吸血鬼と宝石の旅~権力争いで魔術協会を追放された宝石術士は吸血鬼と一緒にまったり異世界旅をするそうです。
連載候補の短編です
アインス・ヒドゥン・アルケミア──つまり俺の肩書を一言で説明すると、特級錬金術師だ。
王立魔導学園を主席卒業。その後、魔術協会に就職。
宝石に魔術回路を書き込む『宝石魔術』の技術は世界一で、幾つもの研究成果を上げた。
特にその中でも『魔術回路の簡易定着方法』は、時代を変えたと言っても過言ではない。
今までは宝石魔術師しか魔術回路を宝石に書き込むことが出来なかったが、俺の開発した方法を使えば、ある程度の魔術師ならば誰でも低級魔法を宝石に書き込むことが出来る様になった。
故に訪れた『魔術革命』
誰でも魔力を流せば魔法が扱える魔宝石は、大量生産による低価格化が進んだことによって冒険者の中で爆発的に流行り、今や魔術協会の純利益の10%は魔宝石の販売による利益になっている。
一気に俺の名声は業界内に轟き、金も名誉も手に入った。
今や魔法と言えば魔宝石を使った物であり、それの大量生産化に成功した俺は魔法の概念を変えた天才と呼ばれている。
──だから、こうなるのは時間の問題だったと思う。
「アインス君、貴方に追放を言い渡すわ」
「はぁ……やっぱりか。それで理由は? 頭の固い老人たちはなんて言ってるんだ?」
俺は宝石に魔術回路を組み込む手を止め、振り返る。
俺の工房に老人たちの使いとして入ってきていたのは、俺と同じ黒い髪を長く伸ばした特級魔術師『暴風のネモイ』だった。
ネモイは小さくため息を付きながら、うんざりした様子で話し出す。
「理由は『賢者の石』の研究よ。禁忌の研究をしているからって言ってたわ」
「今更すぎないか?」
「今更すぎるわね」
禁忌──魔術協会から正式に研究を禁止されている研究テーマの総称だ。
その理由は様々で、危険だからとか実現不可能過ぎて時間と金の無駄だからと様々な理由がある。
俺が研究している『賢者の石』の理由は後者。
あらゆる魔術を使える夢の魔宝石。あまりにも実現不可能過ぎて、魔術協会が正式に研究を禁止しているのだ。
魔術師協会の研究者(犬)ならば夢を見ずに利益を追い求めろとな。
「私だって禁忌の研究はしているのにね」
「てか、そんなの暗黙の了解だろ」
しかし俺たちは研究者であり好奇心の奴隷だ。魔導の深淵を覗く為なら、あらゆる規律を無視し、禁忌を犯す。
大体老人たちの中には人体実験をしている奴もいると言う噂じゃないか、俺なんて金にならない研究をしているだけだ。可愛いもんだろ。
「まあ、本当の理由は『魔術回路の簡易定着方法』の功績によって、協会内で貴方を幹部にしろと言う声が大きくなっているからでしょうね。老人たちは気に食わないのよ。若者が席に座るのが、そして若者に席を譲るのも」
「だろうな。あんな席に興味ないって何度も言ってるんだけどな」
俺の目的は『賢者の石』を作る事。それだけだ。
幹部の椅子に座って研究が進むなら座るが、あの椅子に座って得る物は既得利権とドロドロした権力争いへのチケットだけ。
今までみたいに片手間に商業研究をしながら賢者の石の研究をした方がましだ。
「それと今までの研究は、『今』『この瞬間』から全て魔導協会に提出することが義務付けられるわ。そして、他の研究機関にその研究を持ち込むことも禁止されるわ」
「はいはい。協会に所属した瞬間から俺の全ては協会の物で、出て行った後は利益を邪魔すんなって事だろ?」
「そういう事よ」
俺はため息を付きながら、ネモイに今までの研究レポートの全てを渡すと、ネモイは風魔法で書類をどこかに飛ばした。
恐らくあのまま風に乗って老人たちの元に届くのだろう。
「さて、これで全て失ったわけだけどアインス君はどうするの?」
「全てじゃねえよ。金はある。商業研究から解放されたことだし、残りの人生は『賢者の石』の研究に没頭するさ」
「……賢者の石ね、お金なんてすぐに無くなるわよ? 宝石魔術なんて特にお金がかかるんだから」
「そしたら冒険者でもして資金を稼ぐさ」
「冒険者なんてしていたら研究の時間が無くなるわ」
「まあ……そうかもな」
厳しいがネモイの言っていることは現実だ。
しかし、それ以外方法が思いつかないのも現実。
いつだって夢の前には現実が立ちふさがるんだ。
重苦しい空気の中「……だから」と、ネモイが口を開いた。
「私と結婚しなさい。研究資金は私が稼ぐわ。商業研究をしなくてもいいから今よりも時間は作れる。貴方の才能をこのまま無駄にすることは、私も研究者の一人として……看過……出来ないから……」
徐々に顔を赤くしながら言ったその台詞。
俺も馬鹿じゃない。ネモイが俺に好意がある事くらいとっくに気づいていた。
でもな、そうじゃないんだよ。お前が求めているのは俺であって俺の才能じゃないんだ。
