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0が悪いと誰が決めた?

柴野いずみ様の「ざまぁ企画」に参加します!


初めての単発?短編です。

お目汚しに成りますがヨロシク♪

 剣と魔法の世界が有った。

 その世界では10歳に成ると神々の洗礼を受けステータスを表示出来る様に成るのだが、それは王族・貴族にとっては非常に重要な意味を持つ。

 ステータスとは本来❝社会的地位❞を示す言葉だが、封建社会であるコチラの世界では❝実力❞と言う意味を持ち、その子の成長を見定める目安にも成るからだ。


「魔力量・・・0だと?!」


 老齢の皇帝が呻く・・・義理と言え、その子の祖父に当たる人物であった。


「ゴミでは無いか!」


 父親・・・と言っても侯爵家を存続させる為と、王家が無理矢理押し付けて来た血は繋がって無い義父が言った。

 ゲスが・・・確か第三皇子だった筈だ。


「こんな出来損ないをダラナイク侯爵家の跡継ぎには認められん!」


 と父が言った・・・この子の実の祖父なのに何と酷い事を言うのだろう。

 そもそも貧乏伯爵家を侯爵家にまで押し上げたのは、貴男じゃ無く私なのに!


「廃嫡するのだ!そして吾輩との間に新しい子を成すのだ」


 貴様に何の権利が有って言うのだろう・・・王家から無理矢理婚姻させられた夫が言った。

 全く躰を許して無くて良かった・・・前の夫に操を立ててる訳では無いが、好きでも無い男と寝屋を共になど出来なかったのだ。


 むしろ小物で卑怯・・・この手の男は大嫌いだった。


 あぁアベル・・・何で私を置いて逝って仕舞ったのだ!

 私が駆け付けるまで耐えられ無かったのか・・・我がダラナイク侯爵領は私と夫が倒した魔王の城と周辺、ダンジョンも多く魔物が溢れ返る事など珍しくない。

 この子の父親は線の細い美丈夫ながら、領民を部下を守る為に最後まで踏み止まって命を落とした真の武人だった・・・彼の様な男なら私も再び恋に落ちるのかも知れない。

 そう・・・その様な男なら、国の為と言われれば私は結ばれても仕方無かったのだ。


 私は女ながら❝勇者❞の称号持ちである。

 そして元傭兵だった夫は称号は❝勇者の守護者(ガーディアン)❞、私達は手を取り合って魔王を討伐した。


 魔王は最近・・・いや私が前世で死亡した頃に、ラノベで流行した❝実は良い奴❞でも❝同情すべき点もあった❞と言う魔王で無く、とことん腐ったゲス中のゲスである。

 泣き叫び命乞いをする魔王にトドメを刺した時は、心の底からスカッとしたモノだ♪


 そして夫と結ばれ我が子❝アーティー❞を授かったのが、王家は随分面白く無かったらしく何度も嫌がらせをされていた。


 勇者の血を・・・魔王をも倒せる力を王家に取り込みたかったのだ。


 無能のクセに物欲と色欲そして権力欲の権化だった父を侯爵に陞爵し、夫と離縁させようと何度も色々策を弄してきた。

 3年前に夫が死ぬまでは悉く全て理不尽な要求を跳ね返してた・・・夫が死んだ翌月には❝王命❞に依って無理矢理このゲスと結婚させられたのだ!


「そんなモノは捨てて仕舞え!」


 無理矢理引っ付けられた名前だけの夫が私の胸元に手を伸ばす・・・アベルの形見のペンダントに!

 その手首を私は捻り上げると、然程力も入れずに圧し折った!


「ぎやぁぁぁぁぁ~~~~~っ!」


 見っとも無い悲鳴が響き、ゲスは白眼を剥いて叫び続ける・・・アベルは片目に矢を突き立てられても、笑いながら自分で引っこ抜いたぞ!


