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【一章完結】不のものクエスト〜誰もクリアできなかったクエスト攻略したけど、初めからやり直し?手に入れた不の力で神どもをぶっ飛ばします〜  作者: knockhai
第二章 バグった世界のバグったものたち

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50. 灰色の隣人



 アギュラ冒険者学校の朝は、小鳥のさえずりではなく、無機質なチャイムの音で幕を開けた。 森の奥、本校舎から隔離されるように建つ「Fクラス寮」。 真新しい建材の匂いが鼻につくその部屋で、クロは支給された制服に袖を通していた。


 濃紺のブレザー。仕立ては良い。だが、俺が気になったのは、その金色のボタンに刻印された意匠だった。 『見開かれた眼』。 この世界――第一世界イークの至る所で見かける、この国の象徴であり、管理者『錚々たる松田』の印だ。


「……趣味の悪いデザインだ。まるで、常に誰かに見張られている気分になる」


 俺が独りごちると、胸の奥から、くぐもった声が響いた。 内なる亀、イヒだ。


『……主。その直感はあながち間違いではない』


「どういうことだ、イヒ」


『……この世界は急速に発展。だが、その発展を促したのは誰か。……この眼は、単なる王家の紋章ではない。「神」として崇められる管理者――錚々たる松田が、この世界の住人を常に監視(モニタリング)するための“覗き穴”のようなものかもしれない』


「……覗き穴、か。趣味が悪い上に悪趣味ときたか」


 俺はボタンを留めながら、鏡に映る自分を見た。 レベルは2。ステータスはまだまだ低い。だが、俺の中にはこの世界の理(システム)とは異なる力が眠っている。 この制服は、俺をこの世界の枠に押し込めるための拘束具か、それとも“観察対象”としてのタグ付けか。


「おはよーございます、クロ先輩! 見てくださいこの着こなし! FクラスのFは『ファッション』のFですよね!?」


 二段ベッドの下から、松田ラベルが飛び出してきた。 パステルカラーのパジャマから、一瞬で制服へと着替えている。だが、襟を立て、袖をまくり、胸元には自前のキラキラしたブローチをつけているせいで、完全にステージ衣装に見えてしまう。


「……お前、そのブローチは校則違反じゃないか?」


「えっ? これは僕のアイデンティティですよ? ショートケーキからイチゴを取るようなものです! それに、この『眼』のボタン、ちょっと怖いじゃないですか。だから僕の輝きで中和してるんです!」


「……違いない」


 俺たちは寮を出て、鬱蒼とした森の中の小道を歩き出した。 本校舎の華やかな石畳とは違う、土と落ち葉の裏道。Fクラスの生徒は、他の生徒と動線が交わらないように隔離されているらしい。


--------------------


 森を抜けた先にあったのは、本校舎の裏手にへばりつくように建てられた、コンクリート打ちっぱなしの四角い建物だった。 窓は高い位置にしかなく、中を覗くことはできない。入り口には厳重なセキュリティロックがかかっている。


「……ここが教室ですか? なんだか、刑務所みたいですね」


「……いや、『未決囚の留置所』ってところか」


 俺がカードキーをかざすと、重々しい電子音と共に扉が開いた。 中に入ると、そこは殺風景な階段教室になっていた。 黒板と、教壇。そして、まばらに配置された机と椅子。 生徒の数は少ない。俺たちを含めても、片手で数えられるほどだ。


 掲示板の張り紙には、こう書かれていた。


【Fクラス:適性判定保留枠】

備考:既存のランク(A〜E)の基準に当てはまらない、あるいは測定時にエラーが生じた者を一時的に収容し、再評価を行うためのクラス。


「実験場とか、落ちこぼれの収容所ってわけじゃなさそうだな」


 俺は呟く。 この世界は「数値」と「結果」が全てだ。 魔力測定不能だった俺や、測定器をバグらせた松田。俺たちは「無能」と断定されたわけではなく、「どの箱に入れればいいか分からない異物」として、ここに集められたのだ。 学校側としては、俺たちを適切に評価し、新たなランク(あるいは退学)へと振り分けるために、ここで様子見をするつもりなのだろう。