「悪いネモイ。それは出来ない。だってお前も『賢者の石』は実現不可能だと思っているんだろ?」
「……」
無言の肯定。
コイツは昔からこうだった。
嘘が付けない。
「誘いは嬉しい。お前と結婚して一緒に研究出来るなんで夢のようだよ。でも、同時に隣で笑っている結婚相手が俺の研究を不可能だと思ってるなんて地獄の様なんだ」
「……合理的じゃないわね」
「ああ、合理的じゃない。これはただのプライドだ」
プライド。研究者らしくない非合理的な言葉に自分で少し笑って、ネモイもつられて笑った。
ひとしきり笑い終えると、俺は少なくなった荷物を纏め、ネモイに言った。
「じゃあな」
「ええ、気が変わったらいつでも私の家に来て」
こうして俺は追放された。
手元に残っているのは今まで稼いだ金と、器具。
研究資金は心もとないが、時間ならたっぷり出来た。
──風が頬を撫でた。
「あの方向は……商人協会か、ネモイも性格悪いな」
見上げる先には空中で方向を変え、飛んでいく1枚の研究レポート。
確かあのレポートに書いたのは『より簡単に、効率化した魔術回路の簡易定着方法』だった筈。
「次は商人たちが魔宝石を売る時代が来るのかもな」
近い未来。頭の固い老人たちが、『より安く』『より多く』魔宝石を売る商人たちに手玉に取られるところを想像しながら俺は工房を後にした。
〇
魔術師協会をクビになった俺は、街の宝石商に行き宝石を吟味する。
(とりあえず、一番安い血石を買うか)
漆黒の中にポツポツと血の様な差し色が入っている宝石……とも呼べないクズ宝石。
主な用途は装飾品の脇役だ。籠の中に量り売りで売られていた。
(魔術回路が一つまでしか書き込めないが……逆に考えればこれに十以上の魔術回路を書き込むことが出来れば『賢者の石』に近づくかもしれない)
何に使うんだと不思議そうな顔をしている店主から大量に血石を買い、とりあえず一週間分予約した宿に向かう。
(時間はあるんだ……資金は無くても工夫をすれば……)
血石に魔術回路を書き込んでいき、そして割れる。
何度も何度も。
脳裏に浮かぶのは追放されたことではない。
それより前──賢者の石を作ると言った俺を馬鹿にしている奴らの顔だ。
(不可能でも夢でもない……賢者の石は存在するんだよ)
研究結果を出していくうちにその笑い声は消え、俺は賢者の石に取りつかれた宝石術士として周りから腫物扱いされるようになった。
決してそれはネモイも例外ではない。
好意があるからか、直接言うことは無かったが、そこには確実に壁があった。
俺が賢者の石を研究している時に見せる悲しい目。
彼女も優秀な研究者なのだが、心の底では分かり合えていない感覚がして悲しかった。
(ダメだ……やはり結晶構造が単純すぎて脆い……これじゃあ賢者の石には……)
賢者の石──それは古い神話にのみ伝わる氷の様に透明とも血の様に紅いとも言われる石。
魔力を込めればあらゆる魔術が使えると言われる石で、俺はその真理は『あらゆる魔術回路が書き込まれている石』だと思っている。
(つまり……簡易魔術一つしか書き込めない血石に十以上書き込めれば、賢者の石への道が見える……)
魔術回路を圧縮、そして多層的に書き込みながら割れる血石を見る。
偶に二つ以上書き込める物もあり、手ごたえを感じるが、それはたまたま結晶の中に不純物が少なかっただけだと気づいていく。
(純度が高い血石でも三つが限度なのか?)
何時間経ったのか分からない。もしかしたら日を跨いだのかもしれない。
ありとあらゆる工夫をしながら血石に書き込んでいき、最後の一つとなったところで俺は現実を知った。
(いや……何度も諦めかかった。でも、諦めなければ……)
魔術回路を限界まで圧縮して結晶の一つ一つに書き込んでいく、共有できる回路が合ったら組み合わせる様に。
そして……異変に気付いた。
「魔術回路が……消えていく?」
書き込んだそばからまるで石の中に吸収されていくように消えていく魔術回路。
既に書き込んだ回路は十を超えた。
だからと言ってその魔術は発動する訳でもなく、ただ回路が消えただけ。
「いや……まて。どこまで書き込めるんだ?」
更に書き込んでいき、既に百以上の魔術回路が血石の中に消えていった。
俺がつぎ込んだ魔力も莫大で、極大呪文を二つ三つ放てる程の魔素は注ぎこんだ。
──パキン。
「割れ……消えた?」
そして、その時は突如来た。
魔術回路を書き込んでいる途中で割れた血石はそのまま霧散し、手元から無くなる。
(込めた魔力だけなら今までで最大……恐らく血石には何かがある!)
心臓の鼓動が跳ね上がり心が躍る。
今まで高価な宝石にしか魔術回路を書き込んでいなかったために気づかなかったが、賢者の石へのヒントは恐らく血石にあるのかもしれないのだ!
