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【一章完結】不のものクエスト〜誰もクリアできなかったクエスト攻略したけど、初めからやり直し?手に入れた不の力で神どもをぶっ飛ばします〜  作者: knockhai
第二章 バグった世界のバグったものたち

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47. 証明と推薦


 アギュラの街に、七の刻を告げる鐘の音が鳴り響く。 加速された文明によって整備されたこの街は、今日も不自然なほど完璧な朝を迎えていた。


 クロは、約束通り冒険者ギルドの前で足を止めた。 そこには既に、やたらとキラキラしたオーラを放つ小柄な少年が待っていた。


「おはようございます、クロ先輩! 今日も絶好の冒険日和ですね! 僕の肌艶も最高潮です!」


 松田ラベル。 昨日、俺と共に『絶叫スライム』を討伐したパーティメンバーだ。 こいつは今、自分がかつて『蘇生者』として覚醒しかけたことや、その直後に管理者・錚々たる松田に目をつけられたことを覚えていない。


(……俺が消したからな)


 俺は心の中で独りごちる。 あの時、管理者の器として利用されかけたこいつを救うため、俺は自分の『不』をこいつに流し込み、魂ごと共有リンクした。いわば、俺の眷属として「理」から外したのだ。その代償として、こいつの記憶は俺の「不」に塗りつぶされた。 ラベル自身は何も気づいていない。自分がただの「アイドル志望の冒険者」だと思い込んでいる。


(……だが、それでいい。お前は何も知らなくていいんだ。今はな。)

「……朝から元気だな、松田。行くぞ」


「はいっ! いよいよ学校への第一歩ですね! ファンレターを入れる鞄、買っておいた方がいいかなぁ」


 俺たちはまだ人通りの少ない朝のギルドへと足を踏み入れた。



 早朝のギルドは、昨日の喧騒が嘘のように静まり返っていた。 夜通し酒を飲んでいた数人の冒険者がテーブルで突っ伏している以外は、職員たちが忙しなく開店準備に追われている。


 カウンターには、昨日の二人。 ルルとシエラがいた。


「あ! 昨日の新人さんたちだぁ! おはよーございまぁす!」


 ルルが手を振ると、隣で書類を確認していたシエラが顔を上げ、俺たちを見た。 その視線が、少しだけ驚きに見開かれる。


「……あら。本当に生きて帰ってきたのね」


「おはようございます、シエラさん。……これ、依頼の達成報告です」


 俺はカウンターに近づき、ポケットから布に包んだ物体を取り出した。 ゴロリと転がったのは、青白く濁ったゼリー状の球体。 『絶叫スライム』の核だ。


 昨日の戦いで、俺は『不知火』を使ってスライムの外皮であるジェルを焼き切った。完全に消滅させてしまっては依頼達成の証拠が残らないため、核だけを物理的に残すように火加減(不加減?)を調整したのだ。


 シエラは手袋をはめ、核を手に取って光にかざした。


「……間違いないわね。絶叫スライムの核。それも、傷一つない綺麗な状態」


 彼女は感心したように息を吐き、俺とラベルを交互に見た。


「正直、驚いたわ。レベル1の二人組が、精神汚染攻撃精神汚染攻撃(マインドハラスメント)を持つあのスライムを、一日で狩ってくるなんて。……ま、まぁ? 少しは見直してあげてもいいけど」


 シエラはツンとした態度を崩さないが、その声色は昨日よりも柔らかい。


「ふっふっふ! 僕の歌声が彼らを浄化したんですよ! ね、クロ先輩?」


「……あぁ、松田がうるさかったおかげで、スライムの悲鳴がかき消されたんだ」


 俺が適当に合わせると、シエラは「なるほどね」と小さく笑った。


「戦術も実力のうちよ。……はい、これが報酬の1200バジュ。それと、約束の『入学試験許可証』兼『推薦状』よ」


 シエラがカウンターに置いたのは、金貨数枚と、ギルドの印章が押された羊皮紙だった。


「ありがとう。これで学校に行けます。」


「ええ。手続きはこのまま裏の窓口でできるわ。……ただし、学校はギルド以上に実力主義の社会よ。特に……」


 シエラは言葉を濁し、視線を俺たちの後ろ、ギルドの入り口付近にある『錚々たる松田』のポスターに向けた。


「……『松田』の名を持つ者たちの派閥争いや、特有のヒエラルキーがある。貴方は名字を持たないようだけど、隣の彼――松田ラベルさんは、目をつけられるかもしれないわ」


「大丈夫ですよシエラさん! 注目されるのはアイドルの宿命ですから! むしろファンクラブができちゃうかも!」


 ラベルの能天気な返答に、シエラは呆れつつも、どこか憎めないといった表情で肩をすくめた。


「……そう。その調子で頑張りなさい。死なない程度にね。あっ、別に応援してるわけじゃないから」


「行ってらっしゃぁい! また来てねぇ!」


 ルルの声援を背に、俺たちは入学手続きの窓口へと向かった。



 入学手続きはあっけないほどスムーズに進んだ。シエラの推薦状と、討伐の実績が効いたらしい。 無事に「受験票」を手に入れた俺たちは、そのままギルドを出て、街の北側にある『アギュラ冒険者学校』へと向かう道を歩き出した。