「で・・・殿下に対し不敬であるぞ!」


 高位貴族共が口々に叫ぶ・・・が私は意にも介さないし、その必要も無かった。


「アーティーを廃嫡し、我が子である夫と子を成せ・・・これは王命である」


 王が厳かに言った・・・積りだろうが、その顔が私には欲望を滲ませてる醜悪なモノにしか見えない。


「アーティーは?」


 私が問うと醜悪な顔で王は言った。


「殺せ・・・楽に死ねる薬がある」


 私は・・・呆れた様に大きな、周囲にまで聞こえる大きさで溜息を吐いた。


「ここまで嘗められてるとは、女と言え勇者も落ちぶれたモノね!」


 冗談じゃ無い。

 我が子を殺されそうになって黙ってられるモノか!

 私は腰の聖剣を・・・引き抜き掛け、反対の腰に差して有った短剣を引き抜いた。

 周囲の近衛が緊張する。


「な・・・何をする!」


「気が触れたか?」


 と誰何するも詰め寄っては来れない。

 近衛程度では私の相手に成らない事は皆が解っている。


「この国に貴族として生を受け、その義務は果たそうと懸命に生きて来た。だがもうヤメだ・・・魔王を倒したんだから十分に義務は果たしたでしょ?」


 言葉遣いも本来のモノに戻す・・・貴族言葉など窮屈なだけだった。

 私は腰まで伸ばした金髪を、纏めて持つと後頭部でバッサリ切り落とした。

 周囲の貴族が驚き息を飲む。


「女勇者レイミアは貴族籍から離脱する・・・私自身が貴族では無いのだから文句無いでしょう?同時に国からも出奔する、こんな愚かな貴族共が運営する先の無い国と運命を共にするつもりは無いわ!」


 王は顔を怒りと驚愕に紅潮させ、それでも何も言わずにブルブル震えていた。

 私が聖剣を引き抜き飛び掛かれば、奴の醜いそっ首など即確実に斬り飛ばせる。


「アーティー、おいで・・・・・」


「ハイ、母さま♪」


 愛らしい顔をしたアーティーが私の拡げた両手の中に飛び込んで来る。

 こんな可愛い子を殺すだなんて、このクソ野郎どもには愛想が尽きた。


「この子の命イヤ私の命も含め、欲しいなら追って来るが良い・・・悉く斬り伏せ死体の山を築いてあげる」


 殺せるモノなら殺して見るが良い!

 この国の全兵力を注ぎ込めば、私を殺す可能性もワンチャン有るかも知れないぞ!

 私は声を出す事も出来ない、王と腰ぎんちゃくを見渡した。


 誰も動けず何も言えない・・・情けない事である。

 私は上半身には半鎧を着装し帯剣していたが、王前に出る事だし下には一応ドレスを着ていた。

 アーティーを抱えてたので、開いてる利き腕の右手だけでスカートの端を摘まみ最後の挨拶を交わす。


「では私はコレで失礼します。今生の別れに成るでしょうが、皆様も如何か御壮健で・・・転移っ!」


 言わなくても魔法は使えるが、一言言って転移魔法を使った。

 もうコイツ等とは二度と会う事も無いだろう・・・と思ってたが、後に意外な形で会う事に成る。




 転移先は領地内の港だった。

 私が現れると部下や仲間が集まって来る。

 その先頭には元気な老婆が誰よりも速く走って来た。


「結果は如何じゃった?」


「オババの言ってた予言の通りだったよ!」


 オババは魔女である。

 だが魔法で未来を見た訳じゃ無い。


「そうじゃろ・・・ラノベにしろアニメにしろコミックにしろ、ああ言う腐った奴等のやる事は古今東西似た様なモノさ」


 そう彼女も私と同じ転生者だ!

 しかも日本からの・・・と言うより私よりも❝オタク❞で健康優良児(スポーツ)少女だった私に、異世界アルアルを伝授してくれたのは彼女だ!