完全に盲点。こんなクズ石が答えになるのかと再び買いに行こうと席を立ったその時──
「……ん」
後ろのベットから、か細い声がした。
驚いて叫び出さなかったのは、研究のし過ぎで叫ぶ元気も無かったからかもしれない。
ゆっくりと振り返り、ベットを見る。
「ん……んう」
真っ先に思ったのは、ついに幻覚が見える様になったのではないかと言う事。
しかし、目を擦ってもその姿は一向に消えはしなく、か細い寝息の声は聞こえ続ける。
美しい顔立ちの少女が、起こすのが忍びないくらいによく眠っていたのだ。
「お前……一体いつ俺の部屋に入ってきた」
人差し指に嵌められてある指輪に魔力を込めながら言う。
今まで背後を取られたのは初めてだし、恐ろしい程の色気を放っているこの少女が人間だとも思えない。
魔性とも呼べるその美しさは、それ即ち魔なる者の表れだろう。
「……んう?」
俺の声に目を閉じたまま反応した少女は、くらっとくるような甘い声を上げ、瞼を開けた。
深紅の瞳の美しさに思わず息を飲んでしまう。
「おい、お前は誰だ」
「ん……主様がわっちを封印から解いてくれたのかえ?」
次の言葉は出なかった。
なぜなら、ゆっくりと身体を起こした裸の少女が声を失うほどに美しかったからだ。
はらりと薄手のシーツが少女の素肌から零れ落ち、陶器の様な素肌があらわになる。
生まれてこの方日の光など浴びてないんじゃないかと思うほど青白い素肌。
そして、その身体の中ほどにある控えめな二つのふくらみが、妖艶さの中に妙な少女らしさを匂わせていて、アンバランスな魅力がより妖しさを引き立てている。
「ん……主様は宝石魔術士かえ? くふふ……これも運命なのかのう。『賢者の石』は持っているのかえ?」
少女は俺が触れている指輪を見ると、そう呟いた。
まるでそれを持っているのが当たり前の様な口調。
「お前……今なんて……」
「賢者の石と言ったんじゃよ。持ってないのかえ?」
瞬間──俺は少女に駆け寄り、肩を掴みながら叫んでいた。
「賢者の石! お前は知っているのか!? どこにあるんだ!」
「くふふ……わっちを押し倒すつもりかえ?」
ハッとして、少女から手を放す。
俺が掴んだ肩には俺の手形がくっきりと残っており、青白い肌に赤い手形が妙に生々しいコントラストを描いている。
「……すまない。俺の名前はアインス・ヒドゥン・アルケミア。宝石術士で賢者の石の情報を探している」
紳士的では無かったなと反省しながら少女に頭を下げる。
クスクスと笑いながら見守る少女の余裕が、俺の罪悪感をより刺激した。
「わっちはライラ・レルトラント・アルトルールでありんす。千年前に賢者の石によって100の血石に封印された、ただの吸血鬼じゃよ」
妖艶にクスクスと笑う少女の唇の内側には二本の鋭い牙。
そして彼女はゆっくりとベットから立ち上がり、俺に言った。
「賢者の石を探しているのかえ?」
指輪から手を放し、紅い瞳を見ながら答えた。
「ああ、正確に言えば作りたい」
「くふふ、同じことじゃ。わっちは残り99の血石に封印されているわっちを開放したい」
少女の細い指先が俺の顔を撫でる。
少し冷たい白い指だ。
「わっちの封印を解いておくれ?」
この時俺は微笑んでいたのかもしれない。
手を伸ばせば掴める距離に夢がある。
自然と俺の口は動いていた。
「ならば俺に賢者の石の情報を教えてくれ」
細い指先は下に下がってきて、俺の差し出した手を握る。
「くふふ……契約完了じゃな」
こうして吸血鬼と宝石術士の奇妙な契約が成立した。
〇
「賢者の石はその身にありとあらゆる魔術回路を宿しておるんじゃよ。少なくとも千年前の宝石魔術士が持っていたのはそうじゃった」
ライラはクルクルと回りながら、歌う様にそう語った。
この時点で俺の考えと一致していることが分かり、心の中でガッツポーズを取る。
やはり俺の考えは間違えてなかった。『賢者の石』とは、いわば万能の魔宝石だったんだ。
「あらゆる魔術を躱し、透かし、封じ、邪魔をしても防ぎきれない圧倒的な力じゃったよ。主様は賢者の石を使って世界でも滅ぼすのかえ?」
「いや、そんなくだらないことはしない。ただ……俺は間違ってなかったと知りたいだけだ」
俺が人生をかけて追い求めている賢者の石。
それを使って何かをするつもりなんてない。
ただ、それを作れればそれでいいんだ。俺はそれだけで満足できる。
「くふふ……千年前の魔術士もそう言っておった。賢者の石を追い求めるものは全員そうなのかのう」
まるで楽しい思い出を思い返すような顔でライラはそう語る。
彼女の過去に何があったのか聞きたいが、今はそれよりももっと賢者の石の情報が欲しい。
俺は黙って聞くことにした。
「賢者の石はの、特殊な石を使っておるのじゃよ」
そこまで行って、ライラは俺に微笑みかけるとシーツに包まった。
「おっ……おい。それは何の石なんだ!?」
「わっちは寒いでありんす」
虚を付かれ、脱力してしまう。