「うわ、一番乗りじゃなかったですね」


 教室には既に一人の先客がいた。 一番後ろの席。窓際。 あの「灰色の少女」だ。


「……」


 彼女は頬杖をつき、興味なさそうに虚空を見つめていた。 名前は『ネイ』。昨日の掲示板で確認した名前だ。 灰色の長い髪、色素の薄い肌。制服を着崩すこともなくきっちりと着ているが、その佇まいは教室の風景から完全に浮いていた。まるで、そこだけ色が抜け落ちたモノクロ写真のように。


 俺たちが入ってきても、彼女はチラリともこちらを見ようとしない。 だが、俺が一歩足を踏み出した瞬間。


 ビクリ。


 彼女の肩が小さく跳ねた。 彼女は顔を背けたまま、口元をハンカチで押さえ、露骨に体を壁側へと寄せた。 生理的な拒絶。 俺という存在が近づくだけで、彼女の生存本能が警鐘を鳴らしているかのようだ。


「……おはよーっす! 君もFクラスだよね! 僕は松田ラベル! こっちはクロ先輩!」


 ラベルが空気を読まずに挨拶をする。 ネイはゆっくりと顔を向け、ラベルを見た。その瞳には何の色も浮かんでいない。ただの無関心。 だが、その視線が俺に移った瞬間、瞳孔が収縮し、明確な「嫌悪」の色が走った。


「…………」


 彼女は何も言わず、再びプイと顔を背けた。


「あれぇ? シャイな子かなぁ?」


「……放っておけ。席に着くぞ」


 席は自由らしい。 俺はネイの隣――といっても、一つ席を空けた場所を選んで座った。 ラベルは俺の前の席に陣取り、鞄から筆記用具(と、なぜかマイク)を取り出している。


 俺が席に着くと、ネイがさらに椅子をずらし、壁にへばりつくように距離を取ったのが分かった。


(……そんなに嫌かよ)


  俺は苦笑する。 彼女が何者なのかは分からない。だが、俺が「不のもの」である以上、この広い世界には俺と同じような、あるいは対極に位置するような「理外の存在」がいてもおかしくはない。 俺の『不』に対して過剰に反応する彼女もまた、何らかの「異質」を抱えているからこそ、俺の異質さに敏感に反応しているのかもしれない。


『……主よ』


イヒの声が響く。


『……試してみるか?』


「……何をだ?」


『……お前の持つ、創造の力。あれを彼女に向けてみるのだ。彼女がただの人間なのか、それとも……』


 イヒの声には、学者のような探究心が混じっていた。 俺も少し気になった。昨日の魔力測定では、俺が水晶に触れただけで亀裂が入った。なら、彼女の領域に俺の力が干渉したらどうなる?


 俺は机の下で、左手をこっそりとネイの方へ向けた。 使うのは『不』の力ではない。 俺がこの世界に来る前から持っていた、根源的な力。 『 成 ( な ) る(kame-Leon)』。 イメージした物体に成りきる、あるいは染まる力。そこから派生した、物体生成能力だ。『不』が世界の理をマイナスにする力なら、これはゼロからイチを生み出す、あるいは自分を変化させる力。 ただの消しゴムを一つ、生成して彼女の机に転がしてみる。攻撃性は皆無だ。


(…… 成 ( な ) れ。在れ)


 俺は心の中で強く念じた。 左手のひらに、物質が構成される感覚。 俺のイメージ通り、白い消しゴムが生成され、コロンとネイの机に転がった。


 その瞬間。


 ジジッ……!


 空間が、焦げたような音を立てた。 ネイがビクリと反応し、反射的にその消しゴムを見下ろした。 彼女の瞳が、机の上の異物を捉える。


「……いらない」


 彼女が小さく呟いた、その時だった。


 バヂィンッ!!


