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Hero Incident -ヒーローインシデント-  作者: 病葉
第一章 「インシデント」 病葉亮編
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第九話 探究者は焼き尽くす

今日も仕事が終わり、家に向かって帰路を歩く。コンビニにより酒と食べ物を買い、俺はいつも通り生きている。最近は酒を飲まないと寝れなくなった。酔いで少しでも現実から離れないと目を瞑る事すらできない。


加奈子の件で、一度だけ古田さんの店に行き話をしたが、古田さんは聞いてもほとんど何も話さなかった。それは開き直りのようであり、自己中心的であり俺にはそれ以上追及する気すら起きず、ただただ呆れた。沈黙することで後は周りが、時間が解決してくれると思っているのだろう。


そんな一人の人間を見ているとどうでもよくなる、興味が突然無くなる事はよくある事だろう。


そして、他の仲間とも会って話をしたが、皆が俺を見る目が変わっているのが肌で感じた。あくまで被害者であると口では慰めてくれるが、目の奥、心の中では浮気の原因の一端はお前にもあるんじゃないか?そいう疑惑に似たような想像が、俺を見る目つきに違いとして表れているようだった。これは被害妄想ではないましてやその人が間違っているわけでもない。相手の立場で論理的思考をすれば当然だと思う。そんな事もあり俺は今まで築いたものは全て崩れてしまった。


別に人に裏切られる事は初めてじゃない、たかが失恋で病んでどうする。俺は自分にそう言い聞かせ日々を繰り返せばいい、そのうち忘れるまで。


家に帰るとテレビをつけ寝間着のパーカーに着替える。そして買ってきた酒を飲みながら画面を見つめる。


「ほんと、みんな馬鹿ばかりだ…」

どこから出てきたか分からない、独り言を呟いた。


「こんな風に思う俺が一番バカだ」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



耳に甲高い女性の声が聞こえてくる。その声の大きさに苛立ちを感じながら、いつの間にか寝てしまっていた事に気づき目を覚ました。つけっぱなしのテレビは深夜の通販番組をやっているようだった。


ああ、頭が痛い。とにかく重い。酔いは冷めてるが飲み過ぎたようだ。少し夜風にあたる事を思いついた。そしてテレビを消し外に出るのだった。人通りがなく静かな、夜風が気持ちいい。途中自販機でミネラルウォーターを買い一口飲んだ、水の清涼感と風に顔を撫なでられる心地良さを感じながらいつもの近所の公園に向かう。


公園が見え入り口から入ろうとするしかし道の先に一人の人影が見え、目にとまった。影は後ろを向いているようで、その辺りに赤い光を見ただからだ。その光は見慣れた外灯や機械的な白い明りではない。時にはオレンジ色の光も交じって揺らめいている、生の光だ。


心臓が高鳴ると同時に、思考するより早くそこに歩き出していた。


近づくと、赤色の皮のジャケットを着た男のようだった。そして彼の目の前で新聞紙の束は確実に燃えている。その男はその燃える様を見つめているようだ。


恐る恐る、声をかけた。


「すみません、なに燃やしているんですか?」

無論、危ない奴というのは分かるが、まずは柔らかい物腰で問いかけてみる。


「・・・」

チラッと俺の方を見たが微動だにせず無言のままだ。


俺は彼の肩に手をかけ、こちらを向かそうと力を加えようとした。


「あんたも寒いのかい?」

彼は振り返りそう言うと左手で俺の左腕を掴み、ニヤリと笑った。


その瞬間、掴まれた左腕と彼の左手ごと俺の服の袖が燃え上がる。それはまるで花火のように激しく燃え上がり俺は目の前の突然の出来事に目を疑った。そしてさらに彼は燃える腕を下に引っ張ると同時に、右手の拳を後ろに引いたのが見えた。俺は前のめりになりながらも次の彼の行動を察知し、とっさに顎を引いた。放たれた彼の拳は頭蓋にヒットし俺は殴られた衝撃で後ろに倒れた。殴った方も裸拳でダメージがあったのだろう、少し後ずさりし距離が開いた。腕は離されたが依然、俺の左腕はまだ燃えている。素早く立ち上がり、彼に向かって飛び掛かろうと考え彼を睨んだ。しかし、彼は右手を前にかざし手のひらをこちらに向けた。


すると向けた手のひらが燃えたかと思うと、まるでドラゴンが吐くブレスの如く、炎の塊が迫ってきたのだ。横に転がり避けようとしたが、パニックであまりにも勢いよく転がってしまい炎は避ける事はできたようだが建物の外壁に体をぶつけてしまう。転がって避ける前の場所には炎が広がっている。そして彼を見ると、不敵な笑みを浮かべた後、振り返り走り去ってしまった。


左腕部分の服は勢いは衰えているがまだ燃えている。俺は殴られた時に落としたミネラルウォーターを拾い急いで腕にかけて火を消す。上着のパーカーはぼろぼろに焦げ落ちており、下着の衣服も焦げていた。そして走って近くの公園の水道でペットボトルに水を入れ、もうほとんど燃えて形を変えている新聞紙の束と、なぜ燃えているか分からない地面の消火を行った。


火を完全に消し終えると今ここでの出来事が現実だった事が、やっと冷静になり実感した。周りに見ていた人は誰も居ないし、周囲の家の窓に、明かりが灯っている所などもなかった。


こういう時は、警察に電話するべきだと思うが、起きた事をどう説明する?

あまりにも現実離れしている、この体験した内容を話せば逆に俺が異常者と思われるのは間違いないだろう。とにかく家に帰ろう。そこで整理してから考えよう。そう思いこの不思議な現場から急いで離れた。


家に帰る途中ふと空を見上げる、空には赤い月が輝いている。今まで見た事のない綺麗な月だ。最近は何故か俺の目には、月が赤く見える。これは俺だけなのか?いやきっと大気中の物質の関係や、スーパームーンなる現象もあるし、たまたまそう見えるだけか。


俺は自然のいたずらだと思い、大して気にはしていなかった。



次回 【第十話 偽物の正義】


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