「ふふふ」と、笑いがこみ上げてきて最後には大きな声で笑ってしまった。
そうか、そうだよな。いつまでも裸のままにしておくわけにはいかないよな。
「少し待ってろ」
俺はシーツに包まっているライラに一言言うと、外に出かけた。
ライラはシーツから手だけを出してひらひらと見送ってくれた。
外は昼前で丁度店が開き始める時間らしい。
何着か女性服を買わなきゃな。
「ん。どうじゃ? 似合うかや」
何着か服を狩ってくると、ライラは楽しそうに一つ一つ着ながら俺に語り掛けた。
得意げに両手を広げて笑うライラは、吸血鬼だとは到底思えない。
年相応の人間の……可愛らしい少女に見える。
「ああ、似合ってるよ」
「くふふ、そうか。ローブを買ってくるところもなかなか気が利いてるぞ」
ライラは黒いドレスを着ると、その上に茶色いローブを被った。
吸血鬼だと聞いたから日光が苦手なんじゃないかとローブを買ってきておいたがあっていたようで良かった。
「それで賢者の石の件だが……」
そこまで言ったところでライラは俺の口にピンと立てた人差し指を当て、妖艶に笑った。
「これ以上はまだ駄目じゃよ。まずはわっちのお願いを聞いておくれ?」
「あっ……ああ、そうだな。残り99個の血石を集めるんだっけ? でもそれはどこに……」
「西じゃよ……む。この感覚はモンスターが持っておるな。すぐ近くじゃ」
笑いながら呟くライラ。
媚びるわけでもない、純粋に楽しんでいるかのような笑顔だった。
少しため息を付いて俺は宿屋の部屋にあった周辺の地図を指さした。
「この辺から西って言うと、アマン平原だな」
街を出て30分程歩いた位置にある平原を指さすと、ライラは「うむ。その辺りかもしれん」と、頷いた。
「しかし、この辺りのモンスターってなると、相当数がいるぞ?」
「大丈夫じゃ。近くに行けば分かる。さあ、主様早く行こう」
「でも、お前吸血鬼だろ? 今は昼間だし、日光とか……大丈夫なのか?」
ライラの紅い瞳を見ながらそう言うと、ライラは目を細めて笑った。
「わっちを心配してくれるのかえ?」
ニカっと笑った薄い唇からは、人よりも長い犬歯が見えた。
正解の言葉を待っているのが分かる。
「賢者の石の情報を聞き出したいからな」と、言おうと思ったのを思い直す。
「ああ、心配してるさ」
少し屈んでライラが着ているローブのフードを目深に被せた。
ライラは嬉しそうにそれに従う。
そして、少しだけフードを上げて俺に言った。
「でも、大丈夫じゃよ。わっちは吸血鬼と行っても真祖でありんす。日光など弱点の内にも入らぬよ」
アマン平原──低級モンスターが出現する初心者冒険者たちの狩場だ。
勿論そこにはいつでも誰かしら冒険者がいて、魔術協会が安価で売っている魔宝石を使っている剣士や、最近はめっきりパーティに呼ばれなくなった魔術師たちが小遣い稼ぎにゴブリンを単独で狩ったりしている。
まあ、こんなところで小遣いを稼ぐような魔術師なんて魔宝石に魔術回路を書き込めもしない本当に低級の魔術師たちなんだけどな。
そういう奴らは、ほぼ全員と言っていい程俺に逆恨みしている奴らが多い。
魔宝石が流通しだしてからパーティに入れなくなって収入が減ったんだと嫌味を言ってくるんだ。
そんな事をするくらいだったらその時間を使って魔術回路を書き込む勉強をすればいいのにな。
「おやおや! 天才錬金術師のアインスさんじゃないですか! 協会を追放になったから小遣い稼ぎにゴブリン狩りですか?」
ライラと共にアマン平原に行くと、早速名前も知らない魔術師に絡まれた。
顔を見る限りまだ若い。きっと魔導学園を卒業したてなんだろう。
ここでゴブリンを狩っていると言うことは、学園で魔術回路の専攻をしていなかったか、卒業しても勉強をしてこなかったんだろうな。
(魔術協会に就職することも出来ずに冒険者としての道を選んだタイプか)
面と向かって嫌味を言ってくる魔術師の服装を見ながら思案する。
魔術師協会に所属しているならば、必ず服のどこかに三匹の蛇をかたどった紋章を付けているはずだ。
「ああ、そうだ。金が無いからな。お前みたいにゴブリンでも狩らないといけないんだよ」
面倒臭いから、少し嫌味交じりに言い返す。
お前みたいな名前も知らない魔術師と関わっている場合じゃないんだよ。
俺は今、賢者の石の手がかりをつかんでいるんだ。
「ははは! やっぱりそうだったんですね!」
しかし、俺が言い返してしまったのは逆効果のようだった。
魔術師は弱点を見つけたとばかりに、ぱあっと顔を明るくする。
嫌味も通じない奴だったようだ。
「賢者の石の研究なんてして追放されたんですよね! ははは! そんなものあるわけないのに! 天才と馬鹿は紙一重って言うけどアインスさんは馬鹿寄りのようだったですね!」
眉がピクリと動いたのが分かる。
無意識の内に右手の指輪を触っており、その中央の宝石に魔力を込めようとしていた。
なんで俺の夢をこんな奴に馬鹿にされなくちゃいけないんだ?