 消しゴムと、彼女の視線が交差した空間で、赤と灰色の火花が弾けた。 消しゴムは消滅したのではない。 「存在した」という事実と、何か見えない力が衝突し、処理落ちを起こしたように空間が歪み、弾け飛んだのだ。


「きゃっ!?」


 ネイが悲鳴を上げて椅子ごと後ろに倒れる。 教室内に、キーンという不快な高周波音が響き渡り、照明が一瞬明滅した。 机の上には、黒く焦げたような痕跡だけが残っている。


「うわぁっ!? な、なんですか今の音!?」


 ラベルが飛び上がり、マイクを構える。 俺は冷静を装いながらも、内心で冷や汗をかいていた。


(……マジかよ。物質が弾け飛んだだけじゃない。空間そのものが「バグった」ぞ)


 俺の『成る』力で作った物質が、彼女の何かに触れて、対消滅を起こした? いや、違う。「拒絶」されたような感覚だ。 彼女が何者なのか、俺には分からない。 だが、俺が「不のもの」であるように、彼女もまた、この世界の理(システム)に収まらない「バグ」の一種であることは間違いないようだ。

ネイは尻餅をついたまま、涙目で俺を睨みつけた。 その目は「何をしたの?」という非難と、「近づくな」という恐怖で潤んでいる。


「……悪かった。手が滑った」


 俺は短く謝罪し、視線を逸らした。 とんでもない隣人を持ってしまったものだ。


--------------------


 その騒ぎの直後、教室の扉が勢いよく開かれた。


「――静かにしたまえ! Fクラスの……未定種どもが!」


 入ってきたのは、神経質そうな長身の男だった。 尖った耳、長い銀髪、そして完璧に整えられた高価なローブ。 エルフ族の教師だ。 胸元には『特別指導官』というプレートが輝いている。名前はヴェルト・ハイウィンド。


 彼は教室に入ってくるなり、焦げた机と、倒れているネイ、そして俺たちを見回し、ハンカチで鼻を覆った。


「……騒々しい。やはり『規格外』の集まりか」


 彼は教壇に立つと、出席簿を放り投げるように置いた。


「私が今日から貴様らの適性評価を担当するヴェルトだ。本来ならAクラスのエリートたちを導く私が、このような判定不能者の世話をさせられるとは……。全く、校長の慈悲深さにも困ったものだ」


 ヴェルトは隠そうともしない侮蔑の視線を俺たちに向ける。


 この世界の住人にとって、「神」とは絶対的な存在だ。 だが、彼らが崇める「神」――『錚々たる松田』が、実際にはとある世界の管理者に過ぎず、この世界をゲーム盤のように扱っている「天上クエスト」のボスの一人であることを、彼らは知らない。 彼らは本気で、この世界が神によって創られ、祝福された楽園だと信じている。だからこそ、その神の定めた基準ランクに当てはまらない俺たちが、許しがたい「異物」に見えるのだろう。


「いいか、よく聞け。ここは学校ではない。『選別所』だと思え。貴様らは通常のカリキュラムを受ける前に、その歪な能力が『神の理』に適合するかどうかを証明しなければならない」


 ヴェルトは黒板に、チョークで大きく『秩序』と書いた。


「今日の授業は『魔力学基礎』だ。……といっても、貴様らに高度な魔法が使えるとは思えんがな。特に……」


 ヴェルトの視線が、松田に止まる。


「1047番。松田ラベル」


「はいっ! 松田ラベルです! 先生、サインは色紙でいいですか?」


 松田が元気よく立ち上がる。 ヴェルトの眉間がピクリと動いた。


「……貴様、そのふざけた格好は何だ? ここは神聖な学び舎だぞ。サーカスのテントではない」


「え? これは僕の戦闘服です! アイドルはいつだってステージに立てるように準備しておかないといけないんです!」


「……アイドル? 聞いたことのない職能だな。道化師クラウンの間違いではないか?」


 教室の空気が凍る。 だが、松田はめげない。彼の心臓には毛が生えているどころか、装甲板が貼られているに違いない。


「道化師じゃありません! みんなに笑顔と希望を届ける、愛の伝道師です! 先生も、僕の歌を聴けばきっと――」


「黙れ」


 ヴェルトが指を鳴らした。 その瞬間、目に見えない風の鎖が松田の口を塞いだ。


 無詠唱の風魔法

沈黙の封(サイレント・シール)


