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犬神様はひとりぼっち

作者はポストアポカリプスや終末世界が大好物です。

それに作者の性癖ののじゃロリ系犬娘(阿保の子)をぶっ込みました。

作者は足し算しかできない。

 その犬は名を孤狼といった。

 遥か昔は化け犬として人を襲ったが、人により祀られ、鎮められたことにより神となった。

 神となったその化け犬は、長い年月をかけ人と関わり、共に過ごした。

 初めは煩わしく思った孤狼だったが、御供物ももらえるし、何だか悪い気分ではなかった。

 そしてその犬神はだんだん人を好くようになった。

 特に子供が御供物として持ってきてくれた金平糖なるものに、孤狼は心惹かれた。

 甘味と呼ばれるその食べ物は孤狼を幸せな気持ちにさせた。

 そんなものを作り出せるとは人間とは何と素晴らしいものだろうと孤狼は関心したものだ。

 人間を好きになった孤狼だったが、人の争い好きには辟易していた。

 戦争だ何だの争ってばかり……


「また戦か。全く好きじゃのぉ……今度は何じゃ」


 この前は確か第二次大戦とか言っていたか、ということは今度のは第三次大戦だろうか?

 孤狼は苛立たしげに首を傾げる。

 戦が始まると、参拝客がいなくなる。

 もう1ヶ月近く御供物を供えてもらっていない。

 ようは甘味が食えなくてイライラしていたのである。

 人の姿で街へ繰り出そうか、とも思ったが、店も開いているか分からない。

 今も、人里から鳴り響くサイレンの音が聞こえてくる。

 煩い。

 孤狼は唸った。


「もう知らん」


 そうして孤狼は人間に愛想を尽かし、不貞寝することにした。

 何年かかるかは知らぬが、静かになるまで寝ていよう。

 どうせ人間たちは忙しくて自分のことなど忘れているのだ。

 ほとぼりが覚めるまで、こっちだって知らんぷりしてやる。

 孤狼は寂しがりやの構ってちゃんという実に面倒臭い性格をしていた。

 自分の家である社に籠り、孤狼は丸くなった。

 戦が終わったらまた人里へ降りよう。

 以前食した“ぱふぇ”なるものをもう一度いただきたいのぉ。

 そんな日を夢見ながら孤狼は眠りについた。




……………………………




…………………




……




「…………ふが」


 さてそれからどのくらいの年月が経過しただろうか。

 孤狼は目を覚ました。

 何か寝苦しいと思ったら、孤狼の鼻に大きな蝶が止まっていた。

 くすぐったい。

 孤狼が鼻息を荒くすると、蝶はハタハタと飛び去っていった。

 なぜ、蝶が社の中に入って来ているのだろうか、孤狼は首を傾げる。

 そうして天井を見上げて、ギョッとした。

 木造の社は老朽化し、崩れ、天井があった場所には空が広がっていた。


「………………」


 寝過ぎたのかもしれない。

 孤狼は冷や汗をかいた。

 あたりは戦争をしていた頃が嘘のように静かだった。

 静かすぎるくらいだ、あたりには木々のざわめきと虫の音しかしなかった。

 戦争は終わったのかもしれない。

 起き上がると、床がメキメキと音を立てる。

 外へと続く扉はなくなり、地面には扉の残骸が散らばっていた。

 外は大きな木々が鬱蒼と茂り、森のようになっていた。

 木の成長具合から何十年も経過したことがわかる。

 寝過ぎたどころの騒ぎではない年月が経過したようだった。

 孤狼は困ったように頬を掻いた。

 流石にここまで長い期間眠っていたのは初めてだった。


「戦はもう終わったかのぉ」


 孤狼は人里へと続く道へと目を向ける。

 そこには鬱蒼と草が生茂り、道を覆い隠していた。

 流石に音沙汰が無過ぎてみんな自分のことを忘れてしまったようだ。

 以前には感じられた、人間の信仰心が今はみじんも感じられない。


「…………人里に降りてみるかの」


 孤狼は巨体を揺すると、その姿を変えた。

 美しい白髪の女性。

 巫女服を纏い、腰には立派な宝剣を佩いている。

 犬耳と尻尾が残ってしまっているのはご愛敬だろう。

 孤狼はもともと変化が得意ではない。

 それでも、化け犬の姿では人を怖がらせてしまうので、人里に降りる時はいつもこの姿だ。


「かふぇがまだやっとるといいのじゃが」


 草をかき分け、孤狼はゆっくり人里を目指した。









 からん、ころん、と孤狼の履いた下駄が小気味いい音を立てる。

 山道は、いつの間にか舗装されたアスファルトへと変わる。

 森はなくなり、家々が立ち並ぶ地点まで来た。

 だが、何かがおかしい。


「人の気配がないのぉ」


 煩いほど賑わっていた街がしんと静まり返っていた。

 昔来たときには数えきれないほどの人が往来していた商店街も、誰もいない。

 店の看板が倒れ、錆び付いていた。


「みんな引っ越したんじゃな」


 そんな街を見ても、孤狼はどこか楽観的だった。

 神とは、長く生きる分どこか達観した精神構造をしているものだ。

 特に孤狼は神の中でも幼い精神構造をしており。

 よく言えば純粋、悪く言えば間抜けだった。

 高いビルが傾き、アスファルトも以前と違ってひび割れていても、彼女は気にも留めない。

 孤狼の頭の中には昔かふぇで食した“ぱふぇ”なるもののことしかなかった。

 うる覚えの記憶でかふぇを目指す。

 孤狼の足取りはどこか陽気だった。

 からん、ころん、と下駄の音が人のいない廃墟に鳴り響く。

 はたして、数時間の時をかけて孤狼はその場所にたどり着いた。


「はれ?」


 だがそこには何もなかった。

 窓ガラスは全て叩き割られ、店内はまるで物取りにあったかのようにぐちゃぐちゃだった。

 震える足で、孤狼は店内へと入る。

 以前来たときは綺麗に並べられていた机と椅子が、床に転がっていた。


「ぱふぇは???」


 そんなものどこにもなかった。

 ここまで来てようやく孤狼は何かおかしいぞ、と気がついた。

 カフェの窓枠に手をかけ、外を眺める。

 荒廃した都市、木々が生茂り、建物を侵食している。

 まるで人の営みが忘れ去られたかのように。


「甘味はどこじゃぁぁぁああ!!??」


 孤狼は慟哭した。

 だがその叫びは人のいない街に虚しく響わたるだけだった…………

 返事はない。


 もしかして…………人類滅んだ?

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