実現不可能な事を理論で分かっている同じ研究者ならまだしも、賢者の石を名前だけしか知らないような奴に。
「賢者の石はありんす」
しかし、俺より先にライラの口が動いた。
ライラは目深に被っているフードを少しだけ上げて、魔術師を見た。
「おっ……おお? 女?」
魔術師は言い返されたことよりも、その微かに見えた美しさに言い淀んでしまったのだろう。
急に挙動不審になりながら、顔を赤らめ始める。
「俺の仲間だ」
ライラが上げたフードを少し下げながらそう言う。
勘の良い奴ならばライラが魔の物と言うことが分かってしまうかもしれないからな。
ライラは、そっと俺にすり寄り、小さく頷いた。
「……へえ、女とゴブリン狩りですか」
魔術師はあからさまに悔しそうな表情を見せると、ライラの方に顔を向けた。
「追放された魔術師と組んでも良い事なんてないですよ。どうですか? 僕とパーティを組みませんか?」
図々しく、嫌味な奴だと思った。
魔術師がフードに手を伸ばそうとしたところで、ライラはその手を軽く払い口を開いた。
「わっちは弱いくせに偉そうな男は好かんでありんす」
そう言ってライラがフードの下で小さく笑うと、魔術師はそんなライラの言葉に呑まれたように、硬直した。
払われた手を見ながら呆然としている姿を見て、俺は笑ってしまう。
「……僕も生意気な女は嫌いだ!」
魔術師が激昂しながら再びライラのフードを引き上げようとする。
同時に俺とライラが動く。
俺は魔術師の手を掴み、ライラは魔術師の頬にビンタを叩きこんでいた。
「俺も生意気な男は嫌いだぜ」
「何度も言うがわっちは弱い男は好かん」
「くっ……」
完全に振られ、頬を抑えながら呆然とする魔術師。
その場で、立ちすくむ魔術師から立ち去りながら俺はライラに話しかけた。
「さて、血石を探しに行くか」
「くく、そうじゃな。強い強い主様」
コロコロと笑いながらライラは俺の手を握った。
魔術師に絡まれてから10分後。
俺とライラは平原を歩き回り、遂に血石を保持しているモンスターを見つけた。
ここら辺にはゴブリンが多いので予想はしていたが、やはりその予想は当たってようでライラが指をさしたのは一匹のゴブリンだった。
「アイツじゃな。奴が腹の中に飲み込んでおるわい」
「ホブゴブリンか」
しかし、ゴブリンと行っても上位種のホブゴブリン。
ここら辺ならボスモンスターと言われてもおかしくないモンスターだ。
「今のわっちじゃ勝てん。頼むぞ主様」
「任せとけ」
俺は右手人差し指に嵌めてある指輪に触れた。
その中央には深紅の輝きを持つ宝石──紅燐晶石。
緻密な結晶構造が層を成し、その一つ一つに魔術回路が書き込まれてある。
何年もかけて作った俺だけの護身用の魔宝石だ。
俺は魔宝石全体に魔力を込め、内部に書き込んである魔術回路を開放する。
乾いたスポンジに水が染み入っていくように、流した魔力が魔宝石の中に浸透していく。
(──限定結晶開放──)
心の中で呟いた言葉に反応して、紅燐晶石が淡く輝き、右手の上に拳大の炎の球が浮かび上がる。
「──焼き焦がせ──狐火焔──」
次の瞬間、浮かび上がった炎の球は高速でホブゴブリンに発射される。
紅燐晶石に書き込んだ7つの炎系の魔術の中でも最弱の技だが、ホブゴブリン程度だったらこの程度で十分、いや十分すぎるだろう。
『ギ……』
一瞬にして焼き焦がされたホブゴブリンは、断末魔を最後まで上げる事も出来ずに黒焦げになった。
そしてその元にはコトリと一つの血石が落ちる。
特に達成感もない作業の様な戦いだった。
「流石主様じゃ。儂の封印を解くだけあるのう」
ライラはクツクツと笑いながら落ちた血石を拾い、そう言った。
吸血鬼の真祖様に褒められるなんて光栄なことだ。
「それでその血石をどうするんだ?」
「飲み込むんじゃよ。蛇みたいにの」
ライラは血石を口の中に入れると、そのままゴクリと飲み込んだ。
そしてニヤリと笑って俺に振り向くと口を開いた。
「では、少しだけ教えようかのう。賢者の石に適応する石の存在を」
〇
「あの時の宝石魔術士は『時の結晶』を使って賢者の石を作っておったよ」
地平線まで草原が続くアマン平原。
太陽がキラキラと緑を照らす中、ホブゴブリンの焼死体の上で佇む吸血鬼の少女。
全くアンバランスな状況で、俺は賢者の石に続く最大のヒントを知った。
ドクンと心臓が高鳴る音が聞こえる。
血液が身体中を駆け回り、頭の中では『時の結晶』──その言葉が駆け巡る。
「ほっ……本当に……時の結晶なんてものがあるのか?」
「ある」
時の結晶──おとぎ話でしか聞いたことの無い伝説の宝石だ。