 ちなみに如何やら転生には❝若死❞が条件であるらしい。

 確証は無いが彼女は病気で、私は交通事故で10代の内に死んでるのだ。


「で・・・どの位集まったの?」


「それが・・・ほゞ全ての領民と過半数の兵が、特に傭兵団上がりの兵は全員来てますよ」


「残ってるのは姫様の家族の一部と、国から派遣された騎士団の者です」


 予想はしてたが大量に来てしまった。

 ちなみに王女でも無いのに部下が私を❝姫❞と呼ぶのは、市井で私を❝姫騎士❞と呼んでるのと、嫌々ながらでも王子と結婚させた王家への皮肉である。


「姫様・・・若は此方に」


「頼む」


 腕の中で眠っているアーティーを侍従長に預け、私は港に眼を向ける。


「船は足りるよね?」


「3年前から準備してました。物資も十分積載済みで、すでに領民も乗り込んでいます」


 オババと私の予想ではアーティーのステータスが有用なら王家で飼い殺し、無用なら殺して王子との間に子供を作らせ様とする・・・ラノベ脳が未発達な私でも、その程度は考えられた。


「一応この国の領海さえ出れば、補給出来そうな所は幾等でも有りますよ。出来無くても2~3ヵ月は航行出来ますよ」


 何も言わなくても乗員や兵士が乗り込んで行く。


「それだけ有れば十分、目的地はストラディヴァリ帝国帝都!」


 一同は眉を顰める。


「我が国いえ、この国にとっては敵国ですよね?」


「良いんですか?」


 兵達が騒めくがレイミアは涼しい貌で、胸元で光るペンダントを撫でながら言った。


「多分・・・ね♪」


 その笑顔は美しく、そして力強さを兵達に感じさせる。




 その(わず)か3年後・・・この国は滅亡した。

 この世界では君主が国を治められなく成った時点で滅んだとされ、次に治世出来た者に君主を名乗る資格がある。


 だが・・・どの国も滅んだ国の跡に進出しない。


 滅亡した国には魔王が居たからだ。


 その国の王は「魔王が復活した」とか「勇者が仕留め損なった」と言って周辺国に救援を求めた。

 だが()の国も救援には応じない、自分の国を守るのに手が一杯だったのだ。


 ところが長年の宿敵だったストラディヴァリ帝国が「国が滅んだと認めるなら我が国が救援し魔王を討伐しよう。その代わりその後は我が国に吸収される」と申し出る。


 魔王と言う脅威が出現するコノ世界では当たり前の申し出だった。

 だが無能な王は自分の王座が消滅する事を嫌がり申出を蹴って仕舞った・・・それが国民や兵を苦しませる事は解っている筈なのに。


 まだ政権が立派に有ると言い脹れれば、帝国も手を出す訳には行かない・・・侵略と捉える国が出るからだ。

 だが新しい魔王は中々頭が良かったらしく、一気に王都に侵攻しコレを破壊してしまった。

 幸い親切な何処かの・・・噂ではドコか他国の姫様が、その事を流布してくれていた御陰で一般市民は魔王侵攻前に非難する事が出来た。


 この滅んだ国の王は、後の世で史上最低の愚王と罵られ続ける事に成る。




 新しい魔王は生き残った❝先代魔王の弟子❞だった。

 そもそも先代も当代も魔王は「この世を逆恨みしたり己の欲望に忠実だった魔導士が不死化した元人間」である。

 共感も同情も出来ないが、手強い敵である事は確かだった。


 その魔王が・・・アッサリ退治され世界中の注目を集める。




 滅んだ国の西の外れで大規模な炊き出しが始まった。

 同時に故郷や元住んでた地に帰る者にも援助がされる。

 新しい統治者は新しい国民から愛されるだろう。


「並べっ!横入りするんじゃ無い・・・もう貴様等は王族や貴族じゃ無いんだから・・・・・」


 今だに自分達が特権階級だと思い込んでる者が、市民を押し退けて割り込もうとする。

 しかし市民に怒鳴られ渋々最後尾に並び直した・・・居座れば市民にボコボコにされ、放り出される事は何度か学んでいる。

 ちなみに一目で元王族・元貴族と暴露(ばれ)たのは、ボロボロに汚れた着衣が元は豪華なモノだったからだ。

 それが薄汚れては余計に目立つ。


 炊き出しを手にしてる段階で、自分達も非難民や乞食と変わらない事に気が付かないのだろうか?