「んぐっ!? んぐぐぐ!!」


 松田が口を押さえてもがく。声が出ない。


「……神聖な『松田』の名を汚す汚物め。貴様のような出来損ないがその名を名乗ること自体、神への冒涜だ」


 ヴェルトは冷酷に言い放つ。 この世界において「松田」の名は重い。だが、それは力を持つ者にとってのみだ。力なき「松田」は、偽物として、あるいは失敗作として、最も激しい差別の対象となる。

「……おい」


 俺は思わず声を上げた。 机に肘をついたまま、ヴェルトを睨みつける。


「……何だ? 1046番。魔力ゼロの欠陥品が、私に意見か?」


「授業をするんじゃないのか? 生徒の口を封じて、一方的に罵倒するのがアンタの言う『秩序』かよ」


「……ハッ。秩序? 勘違いするなと言ったはずだ。これは『選別』だ。不良品には言葉より、修正が必要だろう?」


 ヴェルトは杖を取り出し、その先端を俺に向けた。 先端に風の魔力が収束していく。


「貴様も口を慎むか? それとも、その減らず口を永遠に縫い合わせてやろうか?」


 圧倒的な魔力のプレッシャー。 レベル2の俺と、レベル50は超えているであろうエリート教師。 まともにやり合えば、俺は一瞬で肉塊になるだろう。


 だが。 俺の中の『メグリ』の記憶が、そして『不』の意志が、引くことを拒否していた。 かつて神を殺した俺が、たかが教師風情の圧力に屈するわけにはいかない。


(……イヒ。力を貸せ)


 俺は内なる亀に呼びかけた。 『不』の力を行使するには、本来ならば長い口上と、明確なイメージの構築が必要だ。今のレベル2の俺でも、詠唱が終わる前に風魔法で首を飛ばされるリスクがある。 だから、イヒを使う。 俺の中にある『不』の演算を、イヒに肩代わりさせる。即席の、荒削りな発動。


『……承知した。だが、負荷は大きいぞ』


「……構わん。ほんの少し……『理』を狂わせるだけでいい」


 俺は机の下で、左手を握りしめた。 ヴェルトが放とうとしている魔法。その構築式プログラムの、ほんの一点。「直進する」という定義をバグらせる。


「……『 黙れ』」


 ヴェルトが杖を振るった。 鋭い風の刃(ウィンドカッター)が、俺の口めがけて一直線に飛んでくる。


 俺は動かない。 ただ、左手の指を小さく弾いた。 口上はない。イヒが内側で叫ぶ。


不知火(しらぬい) ・ 不発 』


 俺の『不』の力が、無理やり事象に干渉する。 風の刃の「鋭利さ」と「指向性」という定義を、不完全なまま焼き切る。


 ボシュッ!!


 風の刃は、俺の鼻先数センチで霧散した。 いや、ただ消えたのではない。制御を失った暴風が、すぐ横にあった教卓へと逆流したのだ。 教卓の上には、チョークの粉がパンパンに詰まった黒板消しクリーナーが置かれていた。


 ドンッ!


 暴風の直撃を受けたクリーナーが爆発したかのように中身をぶちまけた。 圧縮されていた大量の白い粉末が、キノコ雲のように舞い上がり、教卓のすぐ後ろに立っていたヴェルトの頭上から降り注いだ。


「…………は?」


 ヴェルトが呆然とする。 彼の完璧な銀髪と、仕立ての良い高級なローブが、一瞬にして真っ白に染まり、雪だるまのような有様になっていた。


 教室に、静寂が流れた。 何が起きたのか、誰も理解できない。 魔法が失敗した? 暴発した? いや、あのエリートであるヴェルトが?