遥かなる過去、異世界から転移してきたと言う勇者が、敵である魔王に恋をし、戦い……葛藤の末に結ばれた──その時に勇者が渡した宝石の名前だ。
「ある……筈がない……」
頭を抱えてしばし考えてしまう。
『元』とは言え、俺は魔術協会の最高ランク宝石魔術士──特級錬金術師の称号を持っていたんだ。
世界中の宝石や鉱石を知り、この目で見てきた。
時の結晶? そんなものは無いんだ。絶対に。
この世のどこにもそんな名前の宝石は無いし、理論上絶対にあり得ない。
──時間を封じ込めた宝石なんて。
「ふふ、あるんじゃよ。わっちは良く知っている」
「それはどこに」と言いかけ、俺はその言葉を心にしまった。
ここまでライラが出し渋ると言うことは、まだ残りの血石の捜索を手伝えと言う事だろう。
考えてみれば、ライラから情報を聞くのはいつも先で、俺が血石の捜索を手伝ったのは後だ。
今回も先に情報を聞いたと言うことは、それに見合う対価を支払わなければならない。
賢者の石に近づいていく興奮と、おとぎ話でしか聞いたことの無い、時の結晶が本当にあると言う事実。
頭の中が混乱と興奮でぐちゃぐちゃになるが、俺は一つ深呼吸をしてライラに話しかけた。
「さあ、早く次を探そう。次の血石はどこにあるんだ? ホブゴブリンか? それともドラゴンでも倒して来ればいいか?」
「主様は本当に頼もしいの。でも、せっかちなところが偶に傷じゃな」
ライラはからかう様にローブの下から俺を見上げてそう言った。
フードの下にあるのは十の半ば程の少女の顔。表情をコロコロ変えるその表情は、不意に幼く見える時もある。
しかし、その口から出てくる言葉は老獪な匂いが漂っていた。
「わっちは何か食べたいでありんす」
──クゥ。
と、可愛らしくライラの腹が鳴った。
そう言えば俺も1日以上食べていない。
「そうだな。食事でもするか」
街の方に歩こうと、後ろを向いたところで気が付いた。
ライラは吸血鬼──奴の食事は……。
(まさか俺の血!?)
「そうじゃな! わっちは甘い菓子が食べたいぞ!」
一瞬硬直した身体の力が抜ける。
後ろにいるライラにバレない様に指輪にかけた手を外したが、どうやらライラには全てお見通しのようだった。
「くふふ、わっちは血なぞを飲まなくても生きれるよ。大好物は甘いものじゃ」
宿屋では金さえ支払えば、食事を作って部屋に運んできてくれる。
1週間の連続予約をしてくれる俺の様な客は珍しく、食事を頼んだら林檎や葡萄酒のサービスまでしてくれることになった。
「ん。やはり人間の作る食事は美味そうじゃのお」
ライラは溶けたチーズをたっぷりとかけたパンを二つに割ると、断面から湯気が立ち上り、チーズがトロリと糸を引いて垂れてくる。
ライラは幸せそうな笑顔で、小さく千切ったパンを口に頬張った。
「吸血鬼は血を飲むものばかりと思っていたがチーズも上手そうに食べるんだな」
「わっちら吸血鬼だって血ばかりを飲んで暮らしている訳じゃありんせん。昔作ったわっちの眷属は血を飲まなければ生きれないものもいたがの」
ハフハフと湯気が立っているパンを口の中に入れ、美味そうに咀嚼すると、ライラは葡萄酒でそれを流し込んだ。
血の様な真っ赤な葡萄酒でだ。
口の端から少し垂れている葡萄酒が、血を連想させて少しだけゾッとする。
「くふふ、葡萄酒は人間が作り出した大地の血じゃの」
口元を拭いながらライラは妖艶に微笑んだ。
そんなことはないと言おうと思ったが、口から言葉が出る前にライラが安心させるために行ってくれた事だと気づき、少し笑って同意した。
「ところで」
と、食事が終わって林檎を食べ始めたライラに俺は切り出す。
「次の血石はどこなんだ?」
そう尋ねると、ライラは林檎を齧りながら俺の方に顔を向け、何かを言おうとしたが、まだ口の中に林檎があることに気づき、もぐもぐと林檎を飲み込んでから俺に言った。
「もう、この近くにはありんせん」
「……まあ、その可能性はあると思っていた」
千年前に100の血石に封印され、その一つが宝石商で量り売りにされている血石の一つ。そしてもう一つがホブゴブリンの腹の中。
どう考えても世界中に散らばっていると考えるのが自然だろう。
世界中に散らばった残り98個の血石を探し出す。果てしない道のりに暗雲とした気持ちになったが、ノーヒントで賢者の石を作るよりかは簡単だと思いなおし、気持ちを切り替えた。
「東じゃな。遠く東に血石の気配がするがそれ以上は分からん」
ライラは東を指さしてそう言うと、壁にかけられている地図を見た。
指先で国境をなぞりながら呟く。
「わっちの時代とずいぶんと名前も大きさも変わったのお」
その横顔には少しだけ孤独がチラついている様に見えた。