「皇帝陛下がいらっしゃったぞ!」


 誰かが叫ぶと炊き出しに並んでた人々が道を開けて跪こうとする。

 だがソレ以上に大きな声が周囲に響き渡った。


「その必要は無いっ!私は国民に跪かれたいとは思っていない・・・我が国でパレードする時も、国民は歓声こそ上げ歓迎してくれるが、その様な事はしない。今後はココも我が国に成るのだから慣れる様に・・・それより今は空腹な者は食事を、傷病者は治療に勤しめ」


 50過ぎでは有る筈だが大分若く見え貫禄のある男が言った・・・彼こそがストラディヴァリ帝国皇帝である。

 彼は元国王の姿を認めたが声を掛けない、もう既に言葉を掛ける程の値打ちも認めて無いのだ。


「状況を・・・」


 兵士の中で上の立場に居る者に問う。


「魔王が朽ちた為、魔物の動きも沈静化しました。帰る所がある者にはその様に、帰る先の無い者にはこれから考えます」


 兵隊長が言った。


「王都の住民が逃げ込んで来たのです。王都は酷い有様で復旧は困難かと・・・新しく都市を建設する方が早いと思われます」


 すると皇帝のコメカミに石が当たった。

 飛んで来た方を見ると幼い少年が石を投げ付けている。


 すぐに兵士が叱り付け少年を拘束した・・・だが乱暴には扱って無く、皇帝の人柄と兵士への教育が見て取れる。


「何でもっと早く助けに来てくれなかったんだっ!こんなに簡単に魔王を倒せる力があるのに何で・・・・・」


 周囲の大人が謝りながら許しを懇願する。

 聞けば魔王の操る魔物の軍勢に、両親や友達を殺されて仕舞ったそうな。


「すまないな少年・・・・・」


 皇帝は少年の前に跪いて、その頭を撫でる・・・その様は本心から語っている様に思えた。


「だがな・・・他国しかも元敵国だったのでは、この国の王が許さなければ助けに来れないんだ。そうで無いなら侵略として扱われ、後に戦争と化す事も有る・・・・・」


 方便でも何でも無く事実だった。

 その後の領有を条件に出されてたと言え、彼は救援を申し出ている。


 それにもし「その後は領有なんかしないから魔王退治させてよ」と言っても、国王は絶対に認めない。

 入り込んだ軍勢に、その後国を抑えられる事を恐れているからだ。


 むしろ後に領有する事を、最初から宣言してるだけ誠実だと言える。

 そもそも勇者に逃げられ、魔王に蹂躙された王に国を治める力も資格も無い。


 そんなのは当然の事であり、それを理由に後で内乱・戦国時代化する事は想像に難しく無かった。


 それでもなお皇帝を罵り続ける少年に、皇帝は剣を差し出した。


「キミが本当に私が悪いと思ってるなら、この剣で仇を取るが良い・・・・・」


 そう言って少年に剣を握らせ、反対を自分の喉に突き付ける。

 皇帝の喉元から血が滲む・・・周囲の者は流石に止め様とするが、皇帝は兵を制止し少年の判断に任せる。

 少年は何時まで経っても・・・皇帝を殺す事は結局出来なかった。




「流石に肝が冷えた・・・」


 と言う皇帝に周囲の者が怒りの声を上げた。

 本気で皇帝を叱り付け、それに対し謝罪してるのも皇帝の人柄を表している。

 特に皇帝を「父上」と呼ぶ女性の剣幕が凄まじい。


 その姿を見て・・・この国の元国王と元侯爵が息を飲んだ。


「レイミア・・・・・」


 元実父と元義父が同時に声を上げた。

