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Hero Incident -ヒーローインシデント-  作者: 病葉
第二章 「カプリース」 川島詩子編
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第十九話 始まり

「いやー、おめでとう病葉君!まさか引き抜きなんて事あるもんだ」


「あ、ありがとうございます」


「それじゃ向こうでも頑張ってね!」


「はい、頑張ります」

俺は先輩に挨拶をして真っ新な元自分のデスクを見渡し、部屋を出てロッカールームに向かう。


もうほとんどの私物は持って帰ったので後は会社を後にするだけだ。


そう俺は会社を辞め、松澤の植木さんの部署で働く事になったのだ。決まってから俺の周囲は大手企業の正社員への転職に、お祭り騒ぎだった。大学も出ていない自分はなんだか申し訳ない気分で身の丈に合っていない気もするが、今後は引き抜きという事で植木さんの部下となり研究開発業務に従事するのだが、もちろんそれは表向きであり、本当の仕事は能力者の捜索とその対処そして転移の研究だ。


俺は手早く着替えを済ませ会社を後にした。電車に揺られながらもうこの景色を見るのも最後だと思うと切なさのような感情がこみ上げてきた。


駅からの帰り道、時計で時間を確認する。まだいるかな?

この重大な人生の転機を伝えて起きたい人がいる。俺は喫茶店へ入った。


ドアを開けるといつも通りマスターが出迎えてくれた。

「コーヒーお願いします。今日、南はいますか?」


「ああ、今裏の倉庫に材料取りに行ってもらっててね」


「そうですか」


「なんだか今日は明るい表情だね、良い事でもあったのかい?」


「ええ、まあ。ちょっと報告があるんです」

するとドアの鈴が鳴り扉が開かれ、小さなダンボールを持った南が入ってきた。


「あ、亮さん!」

元気よく呼ばれたが、いつもと違う南の姿に驚いた。


「あれ、南髪切ったのか?」


「えへへ、そうなんです思い切ってイメチェンしてみました!似合いますか?」


肩まで伸びていた髪がバッサリと切られショートカットになっていたのだ。イメージは変わったが、やはり美人には変わりなかった。が、何か違和感を感じた。


「ああ、凄く似合ってるよ、その何ていう髪形かは分からないけど、おかっぱ?」


「ボブです!!おかっぱじゃないもん!ボブだもん!」

南は大きな声で答えて、口を膨らませた。


「あ、ボブって言うのね。ごめんごめん」

笑いながら答えた。


「もう、これだからおじさんはー」


「ごめんごめん」


マスターは二人の様子に笑みを浮かべながら、完成したコーヒーを出してくれた。


コーヒーを一口飲み、俺は話を切り出した。

「実は転職する事になったんです。明日からは松澤エレクトロニクス本社勤務なんです」


「え!じゃあ引っ越しちゃうんですか!?」


「あ、いや勤め先の本社は電車で通勤できる所だから今まで通りだと思う」


「そうなんですね!」


「松澤エレクトロニクスっていうと大会社じゃないか、それはおめでたいね」


「ええ、偶然見つけてもらえて働く事になりました」


「いやー凄いじゃないか病葉君!おめでとう」


「亮さんおめでとうございます!って松澤エレクトロニクスってそんなに凄い会社なんですか?」


「そりゃもう家電やら何から何まで作ってる一流企業だよ。最近だと自動車業界にまで影響あるとか。だよね病葉君」


「ええ、AI技術や電気自動車の分野で自動車会社と技術提携もしてるみたいですね」


「そうなんですか?私、機械関係は苦手なんでよく分かんないけど、これからは亮さんは凄い会社で働くって事ですね!頑張れ亮さん!シュ、シュ!」

南はなぜかシャドーボクシングをして応援してくれている。


「う、うん頑張るよ」


二人の笑顔を見れてよかった。何よりも南の存在が俺に新たな決断を下す勇気をくれた気がする。何もかも違う俺達二人だがもしかしたら…たった一つ何か共有している思い、それは同じでそれが二人を同じ所に導いているのかもしれない。いやこの感情はそうだったら良いのになという、俺の勝手な願望なのかもしれないな。


「これも南のおかげだ」

小さく一人事を呟いた。


「何か言いました?」


「あ、いや」

俺はコーヒーを飲み干した。


「すみません、明日の準備があるので今日はこのへんで」


「うん、明日からも頑張って」


支払いを済まして笑顔の二人に会釈をし、扉を開けようと扉に手を伸ばした。しかしその刹那、先ほど南に感じた違和感を思い出し、何故か瞬時に記憶をさかのぼり違和感の原因を思い出した。