──千年。人間よりも長寿な魔の物でさえも滅びてもおかしくない時間だ。
自分の事を知っている人がいない世界とはいったいどういう景色なんだろう。
少しだけライラの気持ちを想像して、それを振り払う様に賢者の石の事を強く考えた。
俺の目的は賢者の石。それだけだ。
ライラに感情移入するのは合理的じゃない。
「東に行きながら……新しくなった国を見て回るのもいいかもな」
「くふふ、主様はその優しさで足を救われてきたんじゃの」
「うるせ」
ライラをあしらいながら東へ進む移動手段を考える。
これから国を回っていく事を考えると、馬車を買って行商証を買うのが一般的だが……って事は商人協会に加入しないといけない。
(信用を何よりも第一にする商人協会……魔術協会を追放された俺の情報がまだ伝わってないといいが……)
数時間後──俺とライラは商人ギルドに足を運んでいた。
ライラは軽い足取りで、俺は重い足取りで。
商人協会──商人たちが集まって作り出した巨大な組織で、彼らは何よりも信用を大事にする。
勿論彼らの顧客には魔術協会もいて、俺の様に魔術協会から追放された者を受け入れると言うことは魔術協会からの信用を失う事にも通じる。
「アインス・ヒドゥン・アルケミア……様ですね?」
「……ああ」
商人協会に着くなり、俺は受付嬢から疑惑の目を向けられた。
その口調は俺の名前を確認すると言うよりかは「なぜここに来たのか」と含みがある言い方。
完全に俺が魔術協会から追放されたことは伝わっているようだった。
「商人協会に加入したいんだが……」
そこまで言いかけたところで受付嬢はパラパラと手元の書類を眺め、冷たい口調で俺に言った。
「アインス様の商人協会への加入は魔術協会の方から禁止されています」
受付嬢はチラリとこれから魔道具店に出荷する魔宝石の山を見ながら言った。
魔術協会が商人協会に売っている魔宝石だ。
つまり、大切な商品を売ってくれるメーカーからの信頼を裏切れないと言う事だろう。
「ん? もしかして何かトラブルかの?」
心配そうな視線を向けてくるライラに「大丈夫だ」と、一言言って俺は金貨が入っている皮袋を懐から出した。
「馬車だけでもいい。売ってくれないか?」
「申し訳ありません。これは規則ですので」
人形の様な張り付いた無味無臭の笑顔で受付嬢が頭を下げたその時だった。
奥の部屋から豊かな口ひげを蓄えた一人の男が姿を見せた。
「おお! これはこれは! アインス様!」
一目見ただけで分かる上質の上着を羽織ったその男は、商人の中では超が付くほどの有名人。
一介の行商人から、その商才一つで商人協会の幹部まで成り上がった『大商人ダグルス』だ。
「はっはは! うちの受付嬢が申し訳なかったです! 是非奥の部屋へ」
良く通る声でダグルスはそう言うと、驚いたような顔をしている受付嬢に目を向けた。
一瞬でダグラスは表情を変える。
今まで俺に見せていたような笑顔ではなく、冷たい、まるで物を見る様な目だ。
「そのマニュアルは今すぐ破り捨ててしまいなさい」
受付嬢は少し、人間らしく戸惑った表情を見せたが、数秒後には「かしこまりました」と再び人形の様な表情を見せ、書類を細かく破りゴミ箱に捨てた。
「さあさあ! 是非こちらへ! 上質な葡萄酒もご用意させますので!」
再び笑顔を取り戻したダグラスはそう言うと、俺とライラを奥の部屋へとエスコートした。
座ったら腰まで埋もれてしまいそうなふかふかのソファー。
ガラス張りのテーブルの上には上質な葡萄酒と、いくつかのドライフルーツ。
「あまり良いものが準備は出来なかったのですが」
と、言う割には自信満々に俺のグラスに葡萄酒を注いでくるダグラス。
隣で美味そうにドライフルーツを食べているライラを見て、ダグラスはにっこりと微笑み「おい。南の方から輸入した珍しい果物があったろ。それもカットして持ってきなさい」と受付嬢に指示をした。
「美味い……ですね」
ダグラスから勧められた葡萄酒を飲んで思わず呟いてしまう。
今まで飲んできた葡萄酒よりも格段に美味い。酒の味なんて良く分からない俺でも分かるくらいだ。相当高級品なのだろう。
「はっはは! でしょう! 市場には出回らない王族御用達の葡萄酒ですから!」
思わず信頼してしまいそうな人懐っこい笑みを浮かべながらダグラスは話す。
受付嬢が持ってきた見たこともないフルーツを俺に進めながら「これも最高ですよ」と、にっこりと破顔した。
目の前に置かれたフルーツを眺めながら考える。
商人は利益でのみしか動かない人種だ。
俺にこんな高級品を差し出すと言うことは、俺がそれ以上の利益を生むから。
