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作者: かねこふみよ

 いつもより少し早く起きなければならない朝のことだった。

 起き抜けに飲んだ水が冷たかったおかげか、顔を洗ったとたんに催した。けだるいような感じのままトイレに入り、便座に腰を下ろした。腹の張りがあっという間に緩むと、ドアが開いたままだったのに気付いた。他に家族がいればそれでも閉めようとはするだろうが、ペットもいない。慌てることもなくそのままトイレットペーパーを伸ばした。ズボンを上げ、流した。徐々に体も起き始めていた。トイレを出て、ドアを閉めようとした。ふと視線が落ちた。トイレ前の壁の角っこに沿って黒い影がこんもりとしていた。のっそりと動いた。それが蛇であると頭が認めるのに数秒あったろう。どうしているとか、どっから入ってきたとか、疑問が浮かんだのはもっと後の時間だった。枝分かれした棒なんかを持ってきて押さえつける、なんて対処ももう少し経たないと浮かんでこなかった。閉めようとしたドアノブを握ったまま、蛇を見つめたまま、突っ立っていた。蛇は鎌首を上げた。「襲い掛かってくる」、そういう予想が閃いて、逃げる方法を思案できたのは、流れていた水の音が聞こえたからである。それが終わった。蛇はじっと見つめていた。睨んでいるのではなかった。会ったことはないが、霊能力者に品定めされている、そんな目だった。

 蛇はゆっくりと、けれど重々しくはなく動き出した。壁に身を這わせて遠くなっていった。一息が出た。恐る恐る距離を取るつもりでのぞくようにして、音もたてず歩くことにした。蛇は壁際に置かれたカラーボックスを気にすることもなくその壁との間に入って行って尻尾も見えなくなってしまった。僕はそれをじっと見ていた。それから五分ほどを待ってからカラーボックスを動かした。蛇はどこにもいなかった。もちろんこの時間でカラーボックスの後ろから出てくる様子は見ていない。壁にも床にも穴は開いていない。もしかしたら蟻とかが入ってこられる隙間はあるだろうが、胴回りが十数センチある蛇が出入りできるスペースはなかった。

 この住居に住み始めて五年。その件があってから半年。蛇がそこにいたのはその一度きりである。


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