◆三沢さんの秘密
一時間だけ授業をサボり、教室へ戻った。
担任には三沢さんが貧血で倒れたと事情を説明した。すると、アッサリ納得していた。過去に何度も倒れているおかげか。
授業を受け続け――放課後。
なぜか積極的に三沢さんが俺の手を引っ張ってくれた。
「んぉ……?」
「行くよ、熊野くん」
「お、おう。どこへ?」
「まずは保健室でしょ~。ほら、カウンセリング」
「あ、そっか」
廊下を出て保健室へ。
なにか殺気のようなものを感じたけど、三沢さんのおかげ(?)でトラブルに巻き込まれることなく辿り着いた。
なんだろう、俺を守ってくれているのかな?
よく分からないけど、保健室へ。
「来たか、正時」
「今日もよろしく姉ちゃん」
「うむ。顔色が悪いな」
「早ッ!」
「一目瞭然だったからな。正時、お前疲れすぎだろ」
「そんなことないと思うけどね?」
昼休み、三沢さんのおかげでかなり癒された。あれから体力はぐんと回復したはずだ。だが、姉ちゃんの目は誤魔化せないようだ。
まだまだ足りないってことかな。
「そんなことある。少しだけでいい、仮眠を取れ。ほら、そこのベッドを使っていいから」
「……分かったよ」
「その間、私と三沢さんで話している」
「なにを?」
「いいから耳栓して寝てろ」
なぜか耳栓をさせられ、俺はベッドへ横になった。あ、カーテンまでしやがった。そんなに聞かれたくないのだろうか。
気になるなあ。
◆
残念ながら会話は聞こえなかった。
三沢さんに秘密があるようだったが、姉ちゃんは話してくれなかった。秘密なのだから、当然か。
結局今日のところはカウンセリングはなし。ただ寝ていただけだった。でも、疲れは十分に取れたし、もう大丈夫だ。
これ以上寝ると今夜眠れなくなってしまう。
学校を出て家へ帰る。
そのはずだった。
校門を通せんぼする者がいた。
コイツ……どこかで。
あ、最近俺を襲ってきた男だ。
確か名前を安田とか言ったか。俺を殴ろうとしたが、三沢さんが阻止してくれたんだった。
また性懲りもなく現れたか。
「おい、熊野!」
「……なんだよ」
「てめぇの足を使えなくしてやらあああああ!!」
ナイフを取り出す安田は、俺の足目掛けて突進してきた。……お、おい! いきなりなんだよ、それは!
まさかマラソン大会の妨害を!?
いや、そんなことを考えている場合ではない!
安田のヤツ、俺の足を確実に狙ってきていやがる。
か、回避……!
「っ!!」
ブンッと足元ギリギリにナイフの刃が走る。
「熊野くん! 大丈夫!?」
「俺は大丈夫だ。三沢さんは逃げるんだ!」
「君を見捨てるくらいなら戦うよ」
「まて。相手はナイフを持っているんだぞ……!」
「そうだね。だから、こんな時の護身術じゃないかな!」
「危ないって!」
だが、三沢さんは怖気づく様子もなく、果敢に安田に向かっていった。
な、なんて人だ。
俺はビビって避けるくらいが限界だったのに。
意外だったのか、安田はビックリしていた。
「なッ! 三沢さん、邪魔をしないでくれ!」
「安田くん……だったよね。熊野くんを狙うなら、容赦しない。またぶっ飛ばされたい?」
「……あぁ、それも悪くないネ!」
コイツ、頬を赤らめやがって変態かよ。
いや、三沢さんに殴られるとかコイツにとってはご褒美なのだろう。なんてヤツ!
「――たぁッ!」
素早い動きで安田の手に持つナイフを弾く三沢さん。え、まて。今のナニ! 一瞬すぎて何も見えなかったぞ。
いつの間にかナイフは宙を舞い、地面に突き刺さっていた。
いったい何をしたー!?
「す、すげえよ、三沢さん!」
「ありがとう、熊野くん。でも、安田くんはまだ健在だよ」
「そうだな。どうする?」
「倒すしかないよね。正当防衛さ」
確かに向こうはナイフを持っていたし、身を守る為なら仕方ないよな。