 この国から3年前に船で領民ごと出奔した、実の義理の娘の姿に・・・・・


 ただこの二人(王と侯爵)は互いの存在に気が付いていない。

 人が多過ぎるのだ。


「レイミア・・・他の者に叱られるのは仕方無いとして、魔物の群れに一人で飛び込むオマエに叱られる謂れは無いぞ?」


「立場が違います!父上が死んだら国が揺らぎますよ?」


「私が死んでも次はオマエの義兄(あに)カインが即座に即位出来る様にして有・・・解った!謝る!!二度とコンナ真似はせん!!!だから剣に手を掛けるでない・・・・・」


 兵士達はクスクス笑いながら見守っている。


「全く似たもの夫婦め・・・強情で融通の利かない所、オマエはアベルと瓜二つだ!だから惹かれ合ったのか?それとも夫婦に成ってから感化されたのか??如何ナンだアーティー???」


 そう皇帝が言うと、兵士の中に埋もれていた小柄な少年が前に出て来た。

 紛れも無く、あの時殺されそうになった少年だ。


「母さまは父さまと似て無かったですよ・・・父さまはドチラかと言うと、お爺さまにソックリです」


 そう言う少年を、皇帝は愛おしそうに抱き上げる。


「そうか・・・ワシにソックリか」


 皇帝は嬉しそうに言う。


「ハイ・・・強くて優しくて暖かくて・・・お爺さまにソックリです。ドチラかと言うと母さまは父さまと一緒で強くて優しくて暖かいけど、オッチョコチョイのウッカリ屋さんで可愛い人です。それで良く父さまに叱られてました」


「チョッと何を言うのよ」


 レイミアは止め様とするが、


「待て待て、面白そうな話じゃ無いか」


「ある時・・・兵士が揃って無いのに一人で魔物のスタンピートに突入し、父さまが本気で怒って母さまのオシリを何度も叩いて叱り付けてました」


「黙っ・・・むぐっ、もがっ!!!」


 アーティーを止め様とするレイミアの口を、レイミアの参謀でもあるオババが塞ぐ。

 完全に面白がっていた。


「その場で止めに入ろうかと思いましたが母さまが恥ずかしい思いをするかと思い、翌朝父さまに叱るにしてもオシリ叩きは止めて上げて欲しいとお願いしました。でも父さまは「母さまはスグ調子に乗る人だから、本気で叱らないと愚行・蛮行を止められない。オマエだって母さまが力及ばず死んだりしたら嫌だろう」と言ったのです」


 兵士たちの笑い声が徐々に大きく成って行く。


「でも父さまにコレだけはお願いしました・・・母さまのオシリを叩く時の、あの顔だけは止めて欲しいと・・・何と言えば良いのでしょう?ともかく父さまがアノ顔をするのが嫌でした・・・楽しそうな・・・不気味と言うか・・・・・」


「もう少し大人に成ったら解るさ・・・それは「イヤらしい顔」と言うんだ」


「父上っ!」


 レイミアが怒鳴り、周囲の兵士達が大爆笑をして居る。

 そこへ兵士達が大声で警告した。


「ま・・・魔物の群れが突進して来ます!その数・・・数百万っ!!!」


 周囲がどよめいた。


「まさか・・・魔王は死んだ筈よ!」


 声を荒げるレイミア、するとアーティーは冷静に応える。


「先代魔王の弟子は2人居た様です。こちらが先日倒した奴より強そう・・・コチラが兄弟子だったかも知れません?」


 広げた掌に魔法陣を浮かべながら言った。

 それを見た元この国の貴族達は驚く・・・奴は魔法が使えない筈じゃ?