──いや、正確に言えば『既に』生んだのだろう。
「俺のレポートですか」
フルーツに手を付けながら、口を開いた。
味わったことない不思議な味が口の中で広がる。
俺が追放された時にネモイに渡した『より簡単に、効率化した魔術回路の簡易定着方法』のレポート。
それが、ダグラスの手に渡ったのだろう。
そして、それは予想以上の利益を生み。想像以上にダグラスが俺に恩を感じている。
「はい」
ダグラスは笑顔でそう言うと、その後、真剣な表情で俺に話し始めた。
「魔術協会から恨まれる事を天秤にかけてもいい程の利益が見込めます」
そして、ダグラスは葡萄酒の入ったグラスに美味そうに口を付けると、ニヤリと笑った。
「数年後に世界はひっくり返ります! 完全に工業化され、大量生産された魔宝石による新たな時代が来るのです! 冒険者たちが魔宝石を使うのではなく、湯を沸かす為に主婦が魔宝石を使うような時代です! 魔宝石は生活必需品になるのです!」
思わず「おお~」と、歓声を上げてしまいそうになる。
湯を沸かす為に魔宝石を使うなど、魔術士の俺には思いつきもしなかった。
恐らく、威力を弱め持続力を上げた魔宝石を大量生産するつもりなのだろう。
「それは……時代が変わりますね。魔宝石に強さを求める魔術士じゃ思いつかないアイディアです」
一般家庭で魔宝石を使っている所を想像しながら呟く。
火だけではない。魔宝石の中に光の魔術回路を書き込めば夜遅くでも明かりが家の中を照らすし、水の魔道回路を書き込めばもう井戸から水を汲みに行くことすらなくなるだろう。
「そして失礼ながらアインス様の事は調べさせて頂きましたが……賢者の石を研究なさっているからと言う理由で……追放されたのですよね?」
「ええ、それで追放になりました」
そこまで言って、ダグラスはふふっと笑い出した。
イラつきを覚えなかったのは、それが俺に対する笑いではなく、魔術協会に対する笑いだったからだろう。
「私たち商人協会にも30年程前には、そんな幹部がいました。その時実績を上げていた商人を追放したんですよ。確か理由は……危険地帯を行商ルートに取り入れた事です。暗黙の了解で誰でもやっている事でしたがね」
そして、少しだけ懐かしむような目を見せると、ダグラスは言った。
「本音は行商人上がりの若い男が幹部の席に座るのを嫌がったのでしょうね」
少し、口元がにやけるのが分かった。
非常に興味深い話だ。
「それからその男ははどうなったんですか?」
「当時商人協会は沢山ありましたからね。他の商人協会に入り、そこで実績を上げて幹部になり。元の商人協会を吸収して逆にその幹部を追放してやりましたよ」
何ともスッとする話で、俺は思わず笑いだしてしまった。
それを見たダグラスも笑い出し、今まで見せた商売用の笑顔ではない少年の様な笑顔を見せてくれた。
「商人協会に加入して馬車が欲しいと言う事でしたね?」
ダグラスはそう言うと、懐から協会への加入証書と、行商証を出してきた。
「無知な私には実現不可能と言われる賢者の石がどの様な物か分かりません。しかし、何かを掴んでいるからこそこれが欲しいと言ったのですよね?」
俺は無言でダグラスの目を見つめる。
ダグラスは何かを察したのか、それ以上俺に質問をすることは無かった。
代わりに言ったのはこの一言。
「商人の勘が言ってます。ここであなたに全力で恩を売っておけば数年後に10倍になって返ってくると。その研究が終わったら、是非私共の商会で研究をしてください」
「この馬ってダグラスさんが行商時代に使ってた馬の子供なんだってさ」
「ふむ、じゃからこんなにいい馬なのじゃな。乗る人の事を考えて走っておる」
隣で寝ころびながら林檎を食べているライラは、ぼんやりとそんな事を言いながらあくびをする。
孫ンあライラを見ると俺も食べたくなり、俺は馬車を走らせながら、ダグラスに貰った積み荷の林檎を一つ手に取り、齧った。
「あとどれくらいだ?」
「もっとじゃ、も~っと東に血石はあるよ」
地図を確認すると、このまま東に進むとぶつかるのはバルサの国。
ダンジョンで栄えた小国だ。
そしてこの国は何よりも。
「次の国は肉料理が美味いらしいぞ」
「本当かや!? 楽しみじゃ」
そうは言いつつも、ガタゴトと揺れる馬車の中でライラはまどろみの世界に入っていく。
ライラに毛布を掛け、そのまま俺は馬車を走らせる。
俺と吸血鬼の旅はまだ始まったばかりだ。
賢者の石の情報と、血石の捜索。
俺とライラの利害が一致する限り、俺たちの旅は終わらない。
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