「……っぷ」


 静寂を破ったのは、松田のくぐもった笑い声だった。封じられた口から、漏れ出る笑い。 それにつられて、他の生徒たちも目を丸くしている。


「き、貴様……! 今、何をした!?」


 ヴェルトが顔を真っ赤にして叫ぶ。白い粉が舞う。


「……何も? 先生の魔法が暴発したんじゃないですか? 日頃の行いですかね」


 俺はとぼけて肩をすくめた。 内心では、心臓が早鐘を打っている。今のたった一瞬の干渉で、MPが底をつきかけ、強烈な吐き気が襲ってきていた。イヒを介したとはいえ、レベル2の体で無理をしすぎた。


「貴様ァァァ!! 許さん、許さんぞ……!」


 ヴェルトの目が血走る。 彼は杖を両手で握りしめ、本格的な攻撃魔法の詠唱を始めた。 今度は手加減なしだ。ただの威嚇ではない、明確な殺気。 俺は冷や汗を流しながらも、ポケットの中のコンビニライターを握りしめ、次の手を用意しようとした。


 その時。


『――生徒諸君、おはよう。校長のギル・アーカイブスだ』


 教室のスピーカーからではなく、空間そのものに直接響くような、重厚で知的な声が割り込んだ。 校内放送魔法(ブロードキャスト)。 タイミングが良いのか悪いのか。ヴェルトの杖がピタリと止まる。


『本日は入学初日。これより、講堂にて入学式を行う。……教師陣も、速やかに移動するように。特に、Fクラス担当のヴェルト君。君の報告を楽しみにしているよ』


 校長の声は、どこか楽しげで、そして全てを見透かしているようだった。


「……ッ!」


 ヴェルトはギリリと歯軋りをし、杖を下ろした。 この学校では、校長の言葉は絶対だ。規則(ルール)と権威を重んじるエルフの彼は、ギリギリのところで理性を繋ぎ止めたらしい。 彼は汚れたローブを魔法で一瞬にして浄化すると、憎々しげに俺たちを睨みつけた。


「……命拾いしたな。覚えておけ。このFクラスでの生活が、地獄であることを思い知らせてやる。特に貴様ら二人……『松田』の面汚しと、魔力ゼロのゴミはな」


 ヴェルトはマントを翻し、足音荒く教室を出て行った。


「ぷはっ! ……あー、やっと喋れた!」


 ラベルの口の封印が解ける。 彼は俺の席に駆け寄ってきた。


「すごいですよクロ先輩! あの嫌味な先生を撃退するなんて! やっぱり先輩は僕のプロデューサーにふさわしいです!」


「……偶然だ。それに、完全に目をつけられたぞ」


 俺は机に突っ伏した。 気持ち悪い。世界が回る。 『不』の反動だ。


(……やれやれ。初日からこれかよ)


 その時、ふと視線を感じた。 隣の席。 灰色の少女、ネイが、じっと俺を見ていた。 その瞳には、先ほどまでの無関心や恐怖とは違う、微かな「困惑」と「興味」が混じっていた。


「……何だよ」


 俺が声をかけると、彼女はビクリとして、また壁際に身を引いた。 そして、蚊の鳴くような声で言った。

「……あなた、何者?」


「……ただのコンビニ店員だ」


「……嘘つき。……あなたの周りだけ、世界が歪んでる」


 彼女はそれだけ言うと、逃げるように教室を出て行ってしまった。


「……歪んでる、か」


 言い得て妙だ。 俺は不の存在。彼女は……分からないが、何らかの歪みを持つ存在。 歪んだ者同士、惹かれ合うのか、それとも殺し合う運命なのか。


 俺は重い体を起こし、次のイベント――『入学式』への準備を始めた。 この学校での生活は、俺が想像していたよりもずっと、スリリングで、そして「バグ」に満ちているようだ。


────────────────

【現在のステータス】

名前:クロ(目繰 里無)

レベル:2

HP:28/28

MP:1/8 

(※『不知火・不発』により消費)

不の残滓:1.9% 

(※微増。身体への負荷増大中)

────────────────



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