 道中、俺は今朝の出来事を思い出していた。


 ――数十分前、コンビニ『アギュラ店』にて。


「……学校か。フン、せいぜい頑張るんだな」


 顔を覗かせにきた俺に、店長はそっけなく言った。 だが、俺が店を出ようとした時、呼び止められた。


「おい、クロ。待て」


「なんだよ」


「ついでだ。学校に行くなら、一つ頼まれてこい」 


 店長はカウンターの下から一枚のメモ用紙を取り出し、俺に投げ渡した。


「……『購買部の人気商品リスト』、『学生のトレンド調査』?」


「ああ。最近、学生連中がウチの店より学校の購買を利用しやがる。向こうがどんな商品を扱っているのか、市場調査をしてこい。……いわば、ウチの店の店員おまえへの特別任務だ」


 店長は悪戯っぽく笑い、煙草の煙を吹きかけた。 普段は憎まれ口ばかりだが、その瞳には奇妙な信頼の色がある。俺をただの「店員」としてではなく、仲間として扱ってくれているのが分かる。


「……へいへい。了解しましたよ」


「勘違いするなよ。お前が学校で何を探ろうと勝手だが、店の利益になる情報は持ち帰れ。それが条件だ」


――回想終了。



(……市場調査、か。まあ、校内を歩き回る口実にはなるな)


 俺は苦笑しつつ、隣を歩くラベルを見た。


「松田。お前、学校に入ったら何するつもりだ?」


「え? もちろん、冒険者としての知識を学びつつ、学園祭のステージでセンターを取ることですよ! あ、でもその前に制服の採寸かなぁ。チェック柄だといいんですけど」


 こいつのブレなさは、ある意味才能だ。 俺との「共有」によって記憶を失い、レベル1に戻ってもなお、その根底にある「誰かを輝かせたい、自分が輝きたい」という欲求は消えていなかったようだ。初見の時のような初々しさはなくったが......。


(……俺の「不」で上書きしても、こいつの本質までは消せなかったか。……いや、だからこそ俺はこいつを眷属にしたんだったな)


 俺はポケットの中で、わずかに熱を帯びた左手を握りしめた。 俺の中の不の解放率が上がれば、いずれこいつの記憶も戻るかもしれない。その時、こいつが俺をどう思うか……今はまだ考える時じゃない。


(第三世界にいた時は、人に会うことすら叶わなかった。今じゃ人と出会う、話すのが当たり前になってきている。それに慣れ軽んじている自身の弱さが心底嫌になる。第一世界の影響云々ではない。この状況が当たり前と勘違いしているんだ。分かっているのに、これが当たり前だと思いたいのか.......。)


「……お前は強いな」


「え? 何か言いました?」


「いや、なんでもない。……着いたぞ」


 目の前に、巨大な石造りの門が現れた。 アギュラの街並みに溶け込みつつも、圧倒的な威圧感を放つ正門。 そのアーチの上には、支配者が復活してからよく街中で見かける『見開かれた眼』の紋章が刻まれており、登校する生徒たちを無機質に見下ろしている。


「うわぁ……大きいですねぇ!」


 門をくぐる生徒たちは、仕立ての良いローブや鎧に身を包んだ若者ばかりだ。 その多くが、胸元に「松田」の家紋が入ったバッジや、高価な装備を身につけている。彼らは一様に自信に満ち溢れ、あるいはどこか他人を見下すような冷めた目をしていた。中には、どこ吹く風といった個性的なものも混じっているようだ。


「……ここが、アギュラ冒険者学校か」


 俺は受験票を握りしめ、一歩を踏み出した。 レベル2の「不のもの」と、記憶を封じられたレベル1の「元・蘇生者」。 この異端の二人が、完成されたシステムにどんな波紋を呼ぶのか。


「行くぞ、松田。まずはクラス分けの試験だ」


「はいっ! 伝説の始まりですね、クロ先輩!」


 俺たちは、多くの受験者たちに紛れ、その門を潜った。




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