐採し、元の正しい姿へと戻す為の――正義の心を持った騎士だ。
「さすがワシの開発したAIだ!」
「天堂博士、地道博士――」
「おぉ猛田社長」
2人に声を掛けたのは、モウタ一族の当主にして社長の猛田英二。
苦労が多いのか白髪が多く混じって老けて見えるが、まだ50代前半である。
「全支店、全社員を検査して――適合者が、見つかりました」
適合者――それはエクサカリバーの搭乗者のことだ。
自律型ではあるが、そのポテンシャルを最大限に発揮するにはAIもまだ幼く、的確な作業を行える搭乗者が必要不可欠なのだ。
「さすが全国、全世界に多くの支店を持つモウタじゃな。で、どんな奴じゃ?」
「それが――実は、社員の中には適合者が見つからず――」
「え? でも適合者が見つかったと……」
「えぇ。この本社で勤務する営業課の浅野君――そのご子息です」
様々な検査項目から、最良の数値を出した浅野誠二。しかし、それでも適合者たる数値には届かなかった。
念には念を――その第一子である浅野王子。彼にも検査を行ったのだ。
「適合率97%。浅野君でさえ72%なので、これは驚愕と言わざるを得ません」
「ちなみにそのお子さんの年齢は?」
「……10歳の男の子です。正直、子供に危険な作業をさせるなんて……浅野君にも、どう説明したらいいか」
『その通りです、猛田社長』
エクサはその場に跪き、自身の胸に手を当てる。
「うお!?」
『ワタシも反対です。樹人に対する作業は大変危険なものになります。年端もいかない少年を巻き込むなどと――ワタシは完全自律が可能な伐採騎士ロボットです。搭乗者が居なくとも、作業を完遂させてみせます』
「おお、もうここまで精巧な会話が行えるとは――」
「しかしだなぁ、エクサカリバーよ。お前さんのポテンシャルを100%、いやそれ以上発揮するには作業者の存在が必要不可欠で――」
『ワタシの騎士道に反します』
「ったく、頑固さは地道博士そっくりじゃ」
「ふんっ。高潔な儂の性格に似たと言って欲しいわ!」
『社長! 至急、会議室までお越しください! 樹人が侵攻を開始したようです!』
「仕方がない。念のため、私は浅野君とご子息を迎えに行きます!」
「エクサカリバー、先に発進して敵の侵攻を食い止めてくるのじゃ!」
『お任せください。ご子息が到着する前に、敵を伐採してみます!』
エクサは立ち上がり、自信たっぷりとそう宣言するのであった。