『南の髪はきれ…だな』


『そ…なんです。実は髪自慢…んです。小さかった頃、お父…んが言って…れて』


『お前の…はお母さんに似て…ても綺麗だねって。そ…から私の自慢なんです!』


うろ覚えだが、いつ頃の会話だっただろうか。たしかこの会話は入り口の近くでの会話だ。俺は気になり扉を開ける前に後ろを振り返り南を見た。


そこにはいつも通り、満面の笑みでほほ笑む天使のような姿があった。


そうだ、この笑顔には何ら心配はない、俺は右手を振り扉を開けて店を後にした。

年頃の女の子だ、髪形ぐらい変えて当然か。いやまてよ、こんな事に違和感を感じるのがおじさんになってるって事なのか…


考えながら自宅への階段を上った。


「ああ、おじさんかぁ~、そうだよなぁ~」

深くため息をつきながら俺は帰宅した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



もう何時間になるだろうか、昼ご飯を食べてからずっとパソコンに向かい膨大な情報に目を通し、俺は俺自身の存在価値を日々探している。


「病葉君そろそろ休憩したらどう?」

植木さんがコーヒーを持ってきてくれた。


「あ、ありがとうございます」


「君はここに来てまだ一カ月くらいだ、あんまり肩に力入れ過ぎないようにね、体壊したら大変だよ」


「ありがとうございます。でも松澤の研究開発の膨大なデータを見れるなんて夢みたいで、それに自分にも何かできないかと」


「あなたには別に通常業務を求めてないわよ」

妃さんが冷たい言葉を投げかける。


「はい、能力者調査には全力でとりかかりますが…でも良い給料貰っている分会社には利益になる事を何かしたくて。その、俺にはお二人のように特別な能力がありませんから…」


「病葉君は真面目だね」


「いえ当然です。あ、お聞きしたい事があるんですが」


「なんだね?」


「植木さんの能力、その新発見する能力があれば何でも便利なモノが作れるんじゃないですか?」


「ははは」


「そうだったら良いんだけどね、そんなに都合の良い能力ではないんだよ。私の発見する能力で見つけたモノは異常性の無い、この世のルールに沿ったモノしかないんだ」


「そうなんですか?」


「それに能力を使い何カ月も同じ事を繰り返して、たまたまやっと見つけるなんて事もある。実に気まぐれでね。アーティクルを作り出している者が居るならきっとその人物は私の上位互換のような能力なのかもしれないね」


「そうです、そのアーティクルを生み出している人がいるっていうのは?」


「これを見てごらん」

植木さんはパソコンを操作し始める。


「これは発見されたアーティクルの一つ」


「これは建物、ホテルのようですが」


「そう、今は閉鎖し管理しているこの建物全てが一つのアーティクルなんだ。そしてこの建物はある時リフォームされ、その時から異常性を持つアーティクルになったようだ」


「はぁ」


「そしてそのリフォームなんだが、ホテルのオーナーに聞くと老朽化が酷いので(かんなぎ)建設という会社にリフォーム依頼し施工されたらしくてね。すぐに調査したんだがそんな会社は存在していない事が分かった」


「さらに巫建設という名前、他のアーティクルにも関わっている事も判明し目下調査中だ」


「なるほど。この巫建設に転移者がいるという事ですか」


「おそらくね。転移者は一人なのかそれとも我々のように一つの組織なのか今は全てが謎の存在、謎の集団って感じかな」


「資料を見ると、このホテルは東京にあるんですね。大阪からじゃ遠いですね」


「アーティクルに関しては日本各地で特に場所が偏ってはいないようだね。まぁだから管理も大変なんだが…」


「そういえばこの尼宮市周辺で四人も転移者が揃ったのは偶然なんでしょうか?」


「それは私も考えていたんだが、偶然なのは確かに偶然なんだがこの尼宮市周辺ここに何かあるのかも知れないとも考えられる」


「そうですよね、俺もそう思うんですよ。なのでまずはこの尼宮市を徹底的に調べようかと」


「うむ、それもいいだろう」


一連の会話を終えると俺はまたパソコンに向かい情報を集める。尼宮市の公共事業からインフラ、交通情報にお金の流れまで様々な情報を吸い上げてゆく。そしてもちろん起きた犯罪情報も細かく分析する。こうした日々が続き時間は経過してゆくのである。


次回 【第二十話 New World Order】

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