 確かに魔力の保有量は成長させ大きく出来る。

 しかし魔王を解析出来る程の魔法は魔力の消費量も多く、0だった者が如何に成長してもソコまでは高められると思えない。


「魔王を倒しても、ここ迄勢いが乗った暴走は止まらない・・・私が先頭に飛び込んで・・・・・」


「お爺さま、如何やら父さまが言ってた事は正しかった様です。母さまが飛び込んだら父さまの代りに、母さまにオシリ叩きを処して下さい」


 途端にレイミアが真っ赤な貌をして、スカートの上から尻を抑える。

 今日の彼女は革製の赤いタイツを穿いた上で、軽快なミニスカート姿の上から鎧を纏っていた。


「母さまは剣を主体にした格闘戦が好きだから、無暗矢鱈と飛び込みたがって困ります。こんな大きな魔物の暴走、強力な魔法で遠距離から攻撃するがセオリーに決まってるじゃ無いですか!」


 溺愛するカワイイ息子に叱られ、意気消沈するレイミア・・・彼女は勇者だけ有って魔法も得意だが、ドチラかと言うと(馬鹿では無いが)脳筋で、剣を片手の飛び込んでしまうタイプだ。


「し・・・しかし魔物の暴走が起こるなど想定してません!この都市に魔法師団は同行して無く・・・・・」


 魔王を倒したばかりでスタンピート出来る様な敵が、もう一人魔王が居るなんて誰も想像出来無い。

 魔法師団は周辺に残った魔物の鎮圧や、都市の復旧に尽力してたのだ。

 だが慌てる若い兵士を除き、皇帝や他の兵士は落ち着いている。


「アーティー、頼めるか?」


「勿論です、お爺さま♪」


 少年は城壁に駆け上がると、手を前に差し出して呪文を詠唱し・・・・・


「ファイアッ!」


 と唱える。

 初級の火炎系攻撃魔法で詠唱者の魔力にも因るが、野球からサッカーのボール位の大きさの火球を飛ばし攻撃する魔法だ。

 術者に依ってはファイアーボールと呼ぶ事も有るが・・・ところがアーティーの放った火球は、幌付き荷台の軽トラック程の大きさが有った。


「ナニあれ・・・」


「ファイアの威力じゃネェだろ?」


 見てる者が全員驚き呆れている。

 数発火球を放って敵を一か所に集める・・・地球の火器による戦闘で長距離の範囲攻撃に集まって布陣するのは愚策、だが魔法が使える世界なら味方を集めて力を合わせ防御障壁(シールド)を張る事が出来るのだ。


「魔王が暗黒の防壁を発動っ!」


 兵士が叫ぶ。

 魔王軍は半球状の黒い障壁に守られている。


「ヘルファイア―――ッ!」


 別の呪文を詠唱してたアーティーが魔法を放つ。

 魔王の堅陣を下から吹き飛ばす様に、巨大な炎の柱が何本も回転しながら踊る。


 その魔法一発で最後の魔王軍は消滅した。


「素晴らしいっ!さすが我が孫だ」


 興奮気味に皇帝は叫びながら、元国王と元侯爵に位置を確認する。

 アイツ等には・・・我が息子アベルを謀殺した奴等には、是非自分の愚かさを実感して貰いたい。

 そうアベルが死んだ時、レイミアが間に合わなかったのは奴等の謀だった。


 だが今更それを公表しようと思わない。

 それをしたら義理の娘が間違い無く夫の仇を取りに動く!


 皇帝は義理の娘と言え、レイミアを実子の様に可愛がっていた。

 彼女に親殺しなどさせたくない・・・だから自分も息子の仇を取りたいのを歯を食い縛って耐えている。

 そして皇帝が敵討ちに動いたら・・・少々抜けてても勇者であり頭の良いレイミアの事、スグに気が付くだろう。


 そうしたら彼女の能力から言って確実に先手を取られ、そして彼女は親殺しをしてしまう。


「我が国は安泰よっ!我が息子アベルは妻と息子と言う、二人の勇者をストラディヴァリ帝国にもたらしたのだから!」


 その声に奴等が驚愕した・・・魔力無しが勇者に慣れる筈が無いだろうと思ってただろう。

 自身も中々の術者である皇帝は、息子の仇達・・・実は元国王・元侯爵2人だけで無いのだが、魔法で全員の表情を確認した。

 アーティーを・・・いやアーティーの腰のモノを見て驚愕してる、かつて母親が腰に下げていた勇者にしか扱えぬ聖剣が有る事に!


