◆甘いキスを
玄関を開けようとする前島くん。
だが、扉は閉まっていた。
そうだ、俺が予め灯に連絡しておいたから施錠してくれたんだ。これでヤツは中へ侵入できない!
「残念だったな。観念するんだ、前島くん」
「……クソッ!! ならガラスを割ってでも!」
「させるかよ!!」
もうここで捕まえるしかない。
距離を詰め、俺は前島くんに飛びついた。
「――ちょ、うわああああ!!」
タックルするように腰のあたりに突っ込み、前島くんを押し倒した。
「もう諦めろ!!」
「くそがあああああああああ!!」
直後、玄関が少し開いた。
「……しょ、正時くん!」
「灯、来ちゃだめだ! 今、前島くんを取り押さえたところだ! 警察を呼んでくれ!」
「ま、前島くん!? ていうか、黒部さんも倒れてない!?」
「詳しいことは後で話す!!」
「わ、分かった!」
家の中へ戻ってもらい、俺は前島くんを取り押さえ続けた。警察を待つしかない!
「た、助けてくれ、熊野!!」
「今更命乞いか! 前島くん、君と黒部さんを警察に突き出す」
「そ、そんな……!」
「これで終わりだ」
「……くそぉ」
ようやく諦めたのか、前島くんは力尽きていた。……ふぅ、これで一安心かな。――いや、まだ油断はならんな。
警察が来るまでは。
◆
あれから少し経ち、前島くんも黒部さんもパトカーに乗せられて連行された。
「ありがとう、正時くん」
「灯にケガがなくてよかった」
「でも、その……まさかこんなに守ってくれるなんて思わなかった」
「当り前さ。灯が強いのは知ってるけど、それでも守りたかったんだ」
そう告白すると、灯は嬉しそうに微笑んだ。そして、両手を伸ばして俺の頬に触れてきた。
思わず立ち尽くしていると、唇にしっとりしたものを感じた。
唇と唇が触れ合っていた。
このためにがんばった。
「……好き。好きだよ、正時くん」
「俺もだよ、灯」
もう一度キスを交わした。
じっくりとゆっくりと、甘いキスを。




