43.不の共有
地道に書いてるんですが、遅くなりすみません。
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遡ること数十分前
〜〜目繰〜〜
店長が代々受け継いできたというコンビニエンスストアは三階建てである。一階にはコンビニがあり、ニ階には従業員のスタッフルーム、そして三階は物置部屋となっている。物置部屋といっても物が散乱しているわけではなく整理整頓されている。あの店長ならばそれぐらいさらりとやってのけるだろう。各階に行く手段としては階段を使うわけだが、それ以外の手段で階数は移動できない。各出入り口は一つだけ。そして三階に入ってすぐ左側の壁に大きな自画像があり、"二つの目に指を突っ込む"。すると自画像の表情が変わり、口が開く。その口の中にもう一つの腕を突っ込み鍵を取る。自画像の口の中から取り出した歪な形の鍵を手に持ち、くるりと周り部屋の真ん中に立つ。
「そんでもってどこでもいいから空間にその鍵を差し込む」
松田はその動作を見ながらまたもや驚いていた。通常のドアに差し込むような形状はしていないその鍵は何もない目の前の空間に吸い込まれ、そこからドアが出現した。
「じゃあ入るぞー、ついてこいよ」
そういつつ、俺はこれからこいつにするであろうことを考えていた。
(イヒ、ほんとにこれでいいんだよな?)
『問題ない。主は我を信じよ。我は既にお前を主と認めている』
あの一件があって以降、この亀は俺のことを主として認めてくれた。いや、違うな。これは頑張ったから、努力したからとかではなく極々あたりまえのこと。俺の中にはメグリがいる。俺がメグリでメグリが俺で状態なわけだ。
「ちょっと待って下さいよ!ほんとに大丈夫なんですね!?」
「あぁ、大丈夫だ。早く入ってこいよな。ずっと開いてるわけじゃないんだから」
大丈夫ではない。俺はこいつをこの世界の理から外す。具体的には、俺の不を使ってこいつを侵食するのだ。
『耐えれば問題はない。主なら多少の調整は可能だろう』
そういう問題ではない。俺はこいつを少なからず認めているのだ。掃討戦での松田を見るに、必死に役割を果たしていたように思う。そして、それ以上にこの世界や俺から見て重要な人物になってくるのは間違いないのだ。
(錚々たる松田が各地にちりばめたメンバーズ。その中で蘇生者は中々現れない。だったよな?)
『そうだ。我が最後に見ることができた情報は各世界の地形、状況、断片的な生物データ、そして各管理者のその時保有していたであろう権能だ。しかし各世界それぞれ、アスラが倒された以降、なぜか時間が一気に加速した。第一世界の管理者だからと侮るな。クリア条件さえもすでに違うものと思え。我の役目はこの矮小化に伴い些細なものとなっている。あてにはするな』
それでもこいつがいる限り俺は常に先手を取りやすい状況にあるわけだ。そして、希釈され薄くなっている俺の中にある無限の不の力はこの世界ではレベルが上がるごとに濃密になっている感覚があった。
「このままいけば十分に対抗できるな」
「先輩なんかいいました?」
「いや気にするな」
もっとも、まずはこいつを錚々たる松田の管理から外してーー、
ーー、"俺の中の不"として縛り付ける。
「よし、じゃあはじめようか!」
俺に異変があれば店長には知らせがいくようにしている。もし万一にもトラブルがあったとしたら、松田の生存率は限りなく低いだろう。神の器といえば聞こえはいいが、ただの生贄だ。蘇生者であるこいつに早々に手を打ち、先手を取る。それができなければ、相当面倒なことになることは間違いない。
しかし、そんな考えも上手くいくことはなかった。
俺はレベル1からこの世界を始めることになったのだった。
しかし、こんなことで俺の幾億過ごしたあの場所よりはましだと思った。
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『新しい天上クエストに生きるも死ぬもない。ただただ時間が過ぎゆく過程を僕に見せてくれ。改めてようこそ、不のものよ。存分に生き様を晒してくれよ』
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「歯ァ砕けろ!」
「ぶぁゲェェェ!」
痛ッテェ!
あまりの痛さに体が生存を拒否している!あれ?これ死ぬ?まじ?顔面からえげつない量の血が噴き出してる気が!
「えぇぇ!!店長何してるんですか!クロちゃん死んじゃいますよぉ!?」
「すまん!ミズナ頼む!」
「もうやってますよ!」
ミズナの両手が紫のオーラに包まれる。転げ回る対象に的確に照準を合わせ、手を動かす。その手から生成されるオーラが、目繰に吸い込まれていく。すると少しづつ殴られた跡がひいていく。
「あ゛あ゛あ゛ああわわわ」
顔をぺたぺたと触り怪我が完全に回復したことを確認する。目繰はひとまず安堵するものの、その手に付いた血と床にぶちまけられた血の量を見て気絶しそうになる。
「クロちゃん大丈夫?」
ミズナがしゃがみ込みこちらを覗く。前髪に隠れた青い瞳と目が合う。
「あ、あぁ。ありがとうミズナ。ほんとに死ぬかと思った」
あのアスラの一件以降、自分が死ぬ心配などすることはなかった。正直言ってあり得ない。動揺しているのだ。この不の力とレベルさえあれば控えめにいってこの世界で敵う相手などいない。もしいるとすれば管理者ぐらいだ。なのにーー、ちがう、ちがうだろ!それどこじゃない!
「ッ!松田は!松田はどうした!」
松田は生きているのか
「クロ、落ち着け。無事、とはいかないが生きてる」
"生きてる"
その言葉を受け、心の底から目繰は安堵した。深いため息をつき、その時の様子を思い返してみるーー、
「クロちゃん」
俺は松田を管理者の器から外そうとし、不に染めようとした。つまりは不成人にさせようとしたのだ。俺の力をもってすればリスクなしでそれができる。簡単にいえば眷属化するということだ。多用はできないが数人程度ならそれが可能である。
「クロちゃん!」
「うおっ!」
ミズナが至近距離まで接近してくる。両目がこちらを覗かせる。その目はいつになく鋭いものだ。
「松田ちゃんになにをしたの?」
「いや、俺は……」
くそぅ。ミズナのこのモードは納得のいく答えじゃないと無理なパターンだ。どうする。全て晒すわけにはいかないが、ある程度まで話すか……。
「まぁ落ち着け、ミズナ。まずはなにがあってこうなったのかをこいつの口からゆっくり聞こうじゃないか」
ナイス店長!じゃねぇよ!追い討ちかけてんじゃねーか!ここはひとまず場を収めて、"本来"の仕事に勤しむとするか。
「い……ぃらっしゃいませぇ〜」
「もう全員きてるよクロちゃん。クロちゃんの接客なんて必要ない。元々あってないようなものだし。私、怒ってるから」
なんだか頭の中でチーンと音がなった気がする。ニヤニヤしてる店長の顔がこれほど歯痒いことはない。
「店長にも怒ってますから」
「……」
ざまぁ
ひとまずはこの場は収まった。そして、かすかに松田の"不"を俺は近くに感じていた。
展開作っていくように頑張ります。