「可愛い我が孫よ、どの位成長したのか爺に見せておくれ!いや各国の代表も大勢居る・・・オマエのステータスを、この場で公開しよう!」


 そう言われたアーティーは表情を曇らせた。


「手の内を晒すのは良いコトと思えません」


「オマエに敵う奴がドコに居る!第一オマエはマダ13、これからも成長し力は高められて行くであろう」


 ソレもソウかと思ったアーティーはステータスのウインドを開き、それを皇帝が魔法で空に大きく映し出した。

 あらゆる項目が勇者に相応しい数値に、幾つかは既に母であり師匠でもあるレイミアを上回っている。


 その中で一つだけ低い数値が・・・魔力0の表示、周囲の者達がガヤガヤと騒ぎ始めた。

 そこで皇帝が大袈裟な態度で語り出した。


「魔力0・・・最強の能力(アビリティ)だっ!幾ら魔法を使っても無く成る事が無い、無限と言う能力なのだから!」


 それを聞いた元国王に元侯爵・・・それに実は元王子つまりレイミアの夫(レイミア未承認)も居る。

 彼等は・・・逃した魚のあまりの大きさに涙を流す。




『お父さま・・・政治力も武の力も最高に高いのに、演技力だけは最低ね!大根役者も良いトコロだわw』


 レイミアは心の中で思った・・・口では義父上と呼んでるが、レイミアは自分を受け入れてくれた皇帝を本当の父と思い定め慕っている。

 皇帝が自分に親殺しをさせない為に動いてる事も気付いている・・・つまり自分の父親と(いつわり)の夫と元国王が、実の夫アベルの仇である事にも気が付いていた。

 だが自分でも八つ裂きにしたいだろう奴等を、私の為に見逃そうとしている・・・ならば私も歯を食い縛って耐えるべきだ。


 それに奴等はもうすぐ死ぬ・・・王や貴族だった者が財産も能力も無く市井に放り出されるのだ!

 しかも顔を知られている・・・愚王とか勇者を逃亡させた愚か者と、現在も石もて追われている。

 然程長く持つとは思えない・・・奴等には相応しい結末だ。


 あの日・・・万が一の時にはとアベルに言われた通りに帝国に赴き、聴取に来た港町を領する貴族にアベルの形見のペンダントを見せる。

 それを見た貴族はスグにレイミア達を下船させ、数千人の兵士と難民ごと歓待した。


 そしてスグに帝都からカインがやって来る・・・アベルと瓜二つの彼は、アベルの双子の弟だった。

 どちらかと言うと武人寄りの自分より、政治に明るい彼カインを皇帝にする為・・・そして自分の存在を禍根にさせぬ為アベルは自から国を出奔し、そして魔王退治に向かう私の軍団に合流したのだ。

 そして彼等は・・・皇帝も次期皇帝のカインも、その事を深く理解していた。


「アベルの方が皇帝に向いてたんだ・・・オレは補佐の方が合っている。それを早まりやがって・・・クソアニキめ!」


 そう言うカインに皇帝は言った。


「違うな・・・アベルは皇帝に成らなくて良かったのだ!何故なら皇帝に成る以上の仕事を・・・勇者を2人も国にもたらすと言う、偉業を成し遂げたのだからな!違うかカインよ・・・・・」


「そうですね・・・アベルは皇帝以上の偉大な存在に成ったのですね」


 二人は眼を潤ませながら、そう私に言ってくれた。




 その後ストラディヴァリ帝国で後世・・・アベルは国神・・・国の守り神として崇められる事に成った。

 勇者である2人の母子を国に導いた存在として・・・・・

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ざまぁ企画」から拝読させていただきました。 0には別の意味もあったんですね。 読ませていただきありがとうございます。
[良い点] 0とはそういう意味だったのですね! [気になる点] 余計なことを言うようですが、一人称と三人称が混ざっていたり、「・・・」が多かったり、少し読みづらかったかなと思います。 [一言] この度…
感想一覧
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